なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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身体測定2

 

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保健室は、昼下がりの光で白くぼやけていた。

 

窓から差し込む陽射しと、消毒液の匂い。どこか眠くなる空気の中で、惣一郎はベッドの縁に腰を下ろして足をぶらぶらさせた。

 

「そーいや、先生らって健康診断すんですか?」

 

問診票を書き終え、特に用事もない口が、勝手に動く。

 

机に向かって書類整理をしていた白河桐子が、ちょっとだけ目線だけこちらに向けた。

 

「するわよ。日程は生徒と別だけどね」

 

「へぇ……」

 

惣一郎は、天井を見上げてから、ふと思い出したように続けた。

 

「じゃ、警備の桜さんって身長いくつなんです?」

 

「彼ね……確か一九〇センチは超えていたと思ったけど……気になるの?」

 

「……あぁ、ここにも富(身長)の偏在が!! こんな事が許されるのか!?」

 

思わずベッドの上でのけぞる。

 

足りない分はどこから補填されるべきなのか。いや、まずタバコをやめろと誰かが言うだろうな――と思った瞬間、白河が溜息と共にぴしゃりと言った。

 

「そう思うなら、タバコは止めなさい」

 

「それはそれ。これはこれで」

 

即答する惣一郎に、白河は「理事の甥だと思って好き放題ねぇ」と肩をすくめる。

 

「珈琲を淹れましょう」

 

惣一郎は立ち上がると、保健室の隅に置かれた小さな電気ケトルに水を入れ、慣れた手つきでコーヒーセットを用意し始めた。

 

「貴方、それだけは上手よねぇ」

 

「なんでか知りませんが、叔父と叔母に仕込まれましたから。……メイド服着させられた時は舌噛んで死のうかと思いました」

 

「虐待ねぇ、それ」

 

白河は、呆れたように笑う。

 

「良く似合ったでしょうね。どうして拒否しなかったの?」

 

「しました。力の限り抵抗しました。あそこのメイドさんたちに寄って集って着せ替え人形にされたんです。無闇に強かった。俺が力弱いのかもしれませんが」

 

豆を挽きながら、惣一郎は遠い目をする。

 

(渾身の回し蹴りを延髄に決めても、たおやかなメイドさんはびくともしなかったからな……)

 

惣一郎の蹴りは、多少の身長差があっても普通の男なら昏倒する威力がある。あの屋敷のメイドは、どう考えても人外のカテゴリだ。

 

ふわり、とコーヒーの香りが保健室に広がる。

 

「集計は」

 

カップを差し出しながら、惣一郎が何気なく尋ねる。白河は書類の束をひとまとめにして、細い指でとんとんと揃えた。

 

「もう終わってるわ。誰か気になる子でもいるのかしら?」

 

「むっつり青見じゃあるまいし」

 

惣一郎は鼻で笑って、コーヒーをひと口すする。

 

苦味と香りが、舌と鼻をくすぐった。

 

「俺なら――」

 

ふと、口が勝手に続きそうになって、惣一郎はほんの一拍だけ迷った。

 

(“直接揉んで確かめる”なんて、ここで言ったらマジで殺されるな)

 

「俺なら、直接本人に聞きます」

 

そう言って肩をすくめると、白河は目を細めた。

 

「……そうね。まだ“聞く”って選択肢を思いつくだけマシかしら」

 

「誉められたような、微妙なような」

 

「少なくとも、触ったりしたら即・停学よ?」

 

コーヒーカップを唇に運びながら、涼しい声で釘を刺される。

 

「虐待っすよねぇ」

 

「それとこれとは別問題です」

 

淡々と返され、惣一郎は肩をすくめた。

 

保健室の窓の外では、四月の風が若葉を揺らしている。

教室では今ごろ、女子たちが身長や体重に一喜一憂しているだろう。

 

「……にしても、富の偏在だけはどうにかならねぇかなぁ」

 

「タバコやめたら、あと二センチぐらい伸びるかもよ?」

 

「それはそれ。これはこれで」

 

同じやり取りをもう一度繰り返すと、白河は堪えきれずに吹き出した。

 

「全く……口だけは達者ね、伊東くん」

 

コーヒーの香りと、苦味の奥にほんの少しだけ甘い空気が混じった気がして、惣一郎は「ま、そこが俺の長所って事で」と、いつもの調子で肩をすくめてみせた。

 

 

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