プランサスブレーヴの20XUが及川厩舎にやってきて2ヶ月が過ぎた。
2ヶ月前の私が聞いたら鼻で笑っていたかもしれない。
目の前にはおめめきゅるきゅるの牝馬。
可愛すぎワロタwwwwww
そう、この子は厩舎にやってきて2ヶ月と経たないうちに
──厩舎のアイドルと化していた。
特別甘えたがりなわけではない。むしろ逆で、何もかもに関心がなさそうで非常に冷めているように見える。
でもあるよね、クーデレ幼女がでろでろに甘やかされるマンガとかアニメ。イケメンが「おもしれーガキ…」とか「あいつの泣き顔を見てぇんだよ(しっとり)」みたいなこと言うやつ。今彼女を取り巻く状態はだいたいアレ。
まず陥落したのは厩務員の瀧本さん。
私の高校の先輩で頼れるお姉様でもある瀧本さんだが、仔馬がやってきて1週間で「たすけて、かわいすぎる」と陥落。即落ち1週間である。
他の職員も芋蔓式にやられていき、最近は調教師の兄もデレデレし始めている気がする。斯くいう私も気がついたらあの子の事を考えているくらいにはでろでろだ。
そして同じ厩舎に所属する先輩馬たち。
彼ら彼女らもあの子を構い倒そうとしていた。
特に先輩牝馬。
4歳のレーヴミフィなんかはお姉さんムーブをキメまくっているし、他の牝馬たちも構い倒そうとしているのをよく見る。
牡馬たちは見守りの姿勢である。牡馬の新入りには絡みまくるくせに牝馬には「私たちは紳士ですよお嬢さん」面している。特にウチで1番の出世頭・トゥーリオ。アンタ、いつもはもっとちょけてるでしょ。何優しいお兄さんみたいな顔してんの。
……まぁ、馴染めて良かった。
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なんか、牧場と厩舎では全然違う。
競走馬デビューに向けて軽めの調教が既に始まっている。
思ってたのとは、結構違う。
ゲートとかってこんな早い段階で練習始めるんだね。
それに、思ったより走らされる。
まだ幼い身体だからかな、疲れやすいというかなんというか。
あと、調教以外でも変化がたくさんあった。
まず、厩務員さんがかなり寄り添ってお世話してくれること。
牧場は良くも悪くも家畜として扱っていたけど、この厩舎ではかなり入念にお世話してくれていると感じる。
そして、他の馬との交流。
私は馬の中でも異端なのだろう、牧場では他の馬から避けられていたし、私も積極的に関わるのはなんだか気が引けて難しかった。
でも、この厩舎にいる馬たちは避けることなく近寄ってくる。
特に先輩牝馬の皆さんは明らかに私を気に入って可愛がろうとしてくれている。悪い気はしない。
何の差かはわからないけど、過ごしやすくていい。
……どうせ人間になれるわけでもないんだから、馬として可愛がられる生活を享受することにしよう。
あ、厩務員のお姉さん。
背中掻いてもらってもいい〜?
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プランサスブレーヴの20XU。
競走馬としての名前が登録された。
シーキングブレーヴ
父メタルパイレーツから「海」「支配者=王」を連想。後半部分は母プランサスブレーヴからそのまま受け継いだ。
源川さんとも話し合ってデビュー戦をいつにするかも計画中である。順調なら6月デビューも全然アリだろうな。
調教はたいへん順調だ。
仔馬──今はもうシーキングブレーヴか。
シーキングブレーヴはとにかく優等生タイプ。ゲートも問題なくこなす。それどころか大得意と言ってもいいだろう。
走りも良い。パワー・スピード・スタミナ、どれを見てもかなりの能力がある。脚質的にはやや後方からの差し競馬が1番向きそうだが、先行適性も高い部類と見て間違いなさそうだ。
さらに頭も良い。調教で人を乗せても問題なく走る。指示もすぐに理解するし、反抗もしない。
よく賢い競走馬には「人間が入ってる」などと言われるが……シーキングブレーヴもその類だろう。
……懸念があるとすれば、騎手か。
シーキングブレーヴには問題が無さ過ぎるせいで誰を乗せるのが1番良いのか逆に判断に迷うのだ。
ぶっつけ本番で乗せてみたらまったく手が合わない、なんてのは勘弁なので、調教段階で乗せられるくらいの余裕がある騎手が良い。リーディングジョッキーとかだと忙し過ぎてそれは難しいからな。そもそもそんなツテはない。
及川厩舎で最も結果を出している騎手ということなら、田中結糸騎手だ。なんせGⅠジョッキー。まだ若手でツテが少ないのもあってウチの馬によく騎乗してくれているし、1番の候補だ。
ちょうど今日来てくれることだし、手が合うようなら本番の騎乗も依頼することとする。
……期待してしまうなぁ。
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今日はお世話になっている及川厩舎に来ている。
及川先生から「来年度デビュー予定の凄く良い馬がいるからぜひ乗ってみてほしい」とお誘いいただき、有難くその話に飛びついた。
厩舎に入るといつも通り馬たちが歓迎してくれる。僕をGⅠジョッキーへと導いてくれたトゥーリオにも挨拶させてもらった。相変わらずイタズラ好きだけど、賢くて可愛いヤツだ。あっこら、髪の毛を食べようとするんじゃないよ、アハハ。
「いつもお世話になってます、田中です。」
「おぉ、田中くん。今日は来てくれてありがとう。早速だが、会ってほしい馬がいるんだ」
「はい!」
ワクワクしてきたな。
「この馬だよ。名前はシーキングブレーヴ。牝馬だ。父メタルパイレーツ、母プランサスブレーヴ」
「シーキングブレーヴ…。女の子だけどわりとイカつい名前ですね。かっこいいし」
「まぁ、ちょっと牡馬っぽい名前かもな…。ぜひこの子に乗ってほしくてね。いけそうか?」
「もちろんです!ありがとうございます!」
──乗ってみて、わかった。
この子、相当賢いし能力も高い。
軽く走らせただけでわかった。
まずスピードのコントロール能力が抜群だ。
ペース配分は馬の得意不得意がハッキリ出るが、この子は今まで乗った馬の中でもダントツで上手い。まだレースに出たことないのになんでこんなに上手く走れるんだ