青空が、少しずつ藍色に沈んでいく。
そのあいだのほんの一瞬だけ、空は金色に染まる。
夕暮れを「赤い」と言うのも間違いじゃない。
けれど、一日の終わりと始まりに訪れる、あの金色の時間を忘れちゃいけない――そんな気がする。
幹線道路から外れたバイパス。
渋滞緩和のために街を横切るように造られた、巨大なコンクリートの壁みたいな道路だ。
その上にある幅広い歩道からは、夕暮れの街並みを一望できる。
歩道は段差も少なくて走りやすい。けれど、自転車も歩行者も少ない。
立体交差ごとにアップダウンがきついからだろう。
まあ、毎日のようにここを駆け抜けているオレたちには、関係ない話だけど。
オレと彩女。
マウンテンバイクとクロスバイク。
シルバーとブルーのフレームが、沈みゆく太陽の朱と金に染まりながら、並んでゆっくり走っていた。
ハンドルを握りながら、さっき体育館でやらかしたことを思い出す。
彩女の胸のこと――気にしているのは知っているのに、わざと怒らせるようなことを言った。
許されることじゃない。
許すかどうかは彩女の問題だけど、少なくとも「オレ自身」はオレを許せない。
胸の奥に、冷たくて硬い塊がこびり付いている。
後悔という名の塊は、せっかくのこの時間をちっとも楽しくしてくれない。
そのくせ、一瞬の悪ふざけの代償にしては、あまりに重すぎる。
「……彩女。さっきは悪かった。……ちょっと、言い過ぎた」
「ふーん。謝るってことは、本当にそう思ってるってことなんだ?」
「あ……いや、その……」
「どうなの?」
彩女の、挑むような声と視線に絡め取られる。
確かにその通りだ。
「悪かった」と思うのは、少なくとも“そういう考えが自分の中にある”ってことだ。
だけど、じゃあオレはどうすればいい?
謝ってほしいのは間違いない。
でも、謝れば「胸がない」と認めたみたいになる。
かといって謝らなければ、それはそれで最低だ。
考えて、考えて、考えて――
結局、ろくな言い訳も思いつかなかったので、正直に言うことにした。
「……そりゃ、身長のわりに小さいかなー……とは、思うよ……」
重い口を無理やり動かし、喉の渇きを誤魔化すように唾を飲み込んで、
蚊の鳴くような声で、なんとか続ける。
「……けど、彩女は綺麗だよ……」
――ばか。
朱と金に染まる空の下で、彩女が小さくそう呟いたような気がした。
……きっと、気のせいだ。
だって、その直後には、
「馬っ鹿じゃないのッ!! そんなこと言って誤魔化されるとでも思ってんの!?
いやらしいわね。“見てない”って言ったのはどこの誰?」
「だから、謝ったろ!?」
今度ばかりは、オレも我慢できずに怒鳴り返す。
ああもう、本当にオレにどうしろってんだよ。
「あんたが謝ったのは、わたしに対する侮辱の分。
“偽証”の分は謝ってないわよ?」
「そっちだってクラブ投げただろ!」
「ああ、それに関しては謝るわ。半病人にやり過ぎたって意味でね」
「……半病人……」
確かに昼休みに倒れかけた(というか、倒れた?)のは事実だ。
だが、“半病人”なんて強調されるほどのつもりはなかったので、思わず言葉に詰まる。
そんなオレに、彩女は「はい」と顎をしゃくってみせた。
「“はい”って……なに……」
「あんたの番よ」
自分は悪いと認めて謝った。だから、オレも謝れ――と。
「……うぅぅ……」
く、クソ。
オレは口では彩女に勝てないのか!?
いつも三倍返しされてるような気がするぞ!?
「…………う、嘘ついて悪かったよ!」
観念して、一気にまくし立てる。
言い終わると同時に、オレはペダルを踏み込んだ。
長い坂道を一気に駆け下りる。
後ろから彩女が追いかけてくることを、心のどこかで期待しながら。
「逃げるの!? 待ちなさい!!」
変わらない日々。
――なくしたくないもの。