/*/ 女子会当日・背の高い5人と“標準サイズ” /*/
土曜の午後。
郡山駅前の待ち合わせ場所には、今日もすらっとした影がすでに三つ、四つ。
「彩女、こっち」
手を振ったのは梨花。
身長173cmの長身に、黒のロングスカートと薄手のニット。
どう見ても高校生というより、どこかのショップ店員かモデルだ。
「早いじゃない」
「集合時間より十分前行動が基本」
「そのへん、ほんと軍隊なのよね、安生家」
そう言いながら近づく彩女も、今日は私服だ。
173cmの体に、白Tシャツとカーキのマキシスカート、デニムジャケット。
シンプルなのに、手足の長さのせいでどうしても“映えシルエット”になってしまう。
「彩女ちゃん、今日も脚ズルい」
170cmの友香が後ろから抱きついてくる。
「何その比率。床運動の動画そのまま飛び出してきたの?」
「筋肉痛の話なら聞くけど、脚の長さは生まれつきだから知らない」
「爽やかにマウント取ってくスタイル」
くすくす笑っていると、ひときわ高いシルエットが近づいてきた。
「二人とも、ほどほどにね」
176cmのユイリィは、白のニットに青グレーのプリーツスカート。
背の高さとシルバーブロンドが相まって、北欧のモデルみたいだ。
174cmのルテアは、ストロベリーブロンドのポニテに、派手色スウェットとデニムショート、派手めスニーカー。
「全力で動きます!」と言わんばかりの元気コーデだ。
「ごめーん、ちょっと遅れた!」
小走りで駆け寄ってきたのは、ラベンダー色のワンピースにカーディガン姿の愛香だ。
157cm。
6人の中で、唯一“平均値”の身長。
5本の長い脚に囲まれると、自然と少しだけ見上げる位置になる。
「午前中、洗濯機と格闘してた」
「えらい女子力」
「彩女ちゃんも、器械体操の練習のあとちゃんと洗濯してるでしょ?」
「まあ、汗だくのままほっといたら母さんに怒鳴られるし」
「はいはい、体育会系あるある」
6人が揃ったところで、梨花が軽く手を叩いた。
「じゃ、行きましょうか。
本日のメニューは――カラオケ、ボーリング、プリクラ、スイーツ。異論ある?」
「ない!」
「体力は無限!」
「最後のは安生家と器械体操部だけの特性だからね?」
彩女と愛香は顔を見合わせ、笑いながら駅前ビルの中へ入っていった。
/*/ カラオケ・ツン(デレ)とラブ甘のターン /*/
「最初誰行く?」
「ここはやっぱり、声量担当からだよねー」
言うが早いか、リモコンが彩女の手に押しつけられた。
「ちょっと待ちなさい。なんでそうなるの」
「体育祭の応援と、前の交流会の二次会で分かったもん。
“マイクいらない系の通る声”」
「それ、褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。“ツンデレ主人公系ヒロインの歌声”って感じ」
「分類おかしくない?」
ぶつぶつ言いながらも、彩女は曲を選んだ。
最近よく聴いているアップテンポの曲。
イントロが流れ出すと、心臓が少しだけ跳ねる。
(……青見も惣一郎もいないし)
なんとなく、そのことが背中を押した。
マイクを持ち直し、声を乗せる。
体育館で鍛えた肺活量と、器械体操で覚えたリズム感が、自然と歌に乗る。
サビに入ったところで、友香とルテアが手拍子を入れ、
ユイリィと梨花が、うんうんとリズムを取る。
歌い終えた瞬間、拍手がわっと上がった。
「やっぱうまっ!」
「“ちょっとツン入ってるけど、本気出したらデレデレに甘そう”って感じの声だよねぇ」
「どういう感想よ、それ」
彩女が耳まで赤くして座ると、今度は愛香にマイクが渡された。
「じゃあ、ラブ甘担当いきまーす」
「自覚あったんだ」
彩女のツッコミを受け流しつつ、
愛香は恋愛ソングを選んだ。
柔らかくて甘い声。
