逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
日間ランキング四位ありがとう記念で今日も感謝の二回投稿します。
そうやって俺に毎日二回行動させるつもりだな。負けんぞ。
藤崎あかりは夜、自宅の台所でお菓子作りに勤しんでいた。
「おかーさーん! バターそろそろ無くなりそうー!」
「はぁい。後で買い足しておくわね」
元々料理を作ることを得意としていたあかり。
そんな彼女もいつのまにか小学四年生になり、ここ最近は特にお菓子作りの腕前をメキメキと伸ばしていた。
材料の分量なども間違う事なく、お菓子を作る事を母親も応援してくれている。
「またヒカルくんに作ってやってんの? 健気ね。ついでに私の分も作っといてくれる?」
「もー、お姉ちゃんそう言っていつもねだってくるんだから! 私と一局打ってくれたらお姉ちゃんの分もとっといてあげる」
「ほいほいほー。風呂上がりに一回付き合ってあげるわ」
「ヒカルくんもだけれど、あかりも囲碁ホントに好きになったわねぇ」
「うん! すごく楽しいんだー」
容器で生地をかき混ぜながら、つまみ食いを画策して様子を見に来た姉に対局を条件として提示するあかり。
その会話に母もよくまぁ己が次女がこんなに囲碁にハマったものだ、と感嘆を零した。
小学二年生のころに、近所の幼馴染のヒカルから教わった囲碁。
ヒカルから教えてもらっていると母が聞いた時には、あのわんぱくなヒカルくんがまた渋い趣味に目覚めたわね、と驚いたものだ。
しかし小学二年生がやってみる新しい遊びだとしても、黙々とした囲碁だ。その内二人とも飽きるだろう……と思っていたのだが、これが全く熱量が変わらない。
ヒカルの祖父は町内大会で優勝する腕前で、しかし囲碁を始めて一年であかりが勝利した、という話をあかりからも聞いている。
もしかするとウチの娘は天才なのでは? と夫と話したこともある。
それに、囲碁を始めたころから様々な副次効果があかりに生まれていた。
成績は元からよかったが、なんとヒカルもあかりもその後成績優秀をずっと維持しているのである。
特にあのわんぱくだったヒカルまでも、学校で落ち着いた様子を見せ始めて、面倒見がよくなった。子どもたちを取りまとめるリーダーみたいな存在で、教師からの覚えもよいという。
そんなヒカルに勉強もあかりがたまに教えてもらっているようで、通信簿は二人とも5がずらりと並ぶ。とにかく親に手間をかけない子供に成長した。
あかりの母は、ヒカルの変化によりあかりにも良い影響が与えられており、放課後の面倒まで見てもらえていることで、ヒカルにいい印象を持っていた。
あかりの一心な恋心を見ていると、それを応援したくなるのが親というもの。態度も改まり大人びた少年になったヒカルにぞっこんになる姿を見て、男を見る目があるなと期待に馳せていた。
さて、そんな風に母親に想われているあかりは、いつからか定期的に今のようにお菓子を作るようになった。
夜のうちに作り終えて冷蔵庫にしまい、翌日の放課後のヒカルとの囲碁の勉強会で一緒に食べるのだ。
これは勿論あかりの幼い恋心からくる餌付けであるとともに、囲碁を打つために必要な糖分補給の一環でもあった。
囲碁はとにかく思考する。プロならば思考によるエネルギーの消費で体重が2キロ以上変動することもある。
ヒカルは言わずもがな、僅かながらヒカルの思考の深みに追いつき始めたあかりもまた、糖分不足が懸念される。
ヒカルの方がそれを説明し、甘味をつまみたいな、という話の流れになり、囲碁の前にはお菓子とお茶を用意する、という流れがいつの間にか完成した。
その中でたびたびあかりが手作りのお菓子をヒカルに披露して、胃袋を掴む戦いを制し始めているのだ。
ヒカルももちろんあかりの作る料理の美味さは知っている。
作るたびに形が整って好みの味付けになっていくお菓子に舌鼓を打つほかに、勿論ヒカル家にも市販のお菓子を常備している。
ヒカルの両親も遊びに来てくれるあかりに毎回お菓子を作ってもらっていると知れば、しっかりお返ししなければ、と母親同士で菓子折りの遣り取りなどもしており、両家の関係もおおむね良好であった。
