逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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30 院生の皆さんには来月から脳焼き大会をしてもらいます

 

 無事合格が決まり、ヒカルとあかりはお互いの母親を呼んで入会にかかる説明を篠田から受けていた。

 毎週日曜日と第二土曜日が研修日。組み合わせ表やお知らせは後日郵送。

 決まり事なども説明されて、両名の母親もそれをしっかりと聞きながら。

 

「よければ研修部屋をのぞかれますか。もうだいぶ対局も終わったころでしょうし」

「せひ! お願いします先生!」

 

 篠田が早く慣れるためにも、と提案した内容にヒカルがくいつき、研修部屋に顔を出すことになった。

 あかりが緊張を隠すためにぎゅっとヒカルの手を握り、ヒカルは気負う事なくそれを握り返して、手を繋いで先導する篠田の後ろについていき、研修部屋に踏み入った。

 

 そこでは、真剣に碁の検討を果たす少年少女たちがいた。

 

『おお……! ここの雰囲気はやはりいい。幼子たちが溌剌と囲碁について語り合う様子のなんと未来が楽しみな事か』

(だな。オレも院生部屋見るのはひっさしぶりだけど……大人になると見えるもん違うな。やっぱりいいな、ここは)

 

 佐為とヒカルは、その懐かしい院生部屋に郷愁を覚える。

 見れば、先程すれ違った和谷と伊角ほか、見知った顔ばかりでヒカルは嬉しくなった。

 

「……お! さっきの!」

 

 すると、対局を終えた和谷がヒカルとあかりの二人に気付き、笑顔で声をかけてくる。

 こっち来いよ、と手招きまでしてくれたので、ヒカルは内心で変わらねーな、と苦笑を果たし、あかりも先ほど挨拶した人から声をかけてくれたので好意的に微笑みを返し、和谷と対面のフクが座る碁盤の方に二人で向かう。

 

「よっ。受かったか?」

「ああ、受かった! 来月から世話になるぜ。オレは進藤ヒカル、六年生」

「おめでと! オレは和谷だ、和谷義高。中一。……で、そっちの()()は?」

 

 和谷は快活な様子のヒカルに好印象を覚え、早速からかい気味に言葉をかける。

 二人で受験するくらいに仲のいい様子の二人だし、これくらい茶化してもキレないだろ、とひとつ年上の余裕からくるいじりをしてやった。

 しかし。

 

「はい、藤崎あかりです! ヒカルと同い年です、よろしくお願いします和谷さん!」

「幼馴染でさ。ずっと一緒に碁を打ってた」

「おぉ……」

「ボク、福井雄太。小学四年生ー。フクってみんなから呼ばれてるよー」

「和谷にフクな。よろしくな、二人とも。検討中だったのか?」

「そ。打った後にたまに検討すんのさ。上手くなりてぇからな」

 

 あかりが『彼女』という言葉に全く動じずに笑顔を返してきたので、逆に面食らう和谷。

 マジかよマジで彼氏彼女かよ。こんなかわいい子連れてきやがって……と和谷のヒカルへの心証が僅かに更新されたが、とはいえ初対面の場でこれ以上そっちで揶揄うつもりもなく、和谷は口を噤んだ。

 対局していたフクも挨拶し、他にも対局を終えて手持無沙汰だったメンバーも集まってきてそれぞれ挨拶する。

 

「オレは伊角。よろしくな、進藤、藤崎」

「私は奈瀬! よろしくね藤崎さん! 可愛い女の子が増えたのうれしーっ!」

「本田だ。合格おめでとう、二人とも。よろしくな」

 

 それぞれの挨拶にヒカルもあかりも挨拶を返しつつ……しかし、二人とも自然と、和谷とフクが打った対局後の盤面に目が集中していた。

 流石だな、とそんな小学生二人の様子に肩を竦める周囲。

 和谷も二人のそんな様子を見て、ホントに囲碁好きなんだな、とまた心証を改めた。

 

「進藤、藤崎、この盤面どう見る? パッと見で聞くのもアレだけど、意見あるか?」

「んー……あかり、どう思う?」

「そうだね……」

 

 まぁ今日は顔見せ程度であることは分かってるが、これだけ盤面を睨まれれば興味も出てくるというもの。

 二人が睨むこの盤面にどんな意見を持つのか。和谷がそれを聞いてみて、あかりがヒカルから投げかけられて意見を述べる。

 

