逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
今日のお昼に一話投稿してて本日二話目です。ご注意四天王。
小学四年生もあと三ヶ月。年が明け、一月になった。
ヒカルは両親の説得に成功し、お年玉貯金をはたいてとうとうパソコンを家に設置する事に成功していた。
「ネット回線の契約もヒカルが言ってた会社にお願いしてみたよ。スムーズに契約が出来てよかったな」
「うん! 学校の先生に、その会社がいいって聞いたんだ。ありがとう、父さん!」
「なぁに、通信簿でオール5取れたらって約束してたからな。お父さんとお母さんからのご褒美さ。リビングに置いておくから、余り遅くまでやるんじゃないぞ」
「分かってる!」
成績優秀で運動も出来て、学校の先生の評価も高い状態をキープ出来ていたヒカルは、両親に面倒をかけずに過ごしていた。
放課後もあかりと共に囲碁の勉強が主で、勝手に遊びに行ったりせずに手間がかからない。
両親の信頼を稼いでいたヒカルからの、パソコンが欲しいという珍しいおねだりに、両親も快諾したのだ。
パソコン代は自分のお年玉貯金からでいいし、目的も大好きな囲碁の棋譜並べに使うのと、ネット碁で世界中の人と打ってみたい、というしっかりとした理由であり、それならば自分たち用の共有パソコンとしても使えるように、と家に導入することを決めたのだ。
年が明けてパソコンが家に届き、ネットの回線工事も滞りなく進み、ようやくパソコンでネットが使えるようになった。
この瞬間をヒカルと佐為は待ち続けていた。
パソコンを使っても両親から何も言われない年齢になった。信頼も稼いだ。
ネットカフェに通っていたかつての世界とは違う。これからは家でいつでもネット碁を打つことが出来る。
すなわちそれは、一人の棋士が世界に放たれることと同義。
『ヒカル、ヒカル! 早く早くっ! 早く打たせてくださいっ!』
(分かってるってウルセーな。ちゃんと打たせてやるからよ……あ、佐為お前、未だに箱の中に人がいるんだーって思ってたりする?)
『まさか、この世界でも2年以上ヒカルの傍にいるのですよ! 私もいんたーねっとで通信回線がどうこう、という事くらいはわかりますっ! 仕組みはさっぱりですが!』
(はは、成長してら。そんじゃアカウントは佐為用とオレ用と、あとであかり用のも作っといてやらないとな……この時代はまだメールアドレスに紐づいてのアカウント作成じゃないから複数アカウント作るのも楽でいいや)
『はやく、はやくっ』
逆行前の経験値で、パソコンの設定もある程度スムーズに進めていくヒカル。
当時まだGo〇gleが主流ではなかった時代の、古きインターネッツの全盛期ではあるが、やりたいことはネット碁だけなので、大した難しさもなかった。
名前の登録に移り、郷愁を覚えながらもヒカルがその『三文字』を入力する。
「ナマエは………s・a・i────sai。さぁ、待ってろよ世界。伝説の始まりだぜ!」
『再び、参ります!』
とうとう
※ ※ ※
数日後。
「……ん、投了してきたな。三人とも無敗記録更新中だ。お疲れ、佐為」
「うーん……お相手さんも、もうちょっと打ち進められそうだったけどね。判断が早いなー」
『指導碁ではありましたが、確かに見切りは早かったですね。これがネット碁ではめずらしくはないのでしょう』
「──だってさ。まぁゲームの一環としてやってる人もいるしな。打ち方は人それぞれ、千差万別で……」
「……良し悪しは無し、個性として認めよう。でしょ? 分かってるよ、ヒカルに何度も聞いたんだから」
「ならよし。んじゃ軽く検討してからもう一戦行くか。次はあかりがやってみるか?」
「うん、やりたい!」
『むぅ……いえ、あかりちゃんはお家にぱそこんがありませんものね。ここは断腸の思いで譲りましょう』
(断腸て。知らない人と打つ経験をあかりに積ませてやろうぜ。今まで俺と佐為と、たまにじーちゃんと、あかりのねーちゃんくらいしか相手がいなかったんだしさ)
ヒカル家のリビングにて、ネット碁に勤しむ三人の姿があった。
佐為がsaiとしてまず打って、対局後に佐為の打ち筋を検討して学ぶほかに、ヒカルもあかりも、自分のアカウントでログインして打つことがあった。
ヒカルもまた佐為に並ぶ棋力まで腕を上げているため、試合数は佐為に及ばないものの負け無しである。
アカウント名は『
そしてあかりも二人と同じく、今のところ負け無しだ。
当然である。ヒカルに三子で勝利し、クリスマスデート後は佐為にも三子で勝利した腕前なのだから。
碁の成長が止まらない、一番楽しい時期を存分に味わっている。
そんな彼女のアカウント名は『light』。
あかり=明かり、を英語で表したシンプルなハンドルネームだが、ヒカル、にも韻を踏んでいる。この名前をあかりは気に入っていた。
なお、あかりのアカウント名を提案したのはヒカルである。
「これでログイン……パスワードは、っと……」
「将来パソコン使えるようになって絶対損はないからなー。今のうちに慣れておくといいぞ」
「うん」
ヒカルがあかりとパソコンを交代し、椅子に座ったあかりがおずおずと慣れぬ手つきでパソコンを操作し始める。
