なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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スパリゾート・1

 

 

◆スパリゾート・屋内プール

 

 

 天井までガラス張りのドームの下、人工の滝が轟々と流れ落ち、波のプールでは子どもたちが歓声を上げている。

 常夏仕様の巨大スパリゾートは、外が冬だろうとお構いなしの暑さと湿気に包まれていた。

 

「よーし、遊ぶぞー!」

 

 更衣室から一番に飛び出した惣一郎が、既にテンションマックスで両手を広げる。

 

「惣くん、走っちゃダメだよー!」

 

 慌てて追いかける愛香は、フリルのついた水色のビキニにパーカーを羽織っている。普段は落ち着いた色の服が多いだけに、明るい色がやけに新鮮だ。

 

「お待たせー!」

 

 少し遅れて、彩女がずかずかと歩いてくる。

 濃紺のスポーティーなビキニに、腰に薄手のパレオ。長いポニーテールをいつもより高い位置で結び、本人もどこか得意げだ。

 

「どうだ!」

 

 くるりと一回転してみせる。

 

「おー、眼福眼福」

 

 惣一郎が、これ見よがしに両手を合わせて拝むジェスチャーをする。

 

「彩女ちゃん、似合ってるよ。かっこいい感じ」

 

「でしょー?」

 

 彩女は胸を張り、満足げに笑った。

 

 その少し後ろから、Tシャツとハーフパンツ姿の青見が、タオルを肩にかけて出てくる。

 彩女の姿を目にした瞬間、足がぴたりと止まった。

 

(……おい)

 

 思っていたよりずっと、というかなんというか――言葉にならない何かが喉につかえて、青見は一度視線を泳がせる。

 

「ちょっと、なによその微妙な顔は。似合ってないって言ったら沈めるからね?」

 

「いや、似合ってる。似合ってるけど……」

 

 言い淀みつつ、青見は肩からパーカーを外すと、躊躇なく彩女の頭からすっぽり被せた。

 

「ちょ、なに?」

 

 視界を奪われた彩女がもぞもぞともがき、ようやく顔だけ出す。

 

「……その」

 

 視線をわずかにそらしながら、青見は短く言葉を探す。

 

 横で一部始終を見ていた惣一郎の口元が、ニヤリと持ち上がった。

 

「なんだなんだ。

 他の男に見せたくないってか? 独占欲強いなぁ、青見」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 彩女と愛香の声がきれいに重なる。

 

「ち、ちがっ……!」

 

 慌てて否定しかけて、青見は言葉を失った。

 “違う”と言い切るのも、どこか嘘くさく感じてしまう。

 

「図星だ~」

 

 惣一郎がケラケラ笑い、愛香も口元を押さえながら笑い出す。

 

「でも、なんか……それっぽいかも。

 さっきから、周りの視線けっこう来てたしね、彩女ちゃん」

 

「え、マジで?」

 

 彩女が思わず周囲を見回し、改めて自分の格好を見下ろす。

 青見のパーカーは彼女には少し大きくて、すとんと腰まで落ち、さっきまで強気に見せびらかしていたラインの多くを隠してしまっていた。

 

「……やっぱ、脱ぐ」

 

 パーカーの裾をつまんで引っぱろうとすると、その手首を青見がそっと押さえる。

 

「待てって」

 

「なんでよ」

 

「……頼むから、せめてこっち側だけ着ててくれ。プールの外歩くときは」

 

「“こっち側”?」

 

「男子更衣室側とか、売店側とか。

 さっきから視界の端で、変なオッサン何人かと目が合うんだって」

 

 ぼそっと付け加えられた一言に、彩女の表情が少しだけ曇る。

 

「……マジ?」

 

「あんまり、気持ちいいもんじゃないからさ。

 嫌だったら、無理にとは言わないけど」

 

 青見はそこで言葉を切り、短く息を吸った。

 

「俺が嫌なんだよ。

 彩女が嫌な思いするの」

 

 ぽつり、と落とされたその一言に、一瞬だけ時間が止まる。

 

「……」

 

「……」

 

 さっきまでニヤついていた惣一郎と愛香も、思わず口を閉じた。

 

 彩女は、パーカーの裾をぎゅっと握りしめて、ふいっと顔をそらす。

 

「……言い方ってもんがあるでしょ、あんたは」

 

「え?」

 

「もう……そういうの、先に説明しなさいよ。

 “独占欲”とか言われたら、変に意識するじゃない」

 

 頬をうっすら赤く染めながら、それでもパーカーのファスナーをきゅっと上まで引き上げる。

 

「……じゃ、歩くときだけ着ててあげる。プール入るときは脱ぐからね」

 

「それでいい」

 

 青見が、少し安心したように息を吐く。

 

「はいはい、青春青春」

 

 惣一郎がぽんぽんと二人の肩を叩きながら、先に波のプールへ駆けていく。

 

「愛香、スライダー行こうぜスライダー!」

 

「ちょ、ちょっと待って、走っちゃ――もー!」

 

 愛香も慌てて追いかけていき、残された二人は微妙な距離感のまま立ち尽くす。

 

「……行こっか」

 

 先に口を開いたのは彩女だった。

 

「どこ行く?」

 

「とりあえず、あいつらの監視かな」

 

「だね」

 

 顔を見合わせ、小さく笑う。

 

 ヤシの木の飾りと人工の波音の中、四人の休日は、ようやく本格的に“遊びの時間”へと滑り出していった。

 

 

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