逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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42 大人になってから見ると三谷くんドスケベすぎない??

 

 

 卒業旅行からも帰ってきて、春休みの真っただ中。

 院生研修前日の土曜日、ヒカルたちが拠点とするいつもの碁会所にて。

 いつものように院生が集まり、ヒカルと和谷で指導碁を打っていた。

 

「……そういえば、伊角さんって今週からだっけ?」

「ん……ああ、一昨日には中国に飛んだよ。来週には帰ってくるらしいぜ」

「中国棋院ってスゲー強いって噂だよな。伊角さん頑張ってきてほしいなぁ」

「伊角さんの腕なら中国のプロでもいい勝負できるだろうよ……っと! ここでどうだ!」

「お、スゲーいい所。いいな……んじゃ次はこっち」

「ぐ。………………」

 

 今週に中国へ飛んだ伊角の話が気になり、軽く話題に出したが……しかし、対局には真剣だ。

 和谷がヒカルの繰り出す難問の盤面に正着打を打ち、ヒカルもそれを受け止めた上で更なる難問を繰り出し、死活の答えを求める。

 次なる問いかけに和谷が再び頭を悩ませていたところで……カラン、と碁会所の扉が開いた。

 

(ん……誰だろ)

 

 この店に来る客の顔をヒカルはおおよそ覚えている。

 土曜日は院生が集まる日なので、それを期待して打ちに来る中高年も多く、顔見知りの誰が来たのか、と盤上から僅かに目線のみ動かして入口を見れば、そこには初めて見る顔があった。

 いや、初めてという表現はヒカルと佐為にはそぐわない。

 かつての世界で見たことがある、旧知の仲の少年がとうとう現れたからだ。

 

(…………ッ!!)

『三谷……! とうとう来ましたね、この碁会所に!!』

 

 三谷祐輝。

 今年からヒカルとあかりと同じ葉瀬中学校に入学する少年。

 かつて、その三人で共に囲碁部で過ごした、ヒカルの友であった。

 

 ヒカルは、この出会いを待ちわびていた。

 知っていたのだ。三谷がこの時期に碁会所にやってくることを。

 かつてネットカフェで三谷の姉と懇意になり無料でネット碁をやらせてもらっていた時期に、三谷の囲碁の経歴を軽く聞いていた。

 今は亡き祖父に教わり、小学校の時は碁の打てる教師がいてよく打ってもらっていたと。

 そして、小学校を卒業してから碁会所に通い始めたと。

 

(経歴だけ聞くと、三谷って三谷のじーちゃんか小学校の先生としか打ってないんだよな。どっちかが相当上手だったはず……じゃないとこの時点での三谷の腕が説明できない)

『待ちわびていましたよ! 彼がイカサマなどという悪の道に染まる前にヒカルが説得して囲碁部に入部させて光の道へ進ませましょう!』

(分かってる……けど、和谷との対局中だからな! 終わったら声かけるさ!)

 

 さて、早速初対面の挨拶を交わして仲を深めて……と思うヒカルだったが、しかし今は和谷相手に指導碁の最中である。

 流石にここで和谷との対局を切り上げて、なんて失礼な真似はできない。

 終盤も近づいてるので多少は急ぐようにして……と気もそぞろに三谷の様子を気にするヒカル。

 

「おや、初めてのお客さんだネ。ボウヤ、誰かの知り合いかい?」

「いや……若い人多いんだ。でも誰とも知り合いじゃない、看板見て入ってみただけ」

「そうかい。それなら初回は無料でいいヨ。名前を教えてくれるかな?」

「三谷」

「三谷クンね。記帳してっと……座って待ってな、今お茶だすヨ。ここにいる人は若い子と打つの楽しみなオッチャンばかりだからね、すぐ相手がくるサ」

「そ」

 

 うわーめっちゃ三谷だ! とその不愛想な様子に感慨を覚えるヒカル。

 今この碁会所には、自分のほかにあかりも、院生のメンバーも数人いる。

 勿論、初めて碁会所に入って来た若い子にみんなが興味津々だ。

 誰が声を掛けに行くか、と我先を争い始める……その前に。

 

 意外な人物が、三谷に声を掛けに行った。

 

「……今、三谷と言ったかね?」

「ん? ああ」

 

 ヒカルの祖父だ。

 

(え!? じーちゃん!? 三谷知ってるの!?)

