逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
脳焼き続けてもアレなのでちょっとした閑話を挟もう。
3月。それは卒業の季節。
ヒカルとあかりは葉瀬小学校を卒業し、時を同じくしてあかりの姉であるゆかりも葉瀬中学校を卒業した。
新しい学校へ、将来への一歩を踏み出した彼らが卒業式のあった翌日にどこにいるかというと。
「わぁ……すごい! 雲の裏側が見えるー!」
「ちょっとあかり、私にも見せてよー。窓際の席ズルいってー!」
「はしゃいでんなァ」
『すごいすごい! すごいですよヒカル! もう空港があーんなに遠くなって!! こんな高所から大地を見渡せるなんて、ヒコーキはすごいですっ!!! びゅーんって!!!』
(コイツが一番はしゃいでんなァ……)
空の上であった。
国内線の旅客機、片道一時間半のフライトで、卒業記念の合同家族旅行に出かけているのである。
事の始まりは、昨年末に藤崎家の父が仕事の都合でとあるチケットを入手したことから始まった。
今年の3月から開業となった、将来において西日本最大のテーマパークと謳われるUSJの、開幕セレモニーチケット。
幸運にも手に入ったそのチケットで、藤崎家は娘二人の卒業記念旅行を計画していたのだ。
時期もちょうどよく、娘二人が卒業した後のタイミングで二泊三日で西日本を旅行することが出来る。
これ以上ない記念の旅行が出来ると知れば、早速旅行の計画を綿密に立てることにした藤崎家の両親。
しかし、ここで幸運はもう一つ起きる。
USJの入場チケットを見ると、最大八人まで入場が可能だったのだ。
藤崎家は両親と姉妹の四人。四人でこのチケットを使いきってしまうのももったいないとあかりの両親は考えた。
祖父祖母などを誘おうかとも考えたが、USJは新設の若者向けのテーマパークである。
遠方への旅行なこともあり、話を持ち掛けてもそこまで祖父母は乗り気ではなかった。
さて、ではこのチケットの空きをどう使おうか?
そこでいの一番に思いついたのが、娘のあかり、ゆかりとも深い縁を結んでいる幼馴染……進藤ヒカルと、そのご家族である。
ヒカルとあかりは子どものころからずっと仲が良く、そして今は共に囲碁のプロへの道を目指している、両親公認のお付き合いを家族ぐるみでしている親密な間柄。
ヒカルくんも卒業だし、これからも娘が大変お世話になる予定。
ご家族をこのチケットでご招待しても良いのではないか……と提案し、藤崎家全員がその案に乗った。
進藤家も、藤崎家から話を持ち掛けられた当初は大変恐縮もあったのだが、思えばヒカルとそうした家族旅行に向かう事はあまり多くは無かった。
囲碁漬けの日々を過ごす中でヒカルの面倒を見る必要がなくなり、手間のかからない子になって、どこに旅行に行ってみたい、といったおねだりが無かったのも理由の一つではあるが、ヒカルの為を想えば、小学校卒業という節目で大きな旅行に連れて行ってやりたい両親の気持ちは大きかった。
何故なら、来年中学生になれば、ヒカル(とあかり)は囲碁のプロになるのだ。
予定ではそうなっているし、我が子の囲碁の才は本物であると祖父ほか周囲の人から聞き及んでいる。プロ試験にはきっと合格してしまうのだろう。
そうなったら、中学生にして社会人という事になる。
子供の甘えが許されないような世界に踏み込んでいく我が子が、まだ子供のうちに何か想い出を……そう思ってしまうのが、親というものだろう。
長々と前段を語ったが、そういった理由で藤崎家と進藤家で合同で二泊三日の卒業記念の西日本旅行に旅立ったというわけだ。
(あかりに窓際の席譲ってよかったぜ。楽しそうにしちゃってまぁ……とはいえオレも楽しみだな。USJもだけど、その前の
ヒカルは初めての飛行機でテンションを上げている藤崎姉妹の様子に苦笑を零しつつも、この旅行で自分が一番楽しみにしている行程に想いを馳せた。
今回の旅行、USJのチケットを取れたことから日程を考え始めたものだが、しかし当然にして主役は子どもたち三人だ。
ゆかりの行きたい所、あかりとヒカルが行きたい所を巡ろう、というのが考えの中心にあった。
もちろんゆかりはUSJに遊びに行くのが一番の望みであった。二泊三日の旅行の内、一日中遊べる二日目はUSJで遊ぶことが決定している。
三日目は帰宅時間等も考慮して、そのまま大阪を軽く回る事にして、では一日目に到着してからの午後は何をするかという話で。
そこに、ヒカルとあかりから強い希望が出てきたのだ。
(──広島県因島。そこに佐為を連れて行けるんだから……楽しみだな、マジで)
二人が希望したのは、囲碁を打つ者にとっての聖地であり……そして、佐為にとっては切っても切れない因縁のある場所。
本因坊秀策囲碁記念館のある因島を、今日の昼から観光するのだ。
※ ※ ※
ヒカルは、院生になってから、棋院会館にある秀策の棋譜はすべて佐為とあかりと共に読み込んだ。
東京の本妙寺にあるほうの秀策の墓、本因坊歴代の墓にも三人でお参りに行った。
その時に、因島の話をヒカルが佐為に伝え……いつかは行ってみたいと佐為とも話していた。いつか連れて行くことを、ヒカルも約束した。
