逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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(なおジャンプ読者調べ)*1

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加賀は、ヒカ碁ガイドブック掲載の「神の一手に最も近いのは?」ランキングにて、ヒカルとアキラを抑えて佐為に次ぐ2位を獲得している




70 佐為の次に神の一手に近いと言われた男

 

 副将戦。

 対局相手の久野を正面に見据えて、序盤の攻防を広げる加賀は、胸の内にある一つの思いを、改めて否定していた。

 

(…………)

 

 加賀は、今日という大会で、ある一つの企みがあった。

 昨日まではひっそりと試そうと考えていた企みで、それはある意味、筒井と三谷……いや、葉瀬中囲碁部にとっては()()()にあたる様なものであった。

 

 海王中との決勝戦で、ワザと負けようと考えていたのだ。

 

(オレが勝てば、他の二人のどっちかが負けても二勝一敗で海王中に勝つ。……ンなもんに意味がねェと思っていた。オレが筒井に頼まれたのは、団体戦に参加する所まで。海王中に勝て、とは頼まれてねェ。この舞台まで筒井を持ってきた……それでオレの仕事は終わってるんだ、本来は)

 

 ぱち、と己が白石を盤面に打ち付けて、昨日までの考えを反芻する加賀。

 筒井が加賀に囲碁の勝負で賭けたのは、大会に参加する事。海王中に勝ち、優勝する事ではない。

 海王中に勝たなければならないのは、あくまで葉瀬中囲碁部でなければならないからだ。

 ここで加賀が一勝を拾い、三谷も勝利したとすれば、筒井が負けても団体戦自体には勝利したことになる。

 その勝利を葉瀬中が拾う事を、加賀は良く思っていなかった。

 

(オレが先に勝ちを拾う事で、筒井の気持ちが緩んでも面白くねえ……あくまで勝たなきゃならねぇのは筒井だ。オレはここまで来れば黒子でいい、筒井と三谷が海王中に勝てれば……三谷の相手が余程強けりゃ踏ん張るが、午前中に見た様子じゃ三谷だって勝てる相手……オレがここで頑張る理由なんざねぇ……)

 

 ぱち、と相手の久野から黒石が返される。

 流石は海王中。加賀から見ても、見事な石並びだと感嘆するほどだ。

 これならば、あえて手を抜かずとも敗北に至れるだろう。

 ほんのわずかに急所を外して打てば、自然に敗着に結ぶであろう。

 筒井と三谷が勝てばいい。オレの勝利による葉瀬中団体戦の勝利を作りたくない。

 

 そんな考えを────冒頭に述べた通り、加賀は全否定した。

 

(ケッ、バカがよ! オレも腑抜けてたもんだぜ! 今日ここで()()に会ってなけりゃ、オレまでマヌケになる所だった! なんてくっだらねェ事を考えてたんだよ、オレ様はよ!!)

 

 パシッ! と加賀の指先が白石を盤面に打ち付ける。

 それは見事なまでの急所。観戦しているヒカル、あかり、塔矢から見ても100点の打ち筋。

 加賀は、この決勝にて一切の緩みなく、己の持てる100%の囲碁を盤上に描いていた。

 

(ワザと負ける……それをやられた相手がどうなるか、オレが一番分かってたんじゃねェのか!! 目の前のコイツだって三年生だ、中学校生活の全てを賭けた決勝戦!! 囲碁は嫌ぇだが、男一人が二年半を懸けて辿り着いた決勝の舞台を、オレがブッ壊せるワケねぇだろうが!!)

 

 それは、対局相手へのリスペクトと共に。

 かつて加賀が塔矢を相手にして味わった、手を抜かれた時の悔しさ。惨めな想い。

 それを対局相手に味わわせてはならない。

 己が人生最後に打つであろう真剣な碁の勝負で、僅かでも手を緩めて己の敗北を受け入れるようでは、加賀は加賀たりえない。

 あくまで助っ人、筒井に呼ばれたから……などという、第三者のような心持を綺麗さっぱり捨てて、今は囲碁部の一員として、全霊で勝利を求めに行った。

 勝負に水を差すような打ち方はすまい。

 流石は決勝だ、と言われるような盤面を。

 藤崎妹風に言えば、美しい宇宙を描いて魅せる。

 

「……く……!」

「…………ッ!」

 

 盤面は中盤戦に入り、加速していく。

 加賀の対局相手、久野も素晴らしい打ち手であった。

 囲碁のメッカである海王中で、元院生の部長・岸本に次ぐ二番手の実力者。

 その時点で、年齢に不釣り合いな高い棋力を持っていると言えるだろう。

 