『ヒカルのじーちゃんが三谷に……なぜ!?』

 

 ヒカルの祖父は、孫がこの碁会所を拠点にしていることを知ってからというもの、それなりの頻度で足を運んでいる。

 孫が院生に囲まれて楽しそうに囲碁を打っているのを見るのも楽しいし、クツワ町の井上さんほか、棋力が伸びている同年代の老爺と老後の囲碁を打つのも楽しい。院生に挑まれて若い力をぶつけられる事などどれほどの甘露なものか。

 そんな流れでここの常連になっていたヒカルの祖父は今日も孫可愛さに顔を出していたが……しかし、三谷の名前を聞いて、いの一番に声を掛けに行った。

 その理由とは。

 

「……ボウヤ、もしかしてお爺さんから碁を教わったりしていないかい?」

「っ! ……そうだけど」

「おお、なんと……! 実は、三谷さんとはワシはよく打つ仲だったんだよ。そうか、キミが三谷さんのお孫さんか……惜しい人を亡くしたよ。二年前だったかな」

「……じーさん、ウチの爺ちゃんの事知ってんの?」

「ああ、生前はよく囲碁を打つ仲でね。よかったらぼうや、ワシと一局打たんかね」

「……いいよ。オレは三谷祐輝。じーさんは?」

「進藤だよ。なんとなんと、三谷さんのお孫さんと打つ機会があるとはの……」

 

(ええ……ウチのじーちゃん、三谷のじーちゃんと知り合いだったのかよ!?)

『でも確かに、考えてみれば三谷はヒカルと同じ葉瀬中で、住まいも近いはず……三谷ほどの腕前まで磨き上げるほどの老爺であれば、町対抗の大会などでヒカルのじーちゃんと知り合っていてもおかしくはありませんね』

(前の世界でも聞いた事なかったけどな! でもそっかぁ、じーちゃんにそんな縁があったのか……)

 

 ヒカルは己が祖父の口から語られる内容に、余りにも驚愕していた。

 佐為の推理を聞けばなるほどとも思う。確かに三谷の棋力は囲碁に真剣に取り組んでいないと育まれない強さだった。当時のヒカルからすれば、だが。

 そんな強さを育んだのが小学校の先生というのも奇妙に感じる。であれば、やはり祖父が大した腕前だったのだろう。

 同じ中学に通うヒカルと三谷だ。当然にして家は近隣にあると考えられる。

 その祖父がそれほどの囲碁の腕前をお互いに持っていれば、どこかで碁盤に向かい合っていてもおかしくはない。

 

 片手間に和谷との対局で容赦なしの一手を繰り出しながら、ヒカルは二人の会話を遠くから伺うことにした。

 

「なるほど……この強さ、流石は三谷さんのお孫さんだ。三谷さんも実に鋭い一手をよく打っておった。だが祐輝くんの強さは三谷さん以上だな」

「爺ちゃんに負けるのが悔しくってさ。めっちゃ鍛えてたんだ。打ったら小遣いもくれるから、それでよく爺ちゃん家に遊びに行ってた。……オレが勝つ前に、死んじまったけどさ」

「かかか、そりゃあ三谷さんも楽しかっただろうな。……三谷さんはよく自慢してたよ。『ウチの孫は囲碁の才能がある』ってな。そんなお孫さんがこうして囲碁を楽しんでいる……それだけで三谷さんは嬉しかろうよ」

「……そんなもんかな」

「そんなもんだ、孫を持つジジィの気持ちなんてな。ワシも孫と囲碁を打てた時には、嬉しくってしょうがなかったわい」

「……じーさんにも囲碁打てる孫がいるんだ」

「ウム。そこにな」

「えっ?」

 

 話の流れでヒカルの祖父が指さした方を見る三谷。

 そこには、明らかにこっちを眺めていた明るい前髪を持つ少年、ヒカルがいた。

 ばっちり三谷と目があったヒカルは、微妙なタイミングのずれを感じつつも手を振って三谷に挨拶した。

 三谷はそれに手を振り返しはしなかったが、目の前の進藤という老爺が自分の祖父について優しく語りかけてくれた内容に感じ入るものがあったのか、ふん、と鼻を鳴らして軽く微笑みを浮かべた。

 

「元気そーなヤツじゃん。前髪なんか染めちゃってさ」

「いやぁ……実はな、アレは生まれつきなんだよ。ワシもヒカルが生まれた時はたまげたわい!」

「えっマジ? …………アレで?」

「えっ!? 進藤ってその前髪生まれつきなの!? 絶対染めてると思ってた私!!」

「嘘だろ!? 完全にツートンカラーなのに!? 染めてなかったのそれ!?」

「うふふ、私も幼稚園で初めて見た時はびっくりしたの。幼稚園からずっとこうだよ、ヒカルの前髪」

「だー、うっせーな! 別にいいだろオレの前髪が何色でも!」

『このような髪色をしている子は他に見ませんよね。平安にも江戸にもおりませんでした』

(佐為までツッコんでくるんじゃねーよ!)

