逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
和谷は、院生研修日の午前中に行われる対局の二戦目を終えた。
「……ありません。ありがとうございました」
「ありがとうございました。……うん、結構うまく打てた! 和谷に勝つの久しぶりー」
「ああ、オレもちっと気が散ってたかも。ここの捌きでヨミ違えてんなオレ。後から気付いたわ」
「あ、そこ分かるー。失着だって気付いたから見逃せないってなって、こっち手を広げて攻め込んだから……」
対局相手の奈瀬と軽く検討を交わしつつ、敗北の原因に思い至る。
今日来た新人の二人、進藤ヒカルと藤崎あかりがどんな碁を打つのか……それが気になって集中できなかった、といえば言い訳になってしまうので口には出さなかったが、しかしやはり興味はあった。
院生初日で緊張もあるだろう二人の世話を焼いてやりたいと無意識で考えてしまうのだ。和谷の面倒見の良さがにじみ出ている。
「オレらケッコー早く対局終わったよな。奈瀬、今日昼メシ持ってきた?」
「ううん、買い弁」
「オレも。じゃあ進藤と藤崎誘って、一緒にメシ食べねーか? 進藤たちから色々聞きたいこともあるし……藤崎も女子がいた方が話しやすいだろ」
「オッケー乗った。……和谷ってそういう所ホントに気ィ配れるわよねー。もしかして学校じゃモテるほう? 彼女いたり?」
「知るか!」
奈瀬も誘ってヒカルとあかりの二人を昼食に誘う事にした。
朝の時点では、以前の棋譜検討の噂でかなり注目を集めてしまい、やりづらい感じを与えてしまっていた。
もし二組の誰かから先に誘われてれば諦めるが、前にも結構声をかけた自分なら話しやすいだろう。
どんなふうに囲碁覚えたのかとか、棋風とか、院生初日の対局はどうだったか、とかを聞いてみたかった。
早速碁石を片付けて、奈瀬と二人で二組の対局する向かいの部屋に移動する。
「お、まだ藤崎のほうは打ってるか」
「進藤のほうは対局後の検討中みたい…………午前の二戦とも勝ってる。流石、噂通りね」
奈瀬が端にある机に置かれた勝敗表を見て、ヒカルの勝利を確認。
検討が終わってから声をかければいいだろう。和谷と奈瀬はあかりの打つ対局を見に行くことにした。
邪魔にならぬように静かに傍に寄り、盤面を眺める。
(……うおっ、すげぇ鬩ぎ合い! んー…………藤崎が僅かに優勢、か? でも宮田*1もいい形だ。モツレるな)
(え、これ二組の対局よね? すごくない? あかりちゃん、いきなり好勝負ね)
そこには中々に見事な対局が映し出されていた。
あかりの方が僅かに優勢に見えるが、宮田も食らいついている。すでにヨセまで入っており、どちらかのワンミスでひっくり返りそうな盤面だが……最後まであかりが正着打を打ち続け、僅かな差を埋めさせずにあかりの勝利で終局した。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。……いや、強いね藤崎さん。ボクも相当上手く打てたと思ったけど」
「えへへ……ありがとうございます。早速検討させてもらってもいいですか?」
「勿論、こっちからお願いしたいところだよ! じゃあまず、自分で急所打てたなって思えるここの一手なんだけど……」
「はい、そこは……あ、和谷くんに奈瀬さん」
「よっ。最後の方だけ見せてもらってたぜ。すげーな、やっぱ強いな藤崎。検討混ざっていい?」
「あかりちゃん強いねー、噂通り。でも宮田もすっごいいい形になったねこれ」
「うん、ボク自身も驚いたよ。すごく打ちやすかった、藤崎さんとの対局。負けたけどある意味満足。藤崎さん、こっちに打つって選択肢をボクが取ってたらどうした?」
「もしこの時点でそっちに打たれてたら、左辺よりも右辺の接続を考えてこっちに打ちこんでます。その後の形が全然変わっちゃってたかも……」
「へぇ……どっちもお互いの地が広がるような勝負になりそうね。面白そー」
これほど見事な対局が出来れば、検討にも花が咲くというもの。
和谷も奈瀬もあかりに声をかけて、そのまま検討に混ざる。
有益な意見がいくつも飛び交い、あかりも対局相手の宮田も真剣な意見交換を交わしていたところで、ヒカルが自分の対局の検討を終えて合流して来た。
「あかり、そろそろ昼メシだぜ」
「あ、うん。そっか、もうそんな時間……じゃあこれくらいで。宮田さん、検討ありがとうございました」
「こちらこそ。あとそんなに畏まらないで貰っていいよ、歳もそんな離れてないし。また打てれば打ちたいね、次は負けないよ」
