逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話   作:そとみち

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日間ランキング三位ありがとう記念で今日も感謝の二回投稿します。


9 なんかヤバい脳の焼かれ方してる!

 

 

 ヒカルが佐為と再会し、あかりが囲碁を覚え始めて一年が経過した。

 

「む、むむぅ……むぅ……! ……ありません」

「ありがとうございました。……やった! おじーちゃんに勝てた!」

「やったなあかり! すげーぞ!!」

『ええ、お見事な一局でした。(わらべ)が育つのは早いものです』

 

 足付き碁盤のプレゼントを賭けたヒカルの祖父との大一番の勝負を、あかりが制した。

 僅差ではあるが、確かに盤面はあかりの優勢となっている。

 ここからでもヒカルか佐為が祖父の代わりに打ち始めれば逆転も狙える程度の僅差ではあった。

 しかし孫可愛さもあり、プレゼントするための碁盤も既に購入していた祖父は、無駄な抵抗をすることなく投了を宣言した。

 勿論、最後まで打っても負けるであろうことをはっきり承知した上での投了だ。

 この一年で見る見るうちに強くなっていくあかり。そんなあかりにいつも教えている、ワケの分からない囲碁の才能に目覚めた孫であるヒカル。

 この二人に負けるのならば、悔しさはあれどもまったく惜しくはなかった。

 

「いやぁ……ヒカルもだが、あかりちゃんも本当に強くなったなぁ。ワシャ正直ここまで強くなるとは思ってなかったぞ。クツワ町の井上さんに勝てたワシが、まさか孫とその友達に負けるとはなぁ……これだから子供ってヤツはあなどれん。才能あるぞ! 二人とも!!」

「ふふっ、ありがとうおじーちゃん。でも……ごめんなさい、碁盤のほかにもう一つ、お願いがあるんだけど」

「ああ、分かっておるよ。投了はしたが、最後まで打ち切りたいんだろう? あかりちゃんは最後まで並べるのが好きだものな」

「うん、ありがとう! 碁石がきっちり並ぶのが好きなんです! この勝負を最後まで見届けたいの」

『……あかりちゃんの感性、中々面白いですよね』

(な。いつものことだけど……どうしてこんな癖がついちゃったんだろーな)

 

 さて、ヒカルの祖父の投了により勝敗は決した一局ではあったが、あかりは最後まで打つことを求めて、勿論それをヒカルの祖父も了承した。

 これは普段からのあかりの癖であった。

 勝敗が分からないわけではない。中押しでの勝敗があり、投了で勝負が終わる事はあかりもヒカルに教わって知っている。

 だが、それでもあかりは最後まで碁盤に碁石を並べることを好んだ。

 

「……実は最後までこっそり逆転しようと頭をひねってたが、やっぱり負けておったな。八目差、コミを入れてもワシの負け。お見事! ありがとうございました」

「ありがとうございました。うん、おじーちゃんに挑むのに気合入ってたからキレイな宇宙になったね!」

「ウム、ワシとしても満足のいく碁だったよ。特にここ、上手く打てたと思うんだがな……ヒカル、どうだ?」

「うん、そこのじーちゃんの一手はすっげぇよかったぜ。あかりの捌きも上手だったから上辺が繋がらなかったけど、もしあかりが捌きの一つでもミスってたら繋がってじーちゃんの有利に傾いてたな」

「私もおじいちゃんのその一手、すっごい()()()()()()の。だから気をつけよう、間違えないようにしようって思って、よーーーく考えたから……間違わなくてよかったー!」

『本当に、独特の感性があかりちゃんにはありますね』

(ああ。じーちゃんのあの一手はかなり鋭かったけど、ちゃんとそれが分かってるんだもんな。感覚派だなあかりは)

 

 二人が盤面に碁石を最後まで並べ終えて、決着後の簡単な検討をする中で、ヒカルと佐為はあかりの棋風の独自性を改めて感じ取っていた。

 

 囲碁を覚え始めて一年がたったあかりは囲碁の妙手を『キレイな一手』として捉えることがあった。

 放課後の囲碁の練習においては、ヒカルがあかりに指導碁、佐為があかりに指導碁をするほかに、ヒカルと佐為が打ってそれをあかりが眺めて感想を零す、というのも指導の一環に入れていた。

 レベルの高い勝負を見せてどこがターニングポイントだったかを幼いうちから感じ取れるようになれば、上達していく中で手筋の深みまで読めるようになるのでは、と。

 ほかにも()()()()()を練習に取り入れ、ヒカルも佐為も退屈せずに日々のあかりへの指導を行っていたのだが、その中でもあかりが時折見せる、『キレイな一手』への嗅覚にはヒカルたちも驚かされていた。

 

 ヒカルが、または佐為がお互いにせめぎ合う中で、会心の一手を果たした時。

 または、新たな定石、戦略を練って挑戦的に向かう一手。

 そういったものをまだ棋風が完成していないあかりが見て、敏感にそれを察するのだ。

 勿論その一手の後の読みあいの深みにはまだまだ達していなかったが、ヒカルや佐為がおおっ、と思うような妙手を、あかりは『キレイな一手』として感じ取っていた。

 まだそれがなぜ妙手なのかの説明までは難しくとも、妙手を妙手だと感じ取れる感性が彼女の中で醸成されていた。

 

