逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話 作:そとみち
「……あかり」
「うん」
ヒカルの長い沈黙の間も、あかりは待っていた。
沈黙の間に、ほぼ確信していたと言っていい。
間違いなくここには
子供の直感を舐めてはいけない。
常識という枠組みがしっかり組みあがっていないからこそ、超常の存在を感じ取る事は容易なことで。
しかし、不思議とあかりに恐れは無かった。
暗い所が、幽霊が怖いあかりであっても、先程泣きそうになっていても。
それでも怖さはなかった。
あんなに綺麗な宇宙を描ける存在が、悪いモノであるはずがないのだから。
「……あかりはさ」
「うん」
「その……だな。……神様って信じるか?」
「うん。……いるんだね? そこに、囲碁の神様が」
「ああ。俺の前に座ってる。俺の目にしか見えないし、俺にしか声は聞こえないけど」
『……その、ヒカル! あかりちゃんが怖がらないように神様と言ったのは分かりますが! 流石に囲碁の神を名乗るのは余りにも畏れ多いのですが! せめて守護霊とかそういうのではどうでしょうか!?』
(うるせーな! 守護霊って言われても分からないだろ!?まだ小学二年生だぞあかりは!)
「……いるんだ。神様が……」
「あ、いや……そうだな、神様みたいな綺麗な見た目はしてるんだけど、本人が言うには守護霊なんだって」
「しゅごれー?」
「人を守ってくれる神様みたいなモノ。囲碁が大好きで、俺たちの事見守ってくれてるんだ」
だからこそ、続いたヒカルの言葉もあっさりとあかりは呑み込んだ。
先程魅せられた宇宙のような白と黒の連なりは、確かに神様か、しゅごれーじゃないと作れないだろうな、と思ったからだ。
「へー……しゅごれーさんとさっきは囲碁やってたんだ」
「そう。ちょっと前から何だか呼ばれてるような感じがしてさ……でもやっぱ不安で、あかりについてきてもらったんだよ。ごめんな、何にも説明してなくて」
『ちょっと嘘を混ぜましたねヒカル』
(これくらいはいいだろ!)
「ううん、いいよ! キレイなもの見せてもらえたから! それじゃあえっと……はじめまして、しゅごれーさん!」
『ヴッ……小さいあかりちゃん可愛すぎます!! 尊い……!!』
(おいコラ推定成人男子。今の世は平安じゃねーぞ平成じゃ許されねーぞ
『今はヒカルも成人でしょう! 見て下さい天使ですよこの子は……私達が守護らねば……!!』
(駄目だコイツ。ってか……)
純真無垢なあかりをよそに、内緒話で可愛さに暴走し始める二人だが、しかしそこでヒカルは改めて、あかりに問いただす。
「……なあ、あかり。信じてくれるのか?」
「え? うん」
「なんで?」
「なんでって……いるんでしょ? しゅごれーさん」
「あ、いや、いるんだけどさ……その、そんなにすぐに信じてくれるって思わなくて……」
「えー? だって、ヒカルが一人で急に囲碁なんてし始めるの、おかしいもん! 今日ずーっと様子がおかしかったから心配してたの! でも、しゅごれーさんが呼んでたからなんだーってわかったから、安心しちゃった!」
「おお……そっか、ごめんな心配かけて。信じてくれてありがとな」
「いいよ! らしくないなぁ」
『本当にあかりちゃんは優しい子ですね』
何故信じてくれるのか。
不安と共にそう聞いたヒカルに、七歳児であるあかりは明快に答えを示した。
言われてしまえば、それはそうだ。
囲碁なんて興味もなかった昨日までの進藤ヒカルが、急に様子が変わって蔵の中で囲碁を打ち始めたとなれば、何かがおかしいと思うだろう。
その理由が守護霊だったとすれば、あかりの中では納得しかなかった。
そんな、ある意味では子供らしい明快な答えを受けて、佐為の存在をあかりが信じてくれたことに、ヒカルは感謝しかなかった。
勿論それは、あかりがまだ幼いからこそ常識にとらわれずに受け入れてくれたという面もあるが……それでも、自分のこれまでの境遇が、佐為という存在がしっかりと誰かに認めてもらえるという事が、こんなにも胸を打つとは思っていなかったのだ。
幼い肉体がその温かさにこらえきれず、思わずポロリとヒカルの瞳から涙がこぼれていた。
「あ、ヒカルも泣いてるー! 見ちゃったからね! 私とおんなじで泣き虫なんだー!」
「う、な、なんだよ……」
「さっき私が泣きそうになったの、ヒカルのせいなんだから! ね、しゅごれーさん!」
『そうですそうです』
(お前な!)
「だから、今泣いてるの秘密にしてあげるから、私が泣いてたのも秘密にして! それで今日の事は許したげる!」
「あ、ああ……わかった、わかったよ。ついでにあかり、佐為の事も秘密にしておいてくれると助かる」
「うん! ……さい?」
「佐為。俺を護ってくれてる守護霊の名前、佐為っていうんだ。俺の隣にいてくれてさ……落ち着いたらあかりにも話させてやるからさ」
「わかった! サイさんっていうんだね! それじゃあ今日のことは、三人の秘密だね!!」
『はい! 秘密です! さん付けはしなくていいですからね、あかりちゃん!』
「それじゃ、秘密な。佐為も秘密にしてくれてありがとうって……それと、佐為にはさん付けしなくていいってさ」
「そうなんだ? それじゃあ……よろしくね、佐為!」
『はいっ!』
大切にしよう。
この世界では、あかりを大切にしてやりたい。
前の世界で出来なかったことを、この夢のような世界では、色々とやっていきたい。
ヒカルは改めてそう思った。そう思うことが出来た。
この世界に逆行したことに、疑問符をつけることをやめた。
この世界で生きる俺は、前の世界でやれなかったことをやっていきたい。
今日の出会いと、今日の告白はその一歩目。
────これは、再び佐為と出会えた進藤ヒカルが、秘密を共有する藤崎あかりと共に、囲碁界を震撼させる物語である。