なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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威圧感

 

 

 /*/ 逢瀬学園テーブルの威圧感 /*/

 

 

「じゃ、こっちのレーンが逢瀬学園メイン組ねー。隣が他校混合組~」

 

 七海の号令で、シューズを履き終えたメンバーがぞろぞろとレーンに散っていく。

 

 その中で――逢瀬学園組は、嫌でも目立っていた。

 

 まず、頭ひとつ飛び出ている青見。

 他校男子もそれなりに背の高いのはいるが、それでも一歩前に出ると、自然と視界の「基準ライン」が上がる。

 

 肩幅。

 胸板。

 Tシャツ越しでも分かる腕の太さ。

 

(なんだあいつ、ゴリラか?)

(いや、顔は普通にイケメン寄りだろ)

(スペックどうなってんの、逢瀬の剣道)

 

 ひそひそ声が、隣レーンのベンチから漏れてくる。

 

 その横に立つ彩女は、また別方向に目立っていた。

 

 平均男子よりふた回りはスラっと高い身長。

 デニムにTシャツ、上から軽く羽織ったパーカーというシンプルな格好なのに、手足の長さと姿勢の良さだけで絵になる。

 

「ねえ、あの子も逢瀬?」

 

「そうそう、器械体操でインハイ優勝の子」

 

「はー……スタイルえぐ……」

 

(うわ、視線刺さる……)

 

 他校男子の一人が、目が合った瞬間にそっと視線を逸らした。

 彩女が別に睨んでいるわけではないのだが、あの目つきで真正面から見られると「試されてる」気分になるのだ。

 

 その二人だけでも充分にインパクトがあるのに――

 

「……ねえ、あっちの子たちも逢瀬?」

 

 ひそひそ声の矛先は、すぐそばのベンチに座る二人の“女子”にも向かう。

 

 一人は、愛香。

 落ち着いた色のワンピースにカーディガンを羽織って、きちんとまとめた髪。

 派手さはないのに、バランスの良さと柔らかい雰囲気で、ついつい目が行ってしまう。

 

 笑うときに目尻がふわっと下がるのが、やたらと“ずるい”。

 

「なんか……普通にクラスにいたらTOP3には入るよね、あの子」

 

「分かる。“ちゃんと可愛い”って感じ」

 

「あと隣の……あの子」

 

 視線の先には、儚げ女子・ソウコ(中身:惣一郎)がいた。

 

 ウィッグの前髪が少し額にかかっていて、伏し目がちにスコア表を見ている。

 首筋から鎖骨にかけてのラインがきれいで、袖口からのぞく手首も細い。

 

「……なんか、守ってあげたくなる系だな」

 

「いや、あれは……さすがにレベル高すぎじゃない? 芸能事務所とかからスカウトされるタイプだろ……」

 

 他校男子たちの視線が、わかりやすく二人に集まる。

 

 その様子を、少し離れたところから見ていた他校女子グループが、苦笑まじりに肩をすくめた。

 

「……逢瀬学園レベルたけぇ」

 

「ねー……あれみんな同じ学校ってマジ?」

 

「男子も女子も“平均値”おかしくない?」

 

「しかもあのガタイの剣道男子と、体操の長身女子、カップル疑惑あるって聞いたんだけど」

 

「は? もう勝ち目ないじゃん」

 

 半分冗談、半分本音のため息が漏れる。

 

 当の本人たちは――というと。

 

「なんか、見られてない?」

 

 スコア表を操作しながら、愛香が小声で囁く。

 

「気のせいだよ。惣くんが可愛すぎるせい」

 

「いま、“原因はお前だ”って言ったよな」

 

 惣一郎(外見:儚げ美少女)は、ふてくされたように頬を膨らませる。

 その表情すら、「ちょっと拗ねた系美少女」にしか見えないのが腹立たしい。

 

 一方、レーン側では。

 

「……彩女」

 

「なに」

 

「さっきから視線すごいけど、気にしない方がいいか?」

 

「大丈夫。慣れてる」

 

 彩女は、ボウリングの球を選びながら、あっさりと言った。

 

