逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
今日のお昼に一話投稿してて本日二話目です。ご注意ボルテス。
小学五年生になったヒカルとあかりは、プロになるための特訓として、ネット碁のほかに碁会所巡りを始めた。
平日はこれまで通りヒカルの家でネット碁や指導碁をして、休日を使って月に1~2回、碁会所を巡り見知らぬ人と対面で打つことに慣れようとしていた。
「うし、この店行ってみるか」
「う、うん……! ちょっと怖い雰囲気だけど頑張る……!」
「そんな緊張すんなって。じーちゃんより強い人は中々いねぇよ、経験積もうぜ」
『ここも懐かしいですね……「囲碁さろん」。三谷とはここで会ったんでしたねぇ』
駅前のビル街、そこの街ビルの地下にある碁会所『囲碁さろん』。
ここをヒカルが選んだのは色々な理由があった。
まず、ここが日本棋院会館から離れた碁会所である事。
日本棋院会館の近くだと、院生やプロとどんな偶然で出会うかわかったものではない。
もしそうした遭遇があった時に対局に集中して気付かなかったらまずい。
ヒカルや佐為の腕前を見られでもしたら、間違いなく問い詰められる。面倒に巻き込まれる。
それは今の時点では混乱を招くだけなので、アキラが生息する『囲碁サロン』や、他にもヒカルがかつて院生だった時に和谷と巡った碁会所はあまり顔を出さないようにしよう、と決めていた。
特に緒方プロにでも見つかろうものなら絶対めんどくさい事に巻き込まれると分かっているのだ。
ここ『囲碁さろん』は三谷の件以外では知り合いの誰も名を挙げなかった場末の碁会所だ。不意の遭遇は無いだろう。
(客層だけがちっと心配だけどな。賭け碁なんて絶対あかりにはやらせられないし。ガキ相手に握ってくることも無いとは思うけど)
『もし悪質な打ち手がいればあかりちゃんを助けてあげましょうね、ヒカル』
ただし、当時中学生の三谷が平気で賭け碁をして応じる程度の客層の質だけが懸念だ。
賭け碁などするつもりは無いが、そんな雰囲気になればこの店は諦めて次の店を探そう……とあかりを守る事を誓いつつも、店のドアをヒカルが開けて、あかりが続いた。
「おや、子どもが来るなんて珍しいネ。子どもは席料五百円だヨ、二人で千円ね」
「どーも、おじゃまします。あかりの分出しておくよ」
「えっ、い、いいよ! 自分で……」
「いつもお菓子作ってもらってる分のお返しだよ。いいからいいから……はいおじさん、千円」
「はいよ、紳士だねボウヤ。座ってな、今お茶だすヨ」
珍客の来店に、店内にいた数名の老紳士たちの視線が一斉にヒカルとあかりに向かう。
席料を払うヒカルと、注目されたことでひょわわ、と緊張するあかり。
流石に小学生だけでこんな地下の碁会所に客が来たことはない。珍しいそんな二人に、客たちの印象は好意的だった。
「ハハハ、こんなところにガキが来るなんて珍しいな」
「その歳で打てるのかい、ボウズ? 彼女まで連れて来てさ」
「打てるさ! 俺はヒカル、こっちはあかり。二人ともおじさん達よりずっと強いぜ?」
「わ! こら、ヒカル! ご、ごめんなさい!」
「はっはっは!! 大口叩くじゃねぇか! 俺ぁ生意気なガキゃあ好きなんだ。座れよボウズ、番碁でも目碁でもいいぞ?」
「ちょっと、今日初めて来てくれた小学生になんてこと言うんだい。穏やかに頼むヨ」
「あはは、流石に賭けはできないや。お小遣い少ないんだからさ。互先でやろうぜおじさん」
「冗談だよ冗談。親御さんにチクられちゃしょっ引かれちまうからな……へへ、自慢するボウズの腕を見せてもらおうか」
口調こそ雑なものの、こんなところに来るガキがどんな碁を打つのか、という興味もあって、早速勝負を挑まれるヒカル。
あかりは慣れぬ場で緊張している所にヒカルが挑発までし始めるものだから、気が気ではなかった。
早速知らないおじさんと楽しそうに対局を始めるヒカルに、あわわわわ、と戸惑う事しかできないあかり。
店主をしている老爺もこれには苦笑いを零して、助け舟を出した。
「お嬢ちゃん、打てるのならよければワタシと打とうかネ? 石置いてもいいヨ」
「あっ、はい、その、よろしくお願いします!」
「おうおう、こっちのお嬢ちゃんは礼儀正しいねぇ」
「こっちの小生意気なボウズも見習えってんだ。ほら、ニギれよ」
「ヒカルだよ、名前。おじさん名前なんていうの?」
「長谷川だ。……俺が黒だな。じゃあ行くぜ」
「よろしく、長谷川さん」
