逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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日間ランキングの上の方にいた記念で今日は感謝の二回投稿します。


7 覚醒の兆し

 

 

(さて、じゃあ何をどうしていこうか? って話だな)

『ですね』

 

 翌日。

 昨日よりもなんだか距離が近くなったあかりと一緒にいつものように登校し、退屈な座学の授業を聞くふりをしながら、頭の中で佐為と話すヒカル。

 昨日はお互いに言いたいことを伝えるだけで時間が無くなったため、こうして思考にふけっていられる時間に具体的な今後の方針を決めていきたかった。

 

 人生二周目なのだから、やりたいことをやらなきゃ嘘だ。

 昨日の時点でヒカルはそう考えていた。

 では実際、何をどうしていきたいのか。

 どのように生きたいのか。

 そこを佐為と相談することにした。

 

(まず……お互いに、碁は打ちてぇよな。これは絶対ブレない軸だ)

『ええ。それだけは必ず。私が打つ手段を作るのはヒカルに負担をかけますが……』

(いーっての、そういうのは。これからはお前にも出来る限り打たせてやりてぇよ、オレも。だからそのためにどうすりゃいいかってのはしっかり考えていこうぜ)

『はい。ありがとう、ヒカル』

 

 当然だが、碁を打ちたいというのが全ての大前提だ。

 これが無くなってしまっては進藤ヒカルと佐為ではない。

 碁を打ちたい。神の一手に近づきたい。

 そこを基軸として、では自分たちはどのように立ち回り、何をしたいのか?

 どのようにして神の一手に近づいていくのか?

 

 授業の間に、色々とお互いに案を出していった。

 佐為の案に二十一歳まで過ごした社会人であるヒカルが意見を言う事もあったし、ヒカルの案に佐為が無茶が過ぎると意見を言う事もあったが、今日一日でお互いが思いついた方針が以下の通り。

 

 

 〇佐為に碁を打たせてやりたい。佐為も打ちたい。

 →ヒカルと佐為の棋力は今やかなり近づいている。かつての世界のようにsaiとヒカルの棋力の差があり過ぎて、ヒカルが変に疑われるようなことは減るだろう。

 →だがヒカルの肉体年齢がネック。この年齢で本因坊タイトルの腕を変に世間に知らせてしまっては、まちがいなく再び面倒なことに巻き込まれる。

 →なので表に出るのはしばらく様子見。いずれはプロになるが、親を説得するためにもしばらくは下積み期間という事で。

 

 ●ネット碁やりたい。

 →あれはいいものだった。匿名性をキープして世界中の人と打てた。

 →saiの正体を知られないように頑張る必要はあるが、前の世界ほどヒカルも失言を零すつもりはない。

 →本当に? 本当に大丈夫ですかヒカル?

 →信頼ねぇなぁ。大人だぞオレは。

 →ヒカル自身の棋力も高まっているわけで、なんなら正体がバレても問題ない立ち回りも出来そうだし、早い時点でネット碁が出来るようにしたい。

 →ネカフェはまだ出来てないのでパソコンを親に買ってもらいたい。

 →つまり成績優秀で手間のかからない子供として頑張りましょうねヒカル。

 →気楽に言いやがって。

 

 〇佐為の秘密を共有してくれたあかりには優しくしたい。

 →囲碁もしっかり教えて、彼女なりの囲碁を作ってもらいたい。

 →指導碁の練習にもなるし、前みたいにつっけんどんに扱う事はやめよう。前の世界じゃそれでマジで申し訳ないことしたし。

 →おや? 大人になってからあかりちゃんと何かあったんですか?

 →うるせーよ。とにかくあかりにはしっかり教えるぞ。

 

 ●塔矢や、当時世話になったみんなともまた会いたい。

 →なんならみんなの実力伸ばしたい。みんなで神の一手探していきたい。

 →とてもいいですねヒカル! 実力を底上げする楽しさもありますし私も大賛成です!

 →いい感じにその辺やっていきてーよな。今すぐは無理だけどあと数年もしたら院生になる人たち多いし、そこで上手く交流していきてーな。

 

 〇●その他もろもろ

 →中学時代にも未練がある。三谷ともし会えたら今度は仲違いしたくねぇ。筒井さんや加賀にも世話になったし。

 →ですねぇ。あの子にも真っすぐ碁と向き合ってもらいたい。

 →院生時代には未練があんまりないけど、今の腕前で変に混ざるのもみんなに申し訳ない。上手く立ち回りたいからそこはじっくり考えようぜ。

 →そうですね。私が院生になる様なものですから。指導碁だけでもバレてしまいますし。

 →みんなに強くなってほしいから指導碁の腕前上げたいな。

 →面白いですよ、若獅子を己が手で育てるのは。

 →やってみるよ。んであとは……プロになったらやる事はあんま変わんないな。勝ち続けてタイトル取りに行くだけだ。本因坊は佐為が取りに行ってみるか?

 →いいんですか!? あ、いえ……できるでしょうか?

 →オレが佐為の腕前に並べば、どっちが打っても文句は出させねぇさ。二通りの打ち筋を持ってるって胸張って言えるくらいに、オレだってお前に追いついて見せる!

 →……有難う、ヒカル。でも、既に私も貴方の打ち筋に学ぶ立場です。私が扇子を渡して本当に意識が消えたのちの、未来の碁を私にも教えてくださいね。

 →もちろん! じゃあ今からでも将来オレが打った、面白かった一局の棋譜でも並べてやろうか?