 

 ひょんなことから空気が軽くなり、三谷も茫然とした様子でヒカルの前髪を見た。

 院生たちも話は耳に入っていたのか、奈瀬も和谷も全力でツッコんでくる。

 そんな様子にあかりがくすりと笑い、ヒカルはがーっとわめいて院生たちを黙らせた。

 この時点で、三谷のヒカルへの脳内評価はおもしれーヤツ、になっていた。

 自分と同じ、祖父に囲碁を教わった同年代の男子。少なくない興味をヒカルに抱いた。

 

「……しかし進藤のじーさん、強いな。ウチの爺ちゃんよりも強いかも」

「二年前なら三谷さんと棋力は並んでおったかもしれんがな、ワシも孫やそこにいる孫の友達と打って、若い力に影響されとるんだよ。……ほれ、ここはどうだ?」

「なるほど…………やられた、オレの石が見事に殺されちった。ありません」

「うむ。遠慮なくて悪かったの、祐輝くん。ありがとうございました」

「いいよ。じーさんの話聞けて面白かったし……強い人と打つのキライじゃないから」

 

 不思議な出会いに満足して、三谷は投了し終えた盤面を崩す。

 たまたま目に留まり入ってみた碁会所だが、若い人も多いし、雰囲気もいい。

 初めての対局で、自分に碁を教えてくれた亡き祖父の知人と打てるなんて思っても見なかった。

 相当上手かったし、きっとこの碁会所で一番打てる人なんだろう。

 面白い。新たな遊び場で、目標が見つかった……と、そんなことから上機嫌になった三谷がリップサービスを果たしたところで、進藤の祖父がその言葉ににやりと笑う。

 

「強い人と打つのキライじゃない、か……それじゃあ祐輝くん、この碁会所で一番強い人と打ってみるかね?」

「ん……じーさんじゃないのかよ。誰なの?」

「ワシの孫」

「ウソだろ?」

 

 祖父に呼ばれたヒカルは、これをいい理由とばかりに和谷との対局後の検討を切り上げて、三谷に近づく。

 内心では、三谷の警戒心を解いてくれた祖父に感謝していた。

 ネコみたいなやつだから、一度嫌われるとホントに寄って来なくなる。繊細なヤツなのだ。

 けど、信頼を勝ち取れれば深い仲になれる。親友になれる。

 今度こそ、オレはお前を裏切ら(はなさ)ない。

 

「よっ、じーちゃんが世話になったな。オレは進藤ヒカル。早速打とうぜ、三谷!」

「……ああ。自慢の腕前ってのを見せてくれよ」

 

 かつて理科室の床に座って睨みあいながら打ち合った、お互いに悔いの残る一局。

 その先へと繋がれる、新たな対局が始まった。

 

 

 






※ちょっとした三谷解説
原作ではヒカルが夏休み後にじーちゃんと打ってる時に囲碁部の話になり、そこで三谷の名前を挙げてもじーちゃんが特に反応してないので、多分原作では三谷の祖父とヒカルの祖父に繋がりはありません。
でもこれは二次創作なので祖父間既知設定を捏造しました。許せサスケ。

三谷は賭け碁を始めたのは碁会所に入ってすぐではなく、中学に入学してCDとかMDプレーヤーとかが欲しくなったころに碁会所で賭けてるおっちゃん達を思い出して始めた、という脳内設定です。
金が欲しい→碁会所で賭け碁しよう、とは普通ならないと思うので。
イカサマも金欲しさにやり始めたモノということにしてます。孫にイカサマ教える祖父と小学校の先生なんていなかったんや!

囲碁部で浄化されてからはイカサマしなくなったし、夏休みにはまた碁会所通おうかなーなんて言っちゃうくらい囲碁好きな面が見えるんで、その辺を踏まえて、だいぶお爺ちゃんっ子で子猫ちゃんマシマシ三谷になってます。
そこに捏造祖父設定をぶち込みぼうぎょを二段階ダウンさせたところでヒカルをぶつける! 脳破壊オラッ!
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