指一本で慎重にキーボードをタイピングしてパスワードを入力し、『light』のアカウントでログイン。相手を探し始める。
プレイヤーごとの勝敗数はロビーにいる対戦者をクリックすれば確認できるため、それなりに勝利数の多い、腕前とやり応えが保障される相手はいないかヒカルと共に探していると……ふと、ヒカルの目に懐かしい文字が映った。
(……あれ? zeldaだ。和谷の使ってたアカウント名……アイツ、この時期にはもうネット碁やってたんだ)
『本当ですね。私も覚えていますよ。確か、和谷にだけぱそこんで返事をしてしまったものだから妙にこじれて、本人にヒカルが「zeldaだ!」って言ってしまったものだから余計にこじれて……』
(あったなー、あん時はマジで迂闊だったな。もう院生にはなってるだろうし、あかりの腕前を試すのにちょうどいいだろ。よし……)
「……あかり、このzeldaってのよさそうじゃないか? 対局数も多いし勝率も高いし。回数が多いってことはいきなり切断とかそういう失礼なことはしないだろ」
「あ、この人ね? 了解、やってみる!」
zelda。
前の世界で一番気が合う友と胸を張って答えられる、ヒカルの親友。
彼には色々教えてもらい、導いてもらい、同期でプロになったこともあり、逆行する前の時代でもずっとお世話になりっぱなしだった。
気の置けない友と言えるだろう。そんな彼とのファーストコンタクトはsaiとしてネット碁を打っていた時代の、zeldaとの対局だった。
腕前も将来プロになるほどだ。あかりの相手として不足なしだろう。
そうして示された相手にあかりも対局申し込みをして、慣れないマウス操作を慎重に行いながら、zeldaも申し込みに応じて対局が始まった。
(さて、オレと出会う前の和谷の実力を見させてもらおうかな)
ヒカルは懐かしい当時の和谷の棋力を思い返しながら、あかりが挑む盤面に集中した。
※ ※ ※
和谷は、全力で対局に集中していた。
(…………こっち……いや、ここか? 明らかに誘ってるような鋭い切り込み……右辺は向こうの筋が生きちまう……けど、左辺に今ツケればオレの活路を開けるかも……いけそう……いけるか!? 強い……!!)
自室で行うネット碁。
院生である自分の実力向上兼息抜きとして始めた趣味で、大体は下手の横好きが相手だが、たまにプロ級の相手と当たるようなこともあり、結構ハマっているネット碁にて、今日の相手はその中でも別格だった。
強い。間違いなく強い。
院生である自分がここまで
そう感じさせる相手……『light』に応手を返そうと、思考の海に潜っていく。
(……ここだ! ここならオレの石が一番活かせる! めっちゃ細い道だけど絶対通してみせる!!)
会心の閃きによる一手を放ち、それに応じるように相手からもスマートな一手が返されて、再び盤面に宇宙が広がっていく。
和谷はこの時、不思議な感覚を味わっていた。
いつも見ている十九路盤が、いやに狭く感じるのだ。
(くっそ……面白ぇ! 次はこれだって手がどんどん浮かんでくる! ああもう、いい所に打ち過ぎだぜ『light』! 絶対こっから切り返してやるっ!)
気持ちよい碁が打てていた。
絶妙に悩ませる相手の盤面。悩みに悩み抜いた先に、閃くように己の活きる道が見えて、そこから己の想像が
研究会に参加させてもらっている、森下プロの指導碁でもこんなに発想が広がる事は無い。全力でお互いに打っているからお互いの力が増していくような感触。渾身の一手を放ち続けた。
持ち時間30分はもったいなかったな────そう思いながら、最後の一手まで勝ち筋を追い続けた和谷は、とうとう終局を迎えた。
「………くっそー!! 一目半負けか!! ギリッギリだった!! あークソ! 渾身の一局だったけどなぁ……!!」
結果は和谷の敗北。その差は一目差と僅差であった。
最後のギリギリまで打ち続けた盤面は、自分で改めて見返しても会心とも言える出来だった。
敗北した対局だが、すぐに棋譜に起こして研究会に持っていき、みんなに自慢したい程の盤面だ。
「上手かったなー……ホントにジャストでオレと同じか、ちょい上くらいの実力なんだろうな、このlightって。また打ちたいな」
負けはしたが、晴れ晴れしい気持ちを抱えて、和谷は最近覚えたチャットで相手にメッセージを送る事にした。
カタカナにしか対応していないので簡単な文字しか打てないが、何もアクションを起こさないよりは再戦の可能性が上がるであろう。
『マケタ! ツヨイナ、オマエ! マタウトウ!』
向こうの人も同じくらい気持ちよく碁を打てていれば、これで気持ちは伝わるはず。
そう思いメッセージを送信した後、暫く待っていると向こうから返事が返って来た。
簡単な一文で〆られたそれは。
『マタウトウ! モットツヨクナレルゼ オマエ』
「~~~!! なんだよもう、上から目線で! 大して差はなかったっての! 次は負けないっての!」
和谷は返ってきたメッセージにふんす! と鼻を鳴らして、しかし何故かそんな言葉でも素直に受け止められるくらいに気持ちよい対局をできたことを喜びながら、早速今の一局を棋譜に起こし始めた。