なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

167 / 240
増刊号

 

 

/*/ 校内新聞・夏増刊 /*/

 

 

 数日後。

 

 各クラスに配られたB4二つ折りの紙が、ぱさりと机の上に置かれた。

 

《逢瀬タイムズ 夏増刊/編集:校内新聞委員会》

 

 一面左上のコーナーには、でかでかと見出しが躍っている。

 

インハイ優勝コンビ、本音は「ドキドキします」!?

~2年C組・東 青見 & 安達 彩女インタビュー~

 

 例の視聴覚室で撮った、少しラフめに顔を寄せたツーショット写真が添えられている。

 その下、本文にはちゃんと真面目な経歴と試合の振り返り、その合間に――

 

記者Q「ぶっちゃけ東くん、安達さんのレオタード姿どう? ドキドキしちゃう?」

東「……します」

 (※直後に安達さんの拳骨が東くんの肩に命中。「馬鹿! 素直に答えるな!」とのコメントつき)

 

 という、生々しい会話がほぼそのまま活字になっていた。

 

 さらに、反対側のカラムにはこうもある。

 

記者Q「じゃあ公平に、安達さんにも。

 東くんの道着姿&筋肉、ドキドキしちゃう? 触りたくなっちゃう?」

安達「……しない、って言ったら嘘になるけど」

(“触りたくなっちゃう?”の項目については、終始ノーコメントだった)

 

 締めには、山崎瞳の小さな署名コラム。

 

『外にはちゃんとした顔を見せて、

 校内にはちょっとだけ本音を残す。

 そんな二年生の夏を、読者のみんなの想像力で補完してほしい――以上、現場からでした』

 

 ――とまあ、そんな具合である。

 

 

 /*/ オカ研・祭り開幕 /*/

 

 

「ハイ注目ー。オカルト研究会本日の議題、“インハイ優勝コンビの記事を肴にニヤニヤする会”でーす」

 

 放課後、オカルト研究会の部室。

 黒板の前に立った門脇耕太が、いつもの棒読みで開会宣言をした。

 

 薄暗い部屋の壁には、心霊写真(っぽいもの)やら、よく分からない魔方陣のコピーやらが貼られている。

 その一角に――今日、新たに校内新聞がマスキングテープでぺたりと貼られていた。

 

 でかでかとした見出し。

 

インハイ優勝コンビ、本音は「ドキドキします」!?

 

「いい仕事したよね、これ」

 

 その見出しを、椅子を後ろ向きにしてまたがりながら眺めているのは、もちろん山崎瞳だ。

 記者本人が、記事を肴にどや顔である。

 

「“本音は”ってところがポイントだな」

 

 門脇は、腕を組みながら記事を上から下まで舐めるように読む。

 

「『日々の努力の積み重ねが~』とか、外向けのテンプレを一回見せたあとで、

 この“ドキドキします”をぶち込む構成。緩急が実にいい」

 

「でしょ? ほら、うちの会長、シナリオ読み取るの得意だもんねぇ」

 

「お前が自分でネタ仕込んできたんだろうが」

 

 口では毒を吐きつつ、門脇の口元も緩んでいる。

 

「それにしてもさ」

 

 瞳が、記事の一節を指でなぞる。

 

「“見せたかった人は?”『安達……彩女ですかね』

 “ドヤ顔したかった相手は?”『……まあ、青見ですけど』

 このセット、完璧じゃない?」

 

「脚本つきドキュメンタリーかな?」

 

 門脇は、メガネの位置をくいっと上げた。

 

「しかし、こうして文字になるとあれだな。

 うちの後輩二人、ただのバカップル予備軍じゃねーか」

 

「今さら?」

 

「まあ今さらだな」

 

 二人してあっさり結論づける。

 

 そのとき、部屋の隅でこそこそと校内新聞を読んでいた一年の部員が、おずおずと手を挙げた。

 

「あの……会長。この、“拳骨でツッコミ入れるくだり”も、本当にその場であったんですか?」

 

「あったあった。肉眼で確認した」

 

 門脇は即答する。

 

「“ドキドキします”→“馬鹿! 素直に答えるな!”のコンボ、完璧だった。

 あれでツーショット撮影した写真が表紙とか、もはや狙ってるとしか思えない」

 

「なお、その瞬間の私の笑い声は全部カットしました。プロ編集だから」

 

 瞳が、胸を張る。

 

「にしても、オカルト的にはどうですか、会長?」

 

 一年が、おそるおそる聞いた。

 

「“インハイ優勝コンビが同じクラスで、幼馴染ポジションまで成立している”というこの状況。

 なにか、得体の知れない力が働いているのでは……とか」

 

「ふむ」

 

 門脇は、腕を組んで斜め上を見た。

 

「“努力と環境と偶然の積み重ね”という名の、最強の呪いだな」

 

「呪いなんですかそれ」

 

「本人たちが気付いてないだけで、“隣に立つのが自然な配置”になるように世界が調整されている可能性がある」

 

「それを世間では“相性が良い”と言うのでは?」

 

「言い換え禁止。オカルト研的には“見えない力の干渉”だから」

 

 自分たちの解釈を曲げる気はないらしい。

 

「で、ここの締めよ」

 

 瞳が、自分の書いたコラムの最後を指差す。

 

『読者のみんなの想像力で補完してほしい』

 

「ここ、“オカ研的には”どう解釈してほしいわけ?」

 

「そうだな……」

 

 門脇は少し考えてから、口の端を吊り上げた。

 

「“二人の関係性の行く末を、各自好きなオカルトジャンルに当てはめて楽しめ”ってことだな」

 

「ジャンル?」

 

「因縁系、前世系、守護霊系、契約系……選り取り見取りだ」

 

「やめてください、そのうち本当に変な噂たつから」

 

 瞳が苦笑してペンを回す。

 

「私はほら、もっと健全に、“青春ラブコメ枠”として推したいんですけど?」

 

「健全なラブコメが、うちのオカ研の壁に貼られる時点で、もうオカルトなんだよな……」

 

 門脇は、記事の写真をじっと見つめる。

 

 少しだけ顔を寄せ合って笑っている、剣道全国一位と体操全国一位。

 

「しかしまあ」

 

 ぽつり、と呟いた。

 

「“強い奴らが、強いまんま、ちゃんと笑ってる”のは、いいことだ」

 

「お、急に会長が真面目なこと言った」

 

「うるせぇ。

 あいつらがもし、試合の結果で変な方向に病んだりしたら、そのときは“うちの畑”だからな」

 

「オカ研をカウンセリングルームみたいに言うのやめて」

 

 そんなやりとりをしながらも、二人とも、記事から目を離さない。

 

「で、会長」

 

「ん?」

 

「これ、部室のどこに貼っておく? 入り口正面? それとも心霊写真の隣?」

 

「そうだな……」

 

 門脇は、壁を見渡してからニヤリと笑った。

 

「ここの、“部員紹介”の上でいいだろ」

 

 そこには、すでに小さな紙が貼られている。

 

《特別観察対象:2年C組 東青見/安達彩女

 備考:インハイ優勝コンビ(仮) ※校内世論調べ》

 

「勝手に“特別観察対象”にしないであげて」

 

「何を言う。これは愛だ。

 オカルト研究会なりの、最大限のリスペクト表現だ」

 

「絶対違うと思う」

 

 それでも、瞳は笑いながら、記事の角を丁寧に押さえた。

 

 こうして、《逢瀬タイムズ・夏増刊》は――

 怪しげな結界図や心霊写真に囲まれた、オカルト研究会の壁の一角に、しっかりと祭られることになったのだった。

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