 →わー! お願いします!!

 →おっけ。どっちがオレか当ててみな。それじゃあ────初手、右上、5の五。

 →おお!

 →二手目、天元。

 →おお!? ……いえ、乱戦狙いの5の五に対するならばシチョウ有利な天元打ちは十分に……!

 →三手目、左下、5の五。

 →おおお!?

 →四手目────

 

 

 ──色々と考えは出たのだが、結局この二人は囲碁バカなのだ。

 大まかな方針を決めた後は、ヒカルが頭の中で並べた棋譜を二人で検討する時間に当て、いつの間にか授業終了のチャイムが鳴っていたのだった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 あかりは、今日の放課後をとても楽しみにしていた。

 昨日のヒカルとの特別な出来事があって、佐為という不思議な存在とも出会って、秘密を共有する特別な仲にヒカルとなれたことが嬉しくて。

 昨晩のベッドの中では、随分と幸せな将来設計の妄想に身を果たしていた。

 今日からは毎日ヒカルが囲碁を教えてくれると言ってくれて、おじいちゃんからマグネットの碁盤も借りてきて、放課後にヒカルの家で囲碁をまた教えてもらえると言ってもらえていたから、とてもとても楽しみにしていたのだ。

 

 昨日自分が目の当たりにした、ヒカルと佐為が作り上げたキレイな宇宙。

 あれに少しでも近づけると思うと、どうしても心がウキウキしてしまって止まらなかった。

 

「あがれよ。母さんパートでいないし、オレお茶入れてくるからさ、先に部屋行ってて」

「う、うん!!」

 

 放課後、ヒカルの家に上がれば、なんとお茶まで入れてくれるという。

 そんな気配りはこれまでのヒカルにはなかった。やっぱりヒカルが昨日から急に変わっている。

 佐為と出会ったからなのだろうか。

 しかしそんな疑問は、大人びてカッコよくなったヒカルにメロメロになっているあかりにはどうでもいい事だった。

 いつもなら男子たちとサッカーに行ってしまうヒカルが、自分の為に時間を使ってくれていることが嬉しくて仕方がなかった。

 

「おじゃましまーす……」

 

 ヒカルの部屋に入る。

 相変らず、意外と綺麗にされていた。

 おばさんがしっかり見ているのだろう。それに見習って自室も綺麗にしている。

 そんなあかりが、見慣れたヒカルの部屋の中に見慣れぬものを見つけた。

 

 部屋の中央に置いてある、碁盤。

 昨日ヒカルのおじいちゃんから借りて来た、マグネット式の薄い板のようなそれ。

 その傍には碁石もちゃんと置いてあった。

 

(今日から、本当に教えてもらえるんだ。私、あのキレイなモノに近づけるんだ)

 

 それを目にした途端に、あかりの意識は昨日の盤面に飛んでいた。

 脳裏に焼き付いた、ヒカルと佐為が描いた美しい盤面。

 あのキレイな宇宙を、何度でも見てみたい。

 自分でも描いてみたい。

 

 自然とあかりは、白と黒の碁石に手を伸ばしていた。

 

 

※    ※    ※

 

 

「あっちち……!」

『大丈夫ですか、ヒカル?』

(ああ、なんとか。ポットからお湯入れるだけってのにやっちまったなぁ。この身長はなかなか慣れねぇなー)

 

 さて、あかりを先に部屋に向かわせ、お茶を淹れていたヒカルは、七歳児の身長に未だ慣れずに一度お湯を零してしまうという失態を犯していた。

 幸いにして火傷は無かったが、やはり急に体が縮めば台所の上にあるポットを操作するにも失敗が生まれる。

 これから気をつけていかないとなぁ、と気を引き締め、雑巾で零れたお湯を拭いて、改めて慎重にお茶を淹れて、あかりが火傷しないようにと氷を一つ入れて温度をぬるくして、お盆トレイに乗せて階段を進んだ。

 実を言えばこのお茶出しも、トッププロとして囲碁をするときにお茶を飲むことが習慣になっていたヒカルの精神に染みついた慣習であり、七歳児の時点でやる事ではないのだが、それに思い至る様なヒカルではなかった。危うい。

 

 何はともあれ、少々時間を食ってしまってようやく自室にヒカルが入った。

 

「おー、悪ぃな、待たせた。ちょっとお湯零しちまってよ……」

 

 片足でドアを器用に開けて、準備しておいた碁盤の前に俯くように座るあかりの背に声をかけ、トレイを床に置こうとして。

 しかし、ここまでのヒカルの声かけと足音に、あかりが反応することは無かった。

 

「……ん?」

『────……!!』

 

 あかりの奇妙な様子に、ヒカルは首をかしげる。

 じっと碁盤を見るあかりの背に隠れて、碁盤はヒカルには見えていない。

 だが、背の高い佐為は一瞬先にそれに気づいた。

 お茶を置いてからあかりが何やっているのかと背中側からのぞき込んだヒカルもまた、続くようにしてそれに気づいた。目撃した。

 

『ヒカル、これは……!』

「えっ!?」

 

 あかりが碁盤に描いた宇宙。

 昨日見届けた、ヒカルと佐為の二人が打った盤面を、見事に碁盤に再現していた。

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