逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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17 脳破壊に定評のある藤崎姉妹

 

 

「最近ね、知らない人と打つのが楽しくなってきたの。想像もしないところに打たれたりすると、どう捌いていくかって考えるようになって、どうやってお互いの宇宙を広げていけばいいかなって……人それぞれに打ち筋があるのって、すごく不思議だよね」

「そうだな。あかりの打ち方だと、打った経験が増えれば増えるほど引き出しも増えるだろうし。ネット碁も碁会所巡りもこの調子でやっていこうぜ」

『あかりちゃん、本当に面白い棋風に育ちましたね……あかりちゃんらしくて棋風自体はとても良いのですが、どうしてこのようになったのでしょう』

(わかんね。間違いなく強さの深みはあるし、今の所これで困ってないからいいけど……純粋に勝つために打つっていう経験も積ませないといけないよな、やっぱ)

 

 ネット碁で未だ無敗を続けるあかりの挑戦を後ろで見守りながら、ヒカルと佐為はあかりの碁の()()()について話し合っていた。

 あかりが囲碁を始めて3年。既にヨミの深さはヒカルや佐為から見ても十分な深さを感じさせるもので、もはやあかりと打つときには指導碁とは言えず、2子を置いても二人といい勝負が出来るくらいまで強くなっている。

 強くなっているのだが、しかしそんなあかりが、今ネット碁で打っている大した腕前でもない相手や、碁会所で打つアマレベルのおっちゃん達と打つときに……急に棋力が落ちるのだ。

 

 いや、落ちるというのは適切な表現ではない。あかりの読みの深さは変わりないし、最後は勝ちを拾っている。

 しかし、接戦になりやすいのだ。

 急にあかりの相手が余りにも見事な妙手を繰り出してきて、そこの攻防でお互いに唸るような手を放って来る。

 あかりもそんな相手の攻め手を力押しで潰すのではなく、応じて受け流してせめぎ合う中で地を確保する事を得意としていた。

 指導碁を意識しながら打っているのかとあかりに聞いてみたこともあるのだが、本人に指導碁の自覚は無いようだ。真剣に打っていると。

 

 しかし、あかりは対局の勝利の他、最終的に『キレイ』な宇宙を描けたらいいな、と思って対局に臨んでいるらしい。

 そのため一手一手を自分が『キレイ』と感じる方向に打ち進めていると、良い感じに接戦になり、勝ちを拾えている……という本人の弁で。

 そんな極めて感覚派の棋風をあかりは身に着けていた。

 

 ヒカルと佐為により論理的な打ち筋ももちろん並行して身に着けてはいるが、パッションで囲碁を打つあかりは、誰を相手にしても中押しでの勝利は少なく、お互いに見事な応酬を経ての終局を迎えるという、大変に変わった打ち筋になっていた。

 

 もちろん、それがダメだとまでは現時点ではヒカルも佐為も言わない。

 言わないが、今後真剣にプロを目指していく中で、いつかあかりが己の棋風に挫折を覚えてしまわないか。

 そんな一抹の不安がヒカルの心にはあった。

 成長期に入り、未だにチビのヒカルと比べて随分と身長が伸び始めたあかりの、綺麗にハーフツインに結い上げている後頭部を眺めつつ……ヒカルは内心で決意する。

 

(今んところ、オレと佐為を除いてあかりが対局した相手で最強はネット碁で打った和谷くらいか。これから院生になってプロを目指していく中では、勝利がどうしても求められてくる。棋風が原因で勝ちを譲る様な事になっちまったら、早い段階でオレと佐為で修正してやらないとな)

『そうですね。本当に面白い棋風で、私もあかりちゃんと打つのは楽しいのですが……勝ちに貪欲にならねばプロの道はあり得ません。よく見ていてあげましょう』

(だな。……ってわけで、その一歩目を始めるか)

 

