嘆きの亡霊は引退させない※リメイク版投稿、本作品は7月26日に削除します。 作:型破 優位
以前活動報告には書きましたが、マナとマナ・マテリアルの内容に関して無視できない程の間違いが見つかったため、完全非公開とさせていただいておりました。
そして今回、タイトルにある通りリメイク版を投稿中であり、本作品は7月26日に削除します。
元々の話数が少なかったためリメイクするほどのリメイクはありませんが、それでも僅かにことなってきている部分があります。
今話も若干ことなってくる部分があるので、是非ご覧ください。
あとがきにURLを載せておきますので、興味のある方は引き続きよろしくお願いいたします。
クライによって救助対象はあっという間に発見された。それはもう今までの苦労はなんだったのかと言いたくなるぐらい、あまりにもあっさりと。
特筆すべきはその道中、クライは一切迷うことなく一直線に目的地へと向かっていったことだろう。幾つも分岐点がある道を一回も立ち止まることなく、まるでそこに居るのが分かっているかのような足取りだった。
それでいて本人は飄々としているのだから底知れないなんてものじゃない。
ティノは救助対象が生きていることも、クライが何処にいるのか知っていることも含めて驚くことではなかったが、その神算鬼謀を初めて目の当たりにした者たちにとってはただただ驚愕するしかなかった。
救助対象は五人。
そのうち補助無しで歩けるのはなんと一人だけだ。その一人が認定レベル5のハンター、ロドルフ・ダヴーであることなのはせめてもの幸いか。
しかし彼も食料なしで三日間この宝物殿で過ごしている。戦力として期待するのは些か不安が残っていた。
「ここで何があったの? 認定レベル5の貴方たちが遭難するなんて、余程のことがあったはず」
状況確認のためにティノがロドルフに問う。
その問に対してロドルフは大きく目を見開き、恐怖に震えた声で訴えた。
「や、やばいのが、いる! あんなの、レベル3じゃねえッ!」
「ああ、分かっているよ。人の骨で顔の右半分を隠している狼の騎士だろ。俺達も戦ってきた」
「は、半分? ち、違う! 俺たちがやられたのは、顔全体を骨で隠した幻影だ!」
ロドルフの震えが大きくなる。それだけ深いトラウマを植え付けられたのだろう。ギルベルトもその異様な光景に思わず息を呑む。
認定レベルが強さに直結してないとはいえある程度の指標にはなっている。何よりロドルフたちは明らかにギルベルトたちよりも格上のハンターだった。
ギルベルトですら受け流せた白狼に対してここまで怯えるというのは、少々考えにくい。
つまりここには———
「あのウルフナイトは複数いた。最初は複数ボスがいるのかと思っていたけど……もしこの話が本当なら、あれは雑魚だったってことになる」
「あれが雑魚だって!?」
ティノの額に一筋の雫が流れる。あの白狼ですら一体倒すのにやっとだった。しかしそれが本当に雑魚だったとするのなら、当然ボスはさらに強いということになる。
「俺たちも腕には自信があるッ! 認定レベル5の宝物殿だっていくつも攻略してきた! でも奴には……あの化け物には何も通じなかった! 何もだッ!!」
「!!」
その慟哭に、誰も言い返すことができない。
認定レベル5をいくつも攻略できる実力があれば、あの白狼たちに遅れを取ることなど有り得ないのだ。つまり今回の敵は、ティノたちにも手に負えない敵だということになる。
「……以前認定レベル6の宝物殿に潜ったことがあるが、俺たちもある程度戦えていた……でも今回、俺たちは手も足も出なかったんだッ! 手加減されていた奴にな!」
「……そういうことですか、アルスお兄さま」
「どういうことだ?」
腑に落ちたかのように呟くティノに、ギルベルトが問い掛けた。今の何処に納得するところがあったのか、何故ここでアルスが出てくるのか、ティノ以外の誰もが全く理解が及ばない。
「思い出してギルベルト。あの訓練場でアルスお兄さまが言っていたことを。あの時、アルスお兄さまはどのレベルの宝物殿を再現していたのか」
あれ程の出会い、忘れる訳がない。
意識が飛びそうになっていた中でも、アルスの言葉はギルベルトの中で鮮明に生きていた。何を言われたのか、どのレベルの宝物殿を再現したのか。確かこう言われたはずだ。
——— 今のはレベル6相当の宝物殿と同じマナ・マテリアルの濃度を魔法で再現したものだ。
「……レベル、6!? いやまさか!」
「アルスお兄さまは今回の依頼に強力な幻影———それこそ認定レベル6以上の幻影が出ることを知っていた。だからあの時、認定レベル6の宝物殿を再現した。この依頼に挑む最低限の権利があるのかどうか確かめるために———ですよね、ますたぁ!」
「うんうん、そうだね」
