逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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高田さんちのお兄ちゃんは小学生で大会に出てたヒカルを一目で見つけて指摘するべきだったと思う。


64 ヒカルの前髪に作中で一度も触れられてないの凄くない?

 

 第四回北区中学夏季囲碁大会の当日になった。

 朝、いつもの通学路ではない、海王中学校に向けた道を肩を並べて歩くヒカルとあかり。

 ヒカルの背には大きなリュックがあり、その中には今日の葉瀬中メンバー+1人のためにあかりが作った特製弁当が入っていて。

 そして二人が歩く一歩後ろには、あかりの姉のゆかりの姿もあった。

 

「ねぇ、ゆかりさん」

「なんだい囲碁少年」

「なんか今日すっごい綺麗じゃない? 化粧バッチリじゃない?」

「うるせ~~。いいだろージョシコーセーになったらおめかしも覚えるんだよー。ホントにマセたねーこの子は」

「昨日の夜からウッキウキだったもんねお姉ちゃん」

「囲碁少女までうるせ~~」

 

 随分と垢抜けた化粧を施し、高校の制服ながらもすれ違う人の目を奪うような美人へと変貌を遂げているゆかりに、ヒカルは思わずツッコミを入れた。

 もとより美人の血筋である藤崎家の長女である。素材からして美人なのだが、高校生活を謳歌する中でさらに女に磨きをかけて、それを惜しげなく飾りつけて表に晒していた。

 あかりも美人なので、二人を侍らせて歩くヒカルが謎の緊張を覚えるほどである。

 軽く化粧した理由まで茶化そうとすれば手痛い反撃を食らう事も分かってしまった。ヒカルは今日の大会が荒れるだろう事をこの時点で察し始めた。

 

 もっとも、察するまでもなく今日の大会は荒れるのだ。察するのが遅すぎると言ってもいい。

 荒れる理由は当然にして、ヒカルとあかりの二人である。

 

「……よし、ようやく着いたな。海王中」

『ここも懐かしいですね。二度ほどヒカルと共に訪れましたか』

(オレは後でもう一回行ったけどな、観戦で)

「全国有数の進学校だよねー。こんな機会でもなきゃ一生来ることなさそう」

「私は入ろうと思えば入れたけどなー。でもこんな遠くまで毎日通学するの面倒だったからやめたんだよねー受験。懐っついわー」

「……あかり、ゆかりさんって成績いいの?」

「勉強してないくせにね」

 

 海王中に到着した三人は、大会に参加しない気楽さを抱えたままに、ヒカルが先導して慣れた足取りで校内に入り、大会会場となっている大教室に向かっていく。

 しかし、向かう道中ですれ違う生徒たちはそんな三人にどうしても目を向けざるを得ない。

 その理由は大きく二つに分かれていた。

 

「……なんかオレら注目されてない?」

「そうかも……?」

「なんでだろねー? やっぱジョシコーセーが来てるからかー?」

「ゆかりさんが美人過ぎるって理由は絶対あると思うけど」

「でもそれだけじゃないような……?」

 

 ぎょっとした顔で二度見してくる生徒たちに困惑するヒカル達。

 注目される理由のうちの一つは確かにゆかりとあかりが美人過ぎるからなのだが、もう一つの理由はヒカルとあかりであった。

 この二人は、N〇Kのニュースで顔が流れ、週刊碁で若獅子戦の優勝準優勝であったことを記事にされている。

 当然にして海王中は囲碁部のメッカ。週刊碁は部室に常備されており、全員が顔を知っていた。

 ヒカルの特徴的な明るい前髪も、美人であるあかりの顔もよく覚えていた。

 他の中学校の生徒たちも同様である。囲碁に真剣に取り組んでいる人であれば、週刊碁は眼を通す雑誌であり、ヒカルとあかりの顔を知らないはずがなかった。

 

(おい、アレ……進藤ヒカルだぞ!? 院生の!!)

(嘘でしょ、後ろの女子は藤崎あかりよ!? あの倉田プロに勝ったっていう!)

(なんであの二人が!? 院生って大会に参加できないんじゃないの!?)