 海王中の大会メンバーの実力は高い。

 これは別の世界の話になるが、本来、加賀の棋力では及ばぬ高みに彼らの実力は存在している。

 かつての世界線、小学生であるヒカルと将棋部からの助っ人の加賀を混ぜて団体戦に参加したときに、加賀は決勝で対決した海王中の大将に敗北している。

 塔矢アキラもどきがゴロゴロいる、という感想と共に投了の言葉を告げた加賀だが、当然ながらこの時も真剣に打っていた。真剣に打ったうえでの敗北だ。

 加賀クラスの実力でも打ち勝てない高さの壁。それが海王中の層の厚さである。

 

 しかし、それは前の世界線での話だ。

 

 加賀は天才である。

 無論その天才性は彼が望むままに将棋の才に振られているが、しかしアキラと共に通った囲碁教室でも、大人たちを押しのけナンバー2になるほどの盤面遊戯への感覚の鋭さ。

 十歳のころに囲碁から離れ、それ以降は将棋一本で歩み進めたはずの加賀の囲碁は、本日の午前中にアキラに皮肉として零した通り、小学生の時代から本格的な囲碁の勉強など果たしているはずもなく、成長もしているわけでは無い。

 前の世界線では冬季大会への参加だったが、夏季大会の参加にズレ込んだこの世界線での加賀でも、囲碁の勉強を自ら行ったはずもなく。

 本来は、前の世界線とそう変わりない実力であるはずで、その状態で海王中に挑むことになっている加賀は、前の世界線と同様、海王中相手には苦戦をするはずだった。

 せいぜいが、()()()()()()()()と、()()()()()()()()()を数度果たした程度なのだ。

 

 十分が過ぎた。

 改めて言うが、加賀は天才である。

 間違いなくこの大会会場にいる誰よりも囲碁の経歴は少ないだろう。

 それにも係わらず、その腕前は三谷を凌ぎ、筒井にも詰め寄り、置石を置けばヒカルやあかりも満足させる棋力の高さを有している。

 そんな彼が前の世界線から追加して対局したのが、怪物に進化を果たした筒井と、筒井を怪物へと成長させた、対局相手の棋力を高める事を得意とする真の化物たるあかりなのだ。

 加賀の脳を揺らすには十分すぎる刺激であった。

 その刺激は彼の囲碁への理解を常人の数倍の効率で深め、将棋の調子にまで及ぶほどの進化を果たさせている。

 

 何度でも言うが、加賀は天才である。

 塔矢アキラも、佐為も、ヒカルも、前の世界線でもこの世界線でも、加賀という男の強さを認めていた。

 将棋の道に進んだはずの彼の才は、今この時を最後として、囲碁に全霊で向けられていた。

 

「……ぬ、ぅ……!」

「……」

 

 盤面が明確に傾き始めた。

 海王中の副将、久野の旗色が徐々に悪くなっていく。

 久野の実力は十分に高い。昨年から魔改造された院生ではない、通常の院生レベルなら試験に挑んでもいい結果が残せるであろう実力だ。

 かつての世界戦で、院生試験に挑む前のヒカルと同程度の実力、と岸本に評価されるほどのそれなのだ。

 無論、この世界線では囲碁界隈はどこぞの中学生カップルが原因で高い熱量を持っている。

 進化した岸本の指導や、尹の指導、円環盤面の検討などでそれよりも多少は実力が増している状態で。

 

 それでも、本気になった加賀には敵わない。

 たった一度の友との対局と、数度の天使との対局が、加賀に成長を促しすぎていた。

 

(────もしも)

 

 塔矢アキラは、加賀の盤面を見て、ひどく胸が痛んだ。

 

(もしも加賀くんが、ボクとの対局で歪むことなく……将棋ではなく、ひたすらに囲碁を愛し、道を究めれば。進藤くんや藤崎さんのように、神の一手にたどり着けていたのかもしれない。罪深いな、ボクは……)

 

 そう思わずにはいられないほどに、美しい一局だった。

 隙の無い、緩みもない、輝かしいほどに才が煌く宇宙が創造されていた。

 アキラは、加賀の打つ最期の一局を、己の咎と共に胸中に深く刻み込んだ。

 

 

「……負けました」

「ありがとうございました」

 

 

 副将戦、決着。

 

 勝者、加賀。





※雑談
よく考えたら小学生時代に囲碁教室のナンバー2になってその後囲碁を捨てて将棋に走って(恐らく)一切囲碁を打ってないはずなのに加賀の棋力ヤバない?
佐為が初対局で「楽しい♡」って思うくらいの碁を打って、ヒカルが一手失着しても「大丈夫まだ逆転の余地はありますから」って佐為も言ったのに結局リードを守り切って佐為に勝って、囲碁を指導してる他中の教師を上回る検討が出来て、院生入る前のヒカルにも勝って……普通にバケモンじゃない??
将棋のほうでめっちゃ優勝トロフィー持ってたけど高校でプロになるんだろうか。二刀流とかできるよお前(素の感想)
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