「まじかよ……」
なんのこともないかのようにクライが頷いたのを見て、何か得体の知れない物が背筋を奔る。以前訓練場で感じたようなあの感覚だ。圧倒的なマナ・マテリアルの保有量による強者の気配ではなく、到底理解することの出来ない策略によって全てが掌にあるような感覚。
ボス部屋の前でティノも言っていたが、たしかに訓練場での出来事はおかしかった。
何故クライはギルベルトの力試しにアルスを指名したのか。今だからこそ分かるが、ティノでも十分ギルベルトの実力を試すことはできたはずだ。それなのにも関わらずクライはタイミング良く来たアルスに依頼を行い、アルスも数瞬の思考の後に承諾した。
もしもの話だ。もしもの話ではあるのだが、その僅か数瞬の間でここまでのシナリオを描いていたのだとしたら。
———それは最早、神算鬼謀だと言えるのではないか。
「ということは、この先にいる幻影はもしかして……」
「レベル6、場合によってはレベル7相当の幻影がいることになる」
「たしかに、奴がレベル7の幻影だと言われても納得できる……あれはもしかすると、『千剣』に匹敵するかもしれんッ!」
「『千剣』、だと!?」
「『千剣』って……あの帝都最強の剣士かッ!」
千剣、という名前を聞いて、何人かがクライを見た。
千剣とは、剣聖の元で正統剣術を学び、それを足掛かりにあらゆる剣術を学んだ大剣豪。何を隠そう、クライと同じ嘆霊のメンバーであるレベル6の剣士、ルーク・サイコルの二つ名だ。
二つ名持ちのハンターの強さは、彼らが今身をもって実感している所である。
「どうするの、クライ?」
「もし本当に千剣並だとするなら出会う前にここから出た方が良いだろうね……でもそれを決めるのは僕じゃなくてティノだ」
「え、えぇ!? ますたぁに比べたら私なんて塵芥ですし……」
ルーダがクライに意見を聞いたのは、この中で一番レベルが高く状況判断に長けているから、という判断の元だった。そしてそれはこの場の共通認識でもあったのだが、クライはあくまでもティノの試練というスタンスのようだ。
その徹底ぶりには少量の尊敬と多分の畏怖を抱く。
「今回の依頼を受けたのはティノ、つまりこの依頼のリーダーはティノだ。こういう時の判断こそリーダーに求められる大事な要素だよ」
「は、はい! 私もますたぁと同じく、急いで出口へ向かうべきだと思います」
「……うんうん、そうだね。でも怪我人がいるのを忘れちゃダメだよ」
「あ! そ、そうでした」
「もちろん、ティノが先頭でね」
「はいッ!」
ギルベルト、ルーダが一人ずつ、グレッグが二人を介助しながら、一同は出口へと歩き始める。
先頭はティノ、ロドルフと続き、クライ達が横列となっている陣形とは言えない並びになっていた。不思議なもので、道中あれだけ出てきたウルフナイトが一切顔を出してこない。それどころか気配すら感じないのだから流石は高レベルハンターと言ったところか。
しかし空気は非常に張り詰めている。
先程から狼の咆哮が鳴り止まないのだ。
それも何かを呼ぶような、良くないことが起きる前兆だと言われても納得がいく咆哮。
加えてレベル6以上の幻影が出ると言われているのだ。これで警戒しないハンターは、余程高レベルなハンターかハンターとして致命的なまでに危機感が無いかのどちらかしかない。
それで言うならクライは両方当てはまる稀有なハンターとも言えるだろう。
一番近くにいたからその空気に当てられたのだろうか、ギルベルトも若干気が抜けたような声でクライへ話しかけた。
「そういえばずっと気になってたんだけど、千変万化以外の嘆霊で一番強いのって誰なんだ? やっぱり帝都最強の剣士『千剣』か?」
「ギルベルト、嘆霊は全員が役割を持ってるから一概に誰が強いとは言えない。あと今はそういう場合じゃ———」
「まあまあ、良いじゃないティノ。肩の力を抜くのも大事なことだよ」
「ま、ますたぁがそう言うなら……」
肩の力を抜く。
先頭を歩くティノはもとより、それを聞いていた者たちも自分の肩に過分な力が入っていたことを認識した。程よい緊張は必要だが、これでは有事の際に力を発揮できない。
メリハリは何事においても付けておくに越したことはない。
「それで誰が強いのかって話だけどさ、ギルベルトは戦闘でのことを言ってると思うけど、戦闘面で見ても筋力、剣術、攻撃魔法、支援魔法、早さ、その前段階の索敵や戦略立案とかも関係してくるよね。何処を比べるかによってその強さの基準が変わるから一概には言えないけど———」
嘆きの亡霊は全員が二つ名持ちの才覚溢れるパーティーだ。それぞれに特筆すべき部分があり、そこに甲乙はつけ難い。
たとえば大枠で分けたとして、前衛はアンセム、ルーク、リィズ、中衛はアルス、エルザ、後衛はルシア、シトリーとなるが、役割で見てみると、メインアタッカーはアンセム、ルーク、ルシア、サブアタッカーはリィズ、エルザ、サポートはアルス、シトリーとなる。