 

 波が伝わるように動揺が伝播していく。

 なんだなんだと自覚のない二人がようやく大会会場に顔を出せば、そこには既に葉瀬中の囲碁部員二人と将棋部部長が揃っていた。

 

「あ、筒井さん! 三谷! 加賀もちゃんと来てんな! おはよ!!」

 

 筒井、三谷、加賀。

 今日大会に挑む三人が、ヒカル達を見つけて挨拶を返す。

 

「おはよう、進藤くん! あかりさんも……あ、藤崎先輩! お、お久しぶりです!!」

「おっす~。よーやく大会参加できたねー筒井くん。よかったなー。加賀もちゃんと約束守って偉いぞー」

「姐さんの妹のおかげで先週の将棋部の県大会で優勝したんでね、恩返しがてらッスよ。……ってか姐さん気合入ってんな今日」

「なーに言ってんだー、気合入れんのは君たちだろー? 筒井くんは大丈夫かー? 緊張してない?」

「せ、先輩が来たことでさらに緊張したかも……!」

「アホか。緊張でヌルい碁打つんじゃねーぞてめェ。姐さんが見てんだからな」

「わ、わかってるよ!」

 

「オハヨ、進藤。……なんか随分な荷物背負ってねぇ? なんだそれ?」

「あかり謹製の弁当と水筒6本。重箱で五段重ねだからな、楽しみにしてろよ」

「やべーヤツじゃん藤崎。どうやったら中一で五段重箱作れるんだよ」

「なによ、三谷くんはお昼抜きがいい?」

「ウソウソ冗談、有難くいただくよ、サンキュ。……ってかさ、なに、あの人が藤崎のねーちゃん? ……美人すぎだな……?」

『急に小声になりましたね三谷』

「今日はゆかりさんめっちゃ気合入れて来た……」

「筒井サンあんな人と二年間ずっと二人きりで囲碁打ってたのか……?」

「そうらしい……」

「人生の運全部使い切ってるよ絶対……」

「わかる……」

「ひそひそ何話してるの二人とも?」

 

 自然と高学年組、低学年組に分かれて言葉を交わすことになった。

 筒井は久しぶりに見たゆかりの姿が余りにも美しさに磨きをかけていたことで顔を真っ赤にして、ゆかりはそんな筒井の反応に満足そうに長い髪を手で払って化粧をアピールし、加賀はそんな二人の遣り取りに肩を竦めて苦笑を零す。

 三谷は初めて見たあかりの姉に驚いて思わずヒカルと小声で男子中学生トークを広げ、あかりはそんな二人の様子に首を傾げていた。

 敵陣真っただ中だというのに、筒井以外は緊張の欠片も見当たらないそんな雰囲気に、周りの中学生たちは大会参加への緊張をさらに高めていた。

 ヒカルとあかりという囲碁界きっての有名人が、大会に参加する中学生と仲良く話している。

 それはすなわち、彼らが中学校で囲碁部に係わっていることを如実に示すモノであり。

 今日自分たちが戦う葉瀬中が、とてつもない強敵であると予感させるものであったからだ。

 

 さてしかし、そんな葉瀬中メンバーに声をかけられる中学生は中々いなかった。

 周囲は大いにざわついているが、仲睦まじく話す葉瀬中の生徒たち+とんでもない美人の女子高生に声を掛けに行く勇気を持った中学生が早々いるはずがない。

 そう、普通の中学生であれば。

 

「────進藤くん、藤崎さん!!」

「げ」

「え、塔矢くん? 何でここに?」

 

 だからこそ、普通の中学生ではない塔矢アキラが声を掛けに行った。

 若獅子戦でも見たような光景に、ヒカルはまたしても驚愕を覚える。

 ここにアキラがいるとは思っていなかったからだ。

 

(なんでだよ!! この世界じゃオレが葉瀬中にいるって知られてないはずなのに! 大会にも参加できないの分かってるはずだから、オレと戦いたいからって理由で大会に出場する事もないだろ!?)

『まさか塔矢が海王中のメンバーなのでしょうか? そうなればかなり厳しい戦いになりますね……』

 

 心の内の驚愕を佐為に零して、佐為もここで塔矢と出会った事に対しての疑問をヒカルと共有する。

 前の世界ではアキラはヒカルと、ヒカルの内にいる佐為と戦いたいからという理由で海王中の囲碁部に所属していた。

 しかしこの世界では既にヒカルは院生になっていることを知っているし、そもそも葉瀬中にいることをアキラは知らないはずで。

 和谷や奈瀬から情報が零れたかとも思ったが、二人にもどこの中学に通ってるかは別に話した記憶はないし……、とヒカルが脳内で混乱を果たしている中で、アキラはまたしても満面の笑みを浮かべながら二人に近づいて行った。

 

「まさかこんなところで会えるなんて! 二人は葉瀬中だったんだね、知らなかったよ!」

「おお……そうだな、オレもびっくりだよマジで」

「その制服、塔矢くんは海王中だったんだ? 今日の大会に参加するの?」

「いや、囲碁部には入ってなくて、今日は運営のお手伝いと観戦だったんだけど……でも、惜しい事をしたかな。二人が鍛えた葉瀬中の人たちと戦える可能性があるなら、大会に参加したかったよ」

「アホ言えよ。お前程打てる奴が大会に混ざったら勝負にならねーだろうが」

 

 マジでコイツ性格変わったな……とヒカルが別種の恐怖を覚えつつも、普通に会話を果たす。

 あかりが聞き出してくれたが、流石に大会には参加しないようだ。囲碁部にも入っていないということで、イジメには遭っていないようで何よりである。

 ヒカルとあかりに異様に懐いている様子を見せる塔矢アキラに、その存在を知る筒井はメガネをずり落として驚愕した。

 加賀は自分の知る幼いころの塔矢アキラの印象に近い、しかしその中に余りにも強く匂うライバル心を感じとり、成程二人がアキラに勝ったのはマジだったか、と理解を深めた。

 三谷はいきなり話に割り込んできたアキラに少々機嫌を悪くしていた。

 ゆかりはなんかウチの妹の周りみんな美形男子ばっかりだな、と妹の面食いっぷりに苦笑していた。お前もじゃい。

 

「……塔矢、対局前の学校にあまり声をかけ過ぎるな。特にその二人とキミは、混乱を起こしすぎる」

「あ、()()……そうですね、すみません。友人を見つけて、つい……」

「……!」

「あ……()()()()!! わっ、お久しぶりです!」

 

 さて、ヒカルとあかりという有名人二人にさらに有名人が声を掛けに行ったことで更なる混乱が会場に広がる前に、海王中の部長が直々にそんなアキラを窘めに向かった。

 その顔を、ヒカルとあかりの二人は知っていた。

 あかりは特に印象深く覚えていた。

 かつて、院生に入会した初日に初めて対局した相手だったからだ。

 

「久しぶりだな、藤崎。……葉瀬中だったんだな、進藤も」

「ハイ! 岸本さんも、部長ということは……」

「ああ。院生を辞めた後に部活に復帰してね。大人げなくて悪いが、今日の大会、海王中の大将はオレだ」

「……!」

「今この出会いを果たすまでは、海王の優勝間違いなしと考えていたが……藤崎と進藤に鍛えられた葉瀬中が相手になるとなれば、最早一切の油断も出来ないだろうな。そちらの大将は……」

「あっ、ぼ、ボクです、筒井と言います……!」

「ふむ。よろしく、海王の大将の岸本だ。当たるのは決勝だな。大将戦に恥じない対局にしよう」

「よっ、よろしく……!!」

 

 岸本は、自分が院生を辞める決断を果たさせた相手……藤崎に微笑みかけて挨拶を交わし、同時に今日の大会が大荒れになる事を予感した。

 自分がたった一局打っただけで、あれほど可能性を広げさせられたあかりという存在。

 院生を辞めてから、あの最後の一局を検討するだけで、相当に自分の棋力が伸びたことを実感している。

 その成長もあり、今日の大会も順調に進むものと考えていたが、しかしそんな希望的観測は全て吹っ飛んだ。

 あかりと、そしてその相棒である進藤が院生に起こした革命を当然にして把握していたからだ。

 今握手を交わした筒井という男も……恐らくは、とてつもない成長を果たしているのだろう。

 

「──静かに。対局してる人は止めて碁石を戻しなさい。まもなく大会を始めます」

 

 試合開始の時間となる。

 ヒカルとあかりがいくつもの運命を捻じ曲げた混沌とした大会が幕を開けた。

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