嘆きの亡霊は引退させない※リメイク版投稿、本作品は7月26日に削除します。   作:型破 優位

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罰ゲーム⑤

 

 

 

 

「クライさんなら先程、宝物殿に行かれましたよ。『夜天の暗翼(ナイト・ハイカー)』で」

「……マジで?」

「はい、大マジです」

 

 

 クランマスター室に入ったら、エヴァからとんでもないことを聞かされた。

 クライが、宝物殿に……?

 何の冗談だと言いたいが、こういう時エヴァが冗談を言うはずもない。

 でも本当に、どういう気の変わり方なんだ?

 しかも夜天の暗翼って、いくらクライが宝具を使うのが得意って言っても操縦できるものではないはず。

 伊達に人間ロケット事件を起こした宝具ではない。

 

 エヴァに聞こうと思って口を開こうとするが、何やらエヴァが気まずそうな表情を浮かべていた。

 

 

「どうした、エヴァ? 何か気になることでもあるのか?」

「い、いえ……その、あると言えばあるのですが……」

「……?」

 

 

 珍しい。

 エヴァがここまで言い淀むなんて———クライ、何をしようとしている?

 正直俺も情報が無ければクライが今後起こすだろう事態を予測できない。

 クライが起こすことは基本想定外だ。

 だが情報を持っていれば本当にギリギリ納得できる状況となり、それが神算鬼謀たる所以として名声に変わる。

 しかし今回の件、皆目検討も付かないぞ。

 

 

「……白狼の巣、か」

 

 

 考えても仕方ないといえば仕方ないが、起こり得ることは全て頭の中に入れておくべきだろう。

 まず今回の試練が誰に降りかかるのか。

 十中八九、ティノたち四人だろう。

 つまり難易度で考えれば俺が向かえば終わりになる……のだが、今の俺は魔力が心許ないことに加えて、シンプルに俺に降りかかる可能性だってある。

 まあクライのためになるなら俺でも良いんだけどさ。

 

 あと気になるとすれば夜天の暗翼の存在か。

 ちゃんと白狼の巣にまで行ければ良いが、操縦誤って飛び込んだ場所が秘密結社のアジトだった———なんてパターンもある。

 

 

「うわぁ……秘密結社とか本当に有り得そう……」

「!? なんの話をしてるんですか……?」

「あ、いや、こっちの話」

 

 

 思わず口に出てしまった。

 でもクライの場合、そういう突飛なことが結構よくある。

 どちらにしても俺も見に行った方が良さそうだ。

 

 

「 エヴァ、ちょっと俺も———」

 

 

 行こうかと思う。

 その言葉は、バルコニーに現れた気配によって遮られた。

 エヴァが急に言葉を止めてバルコニーに目をやる俺に不思議そうな表情を向けながらも、同じようにバルコニーへと目を向ける。

 相変わらず早いな。

 バルコニーに着くまで気配を感じることすらできなかった。

 

 

「クライちゃーん! ただいまー!」

 

 

 バンッと勢いよく扉が開かれてまず目に入るのは、月明かりに照らされて煌めくピンクブロンドの長髪。

 そしてハンターであれば次に感じるのが、迸るようなマナ・マテリアルだ。

 『嘆きの亡霊』の盗賊、影すら残さぬ迅速、故に『絶影』。

 

 

「あれ、アルスちゃんにエヴァちゃん。やほー」

「やっほー」

「やっほー」

 

 

 気の抜けた挨拶に対して、俺とエヴァも返す。

 そこにいたのは、レベル6ハンター、『絶影』のリィズ・スマートだった。

 ……いやなんでよ。

 まだ万魔の城の攻略してるはずでしょ。

 

 

「あれ、クライちゃんいないのー?」

「クライさんなら今、宝物殿に向かってます」

「え、そうなのー!? クライちゃんが宝物殿に行くなんて珍しいね! 何かあったの?」

「はい、ティノさんが渡した依頼で少し気になることがあったみたいで———」

「あ、エヴァちょっと———!」

「……へぇ?」

 