しかし全員攻撃手段は持っているし、加えるなら他のパーティーならメインアタッカーを張れる程の威力も持っている。
さらに支援についても差異はあれど全員が可能だ。
要はメインの役割が決められているだけで、彼らは別にそれしか出来ないわけではない。
盗賊が肉弾戦を仕掛けていることも、魔導師が剣士と斬りあっていることも、
しかし仕方がない。
だってできちゃうんだから。
だからクライとしては、この一言に集約するしか無かった。
「———皆の才能は本物だよ。それは僕が保証しよう」
そこには、絶対的なまでの自信が全面に押し出されていた。のらりくらりとしているクライの姿しか見てない者にとって、それは瞠目するに足る衝撃だ。
ギルベルトがゴクリ、と喉を鳴らす。
保証しよう。
この一言を千変万化は何気ないように言ったが、それはつまり保証できるだけの実力が千変万化にはあるということだ。
未だにこの飄々とした男があの千導より強いというのが信じられないが、最早見た目以外で千導よりも弱いと断ずる理由もない。
ルーダやグレッグも同じようなことを思っていたのか、その視線には尊敬と畏怖の念が三対七の割合で込められていた。
ふと、先頭を歩いていたティノが歩みを止める。
「……ま、ますたぁ。なにか……おおきいのが、きます」
今まで先頭を切って戦ってきたティノの、今までに無いほど不安にかられた表情。盗賊という役柄上誰よりも索敵能力に優れているため他の誰も気が付くことはできていないが、その一言だけで闇鍋パーティーは救助対象を壁に寄せてすぐさま臨戦態勢へと入った。
その早さにはレベル5ハンターのロドルフですら感嘆に値するものであり、しかし同様に悪寒が背筋を這う感覚に襲われて槍を持って臨戦態勢へと入る。
狼の咆哮が絶え間なく大きくなっていき、それが例の幻影が近づいてきていることの証左となっていた。
近づいてくる禍々しいプレッシャー。
それはあらゆる怨念を纏っているかのように暗く、湿り気があり、何よりも重たい。
あまりの重圧感に思わず足が後ろに行こうとして———何故か、止まった。
いや、実際ロドルフの足は僅かに半歩後ろへ下がっている。
しかしティノやルーダ、グレッグ、ギルベルトは不思議とその重圧に耐性が出来ていたのだ。
いや、そもそもこの重圧は———。
「これは……まさか」
「訓練場の……?」
そう、訓練場だ。
ギルベルトとの試合と称して行われた、三人に対しての力試し。
そこで受けた試練はまさしく、こんな感じの重圧に耐えられるかどうかの試練だった。
先ほど思い出していた通り、レベル6宝物殿相当のマナ・マテリアルの濃度を再現した魔法だと言っていた。
そしてティノがレベル6の宝物殿でもここまでの威圧がないと言って———
———この重圧は、ちょっと訳アリだから。
瞬間、ギルベルト、ルーダ、グレッグの背には悪寒が走っていた。
同じだ。同じなのだ。クライの神算鬼謀を見せられた時と、感覚が全く同じ。圧倒的なまでの力量ではなく、正体不明という未知による畏怖を三人は感じさせられている。
千導は、ギルベルトに勝負を挑まれたその瞬間にここまでの展開を読んでいたのだ。
そう考えればギルベルトの勝負を受けたのも、あの訓練場での出来事も、その結果重圧に気圧されず立ち向かうことができているのも、全てに辻褄があう。
これが千導。
千の試練を導く者。
そしてその千の試練を与える者もまた、前へと歩みを進める。
「僕が最低限盾にはなるよ。ティノ、後は分かるね?」
「は、はい! ますたぁ! このティノ・シェイドにお任せください!」
それが最後の一押しとなった。
失いかけた戦意が見事に息を吹き返す。
「ロドルフとギルベルトは前へ、グレッグはそのサポート。私が牽制しながら隙を突くからルーダはマスターの後ろにいて適宜そのサポート」
「おうッ! 任せろ!」
「ったく……ここまでお膳立てされてちゃ、逃げる訳にもいかねえな!」
「分かったわ!」
「お、お前たちは一体……いや、今はそれどころではなかったな」
ティノの指示によってすぐさま陣形が組まれ、迎撃態勢が整った。
唯一理解が追いついていないのはロドルフだ。
しかしその士気の高さが蛮勇でも空回りでもない本物だと理解して、ティノの指示通り前衛で武器を槍を構えた。
薄明りのみがぼんやりと照らす中、それはついに現れる。
禍々しい重圧と共に、顔全体を人間の頭蓋骨で覆った人型の幻影が曲がり角から姿を見せる。
今まで戦ってきたウルフナイトよりも遥かに小柄で、狼の耳こそ生えているもののそれ以外は人型の幻影。
ロドルフから聞いていた通りの幻影が、ついにその姿を現したのだった。