/*/ 校内新聞・夏増刊 /*/
数日後。
各クラスに配られたB4二つ折りの紙が、ぱさりと机の上に置かれた。
《逢瀬タイムズ 夏増刊/編集:校内新聞委員会》
一面左上のコーナーには、でかでかと見出しが躍っている。
インハイ優勝コンビ、本音は「ドキドキします」!?
~2年C組・東 青見 & 安達 彩女インタビュー~
例の視聴覚室で撮った、少しラフめに顔を寄せたツーショット写真が添えられている。
その下、本文にはちゃんと真面目な経歴と試合の振り返り、その合間に――
記者Q「ぶっちゃけ東くん、安達さんのレオタード姿どう? ドキドキしちゃう?」
東「……します」
(※直後に安達さんの拳骨が東くんの肩に命中。「馬鹿! 素直に答えるな!」とのコメントつき)
という、生々しい会話がほぼそのまま活字になっていた。
さらに、反対側のカラムにはこうもある。
記者Q「じゃあ公平に、安達さんにも。
東くんの道着姿&筋肉、ドキドキしちゃう? 触りたくなっちゃう?」
安達「……しない、って言ったら嘘になるけど」
(“触りたくなっちゃう?”の項目については、終始ノーコメントだった)
締めには、山崎瞳の小さな署名コラム。
『外にはちゃんとした顔を見せて、
校内にはちょっとだけ本音を残す。
そんな二年生の夏を、読者のみんなの想像力で補完してほしい――以上、現場からでした』
――とまあ、そんな具合である。
/*/ オカ研・祭り開幕 /*/
「ハイ注目ー。オカルト研究会本日の議題、“インハイ優勝コンビの記事を肴にニヤニヤする会”でーす」
放課後、オカルト研究会の部室。
黒板の前に立った門脇耕太が、いつもの棒読みで開会宣言をした。
薄暗い部屋の壁には、心霊写真(っぽいもの)やら、よく分からない魔方陣のコピーやらが貼られている。
その一角に――今日、新たに校内新聞がマスキングテープでぺたりと貼られていた。
でかでかとした見出し。
インハイ優勝コンビ、本音は「ドキドキします」!?
「いい仕事したよね、これ」
その見出しを、椅子を後ろ向きにしてまたがりながら眺めているのは、もちろん山崎瞳だ。
記者本人が、記事を肴にどや顔である。
「“本音は”ってところがポイントだな」
門脇は、腕を組みながら記事を上から下まで舐めるように読む。
「『日々の努力の積み重ねが~』とか、外向けのテンプレを一回見せたあとで、
この“ドキドキします”をぶち込む構成。緩急が実にいい」
「でしょ? ほら、うちの会長、シナリオ読み取るの得意だもんねぇ」
「お前が自分でネタ仕込んできたんだろうが」
口では毒を吐きつつ、門脇の口元も緩んでいる。
「それにしてもさ」
瞳が、記事の一節を指でなぞる。
「“見せたかった人は?”『安達……彩女ですかね』
“ドヤ顔したかった相手は?”『……まあ、青見ですけど』
このセット、完璧じゃない?」
「脚本つきドキュメンタリーかな?」
門脇は、メガネの位置をくいっと上げた。
「しかし、こうして文字になるとあれだな。
うちの後輩二人、ただのバカップル予備軍じゃねーか」
「今さら?」
「まあ今さらだな」
二人してあっさり結論づける。
そのとき、部屋の隅でこそこそと校内新聞を読んでいた一年の部員が、おずおずと手を挙げた。
「あの……会長。この、“拳骨でツッコミ入れるくだり”も、本当にその場であったんですか?」
「あったあった。肉眼で確認した」
門脇は即答する。
「“ドキドキします”→“馬鹿! 素直に答えるな!”のコンボ、完璧だった。
あれでツーショット撮影した写真が表紙とか、もはや狙ってるとしか思えない」
「なお、その瞬間の私の笑い声は全部カットしました。プロ編集だから」
瞳が、胸を張る。
「にしても、オカルト的にはどうですか、会長?」
一年が、おそるおそる聞いた。
「“インハイ優勝コンビが同じクラスで、幼馴染ポジションまで成立している”というこの状況。
なにか、得体の知れない力が働いているのでは……とか」
「ふむ」
門脇は、腕を組んで斜め上を見た。
「“努力と環境と偶然の積み重ね”という名の、最強の呪いだな」
「呪いなんですかそれ」
「本人たちが気付いてないだけで、“隣に立つのが自然な配置”になるように世界が調整されている可能性がある」
「それを世間では“相性が良い”と言うのでは?」
「言い換え禁止。オカルト研的には“見えない力の干渉”だから」
自分たちの解釈を曲げる気はないらしい。
「で、ここの締めよ」
瞳が、自分の書いたコラムの最後を指差す。
『読者のみんなの想像力で補完してほしい』
「ここ、“オカ研的には”どう解釈してほしいわけ?」
「そうだな……」
門脇は少し考えてから、口の端を吊り上げた。
「“二人の関係性の行く末を、各自好きなオカルトジャンルに当てはめて楽しめ”ってことだな」
「ジャンル?」
「因縁系、前世系、守護霊系、契約系……選り取り見取りだ」
「やめてください、そのうち本当に変な噂たつから」
瞳が苦笑してペンを回す。
「私はほら、もっと健全に、“青春ラブコメ枠”として推したいんですけど?」
「健全なラブコメが、うちのオカ研の壁に貼られる時点で、もうオカルトなんだよな……」
門脇は、記事の写真をじっと見つめる。
少しだけ顔を寄せ合って笑っている、剣道全国一位と体操全国一位。
「しかしまあ」
ぽつり、と呟いた。
「“強い奴らが、強いまんま、ちゃんと笑ってる”のは、いいことだ」
「お、急に会長が真面目なこと言った」
「うるせぇ。
あいつらがもし、試合の結果で変な方向に病んだりしたら、そのときは“うちの畑”だからな」
「オカ研をカウンセリングルームみたいに言うのやめて」
そんなやりとりをしながらも、二人とも、記事から目を離さない。
「で、会長」
「ん?」
「これ、部室のどこに貼っておく? 入り口正面? それとも心霊写真の隣?」
「そうだな……」
門脇は、壁を見渡してからニヤリと笑った。
「ここの、“部員紹介”の上でいいだろ」
そこには、すでに小さな紙が貼られている。
《特別観察対象:2年C組 東青見/安達彩女
備考:インハイ優勝コンビ(仮) ※校内世論調べ》
「勝手に“特別観察対象”にしないであげて」
「何を言う。これは愛だ。
オカルト研究会なりの、最大限のリスペクト表現だ」
「絶対違うと思う」
それでも、瞳は笑いながら、記事の角を丁寧に押さえた。
こうして、《逢瀬タイムズ・夏増刊》は――
怪しげな結界図や心霊写真に囲まれた、オカルト研究会の壁の一角に、しっかりと祭られることになったのだった。