逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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今日のお昼に一話投稿してて本日二話目です。ご注意マークⅡ。



10 指導の中で進化していく天才たち

 

 

「よし、じゃあ今日もよろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

『よろしくお願いします』

 

 じーちゃんに勝利して碁盤を二つ手に入れてすぐの頃、ヒカルの部屋。

 あかりが自室に持って行ったマグネット碁盤を持ち込んで行われる勉強会が今日も開催されていた。

 しっかり打てるようになったあかりと、更なる神の一手への追及をやめないヒカルと佐為が行う勉強会。

 それは今や、ただあかりに指導碁を打って、という単純なものではなくなっていた。

 

「佐為、今日はどうする? 目隠し碁にするか? それとも一色碁?」

『そうですね……今日は()()()をやりましょうか。あかりちゃんも先日のじーちゃんとの一局で成長した部分もあるでしょうから、思わぬ一手が出てくるかもしれません』

「どう? 佐為は何したいって?」

「予想碁をしたいってさ。オレも大好きになっちまったからやりたいと思ってたんだ。じゃあ最初はオレがあかりと打って、佐為は予想碁な」

「はーい!」

『今日こそは()()()()に収めて見せますよ!』

 

 ヒカルと佐為は、単純な一局のほかに、遊びに近い訓練の要素を取り入れた碁を行っていた。

 盤面を見ないで並べる目隠し碁、白だけを使ってお互いに打ち合う一色碁などもその一つであるのだが、しかし最近二人がハマっているのは、予想碁だ。

 これはあかりが囲碁のルールをマスターしてから、ふとした発言がきっかけで始まった練習であった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

「ねぇヒカル、私も佐為と打ってみたい!」

「あ? いっつも打ってるじゃねぇか」

「違うのー! 佐為が打つ時には、ヒカルが代わりに並べてるでしょ! でもそれだと、なんだかヒカルと打ってるみたいでおかしいから、佐為と直接打ちたいの!」

「直接って言われてもなぁ……」

『私も打ちたいのはやまやまなのですが、物に触れられぬ身ですからねぇ。もしも触れるならばいくらでも石を持つのですが……』

 

 事の始まりはそのようなものだった。

 三年生に進級してすぐのころに、情緒が育ってきたとはいえまだ幼いあかりが、佐為と直接打ってみたい、と少々ズレた我儘を伝えたことから始まる。

 勿論、既に佐為とあかりは打っている。ヒカルが佐為から打つ手を聞いて石を置く形で何度も指導碁を貰っている。

 しかしあかりが求めた所は、それではなかった。

 

「ヒカル、私が家に帰ってからも佐為と打ってるんでしょ? 私に宇宙を見せてくれた時みたいに、一人で石を並べて」

「ああ、そりゃな。……あ、そっか。自分でも一人で並べてみたいってコト?」

「うん! ヒカルと対面しないで、私一人で佐為と打ってみたい!」

『なるほど。ヒカルがやってることを自分でもやってみたいんですね。本当にあかりちゃんは可愛いです』

(まだまだお子ちゃまだな。でもまぁ、そうだってんなら……)

 

 ヒカルと同じように打ってみたい、というだけのそれ。

 なるほどそういう話であればやる事は早い。

 指導碁を始めようとしていたヒカルが自分の方にある白石が入った箱を、あかりのほうに置き直して、席を立つ。

 さらに、どうせなら本当に佐為がいることをあかりにも伝えてやろうと思って。

 

「オレが佐為の打つ手を言葉で指示するから、あかりはその通り並べてりゃいいさ。オレは後ろ向いてるからさ。それならオレが打ってない、佐為が盤面見て指示してるんだーって分かるだろ?」

「わ、ホント? ありがとー! ……あ! べ、別に佐為が本当にいるのか疑ってたとか、そういうわけじゃないからね!? ホントだよ!?」

「わかってるって。気にしてねーよ」

『うふふ。では今日もいっぱいあかりちゃんを育ててあげましょう』

 

