/*/ ナンパと道場勧誘 /*/
カフェを出ると、外はすっかり夕方の色になっていた。
駅前通りのネオンがぽつぽつ灯り始め、人の流れもだんだん夜仕様になっていく。
「プリクラ良かったねー」
「パフェも当たりだったわ」
「ボク、あのカラオケの機種また使いたいなー」
わいわい話しながらアーケードを歩いていると、前方から数人組の男たちが近づいてきた。
大学生くらい。
私服の雰囲気と、首からぶら下がった学生証ホルダーがそれっぽい。
「あのさー」
そのうちの一人が、にやっと笑って声をかけてきた。
「そこの背高い子たちさ、これからヒマ?」
「ヒマだったら一緒にご飯とかどう?」
「カラオケでもいいよ?」
視線が、ずらっと並んだ170オーバー組――梨花・彩女・友香・ユイリィ・ルテアを行ったり来たりする。
ついでに、愛香も軽く値踏みされるような視線を感じて、思わず一歩だけ彩女の背中側に下がった。
(……うわ、来た)
彩女は、内心でため息をつく。
このメンバーで街を歩けば、一度や二度はこういうことがある。
今日は6人もいるから、なおさらだ。
先に口を開いたのは、愛香だった。
「ごめんなさい」
即答。
笑顔だけど、目は笑ってないやつ。
「わたしたち、これから帰るところなんで」
「えー? まだ早いじゃん」
「高校生っぽくないしさ、ちょっとぐらい――」
その言葉を聞き終える前に、ルテアが口をはさんだ。
「うーん……」
じろ、と真正面から男たちを眺め回す。
「ボク的には、細すぎてタイプじゃないなー」
「お、おう?」
大学生たちが一瞬きょとんとする。
「うちの父さんとか兄さんくらい鍛えてから声かけてほしいかな。
あ、でも鍛える気あるなら、うちの道場来ます?」
にっこり笑って、営業スマイル。
「今なら月謝サービスしますよ?」
「お前誰の許可とってサービスしてるのよ」
梨花が小声でツッコむ。
「細すぎって……」
「いや、俺ら普通体型だと思うんだけど……」
大学生Aが、自分の二の腕をまじまじと見る。
そこで、友香が追い打ちをかけるように口を挟んだ。
「僕も同感かなー」
にこにこしながら、しかし言っている内容は容赦ない。
「うち、標準が“百九十オーバーで道場でバキバキに鍛えてる人”だからさ。
その基準で言うと、ちょっと“細いお兄さんたち”なんだよね。
一緒に歩いたら、僕らだけ壁で、そっちだけポールみたいになっちゃうよ?」
「ポールって」
彩女が笑いを堪える。
大学生たちは、完全にペースを乱されていた。
「ていうかさ」
今度は梨花が、穏やかな声で口を開いた。
「さっき『高校生っぽくない』って言ったけど――」
学生証ホルダーを、ひょい、と胸元から出して見せる。
「残念ね。ちゃんと現役高校生なのよ、私たち。
だから、ご飯は家で食べます」
「……あ、はい」
大学生の一人が、妙に素直に返事をする。
「ボクの台詞、結構効いてない?」
「効いてるわよ」
ユイリィが、くすっと笑いながら男たちを見た。
「悪い人たちじゃなさそうだけど、今日は本当に帰るの。
鍛えたいなら道場のチラシ渡すから、また今度ね」
「本当に渡す気?」
「ビラ配りのチャンスは逃さない主義だから」
そう言って、ユイリィがカバンから道場の小さなパンフレットを一枚取り出す。
大学生たちは、もう完全にナンパの空気を失って、それを受け取った。
「じゃ、気をつけて帰ってね、お兄さんたち」
最後に、愛香がぺこりと頭を下げる。
その笑顔は、さっきとは違って少し柔らかかった。
6人が歩き出し、少し距離が空いたところで――
「……強かったね、うちら」
「正直、ちょっと可哀想だったかなって僕は思ってる」
「いや、あれくらいで丁度いいでしょ」
彩女が肩をすくめる。
「ナンパで一緒に行くほど、私たち暇じゃないし」
ふと時計を見る。
空はもう、完全に夜の色に近づいていた。
「そろそろ高校生が出歩く時間じゃなくなってきたようだし――」
梨花が、周りの通りの雰囲気を一瞥してから言った。
「帰ろうか」
「賛成」
「僕もー」
「ボク、風呂入りたい」
「わたしは、帰ったら惣くんに“女子会でした報告”しよっと」
「やめろ、ニヤけ顔が想像できる」
笑いながら、6人は駅へ向かって歩き出す。
沈み口モールの照明が遠くに滲んでいる。
道路十字の上を、車のライトが流れていく。
その夜――
四十九囲区のどこかで、また“何か”が静かにうごめいているのかもしれない。
けれど今はまだ、
170オーバー×5と標準サイズ×1の女子会は、
ナンパを軽くいなして、笑いながら家路につく、
ただそれだけの、平和な帰り道だった。
連続投稿終わり。
疲れた。