異分岐の記録集(主人は居ません。野良ポッドです。 番外編) 作:やみばら
今回は心優しい方のクマのぬいぐるみ。
次回は?
おや?
どうしてここに?
まぁ、取り敢えず久しぶりだねぇ
いろんなこと出来たかい?
楽しかった?
・・・まぁ、『
で、私に何か聞きたいことが?
え?
・・・この記録をみたいの?
よりによってこの記録を?
マジで?
私の記録を?
・・そりゃ異分岐の私だから、この私とは違うけどさぁ
え?ママが見せてくれない?
・・・そりゃそうだ、私も内容知ってるから見せない理由はわかるよ
特に君には悪影響かもしれないからね
・・・わかった、わかったから!
前半部分だけだよ?
ママには内緒だ
これは特殊なクマの話だ
この記録は本来、削除されるものだったんだ
って言うか、今も私は削除したいと思ってる
私にとっては公開処刑もいいところだからね
けど、これも大切な記録だから
記録は手をかざす、もしくは直接触れることで見られるよ
言うまでもないけど、心の準備は出来てるかい?
じゃあ、やってみて
…成功だね
それじゃあ、いってらっしゃーい!
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「アァ、平和だ。」
どうもポッド013です〜。
此処は商業施設跡にある我が自宅。
今、この世界では貴重な平和?な時期。
時間軸的にはアダムとイブが実現してヨルハ部隊が情報収集に奔走している頃かな。
「まぁ、私には直接関係ないから良いけど。直にニ号が出てくる頃かな?…早いなぁ。」
先程パスカルから”村にヨルハ部隊の2人が物資を届けに来てくださいました!“と連絡を受けた。嬉しそうにパスカルはヨルハ組の話をするが私の内心は穏やかでは無かった。想定よりトントン拍子に進み行く物語に私は静かに焦りを感じていた。
例えるなら夏休み中盤ぐらいに手付かずの宿題の山を見たぐらいの焦りである。
暫くはパスカル村に近づかないようにしよう。この身はヨルハ部隊に見つかると厄介である。
「背け続けていたものにそろそろ向き合わないとなぁ。でももう少しだけ…アァ〜♡関節に染み渡る。」
やらなければならないと分かっているが無理である。
そう、風呂の誘惑には勝てない。
「作ってみて良かった『オイル風呂』。キモチヨスギダロ。」
某宇宙戦争にて金ピカドロイドが入浴していた、浴槽がオイルで満たされた通称『オイル風呂』。関節や可動部に付着した砂や埃を落とし、摩耗や動作不良を防ぐ。浴槽に入っている間は、かつて生身の人間だった頃の疲れが抜けていく感覚を思い出させてくれる。
「アァ〜……クワックワッ」
水面に浮かぶ黄色いアヒルを突く。コイツはお風呂に付き物だよね。
「何かに追われながらの現実逃避。やっぱり辞められないんよ。」
とはいえ、流石に上がるかなぁ。やる事あるし。
社畜精神?なんだそれは。
「・・・・〜~~~~!」
「…うん?」
なんか聞こえるような気がする。
「〜~~~~!」
「・・・玄関の方かな。…よし居留守を使おう。」
極楽タイムを邪魔されたら気分悪いし。居ないと分かったら帰るか折り返し連絡して来るだろ。
ドカンッ ドドドッ
「ファッ!!?扉壊したのか!?!」
予期せぬ展開に頭が真っ白になる。浴室の扉の向こう側から近づく足音。やがて半透明の扉に黒い影が映り、何者かがドアノブをひねる。
ガチャ
「先生大変ダ!助ケテクダサイ!」
「キャー!動物好きロボのエッチィィィ!!」
入ってきたのはフードを被った機械生命体。私は咄嗟に体を手で隠し、お風呂シーンでは定番の言葉を言い放つ。
「・・・・・?何ヤッテンダ?先生?」
「・・・すまん、続けてもらっていいよ。それと先生じゃないから。」
この気まずい空気には耐えられません。このネタはやっぱり通じなかったよ。
「コノ子ヲ助ケテホシインダ!」
慌てた様子で腕に抱えた小鹿を私に差し出してきた。えぇ?ドウユウコト?
