なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

17 / 240
戦闘召喚

 

 

 そう言うと、小西は無造作に、手にぶら下げていた雅之の生首をオレの足元へと投げつけた。

 

 べしゃり、と嫌な音がして、すぐさまその生首から、青白い炎が噴き上がる。

 炎はスッと伸びあがり、人の身長ほどもある細長い火柱になった。

 

 小西は、その揺らめきをうっとりと眺めると、満足げに微笑み、両手で複雑な印を組み上げる。

 そして、呪文を詠唱し始めた。

 

「ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅぐあ・ふぉまるはうす・んぐあ・ぐあ・なふるたぐん・いあ! くとぅぐあ」

 

 呪文の響きに応じるように、生首から立ち上る青白い炎が一瞬、ふっと短くなった。

 代わりに、小西が差し出した掌の前に、今度は黄色い炎の塊が、ぼうっ、と生まれ、ゆっくりと膨れあがっていく。

 

「さあ、生きた炎に、燃やし尽くされるがいい!」

 

 黄色と赤の光に顔を照らされながら、小西は勝ち誇った笑みでオレたちを嘲った。

 

 首の後ろが、じりじりと焼けつくように熱い。

 

 ――まずい。

 

 あれは、まずい。

 あれに飲み込まれれば、間違いなく死ぬ。

 

 逃げなきゃならない。

 このままでは殺される。

 

「……ごめんなさい……」

 

 かすかな声に振り返ると、玲子がそこに立っていた。

 大粒の涙をぽろぽろとこぼしている。

 

 泣いている。

 どうして。

 

 助けに来たオレが、玲子のせいで殺される――そう思っているから。

 自分のせいだと、信じ込んでいるから。

 

 だから、泣いている。

 

 助けに来たのに。

 オレは、玲子を泣かせている。

 

 オレが、泣かせた。

 

 胸の奥で、なにかがぷつんと切れた。

 

 ……あたまにきた。

 

 どうして、泣く。

 

 オレは自分のためにも、ここに来た。

 それなのに、玲子はオレのために泣いている。

 

 どうしてだ。

 あいつが、オレを殺そうとしているから。

 オレが殺されそうだから、泣いている。

 

 ――どうする。

 

 どうすればいい。

 

 答えは、ひどく単純だった。

 

 なんてことはない。

 

 アイツが玲子を泣かすなら――

 

 オレがアイツを殺せばいい。

 

 振り返ったオレは、そっと指先で玲子の涙をぬぐった。

 ハンカチは、さっき犬の手当てに使ってしまっていた。

 

「……もう、泣くな。

 オレは、それを止めに来たんだからさ」

 

 喉が焼けつくように乾いて、うまく言葉が出ない。

 それでも、どうにか絞り出す。

 

 左手を懐へ伸ばし――振り向きざま、一閃。

 

 腰をひねり、全身の回転力を乗せて振り抜いたタクティカル・ナイフが、一直線に小西へと走る。

 膨れあがった黄色い光球を斜めに裂き、殺到する刃。

 

 だが、小西の胸元に届く寸前――

 ナイフは、何か目に見えない壁にぶつかったように、カチリと弾かれ、その場に落ちた。

 

 カラン、と金属音が床を転がる。

 

 小西の口元に、心底オレをあざ笑うような笑みが浮かぶ。

 

 オレをバカにするのは、まだいい。

 だが、玲子の、かすかな希望までも踏みにじるその笑みだけは、許せなかった。

 

 ナイフを投げた瞬間には、もう身体は前へ出ていた。

 床を蹴って滑るように踏み込み、残り二メートルを一歩で詰める。

 

 腰のホルスターから特殊警棒を引き抜き、一気に打ち伸ばす。

 八十センチ近くまで伸びた鋼の棒を両手で構え、大上段から全力で振り下ろした。

 

 手加減なんて一切していない。

 人生で一番の踏み込みと振り下ろし――たとえ木刀でも、人の頭ぐらいなら粉砕できる一撃だ。

 腕で受けても、骨ごと叩き折り、そのまま頭蓋ごと砕けるはず。

 

 そして――

 

 それもまた、小西の頭上で、見えない何かに受け止められた。

 

 確かに打ち込んでいるのに、手応えがない。

 硬いものを殴った感触はあるのに、小西の身体は微動だにしない。

 

 ほんとうに、心の底からオレを嗤う小西の笑み。

 

 怒りで、歯ががちがちと鳴った。

 

 構うものか。

 

 オレは、警棒を振りかぶり直し、立て続けに打ち込んだ。

 

 頭、肩、胴、足。

 叩けるところは片っ端から、何度でも。

 

 見えない壁に弾かれようが、関係ない。

 滅多打ちにするように、オレはひたすら打ち続けた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。