 なので、ヒカルは振り向いて碁盤に背を向けた。

 この状態であかりに次に打つ手を指示すれば、ヒカルが打っていないことが明白になる。

 佐為が打っていることが、まちがいなく独立した守護霊として存在しているとあかりも理解するだろう。

 もとより、授業のドッジボールでヒカルの背後から迫るボールを見て指示をしたり、周囲を見渡してヒカルが気付いていないものを探してくれたり、なんてことは佐為は当たり前にやっていた。

 碁盤を背にした状態での指導碁も問題なくこなすことが出来る。

 

 ってか前の世界でこれやってりゃワンチャン佐為の存在を信じてくれる人いたんじゃねぇかな……とふと思い当たったヒカルだが、既に通り過ぎた未来の話だ。

 どうでもいいか、と切り替えて、自室の窓の方を眺めながら佐為の指示を口に出していった。

 

「はい、準備いいよ、私の黒ね。……はい」

『それでは……4の三』

「4の三」

「……えっと、ヒカル。どっちから見て?」

『あ。そうですね、あかりちゃんの隣に座りながら盤面を見ていますので、あかりちゃんから見てでいいですよ』

「あかりの右隣にいるから、あかりから見てでいいってさ」

「はーい! うふふ、今ここに佐為がいるんだ? きんちょーしちゃいそう……はい」

『17の十六』

「17の十六」

「うん。…………」

『10の十七』

「10の十七」

「…………」

 

 対局が始まり、ヒカルは盤面を見ないままに佐為の一手を口に出しながら、自然と脳裏に十九路盤を描いていく。

 佐為の示した手を脳内の盤面に条件反射で埋め始めるが、しかしここでふとヒカルは気付く。

 

 ……あかりがどこに打ってるのかわかんねぇ。

 

(あー、でも今すぐにあかりの打った手を聞いちまうと佐為が打ってるって思われないかもしれないし……今日の所は佐為が打ち終わるまで待つか)

 

 佐為に聞こえない心の内でそう考える。

 あかりに打った手を聞くのは簡単だが、思いがけず佐為の存在証明になりそうな一局をあかりが打てているので、それを邪魔してもな、という考えでヒカルは口を噤んだ。

 次々に並べられる佐為の次なる一手。ヒカルの脳内の十九路盤に白石だけが並んでいく。

 そして、ここでヒカルの脳裏に、天啓が舞い降りた。

 

 

(────あれ? これ、今の状態であかりの手も予想出来るんじゃねぇか?)

 

 

 打たれている佐為の白石から、あかりの黒石の位置を予想する。

 そんなことが……出来る、のではないか?

 

 だって、打ってるのが佐為とあかりだ。

 どちらの打ち筋も、世界の誰よりも理解していると胸を張って言える二人だ。

 そんな二人が、今のレベルで、あかりは真剣に、佐為は指導碁で打つとなれば……白石を握る佐為の意志を、オレの頭の中で考えて、あかりの応手を当てることができるんじゃ……ないか?

 

 それを思いついた瞬間に、ヒカルの脳内ニューロンが全霊の加速を始めた。

 

 ここまで打たれている佐為の白石を一から分析する。

 なぜ佐為がそこに打ったのかの理由を、あかりの棋力を思い返しながら、現状の盤面から当てはめていく。

 十九路盤、361手ある交点を含む広い宇宙から、佐為が石を置いた場所以外の全ての可能性を走らせ、深読みし、佐為が次なる一手を打った瞬間に計算し直してあかりの盤面を予想する。

 

 ────佐為がツケた! 前の一手を考慮すると右辺の黒を切りに行った!?

 ────あかりの腕前なら左辺にこれくらいは……いや、この形で食い込むくらいは出来てるはず!! いや、こっちの形か!? 佐為の八手前の位置から推理するなら……!

 ────次は5の十二! 落ち着け、これは指導碁だ! 佐為が導くならあかりのどこかの手がいい形に伸びるようになって……いや、それは数手前のことかもしれない、どこだ……!?