 それを才能と呼ぶものなのかは分からない。

 しかし、時折ヒカルや佐為もはっとさせられるような気付きを碁盤の上で発見するあかりの指導は、二人にとってとても楽しいものだった。

 指導する中で己の碁の更なる深みを生むものとして、三人で仲良く碁を打ち高めあっていき、その結果が一年でアマでもそこそこの棋力を持つじーちゃんの撃破であった。

 

「よし、それじゃあ約束通り足つきの碁盤をプレゼントしてやろう。流石にヒカルたちで抱えて持って帰るのは大変だろうから、今日は車で家まで送るぞ」

「ありがとうございます!!」

「ありがとな、じーちゃん! オレたちもっと上手くなるからよ!」

『ありがとうございます、じーちゃん』

「かかか、構わん構わん。本当に将来が楽しみな二人がもっと練習したいというんだ、ワクワクもしちまうってもんよ。前に貸したマグネット式のも返さんともよいからな。そっちはあかりちゃんに貸してやるんだぞ、ヒカル」

「うん、わかってる。あかりもこれで部屋で棋譜並べられるな」

「うん! お姉ちゃんにも囲碁教えてみよっかなー」

 

 あかりの勝利で足つき碁盤を手に入れたヒカルたち。

 これからはあかりが自室で検討することも、二面打ちも出来るようになるため、さらに密度を高めた訓練に想いを馳せるのであった。

 

 

※    ※    ※

 

 

 帰宅して早速、ヒカルの部屋で今日のじーちゃん相手の一局の詳しい検討が行われる。

 ヒカルと佐為の読みの深さを、攻守のバランスなどを真剣にあかりは聞き遂げてから、一つの相談を二人に持ち掛けた。

 

「ねぇヒカル、佐為。私、ちょっと思ったことがあるんだけど……」

「ん。なに?」

「……囲碁って、プロの試合とかでも、結構早く投了されちゃうことがあるよね?」

「あー……そうだな」

『ある意味では囲碁の礼儀とも言える部分ですねぇ』

 

 あかりが考えるのは、投了というルール。

 先の先まで手筋を読み、逆転がないと確信してしまえば、投了して己の負けを宣言することが囲碁のルール、いやマナーとして存在していた。

 負けが分かっている勝負で、最後まで打ち切ることは当然にして悪足掻き、時間稼ぎとしか思われない。

 打ち手が上手くなればなるほどその判断は早く、あかりも当然にしてその決まりごとはヒカルに教わって分かっていた。

 

 わかってはいたが。

 

「でも私、やっぱり最後まで打ち切りたいんだ。どうすればいいかなぁ?」

「ええー?」

『またなんと……難しい事を言いますね、あかりちゃん』

 

 それでも、最後まで打ち切りたいとあかりは望んだ。

 あかりの囲碁の原風景にして始まりが、佐為とヒカルが最後の一手まで作り上げた宇宙だったからだ。

 あのキレイな宇宙を自分でも、という強い願いがあかりの今の成長の根源になっている。

 そのことを理解するヒカルと佐為だからこそ、頭ごなしに否定はしなかったが……それは茨の道である事はすぐに分かった。

 

「……オレと佐為の勝負も見てるあかりだから分かると思うけどさ。オレらの間だって、最後まで打ち切るってことはほとんどしないじゃん。自分の負けを認める、理解できるってのも囲碁の上手さだし。あかりが負けたくないから最後まで打ち切りたい、って言ってるんじゃないのはわかってるけどさ」

「うん。負けを認めたくないから最後まで逆転の一手を探して打ちたいっていうんでもないの。でも……」

「いや、悪い。あかりが言いたいことは分かってるんだ、一応の確認だった。でもな……上手くなっていけばいくほど、最後の一手まで打ち切るのは難しい事なんだよ」

『最後まで希望を捨てずに打つという事は、極めてわずかな差をひっくり返せるかもしれない余地が残った状態が続くことですからね。上手ければ指導碁に近い形でそれを描くことも出来ますが、勝ちに行くならそのわずかな相手の希望を一太刀で斬り捨てるのが勝負というものです』

「──って佐為も言ってる。まぁ……あかりのその、囲碁の形が綺麗に感じる感性はすっげぇいいなってマジで思うけどさ。ただオレやじーちゃんみたいに最後まで打ってほしいって相手にねだるのは下手な人相手には侮辱に感じるだろうし……知らない人にはやめといたほうがいいかもな」

「むー。そっかぁ」

『囲碁の盤面を愛せる気持ちはとても好ましいものですが、勝負に真剣にやっている方々への失礼に当たってはいけませんからね』

 

 故に、ヒカルも佐為も、流石にそれを是と伝えることはできなかった。

 感性の鋭さと、そうしたいという気持ちは分かるが、囲碁を真剣にやる人と今後も戦っていく中では、失礼に当たる部分にもなりかねない。

 あかりも二人にそう言われてしまえば一先ずここでは反論はしなかった。

 十分な収穫があったからだ。

 

 推奨はされなくとも、手段は示された。

 

「そっかぁ……お互いに希望を持ったままで打てればいいんだ……」

 

 口の中で小さく呟いたあかりの独り言は、碁石を片付ける音でヒカルと佐為の耳には残らなかった。

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