逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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37 中学生がタバコ吸う描写が許されてんの時代だなって

 

 年が明け、二月。

 放課後、あかりの家でいつもの如くヒカルとあかりで碁の研究を果たした後、近所の街並みを散歩していた。

 あかりの手にはリードがあり、その先には藤崎家で飼っているペットの犬が繋がれている。

 息抜きの一環で、たまにこうして二人で犬の散歩をすることがあった。

 

「でね、おかしいんだ。お母さんがね、オサカナくわえたドラネコ追っかけて裸足でかけてっちゃって……」

(運命って収束するんだなァ)

『前にもあかりちゃんがこんな話してた記憶がありますね』

「……って、ちゃんと聞いてる? ヒカル?」

「聞いてる聞いてる。ラルフもでっかくなったよな」

「聞いてないじゃん! 確かにでっかくなって立派にウチの番犬してくれてるけど!」

『ラルフがたまに私の方を見てくるのは何なのでしょうね? 犬には幽霊の存在が分かるのでしょうか?』

(同族がいるって感じてるんだろ)

『ヒカル?』

 

 公園に立ち寄り、ベンチに座って、ヒカルが前の世界で聞いた覚えのある与太話をあかりが語り始める。

 その話に、もふもふとラルフの頭を撫でながら雑に返すヒカル。

 ヒカルは藤崎家によく遊びに行くので、ラルフもヒカルの顔は覚えて懐いていた。

 気持ちよさそうにしているが、時折佐為がいる方を眺めてスンスンを鼻を鳴らすので佐為は恐る恐ると言った様子であった。

 

 さて、そんな平和な時間を過ごしつつも、あかりは先ほど約束した話をヒカルが忘れていないか確認する。

 

「まったくもう。お姉ちゃんから貰ったチケット、葉瀬中の創立祭のほうは忘れてないよね? 今度の日曜の午後だけど」

「忘れてねぇよ。ちょうどタイミングよく棋院会館で免状授与式の準備が日曜にあって、院生研修が土曜日に変更になったもんな。ラッキーだったぜ」

「ならいいんだけど。お昼食べたらウチに迎えに来てね、待ってるから」

「了解了解。安心しろって、ちゃんと覚えてるよ」

「不安だなぁ……佐為、ちゃんとヒカルに忘れないように言ってね?」

『ご安心を、あかりちゃん。ヒカルがその日を忘れられるはずがありませんので』

 

 それは葉瀬中の創立祭に一緒に遊びに行く約束。

 あかりの姉、藤崎ゆかりがもう間もなく卒業を迎える中学三年生。最後の大きなイベントとして年度末に創立祭があり、その出店のたこ焼きのチケットをあかりとヒカルの分をプレゼントしてくれたのだ。

 勿論そこには姉として、愛する妹とその彼氏への気遣いが存分に含まれている。

 

 そしてヒカルは、その日の出来事を深く記憶していた。

 忘れられるはずもない一日。そこでかつての世界では、筒井と加賀に出会ったのだ。

 勿論のことヒカルも参加できた幸運に感謝していた。院生研修を休んででも行こうと思っていたが、たまたま日程変更があったのは渡りに船だった。

 

(筒井さんとはもうすっかりあかりん家で会う仲だけど……加賀に会えるかなァ)

『楽しみですね、ヒカル』

 

 前回はあかりと合流できずにたまたま一人で出歩いて筒井と出会ったが、今回はデートを兼ねている。

 囲碁漬けの日々の息抜きに、あかりと共に特別な時間を過ごすのもヒカルにとって大切なモノだ。

 今週末に想いを馳せつつ、二人はラルフの散歩に戻るのだった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 葉瀬中創立祭の当日。

 ヒカルとあかりは約束通り藤崎家にて待ち合わせ、共に葉瀬中に到着した。

 

「わ、出店がいっぱい!」

「カネ持ってきてよかったな。たこ焼きだけじゃガマンできなかったぜ」

『前回の時はヒカルがお金持ってなくて何も出店で買えませんでしたからね』

(今にして思うと小六のオレ、何を考えて創立祭にカネ持たずに行ったんだろうな)

 

 葉瀬中の敷地内では各部活ごとに出店が並んでおり、非常に活気あふれる様子が広がっていた。

 早速中に入り、お目当てのたこ焼きをチケットで交換し、他にもいろいろな出店を見て回る中で……ヒカルの足は、自然とそちらに向かっていく。腕を組むあかりも一緒だ。

 

「ん? ヒカル、どこか行きたいの?」

「こっちのほう。筒井さんに前聞いたんだよ、こっちで小さいスペース借りて囲碁部の出店やってるって」

「へぇ! それなら行ってみよ!」

 