長谷川と名乗る男の前に座るヒカルと、ヒカルの隣におずおずと座ったあかりと、その前に座った店主。
子ども二人が並んで打つ盤面に、孫を見守るような気持ちで客の目線は注がれていた。
30分後。
「…………なんだ、このガキは」
「長谷川さんが中押し負けだ……圧倒的すぎる……」
「長谷川さんはアマ二段だぞ!? プロより上手いんじゃねぇのかこのボウズ!」
「こっちの嬢ちゃんもすげぇぞ、修さんよりもだいぶ上手ぇ……鋭い手を打ってきやがる」
「だけど修さんもいい手を打ったなぁ……まだまだ分かんねぇぞこっちの勝負は」
ヒカルとあかりが並んで描く盤面から、誰もが目を離せなかった。
圧倒的な強さを見せるヒカル。アマの客を一刀両断し、中押し勝ちを収めていた。
あかりの盤面は店主との勝負で非常に面白い鬩ぎあいを見せており、好勝負が繰り広げられていた。
修と呼ばれた店主は、この勝負で自分がこれほど上手く打てるとは思わなかった。
打ち始めた頃は子ども相手の油断もあったが、あかりから何手も鋭い切り込みが繰り出されると、これはまずいと本気で切り返す。
腕前は明らかに相手の少女の方が上だろう。それは察したが、しかし盤面をよーく考えて眺めれば、僅かに通せそうな細い道が考えられた。
破れかぶれでそこに打ち込んでみれば、そこからさらに自分でも驚くほどに妙手が思いついて、かなりこらえることが出来た。自分でも見事だと思えるような碁が打てていた。
しかしやはりあかりとの地力の差は明らか。もう十数手進めてみれば、まくれないほどの差がつくことは察されて、終局を待たずに投了した。
「……うん、ないネ。ありません。……強いネ、お嬢ちゃん」
「ありがとうございました!」
身内以外との初めての勝負に勝利したあかりは、安堵と喜びの息を零して、笑顔を見せた。
真剣に対局に臨んだおかげで、緊張もだいぶほぐれていた。
あかりの嬉しそうな様子にふっと店主も微笑み、お茶のお代わりをヒカルの分と共に淹れなおしに向かう。
異様な実力を持つ小学生二人という非日常の光景に、囲碁好きの年寄りたちは色めき立って次々と対局を申し込む。
「よっしボウズ、次はワシと打とうじゃないか。さっきの長谷川さんよりもワシは強いぞ!!」
「いいぜー、おっちゃんは5子置いていいよ、それでもオレが圧勝するから。オレの名前はヒカル、おっちゃんは?」
「なんだとう? ワシは井上! 町対抗囲碁大会で準優勝のワシに5子も置いて圧勝出来たらプロでもやっていけるわい! 覚悟するんじゃな!」
「はは、そっちこそ。……ちなみにさ、その大会の優勝者って誰?」
「あ? そりゃあ進藤さんじゃが……」
「おっとぉ~ご本人登場〜」
「お嬢ちゃん、次はオレと打とうや。さっきの修さんよりもちっと下手ってくらいだが、お嬢ちゃんなら楽しめそうだ。オレは塙田」
「藤崎あかりです。よろしくお願いします! 緊張しちゃって、石置くの間違えちゃったりしたらごめんなさい」
「いいよいいよ、ガチの勝負ってんじゃないんだ。若い子と打てるってだけでおじさんにとっちゃ面白いもんよ。あかりちゃんは白と黒、どっちがいい?」
「いえ、互先でお願いします」
「はいよ、じゃあニギろうか。あかりちゃんは普段からよく打つのかい?」
「はい! ヒカルに一杯教えてもらってて……将来はプロを目指してます!」
「ほほう、そりゃすごいや! こんなに強いならすぐにプロになれるんじゃないかな」
圧倒的な実力を持ち、ちょっと生意気だがちびっちゃくて元気な様子のヒカルと、打ってみると随分と自分の手が伸ばせて気持ちよい対局が出来るあかり。
二人ともすぐに碁会所のメンバーに受け入れられて、賭け碁を持ちかけることもなく、その日は碁会所にいた全員がヒカルとあかりどちらかと対局し、全て二人が勝利した。
「オレたちまた再来週に来るからさ。また遊ぼうぜ、おっちゃんたち」
「おう! 強い人に声かけといてやるからよ、また来いよな!」
「今日はとっても楽しかったです! またよろしくお願いしますっ!」
「ホホ、久しぶりにウチが活気づいたヨ。また遊びに来なヨ、ヒカルくん、あかりちゃん」
無事に碁会所に受け入れられたヒカルとあかりは、今後ここの碁会所を拠点とすることに決めた。
毎月一度は顔を出して、定期購読されて置かれている週間碁の冊子を読み込んだ。
たまに他の碁会所を巡り歩いて年の離れた初対面の人と打つ度胸試しを行い、更なる経験と知識を積み上げていった。
流石に明日からは毎日21時投稿に戻ります。