「……ここ、この白の手。すごく綺麗な所に打たれてるな、って思いました」

「あ、そこはボクが打ったんだー。自分でもそれを打ててから、次の攻めが広がったんだよー」

「ああ、フクのそこ上手かったよな。オレも上手く打たれた! ってなってそっから流れ変わっちまったぜ」

「はい。それで和谷さんが応手をこちらに打たれて……」

「あ、オレには敬語じゃなくていいぜ藤崎。院生ってそんな年齢とかで上下関係ないから」

「そう? それじゃあ……和谷くんのこっちの手、応手として右辺を睨んだいい一手だと思うんだけど、もしこの時にこっちに打ってたら、地を守りつつ左辺も牽制してその次の一手の選択肢が広がるかな、って」

「お? …………確かに。そうかも」

「もしそこに打たれてたらボクも次の一手が悩んだかもー」

「うん。それで……その()()()でフクくんが打ったこれ、攻めを伸ばす一手だと思うんだけど。ここでもう一度和谷くんは、左辺に接続する一手がここに打てたかなって。かなり細い道だけど……」

「お……ホントだ! うわ、気付かなかったなぁ……二回流れを取り返すチャンスあったのか。すごいな藤崎、お前強いんだな!」

「えっ、いやっ、まだこれからだから……!」

(あかりのやつ上手くやってんじゃん。和谷も流石、初対面の相手と打ち解けるのはコイツが一番上手だ)

『そうですねぇ。彼にはヒカルが本当にお世話になりました』

 

 あかりが盤面に示した手に、和谷もフクもなるほど、と自分の手をそれぞれ振り返り確かな筋が新たに開かれるのを見て驚く。

 この僅かな話だけでも相当打てることが分かった。

 なるほど、こりゃ楽しみだ。

 和谷はあかりの実力を認め、早く打ってみたいもんだ、と来月を楽しみにした。

 

「……ヒカルー、あかりちゃん。そろそろ帰るわよ」

「あ、母さんに呼ばれてら。あかり、行こうぜ。検討中途半端で悪いけど」

「うん! それじゃあ改めて皆さん、来月からよろしくお願いします!」

「ああ! 楽しみにしてるぜ藤崎、進藤!」

「またねー」

 

 そこで篠田が説明を終えたのだろう、母から呼ばれたヒカルとあかりはそれに応じて、周りに挨拶をして研修部屋から去っていく。

 周りもそれぞれ挨拶して見送り、院生の新人との僅かな検討をした盤面に戻った。

 

「…………うーん……?」

「ん? 伊角さん、どうしたの? 藤崎の指摘かなりいい線だったと思うぜ?」

 

 そこで先程、あかりたちと和谷たちの検討を隣で見ていた伊角が首を傾げる。

 和谷がそんな様子に気付き声をかけると、伊角が和谷に疑問を伝えた。

 

「いや……さ。オレもさっき和谷とこの対局を検討してたから、内容は理解は出来たんだが」

「うん……、────ッ!?」

 

 伊角のその一言で、和谷はある事実に気付き、冷や汗が背筋に流れた。

 先程ヒカルが一瞥し、あかりが指摘した盤面。

 終局の状態で石が配置されており、それを見れば確かにどこで鬩ぎ合いが起きていたのかは院生になれる程度の棋力を持つ者なら察することが出来る。

 察することが出来る、のだが。

 

「……あの子達に()()()()()()()()()()()()()()。それなのに終局の盤面を見ただけでお互いの手の順番まで読んで、フクの五手先まで読んで、さらにその時の和谷の盤面まで読んで、僅かな時間で急所を見つけ出したって事か、藤崎は? 初対面の相手が打った対局で……?」

「……? あ、ホントだー。そうだよね、ボクと和谷くんがどう打ったか二人は見てないんだ。すごいねー、ボクなら全然わからないや」

「…………」

 

 ヒカルもあかりも、和谷とフクは間違いなく初対面。

 その上、どの順番で打たれたかなど当然にして知る由もない。終局した盤面を、挨拶の合間にちらりと見ただけなのだ。

 見ただけで────分析と、フクの手順と、和谷の盤面まで推理した、というのか?

 どんな脳をして、どんな訓練をすれば、そんなことが出来るようになるのか?

 

「……もしかして化物なの? あの二人」

「かもな」

 

 そばで話を聞いていた奈瀬も話を理解して、及ばぬ読みの深さに驚愕を覚えた。

 異常なるものに間近で触れた和谷が、頬に垂れた汗を拭って去っていく二人の背を見送る。

 とんでもない奴が、来月から院生になるのかもしれない。

 

 

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