逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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36 定期的にいちゃつくなコイツら

 

 12月下旬、日曜日。

 院生研修があるこの日、午後の二局の対局を終えて研修日程が終了したころの研修室にて。

 

「……うし、検討はこんなところだろ。このワカレの一手、新しい定石になりそうだなってオレ思っててさ。めっちゃ拡張性あるからみんなも家で検討してみるといいと思うぜ」

「確かにな……ここから押し続けてツケで上手くヨセられたら、相手のここ切れて……相当有利持ち込めるな。難易度は高いけど」

「ふーむ……藤崎と打つと自分の手に発見があるけど、進藤と打つと進藤の手に発見があるんだよな。不思議なモンだ」

「ホントに進藤と打ってると新しい発見ばかりで勉強になるぜ。何食ってたらこんな手思いつくんだよ」

「あかりの弁当」

「ごちそうさまだよ!」

 

 ヒカルが和谷と打った対局の検討を、伊角、本田、ほか一組二組問わず院生が集まる中でじっくりと煮詰めていた。

 ヒカルが今日見せた新手、新定石。こういったものがヒカルと打っていると散見されるのだ。

 その全てが難易度が高く、しかしモノに出来れば強い武器になる。

 院生たちはこれらの自分が強くなれるチャンスを一つたりとも漏らすまいと聞き果たしていた。検討の最中にメモを取る者が珍しくないくらいだ。

 院生内の順位という差はあれど、垣根はいつの間にか取り払われていた。全員が全員、真剣に囲碁に向き合い、負けまいとライバル心を発揮しあう好環境が出来ていた。

 

 そんな、真冬の時期に熱意溢れる検討を終えたところで、同じく検討を終えたあかりがヒカルの傍に近づいてきた。

 

「ヒカル。そっちも検討終わった?」

「ああ、今しがた。そっちも?」

「うん。それじゃ帰ろっか」

「だな」

 

 院生たちの帰宅の時間にもなったので、帰り荷物を準備し始めるヒカルとあかり。

 未だに検討の熱冷めやらぬ様子で検討の検討までし始める院生もいる中で、しかし同じく帰り支度を始めた和谷は、二人が素早く帰ろうと支度する様子を見てふと思いついた。

 からかってやろう。

 なにせ今日は12月24日。クリスマスイヴだ。

 囲碁なんて色気のない事やってる院生の間では、小学生二人の身長差カップルの微笑ましいお付き合いの様子は茶化しても無罪とされている。

 大体茶化した側がストレートで殴り返されてダメージを受けることが多いのだが、それでもめげないのが若さというものだ。

 

「なんでぇ、今日は帰りが早いじゃん。クリスマスデートにでも行くのか?」

 

 にやりと口の端を歪めてジト目で二人を見ながら和谷が茶化しを投げかけた。

 その言葉に、ヒカルとあかりの二人はきょとんとした顔を見せてから、やはりストレートで返す。

 

「まぁ……そうなんだけど。知ってたのか?」

「うふふ、今日の門限は八時にしてもらってるんだ。久しぶりのクリスマスデートなの!」

「そっかー……ありません。対局ありがとうございました」

「どうした急に」

「早く帰れ! オレがキレ散らかす前に帰れ!!」

「和谷くんちょっと様子がヘン」

 

 敗北者になった和谷が愛と怒りと哀しみの神の一手(シャイニングフィンガーソード)に目覚める前に、スタコラとヒカルとあかりは棋院をあとにした。

 打つべき対局は打って、検討するべき盤面は検討した。二人がデートするのを邪魔する者は誰もいない。

 しいて言うなら子犬みたいな幽霊が一人いるが、既に烏帽子を深く深く被って顎まで下ろして目と耳を封じている。

 傍目にはモルゲッソヨのような不審者でしかないが、幸いにしてそれが見えるのはヒカルしかいない。

 

「ふー……寒いな。年の瀬だから当然か」

「だね。もう今年も終わりかぁ……色々あったね」

 

 子ども特有の温かい吐息で頬の傍を白く染めつつ、二人が並んで日の暮れた街並みを歩く。

 駅前のクリスマスデコレーションが広がる通り。道行くカップルの隙間を腕を組みながら歩く二人は、二年前に比べれば十分に大人びたと言えるだろう。

 ヒカルの背よりもあかりの背の方がだいぶ高くなってしまったが、これは前の世界と同じ身長差だ。頭一つ分近い差が出来ているが、中三の頃には並ぶことを知っているのでヒカルに焦りはない。

 

