嘆きの亡霊は引退させない※リメイク版投稿、本作品は7月26日に削除します。 作:型破 優位
ここのラウンジは本当に過ごしやすい。
飲み物や軽食が無料で出るので寛ぐには最適だ。
俺もクランに帰ってきたら絶対に寄っている。
たまに迷える者も何人かいるしな。
ラウンジ内を見渡しながら万魔の城へ行くための英気を養っていると、ふと見慣れた顔がこちらに来ていた。
「アルスじゃねぇか」
「お、スヴェンか」
スヴェン・アンガー。
始まりの足跡の創設パーティーでもある『黒鉄十字』のリーダーでレベル6のハンターだ。
弓使いということもあり下に見られがちだがこれでもレベル7目前の実力者で、『嵐撃』という二つ名もついている。
「どうしたんだアルス。探協の依頼を受けていたんじゃねぇのか」
「ああ、クライのことでちょっとな。今日にはまた出るつもりだ」
「クライのこと……おい、それは俺たちにも関係することじゃないよな」
「さあねぇ……千の試練が誰に降り掛かるかなんて分からんからな」
「せめて否定しろよ! アルスが否定しない時はだいたい千の試練があるんだぞ!」
巫山戯んじゃねぇぞクライ、とスヴェンが憤慨しているが、残念ながら冤罪だ。今はまだ、と枕詞がつくけど。
というか、隣の
「それよりスヴェン、隣にいるのは新メンバーか? 俺会ったことないよな」
「新メンバーだがそんなに前でもないぞ……ヘンリク」
そんな前というが、前回訓練場で戦った時はいなかっただろ。
あれ確か半年前とかだから、そこから会ってなかったとしても不思議では無い。
意外と俺も忙しいし、黒鉄十字だって忙しいのだ。
「ヘンリク・ヘフネルです。治療術師をやってます」
「アルス・ライアームだ」
やっぱり治療術師か。
黒鉄十字は治療術師のパーティーでもあるからな。
レベルは見たところ4か5程度。
黒鉄十字にしては少し低いかもしれないが、まあスヴェンが見込んだ人材なら腕は確かなんだろう。
若干の幼さを残している顔は俺の名前を聞いて驚いたような顔をしている。
「アルス・ライアーム……もしかして、レベル7の『千導』ですか?」
「一応な」
ちなみに俺としては千導という二つ名の意味を聞いた時、思わず吹き出してしまった記憶がある。
なんやねん、千変万化が課す千の試練の導き手って。
導いたことないわ、やめてくれ共犯者に仕立て上げるのは。
千変万化の神算鬼謀を伝え先導していく者もおかしいけどな。
俺の今の二つ名の意味ほとんどクライ関係じゃねえか。
ちなみに前の二つ名だった先導はパッとしないかもしれないが、俺的には良い二つ名だったと思っている。
何と言ってもハンター達の先頭に立ち、あらゆる手法を用いて導く者って意味だからな。
おかげで暫くは前衛だと勘違いされたが、今のクライに依存してる二つ名よりはマシだ。
「スヴェンはこれから依頼か?」
「いや、訓練場を借りて特訓でもしようかと思っていたところだ」
訓練場か。
そういえば黒鉄十字って後衛職ばかりだし、俺もやってみたいことがあるんだよな。
魔力は……まあ、なんとかなるだろ。
「なら俺が相手になろうか?」
「……はぁ? いやお前、万魔の城に行くんだろ? それにクライのことで何かあったんじゃないのか」
「それはもう終わった。おかげで魔力が半分ぐらい無くなったけどな」
「巫山戯ないでください。そんな状態で僕たちの相手なんてできる訳が———」
「……いいやヘンリク、千導は本気で言ってるぞ」
そりゃ巫山戯んなって思うわな。
俺だってそんなこと言われたら巫山戯んなって思うけど、スヴェンは付き合いの長さ的に俺が真面目に言ってるのが分かってくれて有難い。
「……良いんだな、アルス? 手加減はできないぞ」
「勿論。黒鉄十字にとって間違いなく意味のある特訓になる」
「それなら頼む」
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「……アルスお前、何をしたッ!」
訓練場で黒鉄十字と特訓すること数分、スヴェンがこちらを睨みつけながら唸った。
他のメンバーも同様に、何が起きたのかを理解しようと鋭い眼差しを向けている。
ただ一人、ヘンリクだけは黒鉄十字がたった一人のハンターに完封されている現実に呆然としていたが。
俺がやってることは結構単純だ。
ギルベルトたちに使った魔法の応用———いや、むしろ基礎か?
