逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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67 いまにみていろ海王囲碁部~ 全滅だ~↑

 

 加賀とアキラが試合会場に戻り、無事に筒井も勝利して完勝を果たした葉瀬中が一回戦を突破した。

 続く二回戦、準決勝の相手となったのは佐和良中学校。

 対局が始まって、20分ほど経過したころに。

 

「…………負けました」

「おう。ありがとうございました」

 

 佐和良中の敗北を決定づける、二度目の投了宣言がなされた。

 一度目の投了は三将の試合で10分前に宣言されている。三谷の早碁で既に一勝を獲得しており、続いて投了の宣言が果たされたのは副将の対局。

 佐和良中の生徒である池上が、己の石の活きる道を見い出せずに宣言した投了に、加賀が頷いてお辞儀を返し、葉瀬中の勝ち抜けが確定した。

 

「池上! なぜ右上スミに入っていかないんだ!!」

「先生……でも……」

「三々に打てばまだ可能性があっただろう!!」

「……チッ」

 

 しかし、投了をした生徒に対し、恐らくは佐和良中の顧問であろう白髪の教師が 責の言葉をかける。

 加賀はそれを聞き及んで、フン、と鼻を鳴らし、対局の検討まで果たして助け舟を出した。

 

「……右上スミに入ってきても、オレのこことこっちの連絡の方が早ェ。仮に三々に打ったって届かねえよ。その先、ここ……ここ、ここ、で進むだろ? したらオレはこっちとここを攻める。この時点で差ははっきりしてるだろォが。そいつの投了は正解だぜ。センセー、アンタちゃんと目算くらいしろよな」

「む……ぅ……」

「…………」

「……ふん。さぁて……」

 

 大人が子供の碁を叱責する姿。それが加賀は嫌いだった。

 先程アキラと出会い、己の禍根が漱がれたことでよりそう思うようになってしまう。

 囲碁だって将棋だって、ノビノビと打てなきゃダメだ。間違いを叱責されることに怯えながら打っていては、己の手が縮む。新しい発想を試せなくなる。

 だからこそ……先ほどのアキラとの邂逅で一つ大人になった加賀は、対局相手に助け舟として解説を行った。

 そこまでしてから、らしくねェコトしてんじゃねーよオレ様がよ、と自嘲し、所在なく椅子から立ち上がる。

 気恥ずかしくなった、と言ってもいい。

 

「……なんだよ、らしくねーじゃん加賀。塔矢アキラってのと何かあったのかよ?」

「ア? るっせーぞ三谷」

「てっ! なんだよ!」

 

 そこで加賀と筒井の間の後方で二人の盤面を眺めていた三谷に、先程のらしくない一幕をつつかれて、デコピンを返すことで話を止める加賀。

 デコピンを食らって額を手で覆う三谷だが、加賀が次なる話題を提供する。

 

「それより……筒井はどーなった? また()()()()か?」

()()()()だよ。……ただ……」

 

 それは残るもう一人の対局。

 大将戦。筒井が打つ盤面についてであった。

 噂の葉瀬中の大将だ。注目度は高く、ヒカルとあかり、ゆかりも遠目に見守るほか、アキラや海王中の生徒たちもその対局に集中して観戦している。

 そんな盤上だが、しかし、そこで三谷は小声に切り替えて、加賀もそれに合わせて顔を近づけてひそひそと会話を続ける。

 

「……さっきの一回戦、オマエが出てっちまった後だけど、()()()()()()()()()()()()()()()

「マジか。……この対局も、一回戦も、オレらが対局相手と代わって打っても多分クソ捲りしてくるような形だろうが……揺蕩ってるだろ。投了するほどか? どうなってんだ?」

「多分だけど、オレとオマエで先に二勝を決めちまってるだろ。相手の大将は勝っても敗退するのが決まっちまってるからな……中盤を超えたあたりで筒井サンが巻き返し始めたあたりで、心が折れちまってるのかも……な」

「フーン、成程」

 