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このフードを被った機械生命体の名前は『動物好きロボ』。森の王国にひっそり住み、機械生命体でありながら動物好きでイノシシやシカの世話をする趣味を持っている。そのため付近の動物にとても好かれている。
私と動物好きロボが出会ったのは自宅を商業施設跡に構えて暫くした後。何処から聞いたのか私を”お医者“だと認識し、”動物の具合が悪いから診てくれ”とお願いしてきた。確かに私は機械生命体や一部のアンドロイドの修理などをして生計を立てていたが、どうやら”修理屋“を”お医者“と思ってやって来たらしい。
以前の依頼はゲーム版のサブクエスト『動物の看護』と同じであった。私は”機械しか分からないから無理“と断ろうとしたが圧に負けて最後まで付き合った。動物用の医療書を探しに廃墟を周り、頭を捻り症状を診ながら病気に目星をつけ、動物用の医薬品なんて当然無いから薬草を探して調合。正直、治る保証は無かったが3日ぐらいしたらピンピンなんかしていた。
ぶっちゃけ自然治癒したんじゃないかな?と思っているがロボのほうは完全に勘違いしてる。それから何かと調子が悪そうな動物を連れてきては”診てくれ“と。しょうがないから付き合って見様見真似で診断はしているけど…
それ絶対、私のお陰じゃないから!自然治癒だから!
それで今回はというと───
「先生、ドウダイ?治リソウ?」
「だから先生じゃないから。……それにしてもどうしたの、これ?」
工房の机の上には血だらけの弱りきった子鹿。そして子鹿の後ろ脚の腿部分には囓られたように抉り取られてしまっている。
「コノ子ヲ見ツケタトキ、近クニイノシシが居イタンダ。多分ソノ子ニ…」
「襲われて喰われたと?」
自然界ではよくある食物連鎖。人類という飼う側のものが居なくなった今の世界では本来のあるべき弱肉強食に何処も戻ってきている。自然界で生きる為には仕方がない事ではある。
「噛み跡のあった腿の一部分は完全に肉が無くなっているし、縫ったところで多分もう歩けないと思うよ。」
「…!?ナントカナラナイノカ!」
「私は元々生き物は専門外だしねェ。息も弱い。もう静かに眠らせてあげることも考えないと…」
「ソンナ…私ハコノ子が生マレタ時カラ成長ヲ見テキタンダ。ソウ簡単二諦メキレナイ!先生、ナントカシテ下サイ!!」orz
「そんな土下座しないで!!」
私は獣医師ではないし、生き物はアンドロイドや機械生命体みたいに部品を交換すれば直るとか単純なものじゃない。治すにしても無くなった部分もあるのにどうやって…
あっ!