どちらでも良いが、一応技術としては持っていたものだ。
「攻撃が……当たらない……」
「スヴェンの攻撃まで弾かれるなんて……もしかして、千変万化の絶対防御……?」
「いや、クライの絶対防御とは違う」
だがそれがあまりにも見慣れないものだったからか、何故か会議が始まってしまった。
まあ訓練だから別に良いんだけどさ。
不意に、スヴェンから漆黒の一矢飛んできた。
スヴェンの『嵐撃』は竜の鱗すら貫く威力を誇る。
正直元々の魔力が無い中でスヴェン級の攻撃を弾くのは結構キツイんだが……まあ、まだ行けるな。
ズガンッという衝撃音と共に弾かれた黒い矢は、まるで生きているかのようにスヴェンの矢筒へと戻って行った。
相変わらず凄まじい弓捌き……弓捌きで済ませていいのかは分からないが、レベル6に相応しい技術だ。
「この弾かれ方は……魔力障壁か……?」
「正解」
流石はスヴェン。
伊達に竜殺しはしてない。
この魔力障壁はドラゴンなどがよく使う魔法として知られており、魔力を魔法という形を取らずにそのまま射出して壁にする魔法だ。
正直魔法といっても良いのかどうかも怪しいが、一流の魔導師なら扱うことができるものの燃費の悪さから使わないものでもある。
ちなみに今回擬似的な宝物殿を作る例の魔法は禁止だ。
スヴェンがいるとなると俺も本気を出さざるを得ないし、そうなったらスヴェン以外動けなくなって特訓にならなくなると言われてしまった。
「スヴェンの攻撃すら通らない魔力障壁とか冗談でしょ……」
「……ヘンリク。これが『
「……はい、スヴェンさん。正直想像を超えてました」
そんな人外を見たような感じで見られても困るし、そんなこと話ながらスヴェンは弓を撃ち続け、魔導師のマリエッタは『
まあ実際魔力障壁を突破するには使用者の魔力を枯渇させるか、圧倒的火力で突破する、後は魔力障壁の力場を壊すぐらいだろうか。
実力に差がある場合、どれも容易なものではない。
「ドラゴンと戦ったことがあるといっても、それ以上の魔力障壁の使い手と戦うこともある。今のままではそういう時に打つ手がないということだ———スヴェン、どう思う」
「……なるほどな。今の俺たちの弱点というわけか」
まあ実際弱点というわけでもない。
ドラゴンすら倒せる黒鉄十字が火力不足と言われていたら他のハンターの面目もないしな。
ただこれから高レベルの宝物殿を攻略するためには必要なのかもしれない。
実際に万魔の城では火力不足になると思うし、俺以上の魔導士と戦うことだってあるかもしれない。
とりあえず試したいことはできた。
魔力障壁そのものは実戦レベルで使えることは分かった。ずっと展開することも可能ではあるが、流石の俺でも常に展開するのは疲れる。
擬似的な宝物殿を作る魔法ほどでは無いにしても、魔力消費量が半端ではない。
……いやそもそも戦闘中に使う魔法ではないんだけどさ。
特に魔力を身に纏うというのは結構難しくて、俺も擬似的な宝物殿を作る魔法を使ってなければもっと早く魔力が枯渇していたことだろう。
俺の魔力操作込みでルシアと同程度の時間が限界といったところか。
……もしかして俺、ルシアと並べられるだけでも凄いのでは。
「スヴェン、もしかしてこれが噂の千導ですか?」
「ああ、そうだ……だが忘れるなよ。コイツもまた『
「へぇ……スヴェン、今の言い方はちょっと良くないんじゃないか?」
なるほどなるほど。
スヴェン、やっちまったって顔をしてももう遅いぞ。
嘆霊の評判が良くないのは事実だが、その言い方は流石に看過できん。
「嘆霊を蔑称に使うとは良い度胸じゃねぇか」
「いや、悪かった! そんなつもりはなかったんだ!」
「でも、そうやって言われるようなことをしてきたのはそっちじゃない……」
「馬鹿ッ! やめろマリエッタ!」
聞こえたぞマリエッタ。
あまり明言はしてこなかったが、俺は嘆霊のことが大好きだ。
幼い頃から帝都最強のハンターを志し、苦楽を共にした俺の最高の仲間たちなんだぞ。
確かにうちのパーティーには問題児が多いが、全員目標に向けて真っ直ぐに頑張れるいいヤツらなんだ。
そんな嘆霊のことを俺の前で侮辱するとは黒鉄十字、万死に値する。
恐らく俺の心境の変化を感じ取ったのか、スヴェンが僅かに瞠目して弦を引き絞った。
そのまま射出された漆黒の矢は、迅速の弓捌きによってさらに四連続射出。合計五つの矢が俺に向かって放たれた。
