嘆きの亡霊は引退させない※リメイク版投稿、本作品は7月26日に削除します。 作:型破 優位
「先程訓練場に突然高濃度のマナ・マテリアルが検出されたとの報告がありましたが———アルスさん、もしかして何かしましたか?」
「まあね……あ、勘違いはして欲しくないんだけど、今回は何も壊してないよ! いや、本当に! あの時はリィズとルークが飛び込んできたからあーなっただけで———」
クランマスター室に戻った俺は、再び宝具のチャージに勤しんでいた。訓練場で使ったのは、俺の魔力(マナ)で訓練場を常に満たし続けて濃度を上げることで、擬似的な宝物殿を作り出す魔法だ。
文脈だけ見ればアウトな魔法だが、地脈に干渉してる訳でもなければ本当に宝物殿が顕現する訳でもないのでギリギリセーフだと思っている。
……本当に地脈に干渉してないのかは分からないが、クライは「アルスなら大丈夫だよ、うんうん」とか言ってたから結果的には大丈夫なんだろう。
不安しかねえな。
ちなみに魔法で再現してる———正確には、再現しようとしている———のはただの宝物殿ではない。
俺が再現しようとしているのは、かつてクライ以外全滅してしまったレベル10の宝物殿、『迷い宿』だ。
あそこは世界が変質する程マナ・マテリアルが濃い場所であり、当時の俺たちでは器が足りずにマナ・マテリアルに酔ってしまっていた。
言うなれば先程の訓練場は、レベル6の『迷い宿』という訳だ。
ちなみにクライには効かない。
何故ならマナ・マテリアルの吸収率が一般人未満だから。
それがあの場面だと「この状況下でも平然としている男」に早変わりするのだから面白い。
報告を受け取ったエヴァからはジトッとした目を向けられているが、今回俺は悪くない。
だから怒らないで欲しいな……エヴァ怒ると怖いから。
「……まあまあエヴァ。アルスもわざとやった訳じゃないんだから」
「庇ってくれてありがとうな、クライ」
「……どちらかといえば煽られてませんか?」
いいや庇ってくれてるんだよ。
もし煽りだったらその結界指一個消費してやる。
チャージするの俺だけど。
ちなみにクライは今、ティノたちが向かった『白狼の巣』の資料をエヴァから渡されてため、頬杖付きながら流し読みしている。
「……全身血に濡れた狼の『幻影』が現れ始めたのが今から十年前ねぇ———こっわ! これ絶対怨念だよ!」
「そんなに怯えなくても……」
バサッと資料を机の上に投げたクライ。
エヴァはその光景を半笑いで見つめていた。
「よりにもよって歴史反映タイプかよ。業が深いからなぁ」
「白狼の巣か……確か素材目的で乱獲されてたシルバームーンの生息場所だったよな」
宝物殿にも幾つか種類がある。
その場所とは全く無関係に出現するもの。
出現場所の環境、特色を色濃く残すもの。
その場所に残された歴史を反映するもの。
そして、二番目と三番目の複合タイプ。
どうやら白狼の巣は四つ目の複合タイプらしい。
「そうそう、嫌なんだよねぇこういうの。もっと平和な宝物殿とか無いのかな」
「宝物殿に平和も何も無いと思うんですけど」
エヴァのツッコミは尤もなんだが、クライの場合は意味合いが少し違う。
クライの場合、僕一人でも簡単にクリア出来て、尚且ついい宝具が手に入る宝物殿が欲しいって意味だ。
「ねぇアルス、宝物殿作ってよ。珍しい宝具が出るやつ」
「……実は俺も再現はしてみたいんだよな」
「!? 絶対にやめてください! 帝国法違反ですよ!」
珍しい宝具はともかくとして、本当に宝物殿が出来るのかどうかは確かめてみたい。
……という話を一回シトリーにしたら、凄くキラキラした目で詰め寄られたからやらないけど。アイツ、こういうこと好きだからなぁ。
普通に前科あるし、余罪が服着て歩いているような存在だ。
今もなんかやってるみたいだし……触らぬシトリーに祟りなしだ。
……ないかな、祟り。
触らなくても擦り付けてきそう。
ちなみにクライは祟りを産んで煽り散らかした挙句勝手に鎮めるタイプで、リィズとルークは祟りと分かったら嬉々として近づくタイプだ。
うちのパーティーは祟り神かな?