 

 あ、終わった。

 エヴァもリィズの顔を見てしまったって顔してる。

 リィズはクライのことを本当の意味で全肯定ウーマンだ。

 クライが烏は白いといったら白いし、ティノならその依頼をクリアできると言ったらできる。そしてそれが出来ないのは当人の問題だ、という考えを地で行っているのだ。

 

 そんなリィズが、よもや弟子であるティノがそんなことも出来なかったからクライに迷惑をかけた、と捉えられるような発言をしたら———

 

 

「アルスちゃん。ティーは今どこ? リィズちゃん、大事なお話をしないと行けないんだけど」

「白狼の巣だよ」

「ありがとね。ちょっとリィズちゃん、行ってくるね」

 

 

 リィズはそう言い残すと、開けたままのバルコニーから飛び出て行った。

 嵐が去ったかのように、バルコニーから冷たい夜風が入り込みクランマスター室の火照った空気を洗い流す。

 エヴァはギギギギとでも擬音が付きそうな音で首をこちらに向けていた。

 リィズ、むちゃくちゃキレてたからな。

 一人称がリィズちゃんになっている時は俺でも止められん。

 止められるのはクライだけだ。

 

 

「リィズさん、むちゃくちゃ怒ってましたね……」

「怒ってたなぁ……」

「ごめんなさいアルスさん……余計なこと言いました……」

「いやあれは避けられない。クライが宝物殿に行った時点で確定してたことだよ」

 

 

 ティノにはせめて無事であることを祈るとしよう。

 合掌。

 

 さて、これから俺もどうしようか。

 リィズが行っちゃったから何があっても大丈夫なんだろうけど、今度はティノが心配だ。

 万魔の城にはまだパーティーメンバーもいるし、リィズが戻ってきたってことはある程度攻略も終わったってことだろう。

 俺が戻らなくても———まあ問題はないか。

 

 

「エヴァ、予定変更だ。俺も行ってくる」

「そうですか……気を付けてくださいね」

 

 

 それはクライの千の試練のことなのだろうか、それともリィズのことだろうか。

 真意は分からないが、俺もまたバルコニーから飛び出して、真っ暗な闇の中を白狼の巣へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 レベル3宝物殿『白狼の巣』。

 そこは確かに、異常という他なかった。

 まず白狼の巣への向かうまでの道中。

 特別何があったとかそういう訳では無いが、ティノたち中堅のハンターでも分かるほど得体の知れない空気が流れていた。

 

 そしてその得体の知れない空気は、現実となってティノたちに襲いかかる。

 まず白狼の巣の『幻影』。

 シルバームーンは狼の魔物であり、その歴史を反映している白狼の巣の『幻影』もまた狼だ。

 しかしティノたちが出会った『幻影』は、針金のような真紅の毛皮に、ピンと立った犬科特有の耳と臀部からは同色の太い尾以外、何もかも狼とかけ離れたものだった。

 まずその獣の大部分は血のように赤い甲冑に覆われていた。

 手甲で保護された手には大きな剣を持ち二足歩行で佇むそれは、狼というよりも狼人間と評するのが正しい風貌であり、そしてその強さは決してレベル3の宝物殿にいていいものではなかった。

 

 マナ・マテリアルの濃度が濃くなったことによる、『幻影』の進化。

 ハンターにとって恐れるべきイレギュラーなことであり、探協からそういった情報が無いことから、今まさに異常事態が起きているということになる。

 そうなれば本来のレベルなど全く参考にならず、ある程度経験を積んだハンターであれば即時撤退を選ぶべき状況だ。

 

 そんな中ティノたち、通称闇鍋パーティーは今、宝物殿の()()()()

 

 

「はあぁっ……煉獄剣にマナがあったらなぁ」

 

 

