逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
今日アキラが打った、二つの対局。
藤崎あかりには、深みを見せつけられた。更なる深さを体験した。
進藤ヒカルには、高みを見せつけられた。極みの高さを体験した。
そのどちらも、アキラにとって新たなる見地を生む出会いだった。
対局を終えた今、アキラの感情は余分な装飾が剥がれ落ち、むき出しになっていた。
むき出しのそれが己の本心であると自覚して、囲碁に対する己の向き合い方を決めた。
決めて、伝えることにした。
「ボクは、進藤くんにいつか勝ちたい」
「っ!」
────進藤ヒカルには、いつか勝利を。
「藤崎さんとは、また打ちたい」
「うん! 私も、塔矢くんと打ってて楽しかったよ!」
────藤崎あかりとは、再びの対局を。
それが、今日二人と打って感じた自分の望みだった。
だからこそアキラは顔を上げ、二人の顔を真っすぐに見つめて、それを宣言した。
「進藤くん、ボクは……何故だろう、二人ともボクよりずっと強いのに、それなのに……キミにだけは、どうしても負けたくないんだ。キミの手に、ボクは神の一手を垣間見た。キミがいる高すぎる
「……嬉しいコト言ってくれるじゃねーか。ああ……オレもお前と同じで、神の一手を目指してる。来いよな、塔矢。
「すぐにとは言えないけれど、必ず。誓うよ」
「ああ! 楽しみにしてるぜ!」
『楽しみにしていますよ、塔矢!』
その宣言に、ヒカルと佐為は嬉しくなった。
今日ここに来るまで、不安があった。
当時よりも強くなっている佐為が、自分がこの時期のアキラと打つことで、彼の発奮を促せずに潰れてしまうような可能性。
あかりに馴れ馴れしくされたときは冗談でそんなことを零したが、囲碁のライバルの一番に彼を据えているヒカルにとっては、アキラもまた、同じレベルで囲碁を語りあかせる友になりたいと願う一人だった。
そして、そんな彼はこの世界で、自分達がよく知るように、たとえ佐為の本気を見ても、不屈の精神で立ち上がった。
圧倒的な棋力の差を見せつけられたうえで、それを追いかけると誓った。
これが嬉しくなくて、楽しみでなくて何なのか。
かつてと立場は逆転したが、いつかは自分たちに追いつくだろう。きっとすごい勢いで追いついてくるだろう。
そう信じられるアキラの表情に、ヒカルも佐為も微笑みを返した。
「藤崎さんと打った碁は、ボクにとって未知の体験だった。こんなにも碁が楽しく思えたのも、美しい盤面に出来たのも……藤崎さんと打てたお陰だよ。本当にありがとう」
「そんなそんなぁ! でもどういたしまして! うふふ、塔矢くんにお礼を言われちゃうなんてドキドキしちゃう!」
「本心だよ。キミと打つと、なぜだかボクの成長を感じられる……本当に素晴らしかった。ボク以上に強い二人と今日は出会って、悔しいという気持ち以上に、もっと上を目指せると思えたのは藤崎さんのお陰だよ。次打つときはもっと綺麗な手を見せられるようにしたいな」
「う、うん! その、楽しみにしてるね? っていうのも変かな? 期待してる? ってなんかゴーマンになっちゃうね、ごめん」
「いや、事実藤崎さんの方が強いから全然気にならないよ。でも、期待には応えてみせたい」
「うん!」
そしてあかりにもまた、アキラはまっすぐに今日の楽しさを伝えた。
高段者になればなるほど、対局とは勝負であり、苦しさを伴うものが多い中で、気持ちよい対局を味わえるという経験はアキラにとって新鮮な驚きとなっていた。
己の成長を実感できるという稀有な対局。そんな一局をまた打ちたいと思うのは、小学六年生の多感な時期であるアキラにとって当然の気持ちだった。
あかりも綺麗な宇宙を最後まで描き切ったアキラに、プロの息子でヒカルがなんだかすっごく認めてるらしい少年に、そこまで褒められれば、悪い気分ではなかった。
(コイツマジで……このツラで人の女にこの距離感マジでよ……)
『ぷぷぷ! 三角関係ですねヒカル! 痴情のもつれ! ぷぷぷ!』
(今度お祓い行くかァ)
『ヒカルー!?』
しかしヒカルはアキラにあかりとの距離感気をつけやがれクソ野郎がと思った。
あかりはそれはそれとしてヒカルの左隣には自分がいたい(右隣には佐為がいる)から塔矢くんに絶対追いつかれないようにしよう、と内心で生涯負けないことを誓った。
アキラは純粋に二人を尊敬していたし、囲碁バカなのでヒカルとあかりの距離感にも全く気付いていなかった。なんならあかりに片想いしかけていた。
佐為は爆笑していた。
※ ※ ※
さて、改めてアキラの宣言も終わり、今度こそ落ち着いた空気になったころ。
ヒカルはここに来た真の目的を果たそうとした。
そもそも、自分たちはアキラに発破をかけるのが目的だったのだ。
