逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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そこの描写しっかりやると展開が暗くなるのでやらないとも言う。



55 この世界は民度が高いのでプロへの誹謗中傷はありませぇん!!

 

 若獅子戦一日目を終えて、その翌日の院生研修も終わり、平日の水曜日。

 ヒカルとあかりは、中学一年生として平和な学校生活を過ごしていた。

 

「三谷ー、部活行こうぜー!」

「オー、今行くわ」

「今日は月曜に教えた新定石の復習だねっ!」

 

 放課後になり、同じクラスのヒカルとあかりが別のクラスである三谷を迎えに行き、そのまま三人で理科室へ向かう。

 ヒカルもあかりもプロを目指す院生で、平日でもどちらかの自宅で一緒に囲碁の検討はするのだが、それはそれとして囲碁部の活動にも精力的であった。

 授業が終わるのが早い月、水、金の三日が囲碁部の活動日であり、筒井、三谷の二人を夏大会に向けて厳しく指導。

 午後五時には部活が終わるので、そこから帰宅してお互いの家でネット碁か対面で一局交わして、という流れで部活がある日は活動していた。

 

 廊下を歩きながら、ふとヒカルは思い出したことがあり、三谷に問いかける。

 

「そういえばさ三谷、碁会所のバイトの話どうだった? 学校もOKだって?」

「ああ、先週にOKもらえた。申請書も通してる。MDプレーヤーの特価一九八○○円(イチキュッパ)の内に買いたいからな、今週末から初バイトさ」

「わぁ、やったね! 頑張ってね三谷くん! 見に行くからね!」

「オレが働いてなくてもどうせお前ら来るだろーが。でもしばらく土日は両方フルで入れるつもりだからな。今後は席料タダなのデカいぜ」

 

 話の内容は、ヒカルたちが拠点としている碁会所『囲碁さろん』で三谷がバイトするという話だ。

 三谷は親の仕事が不景気の影響で小遣いが少なく、姉がバイトをしてそこから多少分けてもらっていたりしたものの、中学一年生が欲しいものを買うには少なすぎるお小遣い事情を抱えていた。

 そんな話を、先月に『囲碁さろん』でヒカルやあかり、院生たちと雑談する中で三谷が愚痴ったところ、店主の修が三谷にバイトをしてみないか、と持ち掛けたのだ。

 

 これは三谷にとっては渡りに船の話だった。

 碁会所で毎回払う席料500円も少ない小遣いから捻出していたところを、バイトになれば当然タダにしてもらえる。

 時給は年齢や業務内容が考慮されて低めなのはやむなしだが、それでも一日フルで働けば4~5000円稼げる。労働の喜びを知るのだろう。

 

 店主の修としても、ヒカルたちのお陰で碁会所が繁盛したことで新しい人手が欲しい所でもあったし、三谷の棋力であれば中高年の相手に実にちょうどいい。

 ヒカルたちの影響でアマでは相当に打てるようになった客たち相手に、勝ったり負けたりをして楽しませることが出来るであろう。

 お互いにWINWINな提案が果たされ、三谷はMDプレーヤー購入の為にバイトに励むことになった。

 

(まぁMDプレーヤーってあと2~3年もすると廃れるんだけどな……iP〇dが出てきてMP3プレーヤーが大流行して。つってもそれ今言っても意味ないか。今欲しいんだもんな三谷は)

『雅楽が聞こえるのですよね、小さなキカイから。ぱそこんもですけれど、本当に摩訶不思議なものです』

 

 この先の未来を知っているヒカルは、MDプレーヤーが斜陽の時期に入っているからこその特価セールであることを何となく察しつつも三谷には伝えなかった。

 中学生活三年間欲しいものを我慢すればもっといいのが買える、なんて言われても我慢できるはずがない。

 賭け碁で稼ぐよりも健全な手段で、自分のお金を自分で稼いでいるのだ。使い道は自分で決めればいい。

 

 

※    ※    ※

 

 

 さて、そんな雑談もしながら廊下を歩けばすぐに目的の理科室に到着してしまう。

 ヒカルがドアを開けて三人で中に入った所、既に部長の筒井は碁盤を準備していた。

 筒井が三人を見つけて……しかし今日はなにやら筒井の様子がおかしい。

 目をきらっきらに輝かせて、机の上に置いてあった冊子を手に取ってヒカルたちに突撃してきた。

 

「────進藤くんっ!! あかりさんも、見たよ週刊碁!! 今週の買っちゃったよボク!! すっごい事になったね!!」

「どわっ!? 急にどうしたの筒井さん!?」

「今週の週刊碁? そう言えば昨日発売されてたっけ」

「なに、コイツらがなんかやらかしたの?」

「やらかしたも何も、史上初の快挙だよ三谷くん!! 若獅子戦一回戦の一面記事が載っててさ!! 二人の対局中の写真も載ってたよ、ほらっ!!」

 

 興奮の理由は、今週発刊の週刊碁最新号であった。

 筒井の手にあるその冊子の表紙を見て、三谷もおおっと声を上げる。

 週刊碁は『囲碁さろん』でも定期購読している冊子で、三谷も読んだことはあるのだが、大抵の内容がオジサンオッサンの顔写真が載ってて小難しいプロ界隈の話しか乗っておらず、囲碁のプロの道を考えていない三谷の興味はそこまで惹かないモノだったのだが。

 

 しかし、今週号は違った。

 表紙を飾っているのは院生たちの集合写真。

 顔見知りのヒカルやあかり、和谷や奈瀬ほか碁会所に顔を出すメンバーが写っているのを見て、ヒュウッと三谷は口笛を鳴らした。

 