157cmの小柄な体を少し揺らしながら、
歌詞に合わせて胸もとで指先をそっと組んだり、
切ないところで目を伏せたりする仕草が、いちいち“分かっている”。
「これ、惣一郎ちゃんに聞かせたら、確実に死ぬね」
「ニヤけ死ぬな」
梨花とユイリィの感想に、愛香は笑ってマイクを置いた。
「本人の前でやると、調子に乗るからやらない」
「でも帰りに“今日は女子会だったから、ちょっとだけ内緒ね”って言うんでしょ?」
友香の一言に、愛香はあっさり「言う」と認めた。
「ツンデレとラブ甘が揃ってるって、改めてズルい組み合わせだよねー」
「やかましい」
そのあとは、4姉妹がそれぞれ好きなジャンルを歌い、
アニソンあり、昭和歌謡あり、洋楽ありのカオスなカラオケタイムになった。
/*/ 二回目ボーリング・180の亡霊 /*/
カラオケを出ると、そのまま同じビルのボーリングフロアへ。
「はい、貸し靴のサイズ書いてくださーい」
「25.5」
「25」
「24.5」
「25.5」
「24.5」
「えっと……23。5で」
最後の数字だけ、すっと一段小さくなる。
受付の店員が、一瞬だけペンを止めた。
女子6人組なのに、5人分の数字は妙に大きい。
視線が自然と5人の脚に落ち、すらりとした長さを見て納得し――
続いて、愛香の「普通サイズ」の脚に行き、なんとなくほっとしたような顔になる。
(まあ、愛香ぐらいの身長が一般的よね)
彩女は心の中で苦笑した。
「安生家は全員、でかい」
「彩女ちゃんもだよ?」
「ユイリィちゃんはさらに上だけどね」
「私、見下ろす角度に慣れちゃって、たまに申し訳なくなる」
そんな話をしつつレーンへ入ると、
友香がボールラックをぽんぽん叩いた。
「さーて、“180の女”の二回戦ですよ」
「やめて、その通り名」
「いや事実だし?」
前回の健全な交流会。
クラスメイト数人と一緒に来たとき、
彩女は生まれて初めてのボーリングで、いきなりスコア180を叩き出した。
――助走からの踏み切り。
――腰を切る角度。
――体軸を保ったまま腕を振り下ろす感覚。
全部、床運動の癖が出ただけだったのだが。
「今日も行ける行ける」
「プレッシャーかけないで」
それでも順番は回ってくる。
スコアボードに「ADACHI」の文字が点いた。
「じゃ、行ってきますか」
ボールを両手で持ち上げ、
助走ラインの手前で一度深呼吸。
(いつものフロアだと思えばいい)
床運動の開始線に立つときと同じように、
すっと背筋を伸ばし、前を見据える。
右足を一歩。
二歩。
三歩目で重心を前に送り出しながら、腕を振り下ろす。
ボールがレーンを走る音。
奥でピンがわっと弾ける音。
「ストラーイク!」
「ほら出た!」
「やっぱり器械体操の人だわこれ!」
後ろから、わあっと歓声が上がった。
「……たまたまだから」
「たまたま連続で出す人が一番信用ならんのよねぇ」
梨花が苦笑する。
「フォーム、きれいすぎるもの。
真っ直ぐ乗って、最後だけふっとひねる感じ」
「床運動の助走と、最後のひねりと一緒なのよ。
こう、タイミングが……って説明しても分かんないか」
「“運動神経がいい人には世界が違って見えている”ってことだけは分かった」
以降も、彩女のスコアはコンスタントに伸びていった。
もちろん全部ストライク、というわけにはいかない。
投げそこなってガターすることもある。
それでも、倒したピンの本数を積み上げていくと、
最終的に出た数字は――
「186!」
「記録更新出ましたー!」
友香とルテアがハイタッチする。
ユイリィもぱちぱちと拍手し、梨花が「やっぱりね」という顔をする。
その横で、愛香がスコア表を覗き込みながら笑った。
「背の高さだけじゃなくて、数字まで上の世界行っちゃってるね、彩女ちゃん」
「うるさい」