 異常事態が起きてるはずの宝物殿探索は、軽口が叩ける程度には順調だった。

 狼人間———仮称、ウルフナイト———は確かにレベル以上の幻影ではあったものの、狼が作った巣にその倍以上の体躯が入っているのだ。

 少し剣を振れば壁や天井に当たってしまうためその動きは予想以上に鈍重だったこと、数は四体、五体程の群れで動いているもののチームワークは皆無であったことが幸いして、一切の痛手を負うこともなく探索できている。

 ギルベルトの嘆きは、精神的余裕の現れでもあった。

 

 

「ギルベルトに宝具はまだ早い。宝具に頼れば腕が錆び付く。だから私もまだ持っていない」

「……お前、まだ宝具持ってなかったのか」

 

 

 そしてこの少女の傲慢な態度にも慣れた———というより、その傲慢な態度に足る実力があることを彼らは認めていた。

 ティノ・シェイド。

 彼女は本来、索敵や牽制などを行う盗賊だ。

 剣士並みの近接能力は当然持っておらず、たとえばレベル4の盗賊とレベル3の剣士が戦えば、通常はレベル3の剣士が勝つ。

 盗賊とは探索八割、戦闘二割程度の活躍が期待される役割なのだ。

 

 しかしティノはこのパーティーにおいて、剣士のギルベルトやグレッグを遥かに上回るウルフナイトの討伐数を誇っている。

 まず純粋に身体能力が高い。

 先日のパーティー募集で起きた乱闘騒ぎではその身体能力でギルベルトやグレッグ含めて全てを殴り倒し、今も索敵、牽制、アタッカー全てをそつ無くこなしている。

 

 そして何より、被弾を全く恐れていない。

 ティノは盗賊の中でも一際軽装のハンターだ。

 いくら身体能力が高いとはいってもウルフナイトの一撃を喰らえば致命傷は避けられない中、その全ての攻撃を紙一重で躱す姿は同じレベルのギルベルトやグレッグ、そして同じ盗賊のルーダから見ても異常の一言だった。

 

 どう考えても認定レベル以上の実力が、その小さな身体には備わっていたのだ。

 

 

「宝具はあくまで切り札。普段の戦闘で使うべきではないし、使わなければ勝てない敵と戦うべきではない。マスターからの今回の依頼はそれをお前に教えるという意図もあるはず」

「な、なるほど……」

 

 

 その声音には多分の呆れが含まれていたが、今のギルベルトはそれを真摯に受け入れる。

 それだけ訓練場での出来事はギルベルトにとって大きいものだった。

 

 

「あと『嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)』ではアルスお兄さまも宝具を持っていない」

「そうなのか!?」

 

 

 出てきた名前に、周囲を警戒していたグレッグとルーダも思わず耳を傾ける。

 今回の依頼をアルスが持ってきたことは既に全員が知っている。

 そしてこれが『千の試練』であること、さらにあの訓練場での出来事が『千の試練のヒント』であることもまた、ティノから教えられていた。

 彼らの中では今最も身近な高レベルハンターの一人と言えるだろう。

 

 

「アルスお兄さまの場合、宝具によって自分の選択肢を消すことはしたくないと言っていた」

「選択肢を……消したくない?」

「そう。魔導師だから杖の宝具を持つ、剣士だから剣の宝具を持つ。それは一見正しいことかもしれないけど、それを当たり前だと思ったら成長はそこで止まると言っていた」

 

 

 つまり魔導師が剣の宝具を使って近接戦をしても良いし、剣士が杖を使って魔法を使うのも選択肢の一つだと言っているのだ。

 ハンターとして非効率かつ非常識も良いところではあるが、ギルベルトたちはその意見を真っ向から否定することができなかった。

 現在進行形で目の前にそれを体現している(ティノ)がおり、そのおかげでスムーズに探索ができているが故に。

 

 

「だからアルスお兄さまは宝具を使わないし、私もお姉さまにそう教えられている」

 

 

 実際のところティノの育成方針に関しては、『私がやってきた修行をやれば強くなる!』というリィズの考えで行われているだけなのだが、それをティノは知らない。

 この場においては、非常に説得力のある言葉となってギルベルトたちの心に刻まれることとなった。

 

 

「……話は終わり」

 

 

