逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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6 細かいことは気にしないメンタル

 

 蔵の中で起きた再会と告白と約束の後、ヒカルとあかりは碁盤を片付けて蔵を出た。

 おやつを準備してくれていたヒカルの祖父の待つ居間に戻る。

 探検を終えて手を洗い、おやつの甘味にあかりが喜びながら、先程蔵の中で新たにヒカルと話していたことをヒカルの祖父にも伝えた。

 

「ヒカルのおじいちゃん! 私も囲碁、覚えてみたい!」

「おっ! ヒカルに続いてあかりちゃんもか!? なんとまぁ……ワシャ嬉しいよ。ヒカル、あかりちゃんと一緒に教えてやるからお前もこっち座れ! ははは!」

「えー? オレもう打てるもん。今日はあかりにしっかり初歩を教えてやってよじーちゃん。勝負するのはまた今度でいいさ。楽しみは後に取っといて、今日はあかりを優先してやってくれよ」

「ほう、言うようになったわい。レディファーストも出来ておる。くく、わかったわかった……じゃああかりちゃんにまずは教えてやろう」

「ありがとー!」

 

 あかりは囲碁を覚えたいと願った。

 先程自分が見た、とてもキレイなものをもっと深く知りたいと思ったからだ。

 それを蔵から出る時にヒカルたちに相談し、ヒカルも佐為も満面の笑みで了承した。

 ただし、ヒカルからは一つ条件が課された。

 最初の教えは、自分の祖父にお願いしてほしい、という事だ。

 

『……考えるようになりましたね、ヒカルも。将来あかりちゃんが誰に教わったか聞かれたときに自分の名前が出るのはマズい、なんて』

(少しでも誤魔化せる可能性があるならやっといて損はねーだろ。幼馴染とその守護霊に教わりましたって言われても困るしよ。まぁ結局教えるのはオレたちだから遅い早いの違いでしかないかもしれないけど……)

『前回の時はその辺りをあいまいにしてヒカルが苦労しましたもんね……』

(ああ。よく考えねーとな、折角二度目の人生やってんだからお互いに)

 

 理由は今二人が心の内で話した通りだ。

 どうしたって囲碁をやってる人は強い打ち手を見つけると、誰に教わったのか? を気にし始める。

 ヒカルはその辺りは余り気にしないほうだったのだが、大人になればなるほど『誰が師匠か?』というのは気になる事のようで。

 以前の世界では、そこをあいまいにしたまま、ヒカルが佐為の代わりに打ったり、ヒカルの脇が甘い言動などがあって、随分と振り回されてしまったのだ。

 今回の夢の世界がこれからも続いたとして、そんな苦労をあかりにはかけてやりたくなかった。

 友達のお爺ちゃんから最初に教わったんです、と言えるようになれば、ある程度追及を避けられるとヒカルは考えたのだ。

 勿論、祖父もあかりが囲碁を打てるようになれば喜ぶだろうし、孫とその友達が囲碁を覚えたならば碁盤をねだって買ってもらえたり将来プロになる時に両親を説得するのも手伝ってもらえるんじゃないか、という目算もコミである。目算が出来ねば棋士たりえない。

 

「よし、大まかなルールから覚えてみようかの、あかりちゃん。囲碁っていうのは、黒と白で陣地を取り合う勝負なんだよ」

「陣地? ……宇宙をつくるんじゃないの?」

「ん? ははは……宇宙か、面白い表現をするのう。ああ、確かにプロのような上手い人たちは宇宙のような綺麗な盤面を作るかもしれんわい。でも、ルールの基本は陣地とりさ。まっ、最初は石取りゲームからやってみようかの」

「うん!」

 

『ヒカルのじーちゃん、中々に初心者へ教えるのが上手いですね。楽しそうです』

(いつかオレに教えるために初心者向けの教導本とか読んでたらしいぜ、この時期には。前の世界で聞いたんだ、そんなこと)

『おやまぁ。私はじーちゃんの楽しみを一つ奪ってしまっていたようで』

(ははは)

 

 ヒカルの再会(であい)とあかりの覚醒(めざめ)が起きた一日は、その後は穏やかな時間が流れた。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 祖父の家での一幕を経て、ヒカルはあかりを家まで送り届けてから帰宅した。

 祖父から使っていなかったマグネットの碁盤を借りて来たので、明日からヒカルと佐為がそれを使って囲碁を教える約束をして、あかりは明日からとても楽しみ、と伝えて別れた。

 そのまま自宅に帰宅したヒカルは、自室に戻り……そして、佐為と話をした。

 

 いっぱい伝えたかった話を、伝えたかった想いを。

 一つずつ心の碁石入れから取り出して、想いの盤面に打っていった。

 お互いの想いで埋める盤面は、やがて白と黒の色に埋まり、投了の言葉もなくひたすらに想いを伝えあった。

 悲しかった事、寂しかった事。

 それでも伊角さんに救われて、みんなに救われて、囲碁の道を歩み続けたこと。

 アキラの事、世界大会の事、あかりの事、本因坊戦のこと、タイトルを最年少で獲得したこと。

 夕飯の間も、風呂の間も、ひたすらに心の中で空白の盤面をお互いに埋め続けた。

 そして、改めて再会を喜び合い、眠る前の時間になったところで、ふとヒカルが現状を想い佐為に伝えた。

 

(……オレは二十一歳の頃の記憶が残ってる。佐為はオレと別れた時の記憶が残ってる。これってなんでなんだろうなァ)

『そうですね……もしかすると、私のせいかもしれません』

(え? なんで?)