「それに――」

 

 と、ちらっと青見の方を見る。

 

「どうせ最終的に、一番目立つのはあんたよ」

 

「いや、どうだろ」

 

「十投中八投ストライクくらい出したら、一瞬で“逢瀬のバケモノ”扱いだから」

 

「誉めてる?」

 

「ギリ誉めてる」

 

 そんな会話をしながらも、

 周囲から向けられる「逢瀬学園すげぇな……」という生暖かい視線を、

 

 逢瀬学園サイドは、それぞれのやり方でやり過ごしていた。

 

 ――誰一人として、自分たちのテーブルが

 他校勢から「バランス良くバケモノ揃い」と評されていることを、まだ知らないまま。

 

 

/*/ 主催者の観客席 /*/

 

 

 ゲームが始まってしばらく。

 

 どのレーンからも、ピンの倒れる音と、歓声やため息が入り混じった賑やかな空気が流れている。

 

 その中で、ひときわ“なんか近寄りづらい”オーラを放っているのが――逢瀬学園4人組のレーンだった。

 

 東青見。

 安達彩女。

 松坂愛香。

 儚げ女子・ソウコ(中身:伊東惣一郎)。

 

 他校男子グループが、何度か様子をうかがいに近くを通るものの、

 ※なぜか毎回「彩女の無表情」と「青見のガタイ」にビビって軌道修正していく。

 

(あー、ダメだこれ)

 

 その様子を、一歩引いた位置から眺めていた七海は、ストローをくわえたジュース片手に深々とため息をついた。

 

「はーレベル高すぎて、みんな委縮しちゃって4人組に近づけないわ~」

 

 隣でスコア表を持っていた同じクラスの女子が、くすっと笑う。

 

「七海が一番楽しそうなんだけど?」

 

「え、楽しいよ?」

 

 七海はあっさり肯定した。

 

「だってさぁ、“インハイ優勝コンビ+幼馴染カップル+女装美少女”って、どう考えてもイベントラスボスじゃない?」

 

「肩書きの情報量が渋滞してるんよ」

 

「そりゃ他校勢も、“まずは通常モブのところから交流しよ……”ってなるよね~」

 

 実際、少し離れたレーンでは、他校同士の自己紹介やLINE交換がぽつぽつ始まっている。

 

「こっちはこっちで盛り上がってるしさ。

 他の組で交流進むかしら? それとも頑張るチャレンジャーはいるかなー……」

 

 七海はストローをくわえ直しながら、目を細めた。

 

 逢瀬4人組のレーンでは、ちょうど青見の番だった。

 

 青見が無造作なフォームで球を投げる――ストライク。

 他校レーンから「おぉーっ」と素直な感嘆が漏れる。

 

 次、彩女。

 伸びやかなフォームで投球し、これまたピンをなぎ倒す。

 スポーツ漫画のコマみたいに、動きだけでさまになっている。

 

 ベンチ奥では、愛香が惣子(仮)のスコアを覗き込みながら、なにやら楽しそうに話していた。

 

 惣子は照れたふりをしながら口元を隠して笑い、

 その様子を見た他校男子が「くそ、可愛い……」と小声で頭を抱えている。

 

「……どっちにしても私は楽しい」

 

 七海は、心底満足そうに呟いた。

 

「どう転んでも、絶対“ネタ”になるもん。

 交流が順調に進んでも、“ラスボス組に突っ込んで玉砕する勇者”が出ても、どっちもオイシイ」

 

「主催者が言うセリフじゃないね、それ」

 

「いいのいいの。青春って、見てる分にはカオスな方が楽しいの」

 

 そう言って、七海はスコア表をぱんっと叩いた。

 

「さーて。

 この空気の中、最初にあの4人に話しかけに行く“チャレンジャー”は、どこの誰かな~」

 

 その視線の先で、

 ひとりの他校男子が、ドリンク片手に逢瀬レーンの方へ、

 「行くか……? いや……行くのか俺……?」といった足取りで、じわじわ接近しつつあるのだった。

 

 

 

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