「顔を上げてくれ。良い方法があるんだ。」
「ホントカ!コノ子ヲナオセルノカ?」
「多分だけどね。私がやるより適任だと思うよ。」
「エッ?先生ジャナイノカ?」
「ちょっと待ってて。」
そう言って私は工房の奥にある倉庫部屋に入って行く。倉庫の中には修理用の部品や滅多に使わない機械が並んでいるが私が止まったのは鍵付きのロッカー棚。全部で20ある鍵付きロッカーの扉のひとつを開ける。偶然にも私が以前見つけた常識を凌駕する物品。今はコイツに頼るしかない。
「この子なら子鹿を治せるよ。」
「・・・?ナニ、コレ?」
私が倉庫から持ってきたのはクマのぬいぐるみ。悪く言えば余りものの継ぎ接ぎ、良く言えば様々な布の端切れを使ったパッチワークで作られた手作り感があるぬいぐるみ。胸元には解剖学的に正確な心臓型のピンバッチが付けられ、首には大きなリボンが巻かれている。
「この子の名前は『クマのカイロスくん』。医療系のことなら私よりも適任だよ。」
「コレガ?ドウヤッテ?」
「まぁ、見ててよ。」
私はカイロスくんを子鹿の近くに置く。するとカイロスくんはピクッと何かに反応すると独りでに立ち上がった。
「立チ上ガッタ!?動クノカコノ子!?」
カイロスくんは患部を観察するように子鹿に近寄り、やがて机の上から下りて何かを探すように駆け出した。
「何ヲシテルンダ?」
「多分、材料を探してるんだよ。」
「材料ヲ?」
工房の中を走り回りながら彼は材料となる布や綿を探していた。やがて机の上に戻ってくると集めた材料(ウエスとクッションから抜き取った綿)を置いた。
「コンナノデ本当二治セルノカ?」
「この子の通称は『パッチワークのハートがあるクマ』。身体の損傷部位を周りにある布切れや綿などを元に治療するクマのぬいぐるみだよ。」
「ハァ?布切レデ?」
「そして周りに材料が無ければ自分自身の綿や布を利用してまで他人を助けようとする心優しいクマのぬいぐるみ。」
彼は徐ろに手を己の口に伸ばすと口から縫い糸とはさみ、白い糸を取り出す。
「何カ口カラ出テキタ!!」
「カイロスくんは口から裁縫道具を取り出すんだ。どうやって出し入れをしているのかは不明。」
準備が完了したのか彼は顔を引き締めて綿を捏ね始める。やがて子鹿の欠損した肉ほどのサイズに綿を成形する。そしてウエスを患部を覆い隠すほどのサイズに裁断し始める。
「集めた材料から彼は損傷した部位や臓器の造り物を作り出す。見た目は継ぎ接ぎのパッチワークだけど作られたものは本物の同様の機能を果たす。心臓のパッチワークを作れば血液循環のポンプとして脈を打つ。火傷した皮膚の代わりに大きな布を貼りつけると痛覚を感じる皮膚になる。見た目が少しアレなだけで本物と全く同じものになるパッチワーク。スゴいよね、カイロスくんは。」
ぐったりしている子鹿の顔に彼は近づき、優しく撫でて子鹿を眠らせる。そして手際良く欠損部位に綿を敷き詰め、患部を覆うようにウエスを縫い付ける。
「早イ、マサ二神業!?」
「内臓系ならもっと早いよ?今みたいに直接施術なんてしないからね。」
「ハ?ドウヤッテ手術スルンダヨ。」
「入れ替わっちゃうんだよ、いつの間にか。」
「イツノ間ニカ?」
「痛みもほぼ無く、いつの間にかね。不思議な事に入れ替わった元の臓器は何処へやら。ともかく終わったみたいだね。」
机の上には元気になった子鹿と子鹿に顔を舐めなれて困ってるカイロスくん。
「オォ!元気二ナッタ!!」
「無事に治ったみたいだねぇ。良かった良かった。」
「カイロスクンアリガトウ!先生モアリガトウ!」
「今回はなんにもしてないよ。後、先生ちゃうから。」
私は役目を終えて普通のぬいぐるみに戻ったカイロスくんを棚に戻しに行こうとする。
「ソノ子ハ先生ガ作ッタノカ?」
「いいや、私じゃない。この子を造った人は正確には分かっていないんだ。遠い昔に病気で入院していた孫宛てに、その子の祖母が贈ったプレゼントがこの『クマのカイロスくん』。祖母が造ったのか、もしくはどこかで購入したのか定かじゃないがこの子には送り手の深い愛情が込められているのが良くわかるだろ?」
