逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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28 いざ院生試験! 合格できるか!?(色んな意味で)

 

 ヒカルとあかりは、お互いの母親を連れて9月にある日曜日の今日、日本棋院会館に訪れていた。

 10月から入会する院生試験を受験するためだ。

 

「囲碁大会の時もここに来たけれど……その時よりもなんかドキドキする」

「二人とも受かるといいんだけどなァ」

『色んな意味で緊張しますね。以前は緒方が推薦してくれていましたが、今回ヒカルはぶっつけ本番ですから』

(そこよ。逆に入会断られたりしねぇだろうな)

 

 あかりは純粋に試験に緊張をしていたが、ヒカルは二度目の院生試験という場面において自分が入会できるかの不安の方が大きかった。

 強すぎてダメ、と言われて落とされる院生は見たことが無いが、自分がそれに該当しない保証はないのだ。

 とはいえ囲碁を打つとなれば手を抜いて打つという択は無い。縛りはつけるが真剣勝負で試験の先生と打つつもりではあった。

 なるようになれ。最近ヒカルが心の内でよく唱えるおまじないだ。

 

「それじゃあ母さん、おばさん。試験はオレとあかりでそれぞれ順番で1~2時間くらいで終わると思うから。一階の喫茶店ででも時間潰しててよ」

「そうね、囲碁は見てても分からないし。頑張ってね、ヒカル。終わったら呼びに来なさい」

「あかりのことよろしくね、ヒカルくん。あかりも頑張って!」

「うん、がんばる!」

 

 何度かあかりと二人で棋院に足を運んでおり、試験の流れも教えてもらってるから、親の同席は不要……とヒカルが母親たちに伝えて、母たちもそれに応じた。

 既にヒカルとあかりの両親には、それぞれ自分たちが囲碁のプロを目指していること、そのために院生の入会試験を受けたい旨を伝えてある。

 試験の流れや院生の仕組みなどヒカルが渾身丁寧に説明しており、円満な同意を得ることが出来ていた。

 ヒカルもあかりも七歳から真剣に取り組んでいる囲碁の道。

 あかりが全国こども囲碁大会で優勝したこともあり、囲碁に向ける熱量の高さを知っていたそれぞれの両親は、我が子が真剣に目指すプロへの道を積極的に応援する気持ちになっていた。

 お互いの家の関係も悪くない。幼馴染の子を持つ母親同士で話も合う仲。

 自分たちの子どもを信じてカフェに向かう母親たち。井戸端会議で盛り上がるのだろう。

 

 そんな二人を見送り、改めてヒカルとあかりは気合を込め直し、棋院に乗り込んだ。

 

「よし! 行くか、あかり!」

「うん!」

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 今日は日曜日。

 院生試験が行われる棋院会館にて、当然にして毎週日曜日に開催される院生研修も行われている。

 院生メンバーが手合いで対局する中で、早くに対局を終局させた和谷と伊角が休憩スペースで飲み物を口にしながら雑談していた。

 

「しかし、本当に惜しかったよな和谷は。体調崩さなければ真柴に白星は渡さなかっただろうに」

「ホントだよ……クッソ、過去一ノった成績だったのに。インフルエンザさえなけりゃなぁ!」

「ドンマイ。まぁ俺も……院生一位の成績でも、今年も駄目だったからな。何かが足りないんだろうなァ、俺たちは」

「時の運……とは言いたくねーよ。でも、オレ強くなってるぜ。もっと強くなって……次は絶対受かってやる!」

 

 先日終了したプロ試験。

 伊角も和谷も、合格は出来なかった。

 伊角は途中で連敗が続き、和谷は最後までかなりいい成績で進められていたが、体調を崩して最後の手合いを欠席。

 和谷の分の不戦勝による白星を獲得した真柴ほか、外様の二名が合格となった。

 

 悔しい結果だが、引きずり続けるわけにはいかない。

 来年こそは、次こそは……と、去年と同じような決意を胸に秘める和谷と伊角は、そんな話の途中で、ふと廊下を歩く二人の子どもと出会った。

 

