逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
今日のお昼に一話投稿してて本日二話目です。ご注意Δ。
ヒカルとあかりが小学四年生になり、九ヶ月が経過した。
暦の上では12月。ちらほらと雪が舞い降り始める季節。
(あかり、伸びたよなぁ……とうとう三子でオレが負ける日が来るとはなぁ)
『そうですね。あかりちゃんの会心の一手が何度もあったからこそですが、棋力は間違いなく伸びています。囲碁を覚えて2年でここまで伸びるのは、前の世界のヒカル並みですね』
(だよなぁ……すげーぜ)
自室で佐為と話すヒカルは、改めてあかりの成長速度に驚愕していた。
つい昨日、とある約束を賭けて真剣勝負をしたところで、際どい競り合いを制してあかりが三子置いたうえでヒカルに勝利したのだ。
持ち時間は長くは無かったが、ヒカルも佐為も唸らされるような手もいくつかあった。
弟子の成長を喜ぶとともに……そろそろ俺たちの作戦開始の時期になったな、とヒカルは決意を決める。
(よし。んじゃ予定通り、来年から動いて行こうぜ、佐為)
『はいっ! 楽しみですね!』
あかりを育て上げ、自分たちの棋力も更なる高みへ引き上げられたことを確信したヒカルと佐為は、プロの世界に飛び込むための予定の針を進めることにした。
大体の流れは以下の通りだ。
●まず、来年になったらパソコンを購入する。
→お小遣いの貯金とお年玉貯金で購入金額は目途が立っている。
→学校の成績もまだ優秀をキープ出来ててかなり親に心配かけずに過ごしてきたから、購入の相談をして否とは言わないだろう。
→ネット回線も色々調べて、この時期には家で契約できることも分かっている。
→とうとうsai神話の復活だな!
→はい! 今生でも無敗の伝説になってみせます!
○小学五年生になったら、あかりを連れて碁会所デビューしたり子ども囲碁大会とかに参加させて、経験と実績を積む。
→あかりもさらに囲碁が上手くなりたいって熱意がある。碁会所巡りは無駄にはならないはず。
→大会に出ればまずまず優勝すると思うが、もしこの先あかりもプロになりたいと思った時に何の実績もないと親の理解が得られないケースがある。
→前の世界ではヒカルはお母さんに説明せずにゴリ押ししましたもんねぇ。
→悪かったなって思ってるよ。今回もやるかもしれないけど。あかりがもしも同じ道を求めてくれた時にスムーズに進めるようにしたい。
→ところで碁会所といえば、塔矢のいる所にも行くのですか?
→まだあそこには行かねぇよ。まぁそのうちな。
●一年間経験を積み、小学六年生になったら院生になる。あかりも誘うかは要相談。
→やっぱり院生のみんなに会いたい。会って友達になって、みんなで強くなっていきたい。
→プロ試験は俺と、タイミングが合えば塔矢が入るし、あかりも来ることになれば枠は狭まるだろう。そこは仕方ない。どうしても実力の世界だし、油断は失礼にあたる。
→でも院生になっていられる間に、出来る限りの知識をみんなに叩き込む。囲碁全体のレベルを底上げするくらいのつもりでやっていく。
→院生でヒカルが経験した学びはかけがえのないものでした。あかりちゃんももし入会してくれるなら、彼女にとってもよい経験になるでしょう。
→そうだな、ホントにそれはそう。場合によっちゃあかりだけ院生に送り込んで俺はあかりを介してみんなと仲良くなって指導して……でもいいかもな。その辺は柔軟に。
〇中学一年生でプロ試験合格を目指す。
→プロになるけど、葉瀬中の囲碁部には絶対に入部する。
→大会メンバー不足は三谷を参加させて、なんなら加賀にもどこかで賭碁で挑んで大会参加約束させて、三人で団体戦に挑ませてやりたい。
→もちろん全力で筒井さんと三谷を強くする。
→それが出来たら、あとはプロの世界に飛び込んで……神の一手を求めて、歩んでいこう。
→ええ。
パソコンを早めに買う。小学五年生の時期は外にも出ていく。六年生で院生になり、翌年プロに。
大まかにこの流れで進めていくことでヒカルと佐為は打ち合わせていた。
家で世界の誰とでも打てる環境が作れれば、間違いなく自分たちの経験をさらに深められる。夏休み中のネカフェ通いだけでも、自分も佐為も相当棋力を伸ばせたのだ。
パソコンがあれば棋譜の整理などにも役立つ。ヒカルもさすがに二十一歳にもなればパソコンの扱いには慣れ始めていた。アキラと和谷に懇切丁寧に教えてもらい、棋譜のまとめ方とネット碁のやり方なら不安は無かった。
そんな地盤となる環境を整えた上で、段階を積む様にプロへの道を歩み始める。