 

 これまで囲碁に使っていた脳の組織がフル回転され、新たなる回路を開いていくような感覚。

 唐突な思いつきからそれに没頭し始めたヒカルは、大手合いの重要な一戦に挑むときのような集中力をもって、佐為の手からあかりの手を創造する新しい遊びに没頭していった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 そんな新しい囲碁の研究をヒカルが思いつき、これが大変に楽しいものだった。

 完全にお互いの棋力を、棋風を把握しているからこそ打てるこの遊び。

 『予想碁』と名付けて、ヒカルや佐為、時にはあかりもそれを行い、想像力を広げていった。

 

 初めての対局となった佐為とあかりの指導碁が終わった瞬間にヒカルが盤面を見に行って、実際の盤面とヒカルの予想が十手しかズレていなかったことを確認して、この面白さを佐為にも伝え、佐為も早速それを試してみて、予想碁をたいそう気に入った。

 佐為が予想碁をするときには佐為は盤面を見ず、ヒカルかあかりのどちらかが自分の手だけを口頭で伝えて、そこから佐為が相手の手順を予想する。

 あかりもやってみたいと言い出したので、あかりには最初の数手をヒカルと佐為がそれぞれ伝え、途中から片方の打つ位置を隠すことで、その先の予想が立てやすいように計らった。

 教えるのを止める最初の手の数は、徐々に少なくしていった。

 

 そんなことから始まった予想碁。

 予想する手筋の正答率の高さで言えば、ヒカルが僅かに佐為に勝っていた。

 流石にあかりは正確な石の位置を予想しきることはできなかったが、それでもおおまかな位置は大きくズレていない。二人から指導を受け、二人の対局を何度も見ていたからこそ、ヒカルと佐為がどこに打ちそうか、というのを予想出来ていたのだろう。

 

 この遊びのような予想碁は、ヒカルと佐為の囲碁に更なる深みを与えるものとなった。

 盤面から次の一手を創造するのが囲碁の常。

 その一手を極め、神の一手を目指すにあたり……ヒカルと佐為は、こうした遊び心も交えた色んな発想を試しあうことにしていた。

 あかりを指導する中で、ヒカルと佐為もまた、己の碁の研究に、成長させることに余念がなかった。

 

 そんな怪物二人と、怪物に教わる獅子の幼子が一人。

 

「……終わりだな、最後まで打ったぜ、佐為。予想終わったか?」

『はいっ! 今日は自信がありますよ! さ、さ! 答え合わせです!』

「佐為、どうだって?」

「自信あるってさ。さ、んじゃ答え合わせどうぞ」

『はい! …………うわぁ! あかりちゃんが想像以上に成長していました! 私の予想よりも、より適切な位置に七か所も……! 悔しいですがお見事です! 特にここ! あかりちゃんの成長速度を見誤りましたー!』

「はは。オレもそこの一手、めっちゃ上手く打ってきたなって思ったよ。あかり、佐為がお前が想像以上に成長してて、予想よりだいぶズレてて悔しいがお見事です、ってよ」

「えー? んもー、喜んでいいのか分からないよぉ。佐為は私がまだまだへたっぴだって思って予想してたんだー?」

『なっ、違いますよあかりちゃん! 本当にあなたの成長は素晴らしいです! ヒカルがその一手に返した手をもっとわかりやすく打ってくれていれば……!』

「おいおい、佐為のヤツオレのせいにし始めたぞ。指導碁だって分かってんのかよコイツは」

「うふふ。次に打つときはもっと上手く打つもん! じゃ、検討もお願いします」

「はいよ。まず佐為も注目したここの手だけど…………」

 

 三人が三人とも、この時代の囲碁の常識を壊すような何かを身に着け始めていた。

 

 






※ごめんなお知らせ※
予約投稿で書き溜めしてる40話を間違えてリアルタイム投稿しちゃったけど神速で消しました。
もしチラ見しちゃった人はネタバレ無しでお願いします。すまんズラ。
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