だからこそ、院生試験前にわざわざここに来た。
直接打って、アキラの目覚めを促した。
そして、さらに尻を叩くために、今後の自分たちの予定をアキラに伝えた。
「実はオレたちさ、今年の秋に院生試験受けるんだよ」
「え?」
「プロ試験終わる頃にな。試験通れば秋から院生になる。で、来年のプロ試験を受ける」
「そんな……キミたちの実力で院生になる必要があるのかい? 今すぐプロ試験に挑んだって……」
「ストップ。お前が今言いたいコト全部を否定はしねぇさ……けどな、オレ、お前みたいな囲碁強くなりたいってヤツが大好きでさ」
「なっ……」
「……♡」
ヒカルが述べた内容に、アキラは驚愕し、赤面した。
ついでにあかりも私の事ヒカル大好きすぎるよぉってなって赤面した。
アキラは、自分の今の実力ですら、院生レベルを超えてすぐにプロになれる……と父や世話になっているプロから聞いているのに、そんな自分を軽く超える二人が院生になる理由などあるのかと疑問を持った。
しかしそれに対してヒカルはこともなげに答える。
「だから、そういう奴らと切磋琢磨してーんだよ。みんなで囲碁について突き詰めて、みんなで強くなって、みんなで神の一手を目指せたら最高だろ?」
「……!!」
「だから、今年から院生が強くなるぜ。オレたちがそうする。プロ試験のタイミングをどうするかはよく考えておくといいぜ、って言いたくてよ」
「なる、ほど……」
アキラはヒカルの言いたいことを理解する。
ヒカルもまた、レベルは違えど自分と同じだったのだ。
囲碁を共に語り合える仲間を求める気持ち。それはアキラもよくわかる。
求めて……今、巡り合えた喜びを味わっているのだから。
そして、ヒカルは院生が強くなると言った。
その言葉にアキラは納得しかなかった。
ヒカルの強さも当然影響するだろうが、何よりあかりが入会するのだ。
見る見るうちに全体の棋力が上がっていくだろう。
来年の若獅子戦、そしてプロ試験は阿鼻叫喚の様相になるだろう。
アキラはそれを確信した。
そして、そんなヒカルの助言を素直に受け止めたうえで。
彼は、塔矢アキラなのだから。
「なら、来年にする」
「は?」
「来年、進藤くんと藤崎さんと同じタイミングでプロ試験を受けるよ。そこで君たちと同期のプロになりたい……いや、なる」
「……おお。お前、相当バカだな?」
「なんてことを言うんだ進藤くん」
「わー。塔矢くんも来ちゃうんだぁ。強力なライバル登場だぁー……」
『くすくす。本当に、塔矢は塔矢ですね。囲碁に対しては誰よりもワガママです。だがそれがいい』
再びの宣言を果たす。
自分も同じタイミングでプロ試験に臨み、プロになると。
それがヒカルとあかりにより強化された院生とぶつかることになったとしても、ヒカルとあかりそれぞれと雌雄を決することになっても、挑んでやる────と。
そう言えてしまえるのが、塔矢アキラという少年だった。
彼は今日一日で、棋力も心も強く成長した。
「じゃあ、プロ試験はがぜん楽しみだな。お前がどれだけ強くなったか、真剣勝負の場でまた見せてくれよな!」
「うん、進藤くんにも藤崎さんにも……がっかりされないくらい棋力をつける。そしてプロ試験でまた勝負しよう!」
「私も塔矢くんに追いつかれないように頑張らなきゃ! プロ試験でまた戦おうね、塔矢くん!」
プロ試験での再会を約束し、対局の検討に入る三人だった。
※ ※ ※
「……ん? あれ、ちょっと待って。プロ試験で再会とは言ったけど……もうボクと打ってくれないの? たいていボクはこの碁会所にいるから、来てくれれば……」
「いやオレたちもうここには来ないぜ」
「は????」
「わぁ塔矢くんすっごい目ぇ見開いてる」
「言ったじゃん、今日打ち始める前に。『どう勝ち負けしても対局はその二戦で終わり』って。その約束で二戦打ったじゃんオマエ。だから終わりだよ」
「えっ……えっ、ボクとはプロ試験まで打ってくれないの!? 二人とも!?」
「まぁ、うん」
「うん」
「そんな……ウソだ……! ……そ、その! もし二人がよければ、父さんの研究会に参加とか……」
「塔矢、それ以上ゴネるとこの後の検討ブッチして帰るぞオレら」
「ちょっとヒカル! そこまで邪険にしなくても!」
「じゃああかりは塔矢のせいで毎日オレと打つ時間削れてもいいの?」
「あ、それはヤダ。ヒカルと打ちたい」
「!?!?」
「ってなわけでその話はおしまい。オレらはオレらで強くなるからさ、塔矢も塔矢で強くなれよ。答え合わせをプロ試験でしようぜ」
「それまでに私ももっと頑張って、ヒカルに追いつくくらい強くなってみせるから! お互い頑張ろうね、塔矢くん!」
「ああ、うん……はい……ソウダネ……」
『小学六年生への仕打ちですか? これが……』
明日からまた一日一話投稿に戻ります。