ここは人生二周目のヒカルが上手く立ち回っていると言えるであろう。あかりには囲碁だけではなく勉強も時折教えて、囲碁にかまけて成績が落ちるようなことが無いように配慮していた。
中学になるとヒカルが授業について行けるかどうかなんともだが、その頃には既にプロになっている予定だ。関係なく黙らせてしまえばよいだろう。
さて、ブラウニーも焼き終えて自分とヒカルの分を三日分に切り分けて、ついでに家族の分と姉の分も準備して、料理を終えたあかり。
その頃にはちょうど風呂から上がって来た姉と、夜に一局だけ付き合ってもらう。
「……んー! 負けたぁ~!」
「ありがとうございました」
「やっぱ強いわーあかり。ここなんて私すっごい上手く打ててない? ね、どう思う?」
「うん、お姉ちゃんのそこはキレイだったよ。でもその後のツナギでここ、ミスっちゃってたね。これをこう打ってたら……」
「あー……なるほど! やっぱほぼ毎日ヒカルくんと打ってるだけあるわねー」
お菓子を餌に、あかりは自分の姉にも囲碁を普及していた。
残念ながら姉は囲碁の魅力に取りつかれた、と言えるほど囲碁にのめり込んだわけではなかった。
ルールは何とか覚えたが、雰囲気で並べるだけの、言ってしまえば小学生が打つド素人の囲碁だ。
なのであかりも、姉には九子を置かせての勝負としている。
格下にハンデを大きく与えて場を荒らす力をつけるのもよい、とヒカルに教わっており、あかりはそれを己の姉相手に実践していた。
────しかし。
二人が打ち合った盤面は、姉が敗北を認めての中押しでの投了ではなく、きっちり最後の一手まで打ち終えて宇宙の広がりを完結させていた。
お互いに圧倒的な実力差があったうえで、だ。
「あかりと打つとなんか上手く打てる手がいっつも見つかる気がするわー。ま、そこから続かないのが私の限界よねー。ヒカルくんとはどれくらいのハンデで打ってるの?」
「んー、この間本気でやったときは四子置いて互角……くらい? 三子になるとまだ全然勝負にならないけどね」
「え? マジ? へぇー! ……あのヒカルくんがねぇ。幼稚園のころも小学校上がったころもあんなにやんちゃな子だったのに。ヘンな才能あったのねーあの子」
「あはは、言いたいことはわかる。お姉ちゃんの分のブラウニー、付箋貼って冷蔵庫に入れてあるから明日食べてね。私とヒカルの分は食べちゃダメだよ」
「はいはい、いつもごちそうさまでーす」
あかりの姉は、ヒカルとあかりの二人のように囲碁を愛するというほどではない。
ほどではないが、こうして妹と楽しく打てる一局は好きだった。
新しい発想が打つたびに生まれてくるようで、ちょっと成長したかも、と思える。のびのびと打てたなと感じられる。
ヒカルがあかりの家に遊びに来た時は何度かヒカルに打ってもらったこともあるあかりの姉だが、ヒカル相手だとこうはならなかった。
ヒカルのすごさは幼いながらに感じたけれども、勝てねーや、と分かった瞬間から熱が冷める。
だが妹と打つ時はなんか楽しい。なのでお菓子を食べる条件に、こうしてたまに一局付き合っていた。
「そういえばお姉ちゃん。お姉ちゃん今年から葉瀬中だけど、囲碁部に入らないの?」
「えー? しないしない! あかりと打つのは楽しいけど、ヒカルくんとあかりほど囲碁バカでもないしー。ってか囲碁部そもそも無いんじゃない? 部活募集のポスター掲示板に囲碁部って見当たらなかったし。他の部活に入る予定」
「そっかー。じゃあお姉ちゃんもこれから部活とか忙しくなるかもだけど……また、たまに対局付き合ってくれる?」
「モチロンよー、あかり相手なら付き合ってあげる! その代わり私のお菓子もまた作ってね!」
「うん!」
碁石を片付けながら、姉との仲をまた一つ深めたあかりであった。
※ ※ ※
なお翌日。
「んー……いつもあかりの作るお菓子美味ぇー……沁みるぅ……」
「本気で集中した一局の後に食べるおやつ……沁みるぅ……」
『やーんやーん! いつもいつもこれみよがしにっ! 私も食べられたらいいのにっ!』
ブラウニーの甘味に蕩ける小学生二人と、羨ましそうにキャンキャン鳴いている佐為の姿があったとかなんとか。