「……今なら、カップルに見えるかな? 私たち」

「オレの身長が低くて姉弟みたいに見られてるかもな」

「もー! そういう意味じゃないって分かってるでしょ! ヒカルのいじわる!」

「ワリ、冗談。その内背も抜かしてやるからさ……それまでお預け」

「……もぅ」

 

 あかりは、ヒカルと共にいられるこの時間をとても楽しんでいた。

 すっかり囲碁漬けになった自分だが、そのきっかけとなったヒカルと佐為の対局は未だに己の心の水面にはっきりと写り込んでいる。

 あの時のヒカルがそんな対局が出来た理由を、自分に隠していても。

 ある程度、察していても。

 それでも、あかりはヒカルの事が大好きだった。

 この気持ちは嘘じゃない。それだけでよかった。

 

「夕飯どこにしよっか。背伸びしてレストランとか入っちゃう?」

「……色気のない話で悪いけど、ラーメン食べたいって言ったらOK?」

「えー、またー? 栄養偏っちゃうよー?」

「あかりの作ってくれる弁当でバランス取れてるから平気かなって」

「ダメだよー……と言いつつ、寒いからラーメンはありかなって思ってる私もいたりして」

「それじゃラーメンだな! よっしゃいつものとこ行こうぜ!」

「仕方ないなぁ、もう! 中学生になったらもっといい所にしてよね!」

「そん時はプロになってるだろうから、あかりの好きな所行ってオゴってやるよ」

「約束だからね!」

 

 一緒に食べる夕飯がラーメンと決まった時点で、あかりの手を取って元気よく走りだそうとするヒカル。

 身長差でそれを押し留めて、ゆっくり歩いて雰囲気を楽しむことは譲らないあかりだが、お互いに気兼ねなく話し合える関係には違いない。

 結局小学生二人で入れる食事処にお洒落な店などというものは無く、いつもの通り並んでラーメンを食べることになった。

 

「んー……美味っ!」

「碁会所に来るたびに食べるからすっかりこの店にも慣れたね私たち。ずず……」

 

 ヒカルがドンブリごと持ち上げてスープを味わいつつ、テーブルの対面に座るあかりは髪をかき上げながら麵をすする。

 ごくたまにちらりとヒカルの視線が髪をかき上げる己の仕草に向かう事をあかりは察し、ラーメンも悪くはないかな、と考えを改めた。

 

 さて、腹も満たして。

 駅前のクリスマスツリーも二人で眺め終えて、家に向けて帰宅の路を歩きながらの事。

 

「……あと三ヶ月で小学校卒業して、中学生だね」

「そうだな」

「中学生になったら、筒井さんの囲碁部発足、お手伝いしないとね」

「ああ。団体戦に出て海王中倒してもらわねーと」

「院生も……春の若獅子戦と、夏のプロ試験。どっちも手を抜けないね。ヒカルとも絶対当たるし」

「だな。どっちも容赦しないぜ。ガチの試合じゃ手加減なんてできねーしよ」

「負けないもん。私も院生になってから、もっともっと宇宙を広げられるようになってるし……もっと、頑張りたい。頑張って……ヒカルの隣に、ずっといたい」

「…………」

 

 たまたま、街燈が照らす道路だったのがあかりにとっては幸運だった。

 沈黙するヒカルの横顔を高い位置から見下ろせば、頬が真っ赤に染まっているのが見て取れたからだ。

 

 ────我慢できない。

 

 

「ねぇ、ヒカル」

「なに?」

「UFO飛んでる」

『~~~~~!!』

「……棋院会館出てからずっと目と耳抑えてるよ、佐為は」

「そう? なら……いいよね」

 

 それは一つの合言葉だった。

 二人きりで、特別な時間を作りたい時の合図。

 UFOが飛んでる。

 その言葉で、佐為は二人から出来る限り距離を離して見ざる・言わざる・聞かざるの三猿になるように調教されていた。

 

「────♡」

「────」

 

 あかりが少し姿勢を屈めて。

 街頭に照らされる二人の影が、一つになって。

 小学六年生の二人のクリスマスは、熱の籠った白い吐息をお互いに漏らして、終わりの時間を迎えた。

 




■名前付きキャラの院生一組順位(十二月末時点)

ヒカル  一位
あかり  二位
伊角   三位
和谷   四位
奈瀬   五位
本田   七位
フク  十四位(小学生で遠出ができず勉強会に参加できないため)


※番外
飯島 キャラちょっと動かしづらいのでほぼ出番なしでスマン
小宮 キャラ把握できなくてほぼ出番なしでスマン
越智 来年院生になってビビり散らかせ
真柴 プロ試験に受かりさえしなければあんなことにならずに済んだのに
門脇 一年遅かったので出番なし
椿  プロ試験予選が魔境になってほぼ出番なしでスマン
 
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