「はい!」
昼食の時間も近くなったため、ちょうどいいや、とここで和谷がヒカルに声をかける。
「進藤、よければ一緒にメシ食わねぇ? 色々聞いてみたいこともあるし、院生の事で聞きたいこともあるだろ? 藤崎も一緒にさ。奈瀬もいる」
「あー、そんじゃ一緒に食べるか。あかり、いいよな?」
「うん!」
「よろしくねー。宮田もどう? 一緒に食べる?」
「あ、ボク今日は他の子と外で食べる約束。気にしなくていいよ」
「そっか」
和谷の誘いにヒカルもあかりも了承した。
盤面を片付けて宮田と別れ、四人は対局室を出て休憩室に移動。
長机の一か所を食事場所としてキープした。
「二人は買い弁?」
「あ、ワリ。オレら弁当持ってきてる。多分ずっと弁当になるよ、あかりが作ってくれるから」
「あらあら~? 既に夫婦関係? アツいねー」
「えへへ……実はそうなんです!」
「まだ籍は入れてねぇよ」
「なんだこの子ら強いな」
「メシ誘ったの早くも後悔し始めてるぜ。んじゃパパっとコンビニで買って来るから、ちょっと待っててくれな」
お昼の準備を二人に確認してみれば、なんとあかりがヒカルの分まで弁当を作って持ってきているという。
彼女の手作りのお弁当という、一般中学生の和谷と奈瀬の二人には想像もできないようなシチュを毎回見せつけるつもりなのかコイツら。
奈瀬の茶化しに見事な応手を見せるあかりとヒカルに、この二人を恋愛関係で茶化しても意味ねぇな、と和谷も奈瀬も理解し始めた。
藤崎さん、売約済みです。奈瀬はこの事実を早いうちに院生に広めておこうと決意した。
さて、そうして和谷も奈瀬も弁当を買ってきて、改めて四人で食事を囲む。
「待って。これホントにあかりちゃんの手作り? クオリティ高すぎない?」
「料理が趣味なんです。昔からヒカルに作って食べさせてたので」
「進藤お前……おおよそ今日だけで男子メンバーの敵になったぞお前」
「囲碁でならいくらでも来いってモンだけど、そっちで敵視されてもどうにもできねぇよ!」
あかりの持ってきた弁当がハイクオリティすぎて奈瀬が女子力で敗北し、和谷も白目になった。ヒカルは自分の舌にめちゃくちゃ合う味付けの弁当に舌鼓を打っていた。
とはいえ茶化すだけで話は終わるはずもなく。和谷と奈瀬から、二人に色々質問を投げかけられた。
「二人とも囲碁はいつから?」
「小二の頃から。じーちゃんに教わってハマって、そっからは二人でずーっと打ってた」
「へぇ、じゃあ囲碁歴四年くらいなのね。プロに師事受けたりとかは?」
「特段そういうのはしてなくて……私はヒカルに色々教えてもらって勉強しました!」
「確か藤崎って去年の子ども囲碁大会優勝してたよな? 記事で名前見たような気がしてさ」
「うん。その頃はプロになる道を親に理解してもらうための実績づくりで大会参加したの。優勝できてお互い親にも理解がもらえて、院生になれたの」
「あとは碁会所巡って対局慣れしたりとかな」
「面白い事してんのねー」
「ん……?」
囲碁歴、大会出場経験、プロの師事はあったのかなど、まずは気になっていたことを確認。
プロなしで子供二人でここまで実力を伸ばしたなら才能はマジだな……と思っていたが、しかし和谷は最後に出た話題、碁会所巡りの部分が気になった。とある噂話を知っていたからだ。
まさかな、と思いつつも、聞いてみた。
「碁会所巡りって……え、もしかしてお前ら、噂の『碁会所破り』か!?」
「あっ……えっとー……」
「……ま、否定しなくていいだろ。事実だし、いずれバレる話だし。子供二人って噂になってたんだろ? オレらだよ」
「嘘だろマジ!? 森下先生から聞いたけど、塔矢アキラまで倒したって噂だったよな!?」
「マジマジ」
「塔矢くんと打ったのが碁会所巡りの最後かな。打ち終わった後に友達になったの」
「えっ、あかりちゃん塔矢アキラに勝ったの!? ホントに!?」
「え、ええ。ギリギリでしたけどなんとか」
「マジかよ……」
聞いてみたらマジだった。この二人が噂の碁会所破りだったという。
そんな存在を聞いており、面白そうなんで自分もいつかやるかな、と思っていた碁会所巡りだが、先駆者の二人がこうして院生になるとは。
しかも……塔矢アキラさえ討ち果たしたという噂で。
塔矢アキラの棋力の高さは、院生の間では有名だ。強すぎて院生に入らないという鼻持ちならない噂まで流れていた。
しかしそんな塔矢アキラを、実際に倒した二人がこうして院に入っている。
これは────チャンスだ、と和谷は考えた。