なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

166 / 240
女子会

 

 

/*/ カフェテリア女子会タイム /*/

 

 

 昼休み、逢瀬学園カフェテリア。

 

 今日も安生4姉妹のいるレジ前には、そこそこ行列ができていた。

 看板姉妹の目当てなのか、唐揚げ定食目当てなのかは、もはや判別不能だ。

 

「はーい、唐揚げ定食ひとつと日替わりパスタですね。ありがとございまーす!」

 

 元気に声を張るのは、次女の友香。

 その隣で、長女の梨花がテキパキとトレーに料理を乗せていく。

 

「次、Aランチの人」

 

 クールな声で呼ばれて、「はーい」と男子の列が一気に前進するあたり、この姉妹の影響力がよく分かる。

 

 ひと段落ついたところで、ルテアがエプロンの紐をほどきながら言った。

 

「ねぇねぇ、休憩回してもいい? 彩女ちゃんたち来てるよ?」

 

「いいわよ。あとは私と友香で回すから」

 

 梨花のOKが出て、ルテアとユイリィはエプロンを外してホール側へ出る。

 

 窓際のいつもの席。

 トレーを囲んで、彩女・愛香・七海がすでに女子会モード全開だった。

 

「彩女、こっち~!」

 

「お疲れさまです、看板姉妹」

 

 ルテアがひらひらと手を振りながら近づき、ユイリィは静かに会釈して席についた。

 

「じゃ、揃ったところで――」

 

 七海が、ばん、とテーブルの上に一冊の冊子を叩きつける。

 表紙には、さっき配られたばかりの《逢瀬学園広報誌・夏号》の文字。

 

 そして、その真ん中には――

 

「見た~? これ。広報誌!」

 

 剣道袴姿の青見と、レオタード姿の彩女が、並んでこちらを見ている。

 

「……やめて」

 

 彩女は、眉間を押さえた。

 

「なにその“やめて”ってリアクション。

 かっこいいじゃん、全国優勝コンビ」

 

 七海はにやにやしながら、わざとページをパラパラとめくる。

 インタビューの見開きページには、それっぽいフォントで《栄冠をつかんだ2年生アスリートたち》の見出し。

 

「“日々の努力の積み重ねが結果につながったと思います”ねぇ~」

 

 七海は原稿通りのコメントを、わざとらしい堅い声で読み上げた。

 

「やめろ。自分で言っといてなんだけど、恥ずかしくなってくるから」

 

「でもまぁ、外向けには正解でしょ」

 

 愛香が麦茶を飲みながら、ぽつりと言う。

 

「うんうん。

 “道場の仲間と、クラスメイトと、支えてくれた人達への感謝でいっぱいです”――」

 

 ルテアが読んでから、ちらっと彩女を見た。

 

「これ、絶対“支えてくれた人達”の中に、彩女ちゃんピンポイントで入ってるよね?」

 

「えっ」

 

 彩女がむせた。

 

「べつに、入っててもいいけど? っていうか、入ってなかったら逆に怒るけど?」

 

「愛香もサラッと爆弾投げるよね!?」

 

 テーブルの上には、女子たちのランチが並んでいる。

 日替わりサラダプレートに、唐揚げランチの女の子サイズ、パスタセット。

 

「彩女ちゃんのコメントの方も、なかなかの破壊力よ?」

 

 ユイリィが、ページを指先でとんとんと叩く。

 

「“不安もあったけれど、いつも『大丈夫だろ』って言ってくれた東くんの言葉が支えになりました”」

 

「言ったなぁ、完全に名前出してるなぁ」

 

 七海が肩を震わせる。

 

「ねえそれ、理事長先生に原稿チェックされたんでしょ?」

 

「された。

 “まあこれくらいなら許容範囲かな”って言われた」

 

「許されたんだ、それ」

 

 ルテアと七海が顔を見合わせて笑う。

 

「というかさ」

 

 そこで、友香と梨花もエプロン姿のまま合流してきた。

 

「カフェテリアでも話題なんだよ? そのページ」

 