 突如としてティノが立ち止まる。

 睨みつけるような視線の先を追って、まずはルーダが、そして次にグレッグとギルベルトがその理由に気がついた。

 道に置いてあった明るい石を頼りに奥を確認すると、道の先の天井と壁が開けていたのだ。

 

 ボス部屋が、近い。

 

 ティノがパーティーメンバーの表情を確認していく。

 グレッグは流石ベテランとだけあって問題なさそうだ。

 ギルベルトとルーダも疲労が滲んではいるものの、まだまだ体力的には余裕があるように思える。

 ギルベルトはその視線の意味を理解して、強く拳を前へと突き出した。

 

 

「俺はまだまだいけるぞ」

「私も……まぁ、あと数戦なら問題ないわ」

 

 

 ルーダもまた強く頷く。

 宝物殿において安全な場所な何処にもない。

 休む時に休むべきだという話もあるが、コンディションは悪くなく勢いがあるならその勢いを捨てるのは愚の骨頂だろう。

 判断は一瞬。

 

 

「ボス部屋を確認する。救助対象はこの近くにいる。助けたらすぐに帰る」

 

 

 簡潔かつ的確に、指示を出す。

 全員静かに頷き、道の端をゆっくり足音を立てず歩き出した。

 数メートル間隔で置かれている光る石は、恐らく救護対象が置いているものだ。

 つまり彼らはこの先にいる。

 

 情報は有限であり、生命線だ。

 聴覚と視覚、嗅覚は常に異常を察知できるように研ぎ澄ませている。

 ボス部屋から十メートル程離れた時、ティノの五感がある存在を捉えた。

 

 

「……何かいる」

「うげぇ。救護対象の可能性は?」

「ない。十中八九ボス。というか、マスターの任務にはだいたい大物がいる」

「マジかよ……」

 

 

 ボス部屋に出てくる幻影はワンランク、場合によってはツーランク上の幻影が出てくる可能性もある。

 ウルフナイトの強さからツーランク上ともなれば、認定レベルも一段階上———認定レベル5相当の敵が出てきてもおかしくは無い。

 

 ティノであれば、そんなのは当たり前だと言う。

 ギルベルトであれば、無謀か勇敢か、やって見なければ分からないと言う。

 ルーダであれば、逃げるか救護するのかティノの選択に委ねる。

 

 だがこの中で唯一、グレッグだけは違った。

 

 

「逃げた方がいいんじゃないか?」

 

 

 それは良く言えば生存本能、悪く言えば臆病者だ。

 レベル3、4は中堅ハンターと呼ばれているが、中でもベテランと呼ばれるハンターはレベル3、4が多い。

 理由は単純で、レベル3、4のハンターともなれば適正以下の宝物殿に潜るだけでも日々の生活を行っていける。

 

 今回の任務、ここまで強い幻影が出ると知っていたらグレッグは絶対に来ることはなかった。

 ハンターにとって安全は第一であり、戦う幻影は自分一人で倒せる程度までというのは目安だ。

 本当ならグレッグは何も間違っていない。

 しかし今この場において間違っているのはグレッグだった。

 

 

「グレッグは顔に似合わず慎重すぎる」

「!?」

 

 

 とんでもない言い草に、グレッグは呆気に取られてしまった。

 ルーダとギルベルトも驚いたように目を見開き、二人の様子を見守っている。

 

 

「今この中で最も経験があるのはグレッグだ。そして通常であればここで退くという判断も間違いではない。でも、この場においては間違いだと断言できる。マスターの任務を受けた時点で退いても進んでも地獄———むしろ、退いた方が厳しいことになる」

「…………」

 

 

 紡がれた言葉は、とても静かだ。

 静かだったが故に、その言葉には有無を言わせない凄味が含まれていた。

 

 

「グレッグは今の状況をどうにかしたくて『始まりの足跡』に来たはず」

「それは……」

 

 