 話題になったのは、筒井が筒井らしい対局を展開して、巻き返しを始めた時に投了になっている事実。

 これには様々な理由が存在していた。

 確かに三谷の言う通り、相手の大将は自分の学校の敗退が確定したことを察し、気勢が削がれてしまっていたのは事実。

 しかし同時に、筒井もまた中盤まで相当に粘れていたのだ。

 普段からヒカル、あかり、ゆかり、三谷ととてつもない強者との戦いを経験し続けた筒井。

 それらを相手にすれば中盤まで大いに地の差を広げられるが、それでも中押し負けを宣言するほどまで削り切られていなかったのだ。

 

 つまり、相手の棋力が低ければ、中盤までだって大いに堪えられる。

 それにより、相手校の大将が中盤までに作れたアドバンテージは普段よりも少なくなり、筒井が終盤に入り捲り始めたあたりでその先の敗北の気配を相手が察するのが早くなり、投了のタイミングもまた早まっていた。

 筒井の神髄たるヨセにまで入らずに、勝負を決着させていた。

 

「……悪い話じゃねぇな。決勝の海王中に筒井の神髄まで見られてねぇってことだからな」

「ああ。午後から決勝戦だけど……どーせ昼休憩時間で海王中総出でオレたちの碁の検討するだろ。オレも加賀も早い段階での中押しで勝ててるし、札は見せきってねぇぜ」

「中盤までの筒井のマヌケさを勘違いすりゃ、下手すりゃ大将に弱いの置く作戦とも考えられてるかもな。ククク」

「筒井サンマジで初見殺しのバケモノだからな。先週ウチの碁会所に初めて来た時も院生相手にかなりいい所まで行ったんだぜ」

「いつの間にか人間やめたよなコイツ……」

 

 それによる副次効果は二人が説明した通り。

 並大抵の棋力では、筒井のやっていることの恐ろしさを察することが出来ないであろう。

 中盤までは圧されていたが、終盤に至り押し返し、勝利が見えてきたところで相手が投了した……そんな、一般的な対局と相違ない現象が起きているのだから。

 だが、棋力が高ければ高いほど、筒井のやっていることの恐ろしさの根幹を理解する。

 海王中でこの恐ろしさまで理解できたのは、顧問の尹、部長の岸本、囲碁部ではないが塔矢アキラの三名。

 約束された終盤の捲り。それに特化した怪物。

 余りにも徹底されたその打ち筋は、その異常なる棋風を常態としていなければ身につかないだろうと思わせるほどの極地。

 そんな筒井は、この準決勝となる二回戦でも、神髄のヨセを見せることなく、終盤戦に入り地を奪い尽くして、勝負を決めた。

 

「…………あ、ありません……」

「ありがとうございました」

「……中盤で生まれていた十五目差が、ヨセに至る前にひっくり返った……だと……」

 

 投了を宣言した佐和良中の大将に、顧問も恐ろしいほどの捲りに冷や汗を流し、先の副将戦のように感情的になる事さえ忘れてしまった。

 鮮やかすぎる終盤の打ち筋。プロと見紛うほどの徹底された捲りであった。

 

「……よしっ! 勝った! 勝ったよ加賀! 三谷くん!」

「オー。流石だなバケモン」

「やったねバケモン」

「急になに!?」

 

 対局終了の挨拶を終えたのち、改めて自分が準決勝を勝ち上がれたことに子供のように喜んで、涙さえ流して加賀と三谷に勝利の報告を果たす筒井。

 そんな様子に何やってんだこのバケモン、と加賀も三谷も白けた目線で鋭くツッコみ、筒井は面食らった。

 そんな様子を眺めていたヒカルとあかりが苦笑を零し、ゆかりは爆笑していた。

 

 葉瀬中、準決勝突破────。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 決勝戦は午後に行われ、それまでに一時間半の昼休憩がある。

 控室に集まった葉瀬中メンバー+JK一名は、長机二つを合わせて左右3人ずつ、6人で座ってお昼ご飯の時間となっていた。

 