あかりにも碁会所巡りは付き合わせるつもりだ。その上で大会などにも参加してもらい、プロになりたいかを考えてもらうつもりだった。
もしもプロになる道を選ぶのであれば、それを全力で応援する。
まぁ、今の時点で自分たちに三子置きでいい勝負ができるあかりだ。さらに伸びればプロ試験も不安はないであろう。
共に道を歩みたい。そんな気持ちもヒカルの中に間違いなくあるのだが、それでも選択肢は示したうえで、あかりに自分で選んでほしかった。
(確か前の世界でオレと出会った頃の塔矢が、塔矢名人相手に三子置いてやってたって話だったもんな。オレ相手に三子置けるあかりなら、実力もちょうどいいかもな)
『そうですね、棋力は十分に伸びていますし伸びしろも十分に。あかりちゃんがもしも囲碁の探求の道を選んでくれたなら、これから先も本当に楽しみです』
塔矢名人と自分の棋力を比較し、同じように三子置いて勝負できるあかりであれば今のアキラ相手にも、院生になってもいい勝負ができるだろう、と考えていた。
ちなみに比較対象をものの見事に間違えている。二十一歳の頃の記憶の中の塔矢行洋の棋力でヒカルは考えていた。
逆行してから濃密に佐為と高めあった棋力と、現時点の行洋の棋力を比較すれば当然にして逆転している。
そして、そんなヒカルに並び一歩先を行く佐為と、追いすがるように己の宇宙を広げ続けるあかりが、今のプロや院生たちにとってどれだけの劇薬になるのか、想像すらしていなかったのだ。
結局のところ、ヒカルと佐為の二人は、囲碁界を震撼させずにはいられないのである。
※ ※ ※
さて、そんな仮組みの予定を組んでいると、家のチャイムが鳴り、あかりが迎えに来た。
今日は休日。いつもの囲碁研究ではなく、外出して遊びに行く約束をしていたのだ。
「おっす。おまたせ」
「ううん」
『ほらほらヒカル、あかりちゃんおめかししてきてくれてますよ! きちんと褒めてあげないと!』
(うっせ、わーってるよ)
「……綺麗な髪飾りだな、それ。髪型もいつもと変わって……似合ってるぜ」
「っ! うん! えへへ、気付かれちゃったかー……えへへぇ……」
「そんだけ違えばな。佐為も似合ってるってよ。んじゃ行こうぜ」
「うん!」
いわゆるデートというやつである。
日付は12月25日。小学四年生である二人のお出かけともなれば、微笑ましいものを見守るようにそれぞれの親もおめかしさせてお小遣いを握らせ、送り出していた。
クリスマスの日にデートをしたいと言い出したのはあかりの方からだ。
三子を置いた昇級戦──と勝手にヒカルとあかりで決めている手合。あかりが勝てば置石が減っていく──を始めようとしたときに、あかりからそんな話を切り出され、この勝負に勝てたら一緒に遊びに行こう、とヒカルに伝えたのだ。
あかりに優しくしようと意識を新たにしていたヒカルは、別に囲碁の勝敗は別にしてクリスマスに出かけるくらいは全然構わなかったのだが、すごくやる気を出しているあかりを見て、面白そうだとその話を了解。
結果は先ほど説明した通りあかりが勝利をおさめ、こうしてデートを取り付けたというわけである。
「えへへ……やっぱり今日はカップルみたいな人たち多いね」
「そーかもな。そういう日だしな……」
『ふふ……照れてる照れてる。ヒカルはまだまだお子様ですね』
(うるせーよ。ってかむしろお前なんでついてきたんだよ。家で留守番してろよ)
『ひどい! ヒカルと離れられない身なのに!』
「……ねぇ、ヒカル。私達って周りからどう見られてるかな……?」
「小学生が並んで歩いててもなんも思われねーよ、流石に」
「んー。むぅ……」
『意地悪なところは相変らずですねヒカル』
(うっせ)
あかりがヒカルの腕を組む形で街並みを歩く。
精神年齢で言うと成人しているヒカルだが……流石にあかりの様子には察するところもある。
あるのだが、流石に早すぎる。まだあかりは10歳、犯罪である。
佐為が生きていた平安の時代とは違うのだ。
平安時代、源氏物語では幼子に主人公である光るの君がアプローチするという物語が流行していたが、名前を同じくするヒカルといえどもそれをリスペクトするつもりは無かった。
あかりがもし自分を選んでくれれば責任を取るつもりはあるが、それにしたってまだ早い。ステイ。大人の余裕を見せなければいけない。
『恋心に年齢は関係ないと思うんですけどねー』
(うるせーぞマジで! 今日は囲碁やんねーんだから佐為は黙ってろちょっと!)
『ひどい!』
余計な事を言う心の中の同居人を黙らせて、あかりの機嫌を損ねることの無いようにデートに集中するヒカルであった。