 それは、事実だった。

 ハンターになった直後の情熱が無くなってから久しく、ここまで強力な宝物殿に入ったのなどいつ以来だろうか。

 長いハンター歴の中で何人も仲間の死を弔ってきたのも関係している。

 沈黙していたグレッグに、ティノが信じられないことを言い出した。

 

 

「そんな状況のグレッグに手を差し伸べたのがマスター」

「なに!?」

「不思議に思わなかった? ほとんど接点もない自分が今回のパーティーに選ばれていることに」

「そ、それは……」

 

 

 正直、不思議に思っていた。

 クライとグレッグの接点は酒場で少し話した程度。

 それもグレッグが高圧的な態度で接しているためとても印象が良いとは言えない。

 ティノが呼びに来た時は人違いだも思ったし、今でもその意趣返しなんじゃないかと思っているぐらいだ。

 ティノがグレッグからギルベルトへと顔を向ける。

 

 

「ギルベルトだってそう。このパーティーに参加して、ギルベルトも何か思うところがあったはず」

「まあ……そうだな」

「マスターは全員を救おうとしている。つまりマスターは神」

 

 

 断言するティノ。

 グレッグとギルベルトは思わず顔を見合せた。

 神なのかは別として、ティノの言っている内容は納得のいくものだ。

 

 千変万化。

 ふとその二つ名が頭を過ぎり、ぞくりと背筋を震わせる。

 ギルベルトもそうだ。

 才能に溺れていた自分を宥め、パーティーとはどういうものか改めて考えさせられている自分の姿がもし仮に千変万化の思う通りだとしたら———訓練場でも感じた形容しがたい何かによって、心が冷えていくのを感じる。

 

 そんな中、ルーダが恐る恐る手を挙げた。

 

 

「あの……じゃあ私はなんで呼ばれたの?」

 

 

 ルーダは元々白狼の巣に行きたがっていた。

 そのついでだからとクライに言われたためティノは呼んだが、今となればその理由も大方想像がつく。

 

 

「ルーダは、アルスお兄さまに会わせるためだと思う」

「千導に……?」

 

 

 再び出てきたその名前にルーダは困惑した。

 何故ここで千導の話が出てくるのだろう。

 

 

「ルーダはこの中で唯一認定レベル3のハンター。しかもレベル3になったばかりだって聞いてる。今の白狼の巣に挑むには実力的に厳しい」

「それは……そうね。ここまで来る道のりで良く理解しているわ」

「だからルーダは振るいにかけられていた……厳密には、私も含めた全員だけど」

 

 

 振るいにかけられていた。

 そこで思い出すのは、ギルベルトの腕試しの時だ。

 

 

「アルスお兄さまは魔導師。それも帝都でも指折りの使い手だ。当然魔法範囲の指定もできる。そんな中、ギルベルトの腕試しの時に私たちにまで魔法をかけていた。ギルベルトの腕試しだけをするのであれば、ギルベルトにだけ使えばよかったのに」

 

 

 それはそうだ。

 あの時は急に始まったため考える余裕もなかったが、今思えば魔法範囲を設定できるなら勝負を挑んできたギルベルトだけにすれば良かった。

 しかし、千導はそれをしなかった。

 

 

「マスターはルーダの参加を、アルスお兄さまに委ねていた。ルーダはあの中で動けなかったかもしれないけど、それでも意識を保っていた。だからアルスお兄さまは今回のパーティーに参加するのを許した」

「ええ、それは分かったのだけど……でもそれと私がこのパーティーに参加するのとは繋がらないんじゃない?」

「言ったでしょ。ルーダとアルスお兄さまを会わせるのが目的って。私にその理由までは分からない。けど、これだけは断言できる」

 

 

 ティノ黒い綺麗な眼差しはルーダを真っ直ぐと見据えている。

 その瞳の中に見えるのは、絶対的な信頼と畏怖。

 そしてその畏怖は、ルーダにもすぐに伝搬することとなる。

 

 

「ルーダは近いうちに、アルスお兄さまを頼ることになる。その時にもしアルスお兄さまと顔を合わせていなかったら、ルーダは死ぬ」

「!?」






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