/*/ プリクラと、二人の話題 /*/
ボーリングのあとは、ゲームセンターのプリクラ機の前へ。
「6人入るかな、これ」
「しゃがむか、くっつくかの二択ね」
「高い組がちょっと膝曲げればいけるいける。愛香ちゃん基準にする感じで」
「それはそれで恐縮なんだけど」
わいわい言いながら、どうにか6人でフレームに収まる。
「一枚目、普通にピース! さん、にぃ、いち!」
シャッターの光。
二枚目はハートポーズ。
三枚目から、ルテアの変顔が発動し、前列が崩壊する。
「ちょっと、真面目に写りなさいよ!」
「プリクラで真面目って何?」
「記念写真よ!」
撮り終えて、落書きタイム。
「ここに“女子だけの休日”って書こ」
「“だけ”を太字にして」
ペン先が画面を走る。
ハートや星スタンプで、画面はあっという間に賑やかになった。
「これ、あいつらに見せる?」
彩女がぽつりと聞く。
「“あいつら”」が誰かは、言わなくても分かる。
「惣くんには見せるつもりだよ」
愛香は、ためらいなく頷いた。
「“今日は女子会だったの。だから、写真はちょっとだけね”って言いながら」
「絶対ニヤけるわね、あいつ」
「ニヤけるね。
でも、それ見てるわたしも楽しいからいいの」
「確かに、ラブ甘だ……」
彩女は、肩を落としながらも笑ってしまう。
「彩女ちゃんは? 青見くんに見せる?」
「……まあ、一応ね」
「“別に、あんたに見せるために撮ったわけじゃないけど”って顔で?」
「なんで分かるのよ」
「ツン(デレ)甘だから」
愛香の即答に、周りの4姉妹が一斉に吹き出した。
「分類ぴったりすぎて笑う」
「完全にラベリング成功してるのよね」
「うるさい」
そう言いながらも、
プリクラ機から出てきた小さなシートを受け取る彩女の指先は、
ほんの少しだけ丁寧だった。
/*/ スイーツと、少しだけ未来のこと /*/
最後は、駅前のカフェでスイーツタイム。
パフェ、パンケーキ、季節限定タルト。
テーブルの上は、一気に華やかになる。
長身の5人と、標準サイズの1人。
座ってしまえば、その差は少しだけ和らいで、
ただの“仲良し6人組”にしか見えない。
「いやー、女子会って感じ」
「カロリーの話をしたら怒られるやつ」
「器械体操部的には?」
「今日は休養日だから、明日回数増やす」
「プロ根性だわ……」
甘いものをつつきながら、話題は自然と恋バナへ。
「惣一郎ちゃん、今日バイト頑張ってるんだろうね」
「帰ったら、“お疲れさま”って言う?」
「言う。
できれば、コンビニスイーツでも買って帰る」
「ラブ甘補給」
からかいながらも、梨花はどこか優しい目で見ていた。
「青見くんは、出稽古か」
「そうね」
彩女はストローでアイスコーヒーをくるくる回す。
「“どうだった?”って聞いたら、
“普通”とか“いつも通り”とかしか言わないんだろうけど」
「それ、慣れたの?」
「まあね。
顔見ればだいたい分かるし」
「デレポイントいただきましたー」
「誰があげた」
テーブルの上で笑い声が弾ける。
外は、四十九囲区のいつもの夕方。
国道の車の流れも、沈み口モール行きのバスも、
何事もないように動いている。
けれど――
今日、このテーブルの上にあるのは、
怪異でも呪術でもなく、ただのスイーツと、
5人の“背高女子”と1人の“普通サイズ女子”による笑い声だ。
プリクラのシールには、
肩を寄せ合って笑う6人が写っている。
その小さな紙切れはきっと、
後で青見と惣一郎に見せたとき、
また別の種類の笑いと、少しだけ胸のむずがゆさを運ぶのだろう。
四十九囲区のどこかで、
沈み口は今日も静かに口を閉ざしている。
その上で――
ツン(デレ)甘の彩女と、ラブ甘の愛香と、
安生4姉妹の女子会は、
最後の一口のパフェをさらうまで、賑やかに続いていった。