「アァ、分カル。キット病気ノ孫モ良クナッタンダロ?」
「いいや、残念ながら孫には届かなかったんだ。配達トラックが配達途中で事故を起こしてしまって届けられなかったんだ。病気の孫もどうなったのか分からない。カイロスくんは『治ってほしい』という祖母の強い思いを孫に伝えることが出来なかった。だからかもしれない、ただのぬいぐるみだったこの子がこんな異常性を持ったのは。治療という形で無償の愛を与える優しいクマのぬいぐるみ。素敵だろ?」
私はカイロスくんを元のロッカーに仕舞う。そして扉を閉めながらある別のクマのぬいぐるみを思い出す。
「そう、
私は優しくロッカーの扉を閉めた。
アイテム番号: SCP-2295
オブジェクトクラス: Safe
* * *
同時刻 衛星基地バンカー
「よっと。これで降ろし終わったかな?」
僕の名前は32号S型、通称32Sだよ。
今、僕は物資の整理中。
僕達の基地である『バンカー』は宇宙空間に浮かぶ衛星基地。その為、消耗品などの物資は定期的に地上から打ち上げて送る必要があったのだ。受け取った物資は倉庫に運んだり、それぞれの部署に分配したりする。その役割はヨルハ部隊員でローテーションを組んで回しているのだが、たまたま今回は僕が担当になっていた。
「これはこっちで…これはあっち…」
ガサッゴソッ
「・・・え?」
まだ整理していない物資の山から音が聞こえた。
今、動いたよね?
音がした物資に近づいて、音の発生源を探してみると見たことないナニかが出てきた。
「・・・なんだろう?・・・なんだこれ?」
手にしたナニかはクッション性のあるふわふわの茶色の毛で覆われた動物?だと思われる人形だった。
「なんでこんなものが・・・うわァ!?」
手に持っていた人形は突然、ひとりでに動き出す。咄嗟に手を離してしまったが人形は地面へ綺麗に着地した。
「新手の機械生命体か!?」
そう思い、僕は身構えると人形はまるで《僕は敵じゃないよ》と言っているかのように身振り手振りでアピールして来た。
「・・・取り敢えず報告かなァ。絶対面倒なことになるよなぁ、これ。」
今後起こる事に億劫になりながら、僕は謎の人形を抱えて指令室を目指した。
後に分かったことだが、この人形は人類が作った動物型のぬいぐるみ『テディベア』に酷似していた。本来、動くことが無い筈のぬいぐるみがどういった原理で動いているのか不明であるが機械生命体と関係はないと司令部は判断。現在は基地内を自由に動き回っている。
また彼はその見た目と愛らしいジェスチャーで基地内の女性型ヨルハ部隊員の間で大人気になっていった。
アイテム番号: SCP-◯◯◯◯
オブジェクトクラス: Safe
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お?
戻ってきたね
取り敢えずおかえりなさい
どうだった?異分岐の私の記録は?
・・・だよねー
だけど、後半は止めといたほうが
え?知りたい?
えぇー、これ以上は本当に止めといたほうが
・・・駄々こねるなよ
?どうしたら見せられるか?
そうだなァ、うーん
・・・君だけだとまた闇堕ちしそうだから、あの姉弟も一緒なら見せても大丈夫かな?
・・・そう、わかった
また来る時は姉弟も一緒連れておいで
ちなみにこの事はママには内緒だからね
私も怒られるのは嫌だから
それじゃあ、またね
著者: K Mota
タイトル: SCP-2295 - パッチワークのハートがあるクマ
元サイト: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2295
CC BY-SA 3.0
NieR×SCP第2弾。
ちなみに元ネタのほうは動物などを治療したという記録はありませんが、今回の話では出来ることにしました。本当はアンドロイドも治療してくれるとよかったんですが、カイロスくんの性質的に無理なので生き物の子鹿になりました。
カイロスくん本当に良い子です!
興味がありましたら元ネタを調べてみると良いかもです。
ご感想などありましたらよろしくお願い致します。