そして、約束の時が訪れた。
『────懐かしい景色です。この山並み、この空、この海……時が経ち、木々が育まれ山は形を変えれども、眺める景色は変わらない。虎次郎と共に、幾度もこの山並みを眺めました』
(オレにとってもココは二度目だな。前はお前を探して落ち着いて観光もできなかったけど……落ち着いてから来ると、静かでいい所だな、ここ)
秀策の墓碑を前に、ヒカルと佐為は遠く山並みと青空を眺め、郷愁に身を浸していた。
佐為は勿論、本因坊秀策……虎次郎と共に過ごした日々を、振り返るように。
ヒカルは、かつての世界で佐為がいなくなった時に、河合と共に因島内の秀策に関係する記念館や名所を回った時のことを思い出して。
不思議な因果だ。
どちらにも、悲しい記憶が絡んでいるはずなのに……どうしてなのか、こうして二人で並んで景色を眺めていると、心は澄みわたり穏やかなものになっていく。
「……ヒカル。なんて?」
「ん。あかり……そうだな、懐かしい景色だってさ。さっき回った秀策の生家も、かなりの再現度でびっくりしてたぜ。昔はもっと周りが木々に囲まれてたんだって」
そんなヒカルに、隣にいたあかりが声をかける。
両親たちとゆかりは墓前にはいなかった。
彼らは秀策記念館の囲碁殿堂展をのんびり眺めて、娘息子の生業になるであろう囲碁の文化に触れ、落ち着いた観光の最中であった。
ヒカルとあかりは二人きりで秀策の墓参りをしたい、と両親に伝えて、一足先に墓前に立ち寄っていた。
なおゆかりは退屈すぎて早くUSJに行きたがっていた。
可愛い妹とその彼氏のおねだりなのでしゃーなしに付き合っているがとにかく退屈だった。
やっぱあの二人みたいに囲碁バカにはなれないわ。それがゆかりの感想だった。
しかし筒井へのお土産だけはめっちゃ気合を入れて選んでいた。
「へぇ……なんか、不思議だね。200年近く経っても、一人の棋士が忘れられることなく、こうしてみんなの心に残ってるなんて……」
「確かにな。でも、それだけ囲碁っていう文化に貢献した人ってことだよな。……オレらも、何年経っても語り続けられるような立派な棋士になりてぇな」
「ふふ、そうだね。目標は高いね!」
『きっとなれますよ、二人なら』
二人きりのヒカルとあかりが、佐為という存在に想いを馳せて、彼が初めて憑りついた秀策の偉大さに触れて、遠い未来を語り合う。
いつかきっと、秀策に並び超えるほどの棋士になりたい。
二人のそんな願いに、佐為はその願いが現実になるであろう
ヒカルとあかり。
この二人が、将来の囲碁界を輝かせる光になるだろうという、そんな確信があった。
『────────』
(……秀策さん。佐為のやつ、まだそっちには行けないってよ。オレたちと打って腕を磨いて、満足して成仏したら……きっといつか、そっちで打ってやってくれな。強いぜ、今の佐為は)
(佐為とヒカルと私が、これからも綺麗な宇宙をいっぱい広げられますように)
三者三様の想いを込めて墓前に手を合わせ、因島巡りを再開するために、両親のもとに合流するヒカルとあかりであった。
※ ※ ※
なおその翌日。
「わぁー、すごーい!! こんなに広いんだー!! あっ、ポパイがいるー!! 」
「なんだこりゃすっげー!! ディズニーランド超えるかこれー!? スパイダーマン見に行こースパイダーマン!! スヌーピーも絶対見に行きたいー!! うっはぁーテンション上がって来たぁー!!」
(昨日までの落ち着いた和の文化どこ行った? ってくらいはしゃいでんなぁ。夜のショーまで元気持つのかね、この二人)
『ヒカル、ヒカル! すごいですよ何ですかあのお目目の大きな赤い鳥は!? こっちに近づいてきてますよ!? わわわ!?』
(お前もかよ平安貴族。ウッディーくんな)
USJの開園当初の凄まじい動員数に、あかりとゆかりが少女らしい盛り上がりを見せて、ヒカルはそれに肩を竦めていた。
開園直後はすごい盛り上がりだったけど事件がすぐ起きてそのうち客足落ち着くんだよなァ……と前世の知識で色々複雑な気持ちになるヒカル。
なおヒカルが逆行した21歳の時からさらに数年後にハリーポッターのアトラクションを導入してから爆発的な人気になる事を、その場にいる誰もが知る由もなかった。
「ヒカル、お姉ちゃん! 次はスヌーピー行こ! スヌーピー!」
「承知ぃー! おらーヒカルん! 元気ねぇぞーちゃんとついて来いよー止まるんじゃねぇぞー!!」
「ちょっと待って引っ張らないで! 迷子になるから!! 親から離れず動こうね二人ともね!!」
はしゃぎまくる姉妹の手綱をなんとか握るヒカル。
身長は一番低いが、そうした面倒見の良さ、親に心配をかけない大人びた気配りにお互いの両親は微笑ましいものを見る様子で眺めていた。
ウチの子の責任は取ってくれるだろう。
ウチの子は責任を取るだろう。
そんな思いを両夫婦が果たしていたのだが、それこそ子どもたち三人(+α)が知る由もなく、卒業旅行を満喫しきって年度末を過ごしたのであった。
USJ開園時期とかチケット関係とか色んなところ雑ですが時空を歪めてるので許してくれるね有難うグッドトリップ。
次回から脳焼きに戻ります。