郡山駅前の広場は、いつも通りの喧騒だった。
けれど、ボクの視界には、別のレイヤーが重なっている。
人の流れ。足音。声。
その全部の上に、さっき頭の中に流れ込んできた4つの声が、うっすら残像みたいに貼り付いていた。
ボクはスマホをポケットにしまい、ゆっくりと目を閉じる。
「……サイコメトリー、起動」
誰にともなく、小さく告げる。
「安生4ユニットの足跡、トレース開始」
床。タイル。手すり。自販機。
そこに残った、“4人分の接触痕”に、意識を沈めていく。
黒髪の長女が、少し肩を張って歩く感覚。
跳ねるような次女の歩幅。
靴音の軽い、北欧系の足取り。
ステップを刻むみたいな、ラテン系のリズム。
(あった)
視界が、じわりと色を変える。
ボクは、彼女たちの視点で、ほんの数分を“再生”した。
クレープを食べて、笑って。
くだらないことで言い合って、写真を撮って。
廃デパートの脇の路地を、「近道」と言いながら入り込んで――
その先で。
ぬらり、と浮かび上がる暗い影。
灰色の肌。エラ。黒い瞳。
海の底みたいな、冷たい指。
4つの身体が、一人ずつ、そこへ引きずり込まれていく。
喉の奥が、きゅっと縮んだ。
(――間に合っていない。もう地下まで連れて行かれてる)
再生を切るように、ボクは目を開いた。
駅前の喧騒が、一瞬だけ遠くなる。
視線の先。
路地の奥へと続く、斜め下りの搬入口。
錆びたシャッターの隙間から、潮と血と、人の腐った感情が混ざったような匂いが、じわじわと漏れてきていた。
「……犯人、魚系で確定だな」
自分でも分かるくらい、声が低い。
「エラ。地下水。群れ。
データ照合――“深海系”の変異体。捕食対象は“人間の子宮”か」
歯を噛みしめる音が、カチッと小さく鳴った。
掌が、じわりと熱い。
パイロキネシスの出力が、勝手に上がりかけるのを、意識して押さえ込む。
(落ち着け。ここで爆ぜたら、ただのガス爆発と変わらない)
深呼吸。
吸って、吐く。
それでも、胸の奥のじりじりは消えない。
(焦燥レベル、上昇。
理性レイヤーへの干渉、許容範囲ギリギリ。……それでも、行く)
「対象:敵性存在」
ボクは、搬入口を見据えたまま、静かに言葉を区切った。
「排除優先度――今だけ最大値に設定」
そこまで言って、少しだけ間を置く。
喉の奥に絡んだ何かを、無理やり飲み込むようにして。
「……待ってろよ」
誰にともなく、小さく呟く。
「安生4ユニット。ボクが回収する。
焼くのは、その後だ」
足が、自然と斜面へ向かって動き出す。
郡山駅前の喧騒が、背中のほうへと遠ざかっていく中で――
ボクの心臓だけが、ひどくうるさく鳴っていた。