「あっ────、……どうも」

「こんにちは!」

「やぁ」

「ドーモ」

 

 明るい色の前髪を持つ少年に、清楚な黒髪を持つ可愛い少女。

 和谷よりも少し小さい印象を受ける二人がすれ違い気味に挨拶をしたので、手拍子であいさつを返す伊角と和谷。

 和谷は今日が院生試験の日であることも把握していたので、ふとそれも聞いてみた。

 

「院生試験?」

「うん、二人でね」

「合格できたら、来月からよろしくお願いしますっ」

「そっか。頑張ってね」

「ファイト」

 

 勿論だが、ここでさらに話を広げる理由はない。

 軽く頭を下げて話を切り上げたヒカルとあかりの二人は、そのまま試験会場へ向かった。

 そんな二人の背を見送る伊角と和谷。

 

「……そういえば院生試験だったな」

「ああ。さっきは別の女の子が落ちてたけど」

「ふーん。どうだろうな、あの二人」

「受かるぜ」

「え?」

 

 廊下の角に消えていった二人を見送った後に、和谷が確信の籠った断言を放つ姿を見て、伊角は意外なものを見たような表情を作った。

 確かに和谷は面倒見の良さがある。院生でも周囲の雰囲気を柔らかくしてくれるムードメーカーのような存在だが、勝負事にはシビアだ。

 院生試験を受けに来るみんなを応援する、というヤツでもない。

 落ちるやつは落ちる、世話を焼くこともない……そんな和谷が合格を断言する理由が伊角は気になった。

 

「そこまで言う理由は?」

「簡単さ。伊角さんの角度からは見えなかったと思うけど……すれ違う時にちらっと二人の右手の指先を見たんだよね。すっげぇ打ってる爪の形と指先だった。手を見ただけで、コイツらと打ちてぇな……ってオレが思うくらい」

「へぇ……それほどか」

「ああ。来月から楽しみだぜ」

 

 聞けば、指先に棋士の証が残っていたという。

 和谷も囲碁歴は年齢にしては長い。プロの手、色んな碁打ちの手を見てきている。

 棋士の指先は無限に石をつまむ都合で、爪は歪み、指の腹は固くなり、手の甲の筋肉が一般人のそれとは違う形に発達する。見る者が見ればわかる。

 和谷が見て経験を認めるほどの指を持つ子たちなら……来るだろう、院生に。

 

「強いかな」

「強くなきゃ面白くないぜ」

 

 新たなライバルの登場を期待して、二人はにやりと笑った。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

「では先に、藤崎さんから見させてもらいます。志願書と棋譜を」

「はい! お願いします」

「進藤くんは試験が終わるまで外で待っていてください」

「はい。あかり、頑張れよ」

「うん!」

 

 院生師範として後進の育成にあたっている篠田は、今日の院生の研修を他のプロに任せ、院生試験の試験官を務めていた。

 今日受験する子たちは四名。うち、先程受けた二名は棋力不足で不合格を言い渡した。

 心苦しいが、勝負の世界である。院生に入れる実力を正しく持っているかを判断する自分の責務は大きく重いものだという自覚があり、目の前の二人に対しても公平な判断をしようと心を構えた。

 

 さて二人のうち、まずは藤崎あかりのほうから試験を開始する。

 慣れた様子で正座したあかりから書類を受領し、中身を確認する篠田。

 志願書関係の記入漏れはなし。様式も問題なし。

 内容を精査すれば、気になる文言を発見した。

 

「ほお……藤崎さんは去年の全国子ども囲碁大会で優勝しているんだね」

「はい! 決勝の、お相手の方がとても強くて、全力で打って……その、とっても綺麗な盤面になりました!」

「はは。それがこっちの棋譜の一枚だね? 確認させてもらうよ」

 

 なるほど、囲碁大会優勝の経験があったか。

 それを自信としてこうして院生への、プロへの道を目指してくれるというのはプロの一人として嬉しい気持ちもあった。

 緊張しているようで、一生懸命説明するあかりに微笑みをこぼし、篠田はそのまま三枚の棋譜を確認する。

 まず一枚目。

 

