/*/
バレンタイン当日のお昼休み。
教室の窓際、いつもの四人席。
「……ほい」
青見が、カバンから取り出した銀紙の包みを、彩女の前にそっと置いた。
「なにこれ」
「見て分かるだろ、板チョコ」
「いや、そういうことじゃなくて」
包みをぺりぺり剥がしながら彩女が眉をひそめる。
四角く区切られたミルクチョコレートが、蛍光灯を受けてつやっと光った。
「日頃の感謝を込めて」
「……は?」
「いつも色々世話になってるし」
さらっと言われて、彩女は一瞬、言葉を失う。
頬がじんわり熱くなるのを誤魔化すみたいに、板チョコをポキッと割った。
「……ありがと」
「一人で食べるなよ」
「分かってるわよ」
差し出されたひとかけらを、青見が受け取る。
ふたりで同じ板チョコをかじる姿を見て、向かい側の惣一郎が、口を尖らせた。
「っていうかさ」
ぱくぱくとパンを食べながら、惣一郎が首をかしげる。
「なんで板チョコなんだよ。もっとこう、ハート型とか、手作りとかさ」
「うるさいわね。いいでしょ別に……青見がくれたんだから」
彩女が素直にそう言うと、愛香が楽しそうに笑った。
「分け合うのが青見くんらしいよね~。なんか、ほっこりする」
「そういうもんか?」
「そういうもんなの」
彩女がそっぽを向きながらも否定しないので、青見はちょっと照れくさそうに、もう一かけらを口に運ぶ。
惣一郎はその様子をじーっと見てから、隣の愛香に視線を移した。
「なあ、愛香。俺にはないの?」
「ふふっ」
愛香はわざとらしく首をかしげ、いたずらっぽく目を細める。
「帰ったらね」
「お、おう」
一気に顔を赤くする惣一郎。
机の下で落ち着きなく足が揺れているのを見て、彩女が苦笑した。
「愛香、あんまり甘やかしちゃダメよ、ホントに。惣一郎、すぐ調子に乗るんだから」
「えー? じゃあ、自分にリボン巻いて『召し上がれ』とか?」
「だ、だから、そういうの!!」
バンッと机を叩いた彩女の声に、周りのクラスメイトがちらっとこちらを見る。
彩女はあわてて声を落とし、頬を真っ赤にして青見を睨んだ。
「変な想像したら、殴るからね」
「してない。……してないから」
「今、二回言った」
愛香はくすくす笑いながら、自分の弁当箱の隅から小さなチョコの包みを取り出した。
「まあでも、惣くんのはちゃんとスペシャルだから、楽しみにしてていいよ」
「マジで!?」
「ほら、ほらほら。すぐこれだから」
彩女は呆れたようにため息をつきつつ、残っていた板チョコをまたひとつ割って、青見の方へ押しやる。
「ほら、あんたも早く食べなさい。溶ける」
「……うん」
甘いチョコレートの香りと、昼下がりの陽射し。
ざわつく教室の中で、四人のテーブルだけ、少しだけあったかい空気が流れていた。