「それでエヴァ、俺も白狼の巣には行ったことないから分からないんだけど、シルバームーンの『幻影』はどうなの?」
「本物のシルバームーンよりもかなり強化されてるみたいですよ」
「ははは……それで毛皮も残んないんじゃ、やってらんないね」
幻影とは、宝物殿と同じ原理でマナ・マテリアルによって顕現した生きた幻。魔物より強い、弱いというのはないが、明確な違いが一つあり、それは破壊するとマナ・マテリアルに還元されるということ。
何も残らないのだ、まるで幻だったかのように。
クライが机に置いた資料をエヴァがペラペラと捲り始める。
先程のクライと同じペースではあるが、クライと違ってちゃんと全部頭に入ってるんだろうな。
俺も一応見ておくか。
「エヴァ、見終わったら頂戴」
「……見終わりました」
「はっや」
さすが元商人。
エヴァは帝都で商人をやっていた経験から、その情報網やコネを使って何年もクラン運営に携わっている。
ハンター家業において最も頼りになる人がアークなら、内政関係において最も頼りになる人はエヴァだ。俺の見立てではエヴァをハンターとした場合、レベル7は堅いと考えている。
いやレベル7だと俺と同列か。
有り得ないな。
それならレベル8か。
いやでもそれだとクライと同じだな。
それならやはりエヴァのレベルは———。
「エヴァがうちのクランで初めてのレベル9か……」
「!! ……奇遇だねアルス。僕も同じことを考えていた」
「……アルスさんもたまに変なこと言いますよね」
たまに変なこと言う自覚はある。
主にクライのせいだ。
人のせいにするのはどうかと考えてはいたが、これだけは断言できる。
あと全く関係ないが、魔力が少なくなってきてチャージがキツイ。
訓練場で使ったあの魔法はマナ・マテリアルに直接干渉する、正直に言って帝国法にすら触れかねない禁術だ。
地脈に干渉していない———正確には仮定だが———のに加えて、クランのために使うことはあっても表立って使うことは無いし、外部の人間でこれを知っているのはガークさんとギルベルト、ルーダ、グレッグだけだ。
あとマナ・マテリアルで満たすと言ってるだけあって、魔力(マナ)の燃費最悪だからな。
「それにしてもギルベルトのあの顔、良かったな。才能がありすぎるってのも考えものだよ」
「……お前が言うのだけは辞めた方がいいぞ」
「え、なんで?」
最年少でレベル8になった男が才能を語るとか煽りかな?
煽りだったわ、無自覚だしクライ全身全霊の本音だけど。
「ギルベルトを更正させたんですか?」
「更正なんてものじゃないよ。少しだけ鼻を明かしただけさ」
「分かりました。そういうことにしておきましょう」
「…………」
相変わらず良い姿勢でそういうエヴァに、クライも思わず黙ってしまった。
そのままの意味で言ったのにそう捉えて貰えない、クライあるあるのパターンだな。
こういう時俺は定期的にその考えを正している。
クライが何も考えてないってことを皆が知ってもらえれば、それだけ早く対処できるようになるし。
「エヴァ、君は少しクライの言葉を変に捉えすぎだよ」
「そうですか?」
「ああ、もっと素直に受け取った方が良い時だってある」
「……僕のことを分かってくれるのはアルスだけだよ」
当たり前だ。
クライが言ったことは本当に素直にやってくるからな。
たとえば今ここでクライが何かしらの依頼を受けた時に「この依頼、何か出るかもしれないね」と、言うとしよう。それを真に受けて「何が出るんだ?」と詰めたらもうおしまいだ。
あとはクライが言ったものか、それに準ずるもの、もし明言しなかったとしてもこの問答が起きた時点で何かしらが本当に出てくる。
そしてそれを人々は「やっぱり千の試練だ……」と嘆くのだ。
ちなみに千の試練とは千変万化が周りを鍛えるために課す試練のことらしい。実のところ俺も千の試練は存在してると思ってる。
いや本人も意図してないところで意味わからないこと起きてるんだから、あれは試練だろ。
俺もなんだかんだ数え切れないほど酷い目にあってる。
その度に成長もしてきたし他の皆もそうだから、さらにその噂は出回ってしまうという悪循環も生まれている。
……よし、頼まれてたチャージやっと全部終わった。
