甘いパフェの山が少しずつ崩れていくころ、話題は自然と「タイプ」の話になっていった。
「でもさー」
ストロベリーブロンドのポニテを指先でいじりながら、ルテアがストローをくわえた。
「こうやって見ると、うちら女の方が背高いじゃん? 170越えゴロゴロいるし」
「“女子としては”って前置きつくけどね」
梨花が淡々と返す。
「でさ」
ルテアが、わざと何でもないふうを装いながら続けた。
「青見くんくらい大きい男子って、なかなかいないから貴重だよねぇ。
あのガタイで同級生って、ちょっと反則でしょ」
その瞬間――テーブルの空気が、ほんの少しだけ変わった。
「……何、その言い方」
カチン、と金属が鳴るみたいに、彩女の声が鋭くなる。
ストローを持つ手が、わずかに強くテーブルに置かれた。
長い睫毛の下の視線が、ルテアをピンポイントで射抜く。
ルテアが「うわ」と目を丸くするより早く――
「反応はやっ!」
友香が腹を抱えて笑い出した。
「今、“0.5秒で噛みついた”って感じだったよ!? 犬か!」
「犬じゃないわよ!」
「えー? “あたしのボスに何言ってんのよ”って顔してたけど?」
「誰がボスだ、誰が」
彩女は耳まで真っ赤にしながら、アイスコーヒーのグラスを引き寄せる。
「いやだってさー」
ルテアが両手をひらひらさせた。
「別に“取る”とかじゃなくてさ? 事実として、あの身長と肩回りは稀少資源じゃん。
うちのクラスで、立ったときに彩女ちゃんを見下ろせる男子って、青見くんくらいだし」
「……だからって、貴重とか言い方があるでしょ」
「お、図星っぽい」
「図星じゃない!」
即答。テーブルがまたドンと鳴る。
「はい出ました、ツン(デレ)甘成分100%」
友香がストローをくるくる回しながらニヤニヤする。
「“貴重なのは分かってるけど、はいそうですねってうなずくのはしゃくだからキレる”やつだ」
「解説すな!」
彩女が本気でツッコむと、周りの四人+愛香までが笑い声をあげた。
「でもまあ」
ユイリィが、くすっと笑ってフォローを挟む。
「私も、ルテの言うことは分かるよ?
あの身長と体格で、ちゃんと礼儀あって真面目で、
ひょろっとしてない男子って、確かに貴重だと思う」
「ユイリィまで……」
「でも、“誰の隣にいるのが一番しっくりくるか”って聞かれたら、
それはもう、うちの器械体操エースさんでしょ?」
そう言って、ユイリィはわざとらしく肩をすくめて見せた。
視線が一斉に彩女へ向かう。
「……うるさいわね、全員」
彩女は顔をそむけ、グラスの氷をストローでつついた。
その横で、愛香が楽しそうに笑っている。
「ね、“ツン”の反応が早いおかげで、デレのわかりやすさも上がるんだよ?」
「フォローしてるようで背中撃ってない?」
「してるしてる。
惣くんが聞いたら、絶対“ありがとございまーす!”って拝むやつ」
「それもそれでムカつくわね……」
そう言いながらも、彩女の声には、
少しだけ甘さが混じっていた。
テーブルの上では、背の高い5人と標準サイズ1人の笑い声が、
ガラス越しの夕焼けと混ざり合っていた。
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ガラス越しの夕焼けが少しオレンジを濃くしたころ、笑いの波が一段落して、ふと話題が横にそれた。
「でもさ」
ポニテを指に巻きながら、ルテアがストローをくわえ直す。
「“大きい男子”って話ならさ。
時々、教室に来るオカ研&ゲーム同好会長の門脇耕太先輩は?」
「あー、門脇先輩」
友香がすぐに食いついた。
「僕らのクラスの自称“布教係”ね。新作ゲームと怪談のチラシ持ってくる人」
「わたし、この前いっしょにエレベーター乗ったけど、けっこうでかかったわよ」
梨花が、タルトをフォークで割りながら言う。
「180は普通に超えてると思う」
「身長は合格ラインだよねぇ」
ルテアが、ボク、と胸の前で腕を組んで首をかしげる。
「でもさー……ちょっと、ひょろっとし過ぎて無理かなぁ。
なんか、長時間座ってゲームやってる系の体型っていうか」
「分かる」
ユイリィが小さく笑う。
「わたしも、門脇先輩は“話すとおもしろい先輩”って感じで、
“抱きつきたい体格”ではないかな」
「抱きつく前提で語るな」
彩女が即座にツッコむ。
梨花が、ストローをつまみながら肩をすくめた。
「わたしとしては、お父さんや兄さんほどとは言わないけどね。
ちゃんと鍛えられてる人がいいわ。
背が高いだけで、ひょろひょろなのはちょっと物足りない」
「ですよねー」
ルテアが全力でうなずく。
「うちの家、基準がおかしいんだって。
お父さん2メートル越え、兄さんほぼ2メートル。
その“だいぶ下でいいわ”がたぶん180台なんだよ」
「十分おかしいからね、それ」
彩女が眉をひそめる。
「格闘技やってる人でも、そんな大きい人そうそういないでしょ」
「うん、僕もそう思う」
友香が、スプーンをくるくる回しながら言う。
「この前、道場の人たちの話聞いたけどさ。
180越えてて、ちゃんと動ける人って、それだけで階級が一個上がる感じらしいよ。
それを“お父さんほどじゃなくていい”で括るの、贅沢の極みだからね?」
「でも、実家の標準なんだもの」
梨花がさらっと言って、全員から「標準て何」と総ツッコミが入る。
「門脇先輩も、鍛えたら結構いい体になりそうだけどね」
ユイリィが、少し考えるように続ける。
「わたし、こないだ廊下でプリント拾ってもらったとき、
手首とか指の骨の感じ、そんなに弱そうじゃなかったし」
「観察ポイントそこなんだ……」
彩女が呆れつつも笑う。
「でも、あの人、筋トレより新作RPG優先でしょ、どう考えても」
「だねー」
ルテアが、ストローで氷をつつきながら肩をすくめた。
「ボク、門脇先輩は“ゲーム教えてくれる面白い先輩枠”でいいや。
恋愛対象って感じじゃないかな」
「うん、それが平和」
愛香がふわっと笑う。
「惣くんの周りに、これ以上“怪談ガチ勢”増やしたくないし」
「それはマジで同意」
彩女も即答する。
「ただでさえ、あいつ、沈み口モールでバイトしてて変なもん拾ってくる可能性あるのに」
「“変なもん”って言い方」
友香が笑いながら、パフェグラスの残りをすくった。
「じゃあ現状、“背が高くてちゃんと鍛えられてて、ひょろっとしてなくて、
一緒にいてしっくりくる男子”って条件に当てはまるのは?」
「言わせる気?」
彩女の視線がキレッキレになる。
「僕が答えよっか?」
「わたしでもいいけど?」
「ボクも言えるよ?」
三方向からの圧に、彩女はスプーンをテーブルに置いた。
「……いい。答えなくていい」
頬をほんのり赤くしてそっぽを向く。
その様子を見て、テーブルの上にまた笑いの波が広がった。