本編とは一切関係ありません。
この小説をヴィジュアルノベルにしようと製作してた時のゲームオーバー後のギャグです。
「……ふ、ふふ……」
小西の口元が吊り上がった。ぞっとするような笑みだ。背筋のどこかを、氷みたいな指先でなぞられたような感覚が走る。
「……流石だわ。よくぞ見破ったこと。――生かしては帰さんぞ。行け、雅之!」
「はい、先生!!」
雅之が叫んだ瞬間、やつは迷いもなく窓に体当たりした。分厚いガラスが爆ぜるように粉々に砕け散り、夜の冷気が一気に室内へ雪崩れ込む。
オレも、ほとんど反射で後を追って窓枠を蹴り抜け、そのまま庭へと飛び出した。
月明かりに照らされた芝生の上、こちらを振り返った雅之の目は、もう人のものじゃない。
濁った光。どこか遠くの、冷たい何かに操られているみたいな、焦点の合わない瞳。さっきまでオドオドしていたクラスメイトの面影は、そこには欠片も無かった。
胸の奥が、ぞわりと冷えた。
同時に、指先の内側から、焼けるような熱が込み上げる。
左手の中指にはめた銀の指輪――伊集院長官から渡された、「血族の指輪」。
長官の血から精製されたという強化血清G-13を投与されたオレの身体は、この指輪を媒介にして、その血を「起こす」ことが出来る。
外なる神々と地球人類を結ぶ、黄昏の天使。
人類の正気と宇宙の真理を入れ替えようと蠢く旧支配者たちと戦う、黙示録の戦士。
――それが、東 青見に与えられたもう一つの名前だ。
オレは息を深く吸い込み、指輪を突き出して叫んだ。
「SANチェンジ――パラノイア・ブルー!!」
瞬間、指輪が眩い青白い光を弾けさせた。
光は渦を巻き、オレの全身を包み込む。骨が軋み、筋肉が張り詰め、視界の色が一瞬、反転する。
蒼い紋様が肌の下から浮かび上がり、光のラインが身体を走る。
胸の中央に、歪んだ瞳のようなエンブレムが刻まれ、そこからスーツが展開されていく。
黒を基調にした戦闘スーツ。
そこに、回路図みたいな蒼いラインが蜘蛛の巣のように走り、手足には、異形の牙を砕くための補強フレーム。
顔を覆うバイザーには、乱れた世界を解析するメーターが次々と走り出す。視界の端に、「SAN:72%」「理性ゲージ安定」の文字がちらついた。
世界の輪郭が、くっきりと浮かび上がった。
雅之のわずかな重心移動、夜風の流れ、背後の家の中で蠢く“何か”の気配――そのすべてが、痛いほど鮮明にわかる。
オレは、もうただの「東 青見」じゃない。
「黄昏特務戦士――パラノイア・ブルー」
思わず、口が勝手に名乗りを紡いでいた。
どこかで聞いたことのある、戦隊ものみたいなリズム。
けれど、今この瞬間、それはこの世界で、オレ一人だけに許された名だ。
「……変身、完了か。鬱陶しいねぇ、そのスーツ」
背後の窓から、小西の声が聞こえる。
けれど、もう怖くはない。怖さはある。でも、それを押し流すだけの「形」が、今のオレにはある。
「雅之、テストだ。あの“天使”を殺して、その力を捧げなさい」
「――了解しました、先生」
雅之の足元に、黒い泥みたいなものがじわりと広がる。
そこから伸びた影が、雅之の両腕と脚を絡め取るように覆い、骨ばった腕は、異様に長く伸びた“鉤爪”へと変わっていく。
「来いよ、ミノムシ戦闘員」
オレはあえて、いつもの調子で挑発してみせた。
そうでもしないと、自分の心が折れそうだから。
「パラノイア・ブルー、出動だ」
地を蹴る。芝生が弾け、踏み込みの衝撃がスーツの補強フレームを伝って、推進力に変わる。
蒼い残光を引きながらオレは走り出し、正面から雅之へ飛び込んだ。
鉤爪が振り下ろされる。
今なら、見える。さっきまで分からなかった軌道が。
「――《ブルー・クラッシュ》!」
自分で名前をつけた覚えは無いのに、技の名前が喉から飛び出した。
右腕に蒼いエネルギーが集中し、ガントレットが一瞬、膨れあがる。
雅之の鉤爪と、オレの拳が激突する。
空気が爆ぜ、夜の静寂が一瞬だけ白く塗りつぶされた。
火花の向こうで、雅之の表情が歪む。
痛みではない。混乱と、恐怖と、どこか救いを求めるような――人間の感情だ。
「……大丈夫だ。お前は、オレが取り戻す」
オレは、自分自身に言い聞かせるみたいに呟いた。
狂気に侵された世界の縁で戦う、正気の守護者。
戦え、僕らのパラノイア・ブルー。
負けるな、僕らのパラノイア・ブルー。
地球が正気を取り戻すその日まで――
オレはこの狂気の淵で、外なる神々と、その手先どもを叩き潰す。
この小説はヴィジュアルノベルにしようと一人で作ってたんですが、BGMの選定とか立ち絵に背景の準備とかやりきれなくて、今回、分岐は削って小説にまとめました。
クトゥルフ神話TRPGのPCって「いや、警察行けよ」ってところで突っ込まないとシナリオにならないので割と狂気に陥ってると思う。