なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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テーブル戦線

 

 

/*/ ファミレスのテーブル戦線 /*/

 

 

 ボウリング場から歩いて数分。

 ショッピングモールの端にあるファミレスは、土曜の夜らしく、そこそこ混んでいた。

 

「何名様ですか?」

 

「えっと、こっちの組が……七人で。あっちの他校組は別会計でお願いします~」

 

 七海が前に出て、手慣れた感じで人数調整する。

 店員は「少々お待ちください」と言って、すぐにソファ席の並んだ大きめテーブルへ案内してくれた。

 

 その後ろで――

 

「……なあ」

 

「なに」

 

「本当にこのまま入るのか、オレ」

 

 儚げ女子ソウコ(中身・惣一郎)が、入り口のガラスに映る自分の姿を見て、小声でうめいた。

 

 ウィッグもメイクも、そのまま。

 どう見ても“女の子のグループに混ざってる女子”。

 

「今さら戻す方が目立つでしょ。変なとこで照れるな、惣くん」

 

 愛香が、当たり前のように腕を絡めて引っ張っていく。

 

「だいたい、さっきのボウリング場では普通に女子トイレの前うろついてたじゃん」

 

「あれは入ってねえからな!? 前通っただけだからな!?」

 

「分かってるよ?」

 

 愛香はくすくす笑いながら、惣一郎(外見ソウコ)を席へ押し込んだ。

 

 

 ◆ 注文タイム・それぞれの選択 ◆

 

 

「ではご注文お決まりになりましたらお呼びください」

 

 メニューを配り終えた店員が下がっていく。

 テーブルの上には、色とりどりの写真付きメニューがずらり。

 

「うわ、なんか久しぶりだな、ファミレス」

 

 青見が、ぱらぱらとページをめくる。

 

「部活帰りに寄らないの?」

 

「さすがに毎回は寄れねえよ。金が死ぬ」

 

「それはそう」

 

 彩女も、真剣な顔でメニューを睨んでいた。

 

「……ハンバーグもいいけど、パスタも捨てがたい……」

 

「運動部の悩み方じゃないわね」

 

 向かい合った七海が笑う。

 

「今日一番投げたんだから、好きなだけ食べなさいよ、優勝コンビ」

 

「優勝は関係なくない?」

 

「関係あるよ。見栄え重視で呼んだのも事実だけど、頑張って盛り上げてくれたのも本当だし」

 

 七海は、さらっと本音と建前を混ぜて言う。

 

「じゃあ、遠慮なくセット頼むか」

 

「わたしも」

 

 結局、

 青見:ハンバーグ&エビフライのがっつりプレート+大盛りライス。

 彩女:チキン&パスタのセット+ポテト。

 愛香:サラダとオムライスのセット。

 惣一郎(ソウコ):見た目に合ってしまったので、ふわとろ系デザートパフェ+ドリンクバー。

 

 というラインナップになった。

 

「……オレだけ明らかに女子会メニューなんだが」

 

「見た目に合わせた結果なのでセーフ」

 

「説得力がすごい」

 

 注文を取りに来た店員は、何の疑いもなく惣一郎を「女子」として見て、

 「以上でよろしいですか、お嬢様方」と微笑んで去っていった。

 

「……“お嬢様方”だって」

 

「良かったじゃん、惣くん」

 

 愛香が、どこか誇らしげにうなずく。

 

「ほら、ちゃんと『女子』に見えてる」

 

「オレの男としてのアイデンティティ、どこ行ったんだろうな……」

 

「心配しなくても、知ってる人間からは一生“伊東惣一郎”だから大丈夫」

 

「フォローになってねえんだよそれが」

 

 

 ◆ 逢瀬学園レベル問題 ◆

 

 

 ドリンクバーを確保し、ひと段落ついたところで、

 七海がストローをくわえながらニヤニヤと切り出した。

 

「でさでさ。どうだったの、今日」

 

「どうって?」

 

「“他校との交流会”の感想?」

 

 視線が、テーブルの面々に向く。

 

「私はね、“逢瀬学園レベルたけぇ”って言われてるのを近くで聞けて、大満足でした」

 

「聞いてたのか」

 

 青見がげんなりした顔になる。

 

「だってさあ、“あっち逢瀬? レベル高すぎだろ……”って、

 他校男子も女子も同じこと言ってたんだもん。面白すぎない?」

 

「面白がるな」

 

「しかもさ、“インハイ優勝の二人は分かるとしても、隣の二人も普通に顔面偏差値高くない?”って」

 

 七海の目が、にゅっと愛香とソウコに向く。

 

「“普通にクラスにいたらTOP3には入るよね、あの子たち”って」

 

「へぇ……」

 

 愛香は、どこか他人事のように目を瞬かせた。

 

「なんか、照れますね」

 

「照れるなよ」

 

 惣一郎(中身)は、隣で腕を組む。

 

「顔褒められて嬉しいのは分かるけどさあ、その顔の半分くらいオレの元々のパーツだからな?」

 

「じゃあ、半分は私のプロデュース力ってことで」

 

「強い」

 

 彩女は、ストローをくわえながら、己の胸の内で「TOP3」発言をメモっていた。

 

(他校基準でも、愛香は“ちゃんと可愛い”認定、っと)

 

 そして、その隣のソウコ――中身惣一郎は、

 

(……まあ、あれだけ作り込めば、そりゃ可愛いって話にもなるか)

 

 と、複雑な気分になるのだった。

 

「でもさ」

 

 七海は続ける。

 

「“逢瀬学園レベルたけぇ”って言われてた一番の原因、多分青見なんだよね」

 

「オレ?」

 