 

 それは当然の疑問。なぜお互いに逆行をしているのか。

 そんな答えの出なさそうな問いかけに、しかし意外にも佐為から答えが返って来た。

 

『私が幽霊になった理由は既に説明した通りですが……私は哀しみの内に死した際の心残りがあり、成仏が出来ていませんでした。神の一手を極めていない後悔、虎次郎が早逝した哀しみ……強い心残りがあって、私はこうして霊として存在している』

(そうだな。その辺りは聞いたよ)

『はい。そして以前の世界でヒカルの前から消えたのも、神の一手にヒカルが近づいたことで、私の存在意義が薄れて……という推測も、先程話しましたね』

(ああ)

『ですが、ヒカルの前から消えたのちに……私の心に、更なる後悔が、慙愧の念が生まれたのです』

 

 佐為が語るのは、ヒカルの前から消えた後の事。

 

『伝えました通り、私はその後のヒカルの様子もしばらく見ていました。私がしっかりと別れの言葉を言えなかったことで、取り乱し、大変な苦しみを味わっていたヒカルを……』

(……まぁな。そこもさっき話して、今はもう怒ってないけどさ。こうして出会えたから。でもまぁ、あん時のオレを見れば、佐為の心残りにもなるか)

『ええ、それはもう。ですから私は再び願ったのです。もう一度やり直せるならやり直したい、と。ヒカルと共に、今度こそ、神の一手にさらに近づく様な碁を探していきたかった、と……その無念が、記憶を持った私と、さらに先の時代に本因坊の冠を取ったヒカルをこのような不思議な状態で出会わせているのではないか……そう、想わずにはいられないのです』

(…………)

 

 成程、とヒカルは考える。

 佐為の無念は己の死、秀策の死があり、今度は自分との別れが無念になった。

 その無念を果たすべく……神の一手を極めるために、オレと歩みたいと佐為が願ったと。

 

 恐らくではあるが、秀策と別れる時、佐為は無念こそあれど、虎次郎と別れの言葉は尽くしたのではないだろうか。

 流行り病で亡くなったと話していたが、兆候は間違いなくあったはずで。

 であれば、佐為に打たせてあげることが多かったという優しい秀策の事だ。別れの言葉はしっかりと交わす事は容易に想像が出来て。

 

 しかしヒカルと佐為は、そこが無かった。

 ヒカルが佐為の様子の変化に気付いてやることが出来ず、心残りのある別れとなってしまっていた。

 

『……申し訳ありません、ヒカル。私の無念に貴方が囚われてしまうようなことに……』

(コラ。佐為、さっき話しただろ?)

 

 そうした推測から佐為がヒカルに謝ろうとしたところで、ヒカルはその言葉を止めた。

 お互いにいっぱい謝りたいことがあった。お互いにいっぱい怒りたいことがあった。

 そして、それらの言葉は先ほどまでに尽くし、果たした。

 だから。

 

(夢でも何でもこうしてまた出会えたんだから、恨んだり怒ったりはお互いに止めようぜ、ってよ。もしこの夢が今日寝て明日には無くなっちまってても……オレはお前を恨まないよ。いいんだ、佐為。今こうして話せていて、あの一局の続きが打てたってだけで十分なんだ)

『っ……ヒカル』

(だからさ、オレから出した話でワリィけど、理由はこれ以上気にしないようにしようぜ。お互いにいつまた消えるかもわからない身だけど……心残りは解消できたしさ。だったらこの先、やれる限りでお互いのやりたいことをやっていこう。二人で神の一手、また目指そうぜ)

『……~~~~っ……はい!』

 

 謝罪も遠慮もいらない。

 再び出会えたことが奇跡なのだから。

 もう疑問は唱えない。

 あの一局の続きが打てたのだから。

 

(……ふわぁ、眠くなってきた。そろそろ寝るわ……この体すぐに眠くなるな、七歳じゃあ当然か……)

『そうですね、今はよく寝て大きく育つ時ですよヒカル。前の世界の時は小っちゃかったですからね。今回はもっと大きくなるとよいのですけど』

(ガキの頃の話だろそれ! 確かに中三まであかりよりも背ぇ小さかったけどその後結構伸びたんだからな!)

『そうでしたねぇ。どうにもヒカルと出会った頃の背丈が印象深いものですから』

(ったく……そこまで言うならでっかくなった姿見せてやるからな。それまで勝手にいなくなんなよな。おやすみ)

『……はい。是非とも、願います。おやすみなさい、ヒカル』

 

 ベッドに入り、瞳を閉じる。

 どうか目が覚めても、この夢からは覚めないように──そう祈りながら、ヒカルは微睡みに身を委ねていった。

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