休日計画
/*/ 女子だけの休日計画 /*/
「彩女ちゃーん!」
放課後のチャイムが鳴って少し経った頃。
帰り支度をしていた彩女の机に、影が四つ、同時に落ちた。
「……わ、近い近い」
顔を上げると、そこには安生4姉妹。
長女の梨花、次女の友香、そしてシルバーブロンドのユイリィ、ストロベリーブロンドのルテア。
制服から着替えたその姿は、いつもの「逢瀬学園カフェテリアの看板姉妹」じゃなくて、
雑誌から抜け出してきたみたいな私服モードだった。
梨花は黒のロングスカートにタイトなニット。
友香はパーカーにショートパンツ、足元はごついスニーカー。
ユイリィは白いニットとくすみブルーのプリーツスカート。
ルテアは派手色のブルゾンにデニム、腰にはチェックシャツを巻いている。
全員、でかい。
女子として背が高いだけじゃなくて、肩まわりもしっかりしてて、脚も長い。
教室の照明の下で並ぶと、なんかもう「別の世界の住人」感がすごい。
(……でも、わたしがいるお陰で、クラスの景色のバランスはとれてる。
あの4人だけだったら、たぶんみんなビビる)
身長的にも、体育会系の雰囲気的にも。
逆に、彩女にしてみれば――
(正直、わたしと同じくらい背高い子がクラスに複数いるって、めちゃくちゃ気が楽)
そんなことを内心で思っていると、友香が身を乗り出してきた。
「彩女ちゃん彩女ちゃん! 今度の土曜、空いてる!?」
「……いきなりね。何、護身術の追加レッスン?」
「違う違う! お出かけ、お出かけ!」
ルテアが両手を広げて、きらきらした目で続く。
「新しい服、みんなで買ったでしょ? せっかくだから街に繰り出したいの!
カラオケとー、ボーリングとー、プリクラとー……あとスイーツ!」
「欲張りセットだな、おい」
思わずツッコむ彩女。
「てかさー」
友香が、にやっと笑って指をさしてきた。
「ボーリングって聞いてまず思い出すの、前の“健全な交流会”なんだけど?」
「……まだその話?」
「するに決まってるでしょ! 初ボーリングでいきなりスコア180超えた人の顔してる?」
「だから、たまたまだってば」
「“たまたま”連続でストライク出す器械体操部のエースがいるかっての」
ルテアがケラケラ笑う。
「助走からの踏み切りが、完全に床運動のそれだったもん。
フォームだけ見たら、絶対経験者だと思うって」
「体の使い方が綺麗なのよね」
ユイリィが、感心したように微笑む。
「重心の移動とか、軸の通し方とか。
“ああ、ほんとに器械体操やってるんだな”って感じ」
「……褒めてるのか、イジってるのかどっちよ」
「どっちも!」
友香とルテアが同時に答えて、笑い声が弾けた。
器械体操部のエース、とまで呼ばれるようになったのは、
正直、努力と体格とでどうにかなった結果だ。
でも、こうやってネタにされるのは、少しむずがゆい。
「で、なんでわたしに?」
「同行頼みにきたの」
梨花がさらりと言う。
腕を組んでいる姿は、完全にモデルかスカウトマンだ。
「女子会したいのよ。
カラオケで騒いで、プリクラで変なポーズして、ボーリングで肩温めて――」
「最後なんかおかしくない?」
「大丈夫、フォーム崩さない程度に楽しむから」
梨花の「ボーリング=肩回りのトレーニング」感覚に、彩女は苦笑する。
「それでね」
ユイリィが、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。
「私たち、見た目、ちょっと目立つでしょ?
背、高いし。髪の色も、ね」
シルバーブロンドを指先でつまんで見せる仕草が、妙に様になっている。
「だから、彩女ちゃんが一緒だと、すごく助かるの。
クラスでも、彩女ちゃんが普通に話しかけてくれるから、
“あ、怖い人じゃないんだ”って皆思ってる感じするし」
「そうそう。彩女ちゃんが堂々としてるから、
『背高い女子、別に普通じゃん』みたいな空気になる」
ルテアが全力でうなずく。
「……あー」
言われてみれば、心当たりがある。
(わたしが最初、普通に一緒に体育の準備とかしてたから、
周りも“近づいちゃいけない雰囲気”みたいなの、すぐなくなったよね)
逆に、彩女の側も――
(正直、わたしと同じくらい背高い子がクラスに複数いるって、めちゃくちゃ気が楽。
しかも、ボーリングで180出したとき、本気で喜んでくれてたし)
こっちが感謝したいくらいだ。
「ってことで!」
友香が机をばんっと叩いた。
「彩女ちゃん、今度の土曜、一緒に街行こ! ついでに愛香ちゃんも!」
「え、愛香?」
「うん。彩女ちゃんと愛香ちゃんセットでお願いしたい。
ツン(デレ)甘の彩女ちゃんと、ラブ甘の愛香ちゃんのバランスが最強だから」
「分類がひどいわね」
「ホメ言葉だよ? 見てて飽きないって意味」
そこへ、ちょうど廊下側のドアから、噂の本人が顔を覗かせた。
「彩女ちゃーん。帰る――って、あ、安生ちゃんたち」
「ナイスタイミング!」