「他の学校の子が、“なんであのガタイで高校生なん?”って真顔で聞いてきたからね~」

 

「知らんがな」

 

「“あの身体で剣道とか反則だろ”って、三回くらい聞いた」

 

「……まあそこは、先生と道場に言ってくれ」

 

 青見が肩をすくめると、

 彩女はどこか誇らしげに「そうでしょ」とうなずいていた。

 

「インハイ優勝コンビとしては、悪くない評価ね」

 

「どこから目線だよ」

 

「横から目線よ」

 

「斜めじゃなくなったな」

 

 そんな他愛もない会話をしていると、料理が運ばれてきた。

 

 

 ◆ 今日のハイライト反省会 ◆

 

 

「では、交流会本日のハイライトを振り返ってみましょう」

 

 七海が、ポテトをつまみながら「司会進行」モードに入る。

 

「まず一つ目。

 “勇敢な他校男子・佐伯くん、ラスボスレーンに単身突撃するも、ソウコちゃん(仮)の見事な百合コンビネーションにより、そっと散る”」

 

「言い方ぁ!」

 

 惣一郎が、スプーンを握ったまま抗議する。

 

「あれはただの防御ですよ。変なフラグ立てられたら困るから、愛香がさっと遮っただけで」

 

「“惣くんはわたしの惣くんなんです”は防御の域超えてたけどね」

 

 彩女がぴしっと指差す。

 

「ねえ、他校の子の前で、あの台詞よく言えたわね?」

 

「だって事実だし」

 

 愛香は、さらっと言い切った。

 

「……あの場で否定したら、惣くん悲しそうな顔するかなって思ったし」

 

「しねえよ!」

 

 惣一郎は即否定したが、その耳はまた赤くなっていた。

 

「二つ目のハイライト、行きます」

 

 七海は続ける。

 

「“逢瀬レーン、スコアが全体的におかしい”」

 

「……いや、ボウリングなんだからスコア出してナンボだろ」

 

 青見がぼそっと言う。

 

「青見:ハイスコア230。

 彩女:初見で180越え。

 愛香:安定して130~150。

 ソウコ:見た目の儚さを裏切るナチュラルセンスで120前後キープ」

 

「普通じゃない?」

 

「他校男子平均、80~100だからね?」

 

「……あー」

 

 言われてみれば、周囲のレーンではガーター連発も多かった。

 

「結果、“逢瀬学園、運動レベルもおかしい”って噂が追加されました。おめでとうございます」

 

「全然嬉しくねえ」

 

「なんでオカ研メンバーまで運動枠扱いなんですかね……」

 

 惣一郎が、パフェの生クリームをつつきながらこぼす。

 

「オレ、本来文化系だからな?」

 

「日頃から愛香の筋トレメニュー付き合ってるからでしょ」

 

 青見に指摘されて、惣一郎は黙った。

 

 

 ◆ この先、どうするか ◆

 

 

「でもさ」

 

 ふと、愛香がフォークを置いて言った。

 

「こういうの、たまには悪くないね」

 

「……他校交流?」

 

「うん。惣くんは“退屈だ”って言うかもしれないけど」

 

「言った覚えあるな」

 

「でも、今日みたいに、ちょっと変なハプニングがあって、笑って、ご飯食べて」

 

 愛香は、グラスの水をくるくる回す。

 

「そういうのも、“ちゃんと生きてる”って感じがして、わたしは好きだよ」

 

「……へぇ」

 

 惣一郎は、少しだけ驚いた顔をした。

 

「愛香、そういうこと言うんだ」

 

「言うよ。だって惣くんの“成長分”、そういうことに使いたいもん」

 

「やめろ、そのワード」

 

 周りの三人が、同時にため息まじりにツッコむ。

 

 七海は、そんな二人を見てニヤニヤしていた。

 

「じゃあ、またやる? こういう会」

 

「え、また?」

 

 彩女が少しだけ顔をしかめる。

 

「今回だけならまぁ、顔立てたけど」

 

「インハイ終わりの“お疲れさま会”第二弾ってことでさ。

 今度は競技関係なく、他の部活の子も混ぜて」

 

 七海は、ストローをいじりながら言う。

 

「逢瀬学園、“仲良しで楽しそうな学校”ってイメージつくの、悪くないでしょ?」

 

「広報的観点やめなさいよ、理事長みたいなこと言うな」

 

 彩女が笑いながら返す。

 

「ま、青見が行くなら」

 

 結論はそこに落ち着く。

 

「また付き合ってあげてもいいけど」

 

「お前、“青見が行かないなら行かない”って言った方が早くね?」

 

 惣一郎が突っ込む。

 

「うるさい。惣と違って、わたしはツンデレじゃないの」

 

「今、全全力でツンデレムーブしてたけどな?」

 

「“ツン9:デレ1”ぐらいで」

 

「割合の問題じゃねえよ」

 

 笑いがテーブルの上に広がる。

 

 青見は、少しだけ顔を伏せて、コップの水を一口飲んだ。

 

「……まあ」

 

 そして、ぽつりと言う。

 

「退屈じゃないなら、悪くないんじゃないか」

 

「なにそれ、“惣一郎フィルター”?」

 

 七海が笑うと、惣一郎本人は「オレ基準にすんな」とぶつぶつ文句を言う。

 

 窓の外には、ショッピングモールのネオンが映り込んでいた。

 夏の終わりと秋の始まりの、少しだけ涼しい夜。

 

 オカルトでも、異常現象でもなく。

 

 ただ、こうやってファミレスで他愛もない話をして笑い合う時間も――

 

 彼らの日常の一部として、ちゃんと積み重なっていくのだった。

 

 

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