先程までは着弾の度に魔力障壁で弾いていたが、もうその必要は無いだろう。
喧嘩を売ったのは、『黒鉄十字』なのだから。
先程までは使ってなかった強化魔法のうち、身体強化、魔力強化を自分へとかける。
俺の得意分野は強化魔法と弱化魔法。
その二つの練度であればルシアを超えている自負がある。
そしてその二つを使った俺は、前衛として戦うことができるようになる。
あらゆる魔法を扱って支援を行いながら、時に後衛で、時には前衛で戦い導く。
故に、先導。
飛来するは竜すら貫く一矢。
まさしく『嵐撃』と呼ぶに相応しい一撃を、俺は全て掴み取った。
「嘘でしょ!?」
「ッッッッたくよぉ!! 『絶影』には避けられるし『千剣』には切られるし、挙句の果てに『千導』には掴み取られるとか、自信無くすっつうの! 合わせろマリエッタ!」
「!! 了解!」
今度は三連撃とマリエッタの『
ソニックブームを伴うそれは常人であれば掠るだけでも致命傷になり得るが、俺にとっては普通の矢と何も変わらない。
マリエッタも優秀な魔導師ではあるがレベル5のためスヴェンの射出速度に魔法が間に合わず、低級の『炎の矢』を合わせるだけで精一杯ってところか。
これくらいであれば余裕で対処出来る。
スヴェンの『嵐撃』は再び全て掴み取り、マリエッタの『炎の矢』は同じく『炎の矢』で相殺。
真正面からぶつかりあった炎の矢はゴウッという音を立ててその場で爆散した。
マリエッタは杖もなしで同じ威力の炎の矢を放たれたことに一瞬呆然としてしまい、スヴェンが苦言を呈する。
「なんっでもありかよ!」
「そりゃ魔導師だし相殺ぐらいできるさ」
「魔導師が矢を素手で取るんじゃねえ!!」
それは尤もな意見だが、今ここにおいては間違っている。
実際にそれをやっている奴が目の前にいるのだから、それが現実だ。
ターン交代。
今度は見せつけるように轟々と燃え盛る炎の鳥を顕現させる。
炎の矢は低級の火魔法で初心者から上級者まで幅広く使う一般的な攻撃魔法だが、この『炎撃飛燕』は見ての通り鳥のような形を模しており、まるで意思があるかのように追尾するのが特徴の魔法だ。
それを十体顕現させる。
というか正直今の魔力では十体出すのもかなりキツイ。
「千導って支援魔法メインじゃないの!?」
「支援魔法メインなだけで、攻撃魔法が使えないとは言ってないぞ」
「全員防御に専念! 俺が撃ち落とす!」
本当にスヴェンは流石だな。
レベル5の魔導師では俺の『炎撃飛燕』を撃ち落とすことはできない。ただし防御することはできるだろう。
その判断を瞬時に且つ的確に下し、メンバーが呼応するからこそ黒鉄十字は堅実と呼ばれているのだ。
炎の鳥が音速を超えて黒鉄十字へと飛来する。
ただ一直線に、という訳ではない。
右へ左へ、さらには背後に旋回するなど全方位から不規則に襲いかかる。
常人には空中に炎の線が描かれているようにしか見えないだろう。
だが高速で飛来する鳥は、一羽ずつ漆黒の矢に貫かれていった。
俺が言うのもあれだが、レベル6というのは化け物の領域だ。
その中でも特に、弓使いでありながら二つ名を持つスヴェン・アンガーは、アークや嘆霊さえいなければ世代最強とまで言われているほどの実力者。
高速で飛来する鳥ぐらい、簡単に撃ち落とせるだろう。
しかし俺もレベル7の魔導師だ。
レベル6が対応できる程度の攻撃をしていては、レベル7の格が下がってしまう。
漆黒の矢で貫かれた炎の鳥は火の粉となって地に堕ちる———ことはなく、すぐに結集して二羽の鳥へと変化した。
大きさは先程の半分程度。
それでもスヴェンの表情を驚愕に染めるには十分だったらしい。
舌打ち一つ、『嵐撃』で分身した炎の鳥含めて一羽ずつ正確に撃ち抜いていく。
最初に顕現した十羽は撃ち抜くと分裂するが、分裂した後の鳥を再度撃ち抜けば火の粉となって消失する。
別に維持することもできなくは無いけどやる必要もないかな。
スヴェンも一応気が付いているが、その表情は非常に険しい。
このまま撃ち落とされてしまえば、言ってしまえば俺の負けだ。
訓練とはいえ俺に負けは許されていない。
分裂して二十羽いた鳥は既に残り七羽。数秒と飛来させていないのに弓でここまで減らされるとは流石としか言いようない。
だがそれは俺が攻撃せず、ただ周囲を飛来させていたことが原因でもある。
周囲を高速で旋回していた七羽の炎の鳥は急に進行方向を変え、一気に黒鉄十字へと肉薄した。
