なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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運命来訪

 

 

 いよいよ、オフ会当日がやってきた。

 

 会場はホテルのケーキバイキング。

 これまでネット越しにしか知らなかった友人たちが、次々と集まってくる。人数は十人ほど。

 年齢も職業もバラバラだが、共通しているのは「どこか遠くへ行きたがる顔」をしていることだ。

 

 自己紹介の流れで、オレが高校生だとわかると、全員がそろって目を丸くした。

 

「え、君、高校生だったの?」

「社会人かと思ってた……」

 

 驚きの声が上がるたびに、オレの中で妙な満足感がじわじわと広がっていく。

 なにか、会心の悪戯がきれいに決まったような気分だった。

 

 自然と話題は、今回の目玉とも言える人物――カモノハシのことになった。

 

「カモノハシさん、もう来てる?」

「いや、まだ見てないなあ」

 

 みんなに聞いて回ってみたが、誰も彼の姿を見た者はいなかった。

 

 集合時間になっても、カモノハシは現れない。

 少し時間をおいても、まだ来ない。

 

 誰かがノートパソコンを広げて、カモノハシから欠席の連絡が届いていないかメールをチェックしてみるが、その様子もない。

 

「渋滞でもつかまってるのかな」

「電車、止まってるとか?」

 

 そんな憶測を交わしながらも、オフ会そのものは賑やかに進んでいった。

 旅行の失敗談、国境越えの裏話、空港でのトラブル――

 甘いケーキと濃いコーヒーの匂いの中で、時間はあっという間に過ぎていく。

 

 結局、最後までカモノハシが姿を見せることはなかった。

 

 それでも集まった人たちは、約束を破られたことを怒るよりも先に、口々にこう言った。

 

「事故とかじゃないといいけど……」

「体調崩したとか、そういうのならまだいいんだけどね」

 

 それほどまでに、カモノハシは皆に好かれていた。

 

 ――だが、その後。

 

 掲示板にカモノハシからの謝罪の書き込みが現れることはなかった。

 それどころか、掲示板自体に、彼は一切姿を見せなくなってしまった。

 

 誰かがふとカモノハシの名を出せば、

「そういえば最近、見ないね」

 と話題にのぼることはあっても、その書き込みに対してカモノハシから反応が返ってくることはない。

 

 オレも何度かメールを出してみた。

 これまで何度もやり取りしてきたのだから、少なくとも「読んだよ」という一行くらいは返ってくると思っていた。

 

 けれど、返事は来なかった。

 

 カモノハシがメールを受け取ったまま無視する――そんなことは、それまで一度もなかったのに。

 

 本当に、どうしたんだろう……?

 

     ◇

 

 オフ会から約一ヶ月ほど経った、ある日。

 

 いつものように電子メールをチェックしていたオレの受信ボックスに、新着メールの表示が灯った。

 差出人の欄には――

 

 《カモノハシ》

 

 あれほど音信不通だった相手からのメールに、思わず心臓が跳ねる。

 急いで開いてみると、そこにはこんな文章が綴られていた。

 

「先月は、お約束したにもかかわらず、せっかくのオフ会に参加することが出来ずに申し訳ございませんでした。

 実は、私は長らく身体を煩っており、先月も急に体調を悪くしまして、しばらく臥せっていたのです。

 オフ会でみなさんとお会いできることを楽しみにしていたのですが、自由にならない身をこれほど呪わしく思ったことはありません。

 そこで、大変勝手なお願いなのですが、もしよろしければ、ぜひ一度、我が家にいらっしゃっていただき、お会いしたいと思っているのですが……いかがなものでしょうか?

 突然、このようなお願いをする失礼は重々承知してはいるのですが、私は自由に外に出る事ができない身ですので、どうぞお許し下さい。また、重ね重ねまことに勝手なお願いなのですが、もしお会いしていただけるのでしたらば、できるだけ早くお会いしたいのです。というのも、いまのところは体調が良いのですが、これも長く続かないかもしれないからです。

 もし、ご承知いただけるのでしたら、こちらの住所をお尋ね下さい。

 

 福島県郡山市〇〇町字三森2-X-H

 

 では、今度は、直接お会いできる事を祈りまして、これにて失礼致します。

 

 追伸

 カモノハシの子供を差し上げたいのですが、カモノハシはどうやって子供を増やすんでしたっけ?」

 

 ――住所。

 

 オレは、本文の途中に唐突に挟み込まれたそれを見て、目を疑った。

 

 福島県郡山市――まではいい。

 問題は、そのあとだ。

 

 〇〇町字三森2-X-H。

 

 その地名に、聞き覚えがあった。

 見慣れた漢字の並び。

 ――奇しくも、その住所はオレの家と同じ市内だった。

 

「……マジかよ」

 

 思わず、声が漏れる。

 

 これは偶然なのか、必然なのか。

 どこかの誰かが言っていた。

 

 「余りに揃いすぎた事象は、偶然ではなく必然と取るべきだ」

 

 ――これは、どっちだ?

 

 これまでのメールのやり取りで、カモノハシが「身体を煩っている」なんて話は一度も出たことがない。

 どこか具合が悪そうな様子を感じたこともなかった。

 

 けれど、実際に会ったことがない以上、文章だけで相手のすべてを知ったつもりになるのもおかしな話だ。

 

 しばらく考えた末、オレは返信を書くことにした。

 

『行っても構わない。何日、何時が都合が良いか教えてほしい』

 

 そんな内容のメールを送って、送信ボタンを押す。

 

 ……が、それきり返事はなかった。

 

 胸のあたりが、じわじわとむかむかしてくる。

 

 微かな寒気。

 首筋の後ろが、チリチリと焼けるように熱い。

 

 なんだか、変だ。

 

 落ち着かなくなって、オレは検索エンジンで「カモノハシ」のハンドルネームを調べてみた。

 すると、別のホームページでカモノハシが書き込んでいた掲示板が、いくつもいくつも見つかった。

 

 天文学。

 人類学。

 哲学。

 地球科学。

 物理学。

 

 そこに統一性はほとんどない。

 強いて言えば、「ネット上で真面目に学問を追求している」ページに、よく顔を出しているというくらいだ。

 

 どの掲示板でも、カモノハシの書き込みはオフ会のあった頃から――一ヶ月ほど前を境に、ぴたりと途絶えていた。

 

 どこでも同じように、ぱったりと。

 

 虫の知らせ、というものがあるのだとすれば、今のこれはきっとそれなんだろう。

 何かが違っている。何かがおかしい。

 そんな予感が、心の奥でじわじわと膨らんでいく。

 

 若いがゆえの、自意識過剰かもしれない。

 「自分だけが特別な物語の中にいる」なんていう、都合のいい錯覚かもしれない。

 

 それでも――オレは自分の直感を信じることにしている。

 

 それは、自分の心を信じるということだから。

 

 だったら、答えは決まっている。

 

 ――会いに行ってみよう。

 

 オレはそう決めた。

 

 

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