なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

254 / 277
男子更衣室

 

 

 /*/ 2年C組・体育前の男子更衣室 /*/

 

 

「うわ、今日も外かよ。日差しつえー」

 

 体育館脇の更衣室。ブレザーを脱いでシャツを引っぺがしながら、惣一郎はだるそうに伸びをした。

 

 周りでも、男子たちがわらわらと体操服に着替えている。

 背の高いのが一人、Tシャツを被った瞬間に天井に手が当たって「いてっ」とやっているのは、もちろん東青見。

 

「……あいつ、相変わらずだな」

 

 惣一郎がぼそっと言って、隣でジャージのズボンを引き上げていた斎藤一郎に視線を向けた。

 

「そういや、斎藤も結構鍛えてるよな」

 

 肩まわりとか、前よりしっかりしている。

 

「ん?」

 

 斎藤はTシャツの裾を直しながら、ちょっとだけ首をかしげ、それから苦笑いした。

 

「東にシバかれる役やってたらな」

 

「なんだよ、それ」

 

「いや、マジで」

 

 斎藤は、剣道部で使い込んだ前腕をポン、と叩く。

 

「あいつの強すぎてさ、防具の上からでも吐くんだよな」

 

「お前の例えが物騒なんだわ」

 

「最初の頃、胴に一発もらったとき、本気で“これ肋骨いったかも”って思ったからな。

 あんまり強くて悔しいとかじゃなくて、“あ、死ぬな俺”って」

 

 遠い目になって言うもんだから、周りの男子が何人か「こえーよ」と苦笑する。

 

「で、コツコツ、トレしてたらこうなった」

 

 斎藤は、自分の腹に軽く触れてみせる。うっすらと筋が浮いている。

 

「別に試合で勝ちたいとか、そういうのじゃないんだけどさ。

 “東にシバかれても即死しない体”にはしときたくて」

 

「動機が完全に生存本能なんだよなぁ……」

 

 惣一郎は呆れたように笑う。

 

「でも、最近はだいぶマシになったぞ」

 

「へぇ?」

 

「安生道場行っててさ、あいつ。

 そっちで“手加減”を覚えたらしくて、前よりだいぶ当ててこなくなった」

 

「あー……」

 

 惣一郎は、安生4姉妹の顔を思い浮かべて納得した。

 

「そりゃあの家で本気で殴ったら、逆にシバかれる側だもんな」

 

「そうそう。

 “人に打つときは、ちゃんと戻すとこまでが技だぞ”って、じいさんに叩き込まれてるっぽい」

 

 斎藤は、竹刀を持つ仕草をして、ふわっと空を切る。

 

「前はさ、“全部一本取るつもりで打ち込んできます”って感じだったのが……

 最近は、“死にはしない程度の稽古台”って扱いになった」

 

「それ褒められてんのか? ディスられてんのか?」

 

「どっちでもいいよ。俺、試合とかそもそも向いてねぇし」

 

 斎藤は、肩をすくめた。

 

「勝ち負けとかより、黙って素振りしてる方が落ち着くタイプだからさ。

 でもまあ、“東にシバかれつつも生きて帰るための筋トレ”続けてたら……

 いつの間にか、体育の授業で“そこそこ鍛えてる側”に入ってたってだけ」

 

「生存スキルがそのままフィジカルに反映されてんの、ちょっと面白いな」

 

 そのとき、向こうでTシャツを着終わった青見が、何気なくこっちを振り返った。

 

「おーい惣一郎、早くしろ。点呼間に合わねぇぞ」

 

「はいはい今行くって。……ほら、加害者が呼んでるぞ、被害者」

 

「やめろ、その呼び方」

 

 斎藤は苦笑しながらも、タオルで首筋の汗を拭いて立ち上がる。

 

「まあでも――」

 

 更衣室を出る直前、ぽつりと付け足した。

 

「安生道場行ってからの東は、前より“当て方”が優しくなったからな。

 ……あれなら、まだもうちょっとは続けてみてもいいかなって気にはなるよ」

 

「はい出ました、ドM発言」

 

「違ぇよ!?」

 

 そんなやり取りをしながら、2年C組男子はぞろぞろとグラウンドへ向かっていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。