友香が手を振る。
「愛香ちゃん、今度の土曜、空いてる?」
「え? 土曜? 午前中は家事とかあるけど、午後なら……って、何するの?」
「カラオケ、ボーリング、プリクラ!」
「女子だけで街を闊歩する会です」
梨花が簡潔にまとめる。
「わ、楽しそう。行きたい」
愛香は、彩女の顔をちらっと見てから、にっこり笑った。
「ね、彩女ちゃん」
「……そりゃ、行きたいけど。
問題は、あいつらだよね」
「あいつら?」
「青見と惣一郎」
彩女が言うと、4姉妹が同時に「あー」という顔になった。
「惣一郎ちゃん、土曜は?」
「バイト」
即答する愛香。
「沈み口モール?」
「そう。夕方までシフト入ってるって」
「じゃあ、呼んでも来られないわね」
梨花があっさり切り捨てる。
「青見くんは?」
「出稽古」
これも即答の彩女。
「道場の先生に連れられて、ちょっと遠征するって言ってた」
「おじい様が土曜は出かけるって言ってたわね」
梨花が苦笑する。
「というわけで」
友香がぱんっと手を打った。
「惣一郎ちゃんはバイト、青見くんは出稽古。
つまり――」
「偶には女子だけでも良いでしょ?」
ユイリィが、いたずらっぽくウィンクする。
「か、カラオケで変な歌入れられても、
あいつらに聞かれないなら安心だし……」
「プリクラで変な落書きしても、証拠を見られないしね」
ルテアが追い打ちをかける。
「あと、“2回目ボーリングのスコア”更新も見たい」
「その呼び方やめて。プレッシャーかかる」
「じゃ、決まりでいい?」
「異議なし」
愛香が即座に挙手。
彩女も、小さくため息をついたあと、観念して笑った。
「分かったわよ。女子会、乗った」
/*/ 道場トークと朴念仁 /*/
そのあと、集合時間や場所をざっくり決めて、
4姉妹と2人は一緒に昇降口へ向かって歩き出した。
廊下に6人並ぶと、やっぱり迫力がある。
全体的に背が高くて、しかも運動部系の歩き方をしているから、
すれ違う生徒たちが、何人か「おお……」って顔で道をあける。
「そういえばさ」
階段を降りながら、彩女がふと思い出したように言った。
「道場の青見って、どうなの?」
「どう、って?」
梨花が眉をひそめる。
「彩女ちゃん、心配するようなことは何もないぞ、って意味で」
ルテアが笑いながら肩をすくめる。
「うちの道場、基本的に男女一緒の稽古だからさ。
ラッキーすけべ的なイベント、発生しやすい環境じゃん?」
「さらっと何言ってんのよ、あんた」
「いやだって、道場ものの漫画とかラノベだとだいたいあるでしょ、そういうの」
ルテアの言葉に、友香が全力でうなずく。
「そうそう! 受け身失敗して押し倒しちゃいましたーとかさ!」
「ないわよ、そんなの」
即答する彩女。
「今のところ、何もないし。
ラッキーすけべも、すっ転びハプニングも、ゼロ」
「案外、青見くんってそういう所ガード高いよねぇ」
ユイリィが感心したように言う。
「朴念仁っぽいのに」
「朴念仁だからでは?」
ぼそっと口を挟んだのは、愛香だった。
全員の視線がそちらに向く。
「だってさー」
愛香は肩をすくめる。
「彩女ちゃんの隣にいて、あの体格と顔面偏差値で、
“うっかり”とか“一瞬意識しちゃう”とかゼロって、
それはもう朴念仁以外の何者でもないよ」
「な、何その言い方」
「褒めてる褒めてる」
「どこがよ」
「青見は変なとこ真面目だしな」
梨花がゆっくりと頷く。
「投げの型やるときも、絶対必要以上に体を密着させないし。
逆にこっちが“もっと寄れ”って思うくらいだ」
「長女の感想が一番説得力あるんだけど」
彩女は、耳がじんわり熱くなるのを感じながら、視線をそらした。
「……別に、いいでしょ」
「うん、いいと思うよ?」
愛香がにっこり笑う。
「そっちのガード甘かったら、
今頃、彩女ちゃんの胃が穴あいてるもん」
「わたしの胃前提?」
「彩女ちゃん、見てて分かりやすいからねー」
友香がケラケラ笑う。
「青見くんがちょっと女子と喋ってるだけで、
なんか視線が“そっちかー”って感じになるし」
「なってない!」
「なってるなってる」
口々に言われて、彩女は両手で頬を押さえた。
「もう、その話題終わり!」
逃げるように、少し早足になる。
その後ろ姿を見て、4姉妹と愛香は、顔を見合わせ笑った。
「でもまあ」
昇降口に出る手前で、梨花がぽつりと言う。
「道場で変なことが起きてないってわかったのは、良かったわ。
彩女ちゃんも、見学くらいはしにおいでよ。
女の子同士で投げ合ってるの、見てるだけでも面白いから」
「考えとく」
彩女は、靴箱からローファーを取り出しながら答えた。
「とりあえず、土曜は――
青見も惣一郎もいない、女子だけのバカ騒ぎね」
「おー!」
友香とルテアがハイタッチする。
ユイリィも微笑みながらそれに続き、梨花は少しだけ口元を緩めた。
こうして、安生4姉妹+彩女+愛香の女子会計画は、
わいわいとした空気の中、正式に決定したのだった。