なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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愛香の場合

 

 

「彩女ちゃんが青見くんの話で真っ赤って、新鮮だよね~」

 ルテアがニヤニヤしながらクッションを抱える。

 

「うるさい」

 彩女はまだ頬を赤くしたまま、むすっとそっぽを向いた。

 

 が――そこで、ふと何かを思い出したように、ぱっと顔を上げる。

 

「……ていうかさ!」

 

「ん?」

 七海が首をかしげる。

 

「愛香こそどうなのよ!!」

 

 矛先が、隣で静かに笑っていた愛香に向いた。

 

「え、わたし?」

 マグカップを口元に運んでいた愛香が、きょとんと目を瞬かせる。

 

「そうよ! さっきから人のことニコニコ聞いてるけどさ、

 あんたのとこが一番、色々“やらかしてる”でしょ!」

 

「彩女ちゃん、表現」

 友香が苦笑する。

 

「だってそうじゃない? 惣一郎と一緒にお風呂とか、添い寝とか、色々――」

 

「それはそれ、これはこれです」

 愛香がにこっと笑う。

 

「なにその便利な言葉!」

 

「でも、まぁ……そうだなぁ」

 

 愛香はマグカップを置き、ちょっとだけ考えるふりをしてから、

 にこり、といつもの柔らかい笑みで言った。

 

「――“初キスの味”の話のついでに、“その先”の話もする?」

 

 空気が、一瞬で変わった。

 

「「「その先!?」」」

 複数の声が重なる。

 

「ちょ、ちょっと待って彩女ちゃん今なんか地雷原に足突っ込んだ気がする」

 七海が慌てて彩女の肩を揺さぶる。

 

「え、だって気になるじゃない。

 ほら、初キスだけじゃないでしょ? あのバカと愛香の関係」

 

「“あのバカ”扱い安定してるなぁ惣一郎くん」

 ルテアが感心したように言う。

 

 愛香は、こてんと首をかしげた。

 

「うーん……じゃあ、ちょっとだけ。

 ――惣くんとはね?」

 

 にっこり。

 

 その笑顔のまま、愛香が口を開いた瞬間――

 

 

 ◇ この先の女子会トークは、生々しすぎてコードに引っかかったためカットされました ◇

 

 

「――――――――――!!?」

 

「――っっ!!?」

 

「ちょ、まっ、それ以上は!!?」

 

「そこ具体的に言わなくていいから!!」

 

「ちょっと待って心の準備ってものが……!!」

 

「愛香さん!? それはレディの会話としてギリギリどころかアウトですわ!!?」

 

 部屋の中で、悲鳴とクッションと枕が乱れ飛ぶ。

 何か決定的な単語が、確かにいくつか発射されたが――

 文字に起こした瞬間に色々な意味で終わりそうだったので、優しい世界の力によって闇に葬られた。

 

 ただ一つ、はっきりしているのは。

 

 全員、真っ赤になっていた。

 

 耳まで火がつきそうな七海。

 両手で顔を覆って座り込む友香。

 「聞かなきゃよかったですわ……でも聞きたかったですわ……」と震えるユイリィ。

 クッションで顔を隠して「情報量が多い!!」と床を転がるルテア。

 黙って天井を見たまま固まっている梨花。

 そして、彩女は――

 

「……っ、あ、あんたね……!」

 

 ぷるぷると震えながら、愛香を指さした。

 

「な、なんであっさり爆弾投げてくるのよ!!

 初キスの味どころか、色々通り越してんじゃない!!」

 

「だって、彩女ちゃんが“どうなのよ!”って言うから」

 愛香はケロッと笑う。

 

「質問には、ちゃんと答えないと失礼でしょ?」

 

「律儀の方向性おかしい!!」

 

「でも、ほら」

 愛香は、少しだけ視線を落として、照れたように笑った。

 

「わたしにとっては、全部“惣くんの味”だから。

 ――詳しく言うと、みんなが困るみたいだし、もう言わないけどね」

 

「もう言わないで!! 頼むから!!」

 

 彩女の悲鳴に、全員が全力で頷く。

 

 しばらくの間、

 七海の部屋には本当に何も言えない沈黙が落ちた。

 

 その沈黙を破ったのは、梨花だった。

 

「……とりあえず、わかったことが一つ」

 

「な、なに?」

 七海が恐る恐る振り向く。

 

「松坂愛香」

 梨花は妙に真顔で言う。

 

「見た目と雰囲気がどれだけ“ほわほわ”してても、

 中身の恋愛レベルは、わたしたちより二周くらい先を走ってる」

 

「異議なし」

「異議なし」

「異議なしですわ」

「異議なし~」

「異議なし……」

 

 全会一致だった。

 

「えへへ、そんなことないよ?」

 当の本人だけが、何もわかってないみたいに笑っている。

 

 その笑顔が、逆に破壊力抜群だった。

 

「……よし」

 

 彩女は、ぽつりとつぶやいた。

 

「今度、惣一郎に会ったら、一回殴る」

 

「なんで!?」

 七海が素で突っ込む。

 

「なんとなくムカつくから!」

 

「理由が雑!!」

 

 でも、その“なんとなく”には――

 ちょっとした羨ましさと、

 「負けてらんない」という、

 乙女心らしいライバル意識が、ちゃんと混ざっていた。

 

 そのあたりの本音は、もちろん誰にも言わないけれど。

 

 

 

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