「全部チャージ終わったぞクライ」
「おお、流石はアルス。あの魔法使った後だったのに大丈夫なの?」
「今回は一分しか使ってないからな。なんとかまだそれなりに余裕はあるが」
「!! それじゃああと二つほど———」
「……一応俺、これから
「え、そうなの? それじゃあ仕方ない」
これでも俺は忙しい。
他のメンバー置いてここに来ちゃってるし、早く戻らないと痺れを切らした誰かがここに飛んできてしまう。
宝具のチャージを真っ先に行ったのもこれが理由だ。
忘れていたらこのタイミングで結界指のチャージだけでもってやらされることになる。
その場合はもちろんやるんだけど、急ぎ(結界指)が無い場合はこうやって次に回してもらっている。
「俺は今からラウンジに行く。どうしてもチャージが必要な奴が出来たらラウンジでやっとくから持ってこい」
「……いや、大丈夫。僕も少し用事を済ませたらラウンジに行こうかな」
クライの用事か……
たぶん結界指のチャージが終わったから甘味処に行くんだろうな。
凄いよなクライ。
ただ帝都を歩いてるだけなのに結界指がどんどん使われていくんだから。
「そうか。気をつけろよ」
椅子から立ち上がり、ドアノブに手をかけようとしたところで、一つ思い出す。
クライが宝物殿作って欲しいとか言っちゃったからな。
もしものことがあったらいけない。
「そういえばエヴァ。一応帝都の地脈の流れを調査しておいて」
「!? 帝都ですか?」
「帝都だよ。大丈夫、今回は本当に一応だから」
ゼブルディアは元々レベル10の宝物殿があったところだ。アークの先祖によって攻略されたが、その影響もあってか帝都は都市でありながらマナ・マテリアルは濃い……いや、少しづつだが濃くなっている(・・・・・・)。
クライが断言しなかったから可能性は限りなく低いが、調べてもらって損は無い。
エヴァが調べきれなければ誰も知ることは出来ないしな。
「それじゃあ後でな、クライ」
「うん、またねアルス」
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誰もいなくなったクランマスター室。
その一角を見ながら、エヴァは物思いに耽っていた。
気になるのは、アルスが残した一言。
帝都の地脈の流れを調査してほしい、ということだ。
今の会話の流れで何を汲み取れたのか、その先に何を見ているのかエヴァには全く想像がつかない。
アルスはこのクランで———いや、恐らくこの帝都で千変万化の神算鬼謀を読み取ることができる唯一の人だ。
先程のようにエヴァにクライの言葉の真意が違うことを伝えてくれるし、今みたいに今後どう動くべきかのアドバイスもくれる。
そしてそれらの行動が全て正解であることは、クライの言動を見れば明らかだ。
百発百中の精度ではない。
しかし神算鬼謀の大半を当てることができるというのは間違いなく、アルスも近しい視座を持っていることになる。
本人は凄く嫌な顔をするが、クライの右腕とでも言うべき存在だ。
「千導……ですか」
かつてアルスは、嘆霊の中で最も個性がないメンバーだと言われていた。魔法はルシアに、近接戦闘はルークやアンセムに劣り、シトリーの錬金術みたいに別分野で特出した才能がある訳でもない———と、思われている。
逆にそれが嘆霊の中で最も話が通じる人、という評価にも繋がっているわけだが、全てが二番煎じだとも言われていた。
それが今ではレベル8に最も近いハンターだと言われているのだからとんでもない話だ。
この数年間、クライを間近で支えてきたからこそ分かる。
宝物殿からふらっと帰ってきて、そこでクライと一言二言話しただけでその神算鬼謀に追いつくその知略こそ、アルスの真骨頂なのだ。
「まずはこの帝都で何か起きているのか、調べる必要がありますね……」
アルスが念のためと言っていたので本当に念の為なのだろう。しかしその懸念があたってしまっていた場合、帝都壊滅ということすら起こり得る。
情報を貰っていながらそんな事態を起こしてしまうなど、末代までの恥だ。
クライが座っていたクランマスターの席、そしてアルスが座っていたソファーに目を逡巡させて、アルスに言われたことを遂行するために部屋を出ていった。