「表紙には……『院生革命 未来を創る若き力』ねぇ。どれどれ……ほー……へぇ! 若獅子戦の初日で院生全勝かよ!」

「すごいんだよ、若獅子戦に今年参加したプロの中には四段の人が4人もいて、その中にはあの最年少タイトルに最も近いと言われる倉田プロまで参加してたのに! 一回戦で倉田プロ以外全員院生が勝ち上がって、二回戦で倉田プロをあかりさんが破ったって! 本屋で立ち読みしながら叫んじゃったよ! 流石だねあかりさん! 進藤くんも! もう、月曜日に結果教えてくれたら驚かなかったのに!」

「やだ、筒井さんったら! そんなに褒められるとテレるよぉ!」

「先にネタバレするとつまんないじゃん? あとで知って驚いてくれるかと思ってさ」

「そりゃ驚いたよ! 二人が勝ち抜いた事だけしか聞いてなかったから、こんなことになってるなんて思ってなかったよ……いや、これはホントにすごい事なんだよ三谷くん! 普段は院生で一回戦勝ち上がりなんて五人もいればいい方で、三回戦の頃には殆どいなくなっちゃうんだから!」

「そうなんだ? ふぅん……まぁでも納得しかねーよな。進藤と藤崎が院生入ったらこうなるだろ」

 

 表紙にでかでかと書かれた内容から、三谷が中身を読んでみれば、そこにはヒカルとあかりが参加した若獅子戦のトーナメント表の勝敗結果と、参加したプロが二回戦までに全て敗北しているという内容が書かれていた。

 特集が3ページにも組まれており、院生の師範である篠田プロの取材内容や、院生の出場者からそれぞれ一言、そしてプロ全体の総括として塔矢行洋のコメントや、プロ数名からも取材されているようだ。

 相当大きく打ち出していると言えるだろう。知り合いの記事ともなれば三谷も興味深くしっかりと目を通す。

 

「進藤お前、コメント随分謙虚じゃねーか。『プロなんて相手になりません』とか言えばよかったのによ」

「言えるかっ! 確かに今回は院生たち強くなってたからみんな勝ったけど、ギリギリの試合も結構あったし……それにプロってのは大変な世界で頑張ってる人たちなの。そこ目指してるのが院生なんだから、リスペクト忘れちゃダメだろ」

「……って事前にみんなに言い含めておいたワケ?」

「ノーコメントで」

「ハッ。んで、藤崎は……お、対局写真まであるじゃん。こっちのでっかい人が二回戦に当たった倉田ってプロ?」

「うん、倉田プロすっごい強かった! 最後までお互いガンガン前に出る流れになったから、一つでも間違えたら多分負けてた」

「でもそこを間違えずに倉田プロから勝利をもぎ取るなんて、本当にすごいよあかりさん!」

「……で、なんで藤崎の写真が一番デケーんだ? 顔か?」

「顔に決まってんだろ。あかりは可愛いからな」

彼氏(テメー)のノロケは聞いてねぇよ」

「こらーっ! 二回戦の唯一のプロとの対局だったからに決まってるでしょっ!」

 

 記事の内容は、おおよその院生がプロに勝てたことで自信につながった、今年は院生全員が一丸となって勉強してたのでその成果が出せてよかった……と、プロの実力の低さをむやみやたらにつつくようなものではなかった。

 塔矢行洋のコメントでは、院生たちの成長を喜ぶ内容のほか、プロたちはこの敗北を糧に囲碁への向き合い方をよく考えてほしい、プロ試験についても大きな見直しが必要かも……と色々深く踏み込んだ内容があったが、記事全体の雰囲気として、若手プロへのヘイトが無いように努めているようでもあった。

 まぁ、週刊碁がプロをバカにした記事は書かねーよな、と三谷も納得した。

 

 進藤と藤崎、そしてたまに打つ仲の院生たちがプロに勝利した。

 その事実だけで三谷は十分だった。

 

「じゃあ、今日は折角だしあかりが倉田プロと打った対局の棋譜並べての研究もやろっか。倉田プロも部活で使うくらいなら何も言わねーだろ」

「えぇー? ……いや、まぁ確かに証拠は残らないけどぉ……」

「み、見られるなら見たい! 囲碁界の麒麟児、倉田プロとあかりさんの一戦なんて! 想像を絶する対局になってるんだろうなぁ……!!」 

「どーせ並べるだけだし、検討したなんてどっからも漏れねーよ。並べて見せてくれよ藤崎」

「二人も? 仕方ないなぁ! じゃあ一回だけね!」

「流石に碁会所じゃ並べらんねーからな。部活ってこういう気楽な所いいよなー」

「……あ、そうだ。筒井サン、オレ今週末から碁会所でバイト入るから。つっても部活はフツーに参加するけど、平日にもバイト入れるんで終わる時間は厳守になるかも」

「ああ、前に話してた件だね? もちろん大丈夫だよ。ボクも今度ヒカルくんたちの碁会所行ってみようかなぁ」

「筒井さんも来てみる? 筒井さんなら院生たちと打っても面白い勝負になるぜ、きっと」

「うーん……ボクの腕前で大丈夫かなって不安もあって……!」

「筒井サンほどの腕ならヘーキだよ。和谷あたりは二子あれば初見殺しでやれんじゃね? 二度目となったらキツいだろうけど」

「……ちょっとやれそう」

「和谷は初見の相手だと様子見から入るからな……」

 

 そうして今日も囲碁部の活動が始まる。

 あかりの並べる倉田プロとの一局のヨミの深みを唸りながら筒井と三谷が糧にして、夏の団体戦に向けて更なる成長を果たすのだった。

 

 





※補足
中学生のバイトは基本的に法律で禁じられています。
ですが筆者が作中の法律を捻じ曲げて気にしない方向にしたのでどうかお気になさらずでお願いします。
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