 あかりのオリジナルな棋風。

 その尊さを理解はしつつも、もしこの先勝利を求め続ける囲碁のプロの世界に飛び込んだ時に悩むことがあれば、誠心誠意、相談に乗ってやろうと。

 大切な人が囲碁で苦しみ続ける姿は見たくない。そうならないように、ヒカルは骨を折る覚悟があった。

 そして、その一歩目が今月末に予定されている。

 

「……ん、投了されちゃった。惜しいなぁ、あと5手で終局まで行けたんだけど」

「まぁ流石にここまでくれば勝ち負けは分かったんだろうな相手も。お疲れさん、負け無しキープだな」

「うん! 早速検討しよ、ヒカル、佐為!」

『ええ、検討は勿論するのですが……』

「検討はするけど、あかりにお知らせ。再来週の日曜、空けといてくれる?」

「え、うん。予定は今のところ大丈夫だけど……何するの?」

 

 ヒカルは、あかりと共に碁会所巡りをする中で、あかりに秘密で店主から貰ったチラシがあり、それをポケットから取り出して見せた。

 

「……『第18回、全国こども囲碁大会』……?」

「ああ。日本棋院会館で開かれる大会でさ。簡単な申請で参加できるから、これに挑んでみろよ、あかり。参加には保護者の付添も必要だけど、ウチの母さんでもあかりのおばさんでもじーちゃんでも、連れてくれば誰でもいいしな」

「わ、面白そうー! 絶対参加するー! ……って、私だけ? ヒカルは?」

「あー、オレはパス」

「ええー!?」

 

 チラシを見たあかりが嬉しそうに参加を宣言し、しかしヒカル自身は参加しないと聞いて声を上げる。

 そこに申し訳なさを覚えるヒカルだが、参加しない事情は簡単だ。

 ヒカルが出ても、大会を荒らすだけで終わってしまうのだ。

 アキラが参加しない理由と同じだ。プロ級の腕を持つ、かつてタイトルを獲得したこともあるヒカルの腕で小学生の大会に参加しても何もお互いに生まれない。若い芽を摘んでしまう。

 しかし、相手の事を思いながら打てるあかりなら、きっと相手にもいい影響があるし、あかりも勝ち続ける大変さ、大切さを覚えられるだろうと。

 さらに、こういう大会で優勝とかしておけば、来年に院生になる時とかにもあかりの両親の同意を得やすくなるんじゃないか、と。

 そういった諸々の理由をあかりに説明し、渋々ながらあかりも納得してくれた。

 

「そういう事なら……でも、ヒカルと大会で真剣勝負、してみたかったなぁ」

「はは、オレもあかりとそういう場で打ちたいって気持ちはあるよ。でも……オレ達がそういう所で戦うのは、院生になってからの若獅子戦やプロ試験とかだな。プロになったらそれこそだし。それまで待たせて悪いけど、納得してくれると助かる」

「……もー。わかった。じゃあ私、ヒカルの代わりに優勝しちゃうからね」

「おう、その意気その意気。優勝したらまたどっかデート行こうぜ」

「っ、うん! 頑張っちゃうから!」

『あらあらまぁまぁ。まぁまぁまぁまぁ! ヒカルったら!』

(佐為、お前はデートについてくんなよな)

『そんな!? そもそも無理ですよーヒカルから離れられないんですからー!』

 

 あかりのやる気もMAXに調整して、大会に備えてさらに碁を研ぎ澄ませていった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 ここは葉瀬中。

 放課後の理科室で、囲碁を打つ男子生徒と女子生徒の姿があった。

 

「……その、藤崎先輩」

「んー? なにー?」

 

 一年生の筒井と、二年生の藤崎ゆかりだ。

 先日の出会いのあと、ゆかりは結局囲碁部に仮入部した。

 仮、としたのはそもそも部活動として認められてないでしょっていう現実のほか、しっかり部員になって他の部員集めたり毎日囲碁を打ったり……というほどの囲碁への情熱がゆかりにはなかったからだ。

 筒井くんが頑張って囲碁部の人数を増やしたら大会メンバーとかには出てあげるよ、くらいの距離感で囲碁部と付き合うことにした。

 