「これが子ども囲碁大会決勝の棋譜だね? よく書けているが……結構前の大会だったよね。メモを取っていたのかい?」

「いえ、打った対局は全部覚えてます! ……ので! この間、ヒカ……進藤くんに教わって書きました!」

「ほお……」

 

 打った対局は全部覚えている、と来たか。

 それがもし本当なら相当な囲碁の才能だ。子ども囲碁大会の棋譜記録は残されていないので裏取りはできないが、しかし提出された棋譜を見れば確かに対局の筋が追える様な盤面が書かれていた。

 お互いによく打てている。相手の好手も散見され、それに見事に応じたあかりの手の鋭さに驚く。

 

(よく打てている……見事なものだ。この棋譜一枚で試験合格にしてもいいくらいだ)

 

 篠田は棋譜に感心を覚え、さらに残る二枚も確認した。

 もう一枚の対局者名は……進藤?

 

「さっきの進藤くんとの一局かな? こちらは……」

「あ、違います! それは進藤くんのおじいちゃんとの一局なんです。二人ともおじいちゃんから囲碁を教わって、棋譜を書く一局もお願いさせてもらって……!」

「成程。お孫さんが可愛いんだろうねぇ」

 

 聞けば、先程隣にいた彼ではなくて、その祖父とのことで。

 棋譜を見れば、アマであろうヒカルの祖父が打つ手も中々に丁寧だ。打ち方に雑味がない。アマの高段位を察させる。

 そして、こちらもまた良い勝負。あかりが相手の手筋を崩さずに応じきっている。面白い。

 

「では三枚目は……ふむ、この筒井という人は?」

「はい、三つ上の姉が懇意にしている中学生の囲碁部の先輩なんです。ヨセがとても上手な人で、終盤戦がすごく面白かったから棋譜として提出したいってお願いして……」

「ほう……ほぉ。確かに、藤崎さんの応手も大したものだが、この筒井って子のヨセはすごいね」

 

 三枚目は筒井という囲碁部の中学生との対局。

 格下の相手と打つ碁も知れるのは有難い。棋譜の内容を読み……しかし、篠田はその内容に中々の興味を持った。

 無論、あかりの巧さが存分に発揮されている一局だ。その実力を見るための棋譜提出で、あかりの評価はさらに高くなったと言えるだろう。

 しかしそれ以上に、この筒井という対局相手。

 この子が打つ後半からの猛追には目を見張るものがある。

 プロでも読みを違えるヨセの際どい部分を、滑らかに正着打で押し返している。大した子だ。

 

(流石に筒井くんはまだ院生レベルには至らないが……しかし面白い打ち筋だ。成程、こんなに打てる人が身近にいるなら、藤崎さんの成長も早いのかな)

 

 周囲の人々に恵まれたのだろう。であれば、この後に受験する進藤くんの棋譜も楽しみだ。

 そう納得し、篠田は棋譜と志願書を卓上に置いて、碁盤に向き合う。

 

「それじゃあ打とうか。石を三つ置いてください」

「はい!」

 

 あとは対局でこの子の本当の実力を見極めるのみ。

 石を三つ置かせ、あかりと向き合い……正座して正面に座る少女の背筋が、さらにピンと一つ芯を通したように、構えたのを見た。

 

「────」

 

 その姿は、囲碁歴三十年以上の篠田から見て、あまりにも堂に入っていた。

 

「お願いします」

「おねがいします」

 

 対局の挨拶を交わす。

 今すぐに『合格です』と伝えてあげたい気持ちを抑えて、篠田は白石を持ち、試験に入った。





※時系列の矛盾
プロ試験が原作だと8月〜10月末くらいまで行われてて、ヒカルたちは10月に院生に入るような話になってまして、そうなると和谷と伊角の話の内容どうなっとるねんってなりますが、筆者が時空を歪めて気にしない方向にしたのでどうかお気になさらずでお願いします。
今後も筆者による時空の歪みが多少発生しますが時空を歪めてるので大目に見てください。
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