◆ 二年C組・昼休みの雑談つづき ◆
「にしてもさー」
七海が、ストローをくるくる回しながら言った。
「このクラス、全国覇者多いわよね」
「そう?」
彩女が首をかしげる。
「そうだよ。器械体操の総合優勝でしょ?」
指一本、彩女を指す。
「剣道の全国個人優勝でしょ?」
前の席の青見の後頭部を、ぺち、と軽く叩く。
「で、バイオリン全国優勝」
視線がすっと、中原の方へ向いた。
教室の隅で、さりげなく譜面を読んでいた中原が、びくっと肩を揺らす。
「え、あ、僕?」
「他にいないでしょ」
「優勝っていうか、その……最優秀賞、だから」
中原は、申し訳なさそうに笑った。
「コンクールだから、順位じゃなくて賞なんだよ。ほら、“○○音楽賞”みたいな」
「いやいやいや」
七海が即座に首を振る。
「普通さ、全国レベルのタイトルって、三年の部活ガチ勢が一人いるかどうか、くらいじゃん?」
「まぁ、そうだな」
青見も、さすがにそれは否定しなかった。
「うちは進学校で、しかも同じクラスに三人って。
冷静に考えて、まあまあバグってると思うけど」
「バグとか言うな」
彩女が苦笑する。
「ほんとだよ。凡人枠の心がちょっと折れるわ」
惣一郎が、自分の弁当箱をつつきながら、肩を落とした。
「いや、惣。お前はお前で別ベクトルでおかしいからな」
「どういう意味かな、青見くん?」
「睡眠時間とゲーム時間とテストの点数の関係性が、正直ホラーだよ」
英が、さらっと追い打ちをかける。
「そういう英くんは、学力全国レベルでしょ?」
「僕は大会に出てないからセーフです」
「そういう問題?」
七海は笑いながら、机に頬杖をつく。
「でもさー、“全国クラス”ってスポーツと音楽だけじゃない気がするんだよね、このクラス」
「どういうこと?」
愛香が小首を傾げると、七海はにやっと笑った。
「料理のコンテストがあったら、愛香も優勝できそうだよな」
さらっと横から口を挟んだのは青見だった。
「分かる」
惣一郎が、即座に食い気味で頷く。
「俺、なんなら審査員やるわ。“一生食べ続けたい賞”を個人的にあげる」
「もうそれ惣くん専用の賞じゃない」
愛香は、照れくさそうに笑いながら、両手をぶんぶん振る。
「や、やめてよ。そんな大したものじゃないって」
「いやいや、大したものだって」
惣一郎が、真顔でフォローを入れる。
「この前うちに泊まりに来たときの朝食、まだ覚えてるぜ。
あれを毎日出されたら、人間はダメになると思う」
「ダメって言わないで」
愛香が頬をふくらませる。
「でも、まぁ……惣くんがちゃんと食べて、元気で学校来てくれるなら、私はそれで充分」
「……」
惣一郎が一瞬黙って、それからぽりぽりと頭をかいた。
「なんか今、さらっとプロポーズっぽいこと言われた気がする」
「気のせいです」
「気のせいかー」
そんなやり取りを聞きながら、七海は改めて教室をぐるりと見回した。
「剣道の全国チャンプに、器械体操の全国チャンプに、バイオリンの全国賞。
料理コンテストがあったら優勝候補がいて、あと安生道場勢がいて……」
「そこに“安生道場勢”を一括りにするのやめてもらえる?」
梨花が、教室の後ろからぼそっと抗議する。
「でも実際さー、体育祭とかさ、このクラスだけ別リーグにされそうじゃない?」
「それはそれで面白そうだな」
青見が、どこか乗り気な顔をする。
「“二年C組 対 全校生徒”とか」
「勝つ気なの?」
「勝たせる気なの?」
英と中原のツッコミが重なる。
「勇吾もいるし」
七海は、そのやり取りを見ながら、口元だけで笑った。
(やっぱりこのクラス、見てて飽きないなぁ)
そう思いながら、ストローで最後の一口を飲み干した。
◆ 二年C組・昼休み・男子の雑談 ◆
「髪型、色々挑戦してみたけどさー」
昼休み、教室の隅。
男子のひとりが、ワックスでいじった前髪を指でつつきながらぼやいた。
「なんだよ、いきなり」
「いやさ。結局さ、短髪でデカくてゴツい連中のほうがモテるよなって」
そう言って、教室の前の方で弁当食ってる長身マッチョ二人組を、あごでくいっと指す。
「そりゃあんだけ身長あって、あの身体してりゃな」
「つまりさー、素材がすべてってことかよ……」
「いや、あの体は"素材"っていうかさ」
別の男子が、肩をすくめる。
「鍛え方も中身も、ちょっと人間やめかけてるだろあれ」
「筋トレすっかな……」
前髪男子が、パンをかじりながらぼそっと言う。
「お、やる気出た?」
「家でちょっとスクワットと腕立てするくらいなら、続ければ変わるって」
「でもよー」
視線が、ふたたびマッチョ二人組の肩幅に向かう。
「まー、ちょっとやそっとじゃ、あーは成れねぇけどな」
「いうな、それを直球で」
周りから小さな笑いが漏れる。
「てかさ、あの二人に並ばされて体育とかやるの、わりと公開処刑だよな」
「分かる。集合写真とかマジで身長差バグって見えるもん」
「……とりあえず、今日の放課後から腕立てな」
「三日坊主になったら笑うわ」
「やめろ、先にフラグ立てんな」
そんな他愛もない嘆きが、チャイムが鳴る直前までぽつぽつと続いていた。