その速度からスヴェンも全て撃ち抜けないと即断。
メンバーと同様に防御魔法の展開を始めた。
ちゃんと防御魔法が展開されたのを確認して着弾。凄まじい轟音と共に、熱波と砂煙が訓練場を包んだ。
……どうやらちゃんと防ぎ切ったようだ。
分裂した炎の鳥は、その見た目の通り威力も半減している。
黒鉄十字のレベルともなれば対処は容易だろう。
ふと、砂煙の中から、こちらに向けられる敵意を感じた。
このタイミングで反撃しようとしてくる気概は恐らくスヴェンのものだ。
まさしく一矢報いたいといったところだろう。
しかしそれをさせる訳にはいかない。
持っていた漆黒の矢を持ち直し、腕と手首のスナップを効かせてスヴェンたち目掛けて全力で投じた。
音速を超えたそれは訓練場を埋めつくしていた砂煙に一瞬の渦を巻き、一気に蹴散らして黒鉄十字へと飛来する。
まさかの一撃に次点の矢を番えていたスヴェンは目を見開くことしかできず、展開していた防御魔法に直撃。
数瞬の拮抗の後、防御魔法は決壊した。
砂煙が晴れた先には、壁に突き刺さる漆黒の矢と、矢を番えたまま冷や汗を流すスヴェン、そして魔力を使い切ったのか肩で息をしながら地面に伏せる黒鉄十字のメンバーたち。
一応、確認はしておくか。
「……勝負あり、で良いか?」
「ああ、完敗だよ……ったく、魔力半分しか残ってないって言ってた癖に、どうなってやがるんだ嘆霊はよぉ……」
「……これで、魔力半分……? 冗談でしょ……」
俺としてもここまでやるつもりはなかった。
おかげ様で少し頭が痛い。
この後万魔の城に行くんだよな俺……ある程度はどうにかなるとは思うけど、場合によってはシトリーにポーション貰おうかなぁ。
あのポーション、飲むと気を失うレベルで辛いんだよな。
慣れたけど。
ルシアが魔力枯渇と無縁になってきたこともあって、最近では俺が一番あのポーションを飲んでいるし。
「でも『千導』がいてくれて助かった。『絶影』や『千剣』だったら訓練にすらならなかったからな」
「まあ俺も色々試せたし訓練にはなった」
他の嘆霊相手だと訓練場が壊れてしまうからなあ。
リィズとルークはもう言わずもがな、ルシアも理知的に見えて結構脳筋みたいな戦い方をするし、シトリーは試作品を試そうとしてくるし、アンセムはそもそも訓練場に入らない。
そう考えると黒鉄十字って本当に常識人が集まってるんだな。
とても同じクランメンバーとは思えない。
「だが大丈夫なのか? これから万魔の城に行くんだろ?」
「んー、ほとんど魔力は残ってないけど……まあ、いつも通りだな」
「あのなぁ……仮にもレベル8宝物殿だろ。それでいいのかよ」
「そうは言っても慣れたからな。それに宝物殿のボスは剣士タイプでさ、ルークが「俺が斬る!」と言って聞かないんだよ。だから湧いてきた幻影相手するだけなんだよね」
「……はぁ、千の試練を受け続けるとこうなるってことか……?」
失礼だな、今回は自主的な奴だよ。
その考えが既に染まっていると言われれば、まあそれはそうかもしれない。
基準は何だって身近な物になるのは道理だろう。
「それじゃあ俺はエヴァに挨拶してから万魔の城に行くわ。スヴェンたちはどうする?」
「俺らは少し休憩だ。気をつけていけよ」
さて、クライはどうしているのだろうか。
あの感じだとたぶんラウンジに向かっているだろうが、普段のクライであれば何かしらそこで一悶着起きる。
これは念の為にエヴァに確認しておかないといけないか。
もし何かあるとすれば、まあ間違いなくあそこだろう。
「……白狼の巣、ヤバそうだなあ」
お気に入り、評価ともにありがとうございます。
おかげさまで「嘆きの亡霊は引退したい」の二次創作の中で最も評価の高い作品となりました。
作品では説明が遅くなると思うので、ルシアとアルスの比較について解説
魔力量 ルシア>>>アルス
魔力制御 ルシア<<アルス
攻撃魔法 ルシア>>>>アルス
支援魔法 ルシア<<<アルス
魔法の種類 ルシア>アルス
攻撃魔法の範囲 ルシア>>>>アルス
魔法の腕としてはこんな感じ。
お互いにオリジナル魔法は持っていて、アルスはルシアが使うオリジナル魔法を「容量の無駄」と覚える気はなく、ルシアはアルスが使うオリジナル魔法の大半は模倣できるものの、擬似的な宝物殿を作る魔法だけは再現できていない。
基本的に魔導師としての腕前はルシア未満だが、支援魔法に関してはルシア以上。