「そうね。

 『この剣道の子、普段コンビニ袋ぶら下げて歩いてるあの人?』って確認されるわ」

 

 梨花が淡々と言う。

 

「見た目とのギャップが、ね……」

 

 彩女は、ため息をついた。

 

「……で?」

 

 七海が、わざとらしく肘をついて彩女を覗き込む。

 

「本人としては、この広報誌、何点くらい? “外向けコメントと写真の出来”に満足してますかー?」

 

「なんでそんなアンケートっぽい聞き方」

 

「だって気になるじゃん。

 全国優勝カップルとしてのセルフ評価」

 

「カップルじゃないっての」

 

「はいはい、まだ言い張るんだ」

 

 七海はあっさり流した。

 

「写真は……」

 

 彩女は、広報誌を見ながら少し黙り――

 

「青見、思ったよりちゃんと“剣士の顔”してたから、そこは良いと思う」

 

「“思ったより”って何」

 

「普段アホ面してることが多いから」

 

「フォローになってないですよ」

 

 笑いが起きる。

 

「自分のレオタードの方は?」

 

 愛香がさりげなく突っ込む。

 

「……正直、もうちょい撮り直して欲しかった」

 

「出た、アスリートのストイックさ」

 

「だって、脚のラインとか、自分では気になるんだってば。

 変に力入ってる気がしてさ」

 

「いやいや、十分すぎるくらい綺麗だって」

 

 ルテアが即答する。

 

「“あの安達先輩がうちの学校にいる”ってだけで、下級生の体操部の子達、希望持つよ?」

 

「そうそう。

 さっきも中等部の子が、『本当に同じ学校なんですか……』って感想言ってた」

 

 ユイリィが、ふわっと微笑む。

 

「プレッシャーかけるのやめて?」

 

 彩女は顔を覆った。

 

「でもさー、外向けの広報誌は、まだかわいい方だよね」

 

 七海が、意味ありげに言う。

 

「“校内新聞の方”は、もっとえげつない見出しつけられそうじゃない?」

 

「あ、それはちょっと……覚悟してる」

 

 彩女が遠い目をしたところで――。

 

 

 ◆ 唐揚げ定食、乱入 ◆

 

 

「唐揚げ定食、大盛りひとつ。――って、あれ? お前らここにいたのか」

 

 トレーを片手に、青見が現れた。

 

 ご飯は明らかに大盛り、唐揚げも通常の一・五倍増し。

 体育会系男子の胃袋に合わせた、完全に“戦う昼飯”仕様である。

 

「いたのか、じゃないわよ」

 

 彩女が、じとっと睨む。

 

「なんで真っ直ぐここに来て座るのよ」

 

「そこに席があったから」

 

「登山家みたいなこと言うな」

 

 とはいえ、トレーを持ったままうろうろされても邪魔なので、なんだかんだで彩女の隣に席が一個ずれる形でスペースが空けられた。

 

「お邪魔しまーす」

 

 青見がトレーを下ろした瞬間、七海がニヤニヤ顔で広報誌を差し出した。

 

「ちょうど今、その“ご本人様”の話してたところなんだよねー。

 インハイ優勝コンビの片割れさん?」

 

「その呼び方やめてくれないかな。

 なんかもう一人の片割れが完全に確定してる感あるから」

 

「事実でしょ?」

 

 彩女のツッコミが、妙に早かった。

 

「ほら、見て見て」

 

 七海は、わざと青見の目の前で見開きページをひらひらさせた。

 

「“日々の努力の積み重ねが結果につながったと思います”

 “支えてくれた周りの人への感謝でいっぱいです”――」

 

「うわその読み上げ方やめろ、なんか鳥肌立つ」

 

「でもさ」

 

 愛香が、からあげをひとつ箸でつまみながら言う。

 

「この“支えてくれた人たち”の中に、誰がどれくらいの割合で入ってるか、本人に聞いてみたいよね」

 

「やめてくださいその質問は」

 

 青見は、唐揚げを口に放り込んで強引に話題を塞ごうとした。

 