 記憶の限りでは、茶道部の出店の隣で筒井が長机に場所を広げて詰碁教室を開いており、生徒の親御さんの中高年の人たちにそこそこ人気になっていた筈。

 懐かしい記憶を思い返しながら、ヒカルがあかりと共にそちらに向かえば……やはり思い出の姿の通りとなっていた。

 一年前に出会った頃よりずいぶん身長が伸びた、記憶の中の通りの筒井の姿。碁盤を置いた長机にかけて、ご父兄相手に詰碁をしている。

 

「……お?」

『おや』

「あ」

 

 しかし、それとは別にヒカルの記憶にない光景が広がっていた。

 筒井のすぐ隣、あかりの姉であるゆかりの姿まであったのだ。

 なんでやねん。そんな思いを抱えつつ、しかしヒカルは元気に顔見知りの二人に挨拶する。

 

「……やっほ、筒井さん! ゆかりさんも!」

「筒井さんこんにちは! お姉ちゃんは……何でここにいるの?」

「あ、進藤くん、あかりさん! こんにちは!」

「やほー。私はちょうど立ち寄った所。歩きっぱなしで疲れたから座って休憩中ー。あ、たこ焼きちょーだいあかり」

「遠慮ないなぁ! 一コだけだよ」

 

 聞けばゆかりはちょうど立ち寄ったところだという。

 本当かな? その疑問がヒカルとあかりと佐為の脳裏によぎったが、まぁゆかりの事だ、尻尾は出すまい。

 時々の囲碁の指導の時に聞いていた通り、囲碁部は現在部員が筒井一人。他には誰もいなかった。

 

(……よく考えたら、この景品とかって誰が買って準備したんだろ。この時期って囲碁部の予算なかったよな? 筒井さんの自腹なのか?)

『ティッシュとジュース、それなりの数を準備していますよね。筒井さんがお小遣いをはたいて購入したモノだとしたら……』

(泣けるぜ。来年度は笑顔にしてやるからな筒井さん……!)

 

 筒井の身を切る様な囲碁への愛にほろりと落涙してしまいそうになるヒカル。

 絶対に……囲碁でこの人を笑顔に……! と内心で決意を果たしてたところで、筒井が客との詰碁を終えて、あかりが筒井に声をかけた。

 

「これは……筒井さん、詰碁をお客さんに出してるの?」

「そう。ティッシュか缶ジュースが景品でね。結構オジさんたちからウケがいいよ。ホントの狙いである学生は誰も来てくれないけどね……」

「筒井くんが遠い目をしておられるぞー」

「まぁ……囲碁って中々若い世代には良さがわかってもらえないっすから……」

 

 筒井が遠い目をして、ヒカルも気持ちは分かって同じく遠い目をした。

 どうしてこんなに面白いのにみんなやらないんだろう。

 今回の人生では小学校時代にも布教を試した経験のあるヒカルだが、あかり以外はものの見事に全滅だった。囲碁界の肩身が狭い。

 

「ま、仕方ないさ。よかったら進藤くん達もやってみて……って言おうとしたけど、二人に出すんじゃどんな詰碁もすぐに解かれちゃうね」

「いやいや……まぁそんなことはありますけど」

「詰碁集に乗ってる問題くらいなら、まぁ……多分即答できちゃうかも」

「ウチの妹とその彼氏が囲碁強すぎる件ー」

「あはは、でもそれくらい言っても誰も文句は言わないさ。なにせ塔矢アキラにも勝った二人なんだから!」

 

 話題は広がり、筒井はヒカルとあかりが詰碁集など最早問題にもならない事を察し、冗句を零す。

 筒井も囲碁会の噂話にはそこそこ聡い。

 去年ごろから碁会所で噂になっていた『碁会所破り』の件は耳にしており、正体が男女の小学生と知ればヒカルとあかりしかいないと推理して、ゆかり主導の勉強会で実際に聞いて確認もしており、その事実にさらに二人を尊敬していた。

 そんな話をしていたところで、しかし、それを耳にした男が一人、ぬっと近づいて碁盤に影がかかった。

 

 

「──ア? 塔矢アキラに勝ったヤツがいるだァ? なんの冗談だ筒井よぉ!」

 

 

 その男は、将棋の駒を彩った袴を着て、羽織を肩にかけていた。

 その男は、中学生だというのに煙草を口にくわえていた。

 その男は、素行の悪い不良として葉瀬中でも有名だった。

 その男は。

 

(────加賀!!)

『やはり運命は巡るモノ。ここで出会うのですね、ヒカルと……!』

 

 その男は、加賀鉄男。

 将棋部主将にして、囲碁の腕前も達者な風来坊だった。

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