 だが、それはそれとして暇なときは放課後に理科室に足を運び、こうして筒井の孤独を埋めるために対局に付き合ってやる優しさがゆかりにはあった。

 そんな、ゆかりにとっては暇つぶしの一環である対局中に、筒井は心臓が逸りそうになるのを宥めつつも、誘いの言葉を口に出した。

 

「らっ、ら、来週の日曜日、予定は空いていますでしょうか!」

「お? ……おー? 何、デートに誘ってくれんの?」

「で、デート!? 違います違います、恐れ多いです! ボクごときが藤崎先輩をデートなんて、そんな……!!」

「そこまで全力で否定されると先輩も傷つくんだけど」

「ご、ごめんなさい! ち、違くて……もしも先輩の予定が空いてたら、日曜日に日本棋院会館で行われる、全国子ども囲碁大会の観戦に行ってみませんか……って……」

「おー……あー」

 

 筒井から切り出された内容に、ゆかりは心当たりがあった。

 子ども囲碁大会。こないだ、家で妹のあかりが母に参加申請と当日の引率をお願いしていたのを覚えている。

 母さんも予定はないし、あかりが出てみたいっていう珍しい我儘に快く応じていた。

 ヒカルくんもついていくって話だったけど……あれか。

 

「なに、へぇ。大会に筒井くんも出るんだ?」

「ぼ、ボクは出ませんよ! そんな実力ないですから!」

「言ってて悲しくならない?」

「ぐ。……でも、毎年観戦には行ってるんです。入場料とかはかかりませんし、やっぱり大会に出るだけあってボクより小さな子もみんな上手で……勉強になるな、って思って。それで、もしよかったら藤崎先輩もどうかなって思ったんですが……すみません、迷惑でしたよね……」

「よっしゃ行くかー」

「ですよね……って、え? ……い、いいんですか? 本当に!?」

「構わん構わんー。前にさ、私の妹が私よりも強いーって話したと思うんだけど」

「あ、はい。聞きました。あかりさんでしたよね、お名前。すごい強いって」

「そ。その子が大会参加するらしいんだよ」

「え!? すごいじゃないですか!!」

「いやまだ勝ってもいないんだからすごくはないでしょ。でもまぁ、あの子の強さならすぐ負けるってことはないだろうし、家族に秘密で応援に行くって理由なら筒井くんに付き合うのも吝かではないなって思ってね」

「わ、わ、やった……ありがとうございます!」

 

 あかりの応援に行く予定は元々なかった。

 ヒカルくんがついていくって話だし、だったら私はお邪魔虫だろう。何度も言うが囲碁に熱を上げているわけでもなく、妹の事はヒカルくんに任せているので応援にいくつもりはそんなになかったのだが、じゃあ全く応援する気がないかと言われたら微妙だった。

 そんなところで筒井から提示された新たな理由。

 なんとなくだが、筒井くんと一緒なら退屈はしないか、と考えてゆかりはOKの返事を返した。

 

「おー。でもデートなんだから昼飯は奢ってくれる?」

「えっ、あ、はい、モチロン! 詰碁集を買う分のお小遣いを使わずに貯めておきます!」

「いや断ろうよ後輩。先輩にご飯たかられたらNOって言おうよ。冗談だって」

「じょ、冗談でしたか……」

「相変らず固いなー。……で、この対局でも打ち筋が固かった筒井くんはこの一手でおしまい」

「あ、えっ!? ……………………はい。負けました。先輩強いです……」

「なかなか強くならんなー筒井くん。私が指導碁打てりゃよかったのにねー」

「いえ、相手してくれるだけでも本当にありがたい事ですから! そ、それじゃあ来週の日曜日、よろしくお願いしますね藤崎先輩!」

「おー。おめかししてこいよー少年」

 

 ちょっと楽しみになってきた。

 ゆかりは年下の後輩との初めてのデートに、自分はどんな服を着て行こうか、筒井くんはどんな服で来るのだろうか、そんな内心のウキウキに気付かぬままに予定を立てるのであった。

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