「ちなみに、インタビューのとき――」

 

 ユイリィが、少し楽しそうに続ける。

 

「“見せたかった人は?”って聞かれて、“安達……彩女ですかね”って答えてたって、噂がもう回ってるけど?」

 

「なんで知ってるの!?」

 

 青見が、唐揚げを詰まらせかけた。

 

「情報源:オカルト研究会会長」

 

 七海がさらっと言う。

 

「門脇先輩、嬉々として話してたもん。“ウチの後輩がさぁ~”って」

 

「あの人、口の軽さがオカルトレベルなんだよな……」

 

 青見が頭を抱える。

 彩女はというと、隣で視線を落としたまま、耳まで赤くなっていた。

 

「それでさ、青見くん」

 

 梨花が、珍しく会話に入ってくる。

 

「率直に訊くわ。

 ――このレオタードの隣に並んで撮影するの、どんな気分だった?」

 

 ページの彩女を、すっと指で示す。

 

「うわっ」

 

 当の本人が先に反応した。

 

「ちょっと梨花さん!?」

 

「純粋な興味よ。

 うちのカフェテリアでも、男子の間で話題なんだから」

 

「“あの東くんと、あの安達先輩が並んでる”ってね」

 

 友香もニヤニヤ笑いを浮かべる。

 

 女子全員の視線が、一斉に青見に集まった。

 

「えっと……それは……」

 

 逃げ場はどこにもない。

 唐揚げ定食では、この包囲網は突破できない。

 

「この前、校内新聞の人にも、同じようなこと聞かれたんだけど」

 

「うんうん」

 

「そのときは、“ドキドキします”って答えた」

 

 正直か。

 

「やっぱり馬鹿! 素直に答えるなって言ったでしょ!!」

 

 彩女の拳骨が、さっきと全く同じ角度で青見の肩に落ちた。

 

「いってぇ! デジャヴ!」

 

「でも、その本音を聞いた上で広報誌見るの、なかなか楽しいわよ?」

 

 七海が、ニヤリと笑う。

 

「“先生や外部の人向けには真面目コメント。

 でも裏では『ドキドキします』”――

 ね、ギャップ萌え」

 

「萌えなくていいから」

 

「じゃ、次、彩女ちゃんのターンね」

 

「なんで順番制なのよ」

 

「公平を期すためでーす」

 

 七海は、今度は彩女に向き直る。

 

「全国優勝体操選手として、隣にいる剣道全国一位の筋肉についてひとことどうぞ。

 ドキドキする? 触りたくなっちゃう?」

 

「現場感ぇ……」

 

 愛香が、さっきと同じツッコミを入れる。

 ユイリィとルテアは既に吹き出していた。

 

 彩女は、しばらく黙って――

 

「……しないとは言わないけど」

 

「“しないとは言わない”いただきました~!」

 

 七海が即座に実況する。

 

「“触りたくなっちゃう?”は?」

 

「ノーコメント!!」

 

「そこだけ死守するのズルいよね……」

 

 青見は、唐揚げを噛みしめながら、どこに視線を置けばいいのか分からなくなっていた。

 

 けれど、そんな彼の横顔を、彩女はちらりと一瞬だけ見て――

 すぐに視線を広報誌の写真へ戻した。

 

「……まあ、いいけど」

 

「なにが」

 

「広報誌とか、校内新聞とか。

 いろいろ言われるのも、こうやってネタにされるのも」

 

 ストローでジュースをくるくるしながら、ぼそっと続ける。

 

「“青見と一緒なら”、まあ、悪くないかなって」

 

 その一言に、一瞬だけテーブルが静かになった。

 

「……は?」

 

 聞こえては困る当人だけが、うっかり聞き返してしまう。

 

「なんでもない! 忘れて!」

 

「忘れられるかそんなセリフ!!」

 

 女子たちの笑い声と、食器の触れ合う音。

 カフェテリアの喧騒のど真ん中で――

 

 広報誌の中の二人は、いつまでも同じ笑みを浮かべたまま、

 ページの上から、今のやり取りを見守っているように見えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。