「……すごいね、これは……」

「重箱五段重ねとは聞いてたけどおにぎりが別にあるとは思ってねーじゃん? しかも味噌汁まで付いてんのかよ」

「これ全部藤崎妹が作ったのか……姐さん、妹さんにどんな教育してんだい」

「わはは、すごいだろー。この子は若いころから花嫁修業に真剣でね。朝からめちゃくちゃ気合入れて作ってたぞー有難く食えよなー」

「お姉ちゃんも手伝ってくれましたからね。囲碁にはエネルギー使うし、決勝に向けていっぱい食べちゃってください!」

「リュックめっちゃ重かったんだからな。残したらコロス」

「亭主が物騒なコト言ってやがるぞ」

 

 そこに並べられる色とりどりの弁当たち。

 お弁当の定番である卵焼きやミニトマトやタコウインナーや唐揚げなどの他、ちくわのチーズ巻に春巻きにミートボールにケチャップチキンにハンバーグにエビチリにいんげんのてんぷらにきんぴらごぼうにポテトサラダに……とにかく中学生が食べて喜びそうなおかずが重箱にずらりと敷き詰められていた。

 別箱におにぎりが16個。男子3つ女子2つの計算だ。味噌汁まで魔法瓶で二本分準備してきている。

 紙皿や割りばしまでバッチリ準備されており、最早運動会のピクニックかと言わんばかりの豪勢な料理が広げられていた。

 

 早速いただきますの挨拶を交わして食事に入る。

 一口目をいただいて、やはり驚愕したのはあかりの料理を初めて食べる男子中学生たちであった。

 

「……ッ!! 美味い……!! すごい、本当に美味しいよあかりさん!!」

「なんだこりゃウッメ! 冷めてるのにこんなウメェの初めて食ったぞ!? 弁当作りの天才か藤崎妹ォ!?」

「っ……味噌汁もなんだこれ、こんな美味いの初めて飲んだ……嘘だろ、こんな弁当を毎週食ってんのかよ進藤テメェ……」

「あかりの弁当は美味いからな……ん、慣れた味。んまい!」

「院生研修のたびにヒカルに作ってあげてたから、色々慣れたかなー。どんどん食べてね、いっぱいあるから!」

「あっはっは、どーよウチの妹はーすごいじゃろー! まぁもう売約済みなんだけどねー」

 

 そのあまりの美味さに、頬が落ちるという言葉の意味を語源から理解してしまう三人。

 美味すぎて自然と顔が綻んで、笑顔が生まれてしまう。頬が落ちてしまう。

 食べ始める前は大量の弁当に気後れする所もあったのだが、何といっても食べ盛りの男子中学生である。

 あんまりにも美味しい弁当が目の前に並んでいて、食べ進めない択はなかった。夢中で食べ進める三人。とヒカル。

 そんな男子たちの子どもっぽい様子を苦笑しながら眺める藤崎姉妹は、外見の美しさに見合うお淑やかな箸遣いで食事を進めていた。親の教育がよいのだ。

 

「……っ、ぐ、んぐぐ……っ!」

「ほらーがっつきすぎだよヒカル! はいお茶!」

「んっ……ごく、ごくっ……ぷは、サンキュあかり! いやーやっぱあかりの弁当止まらねーわ」

「お茶の準備が早すぎるだろ藤崎。出来た嫁かよ」

「……なー筒井くん」

「はぐ、もぐ……! は、いっ! なんですか藤崎先輩!」

「私も準備してるから喉にそろそろつっかえない? お茶入れてあげるよ?」

「ぶっ……っ!? な、なんでそういう話になるんですか!?」

「んー……妹への対抗心?」

「意味が分かりませんが!?」

(……茶化してェけど茶化したら姐さんに殺されそうで何にも言えねェ……)

 

 大変美味しそうに、楽しそうに昼食をとる葉瀬中一同。

 そんな様子を見て、ぜひヒカルやあかりに声をかけようと思っていた他中の生徒たちは、話しかけるタイミングを逃し続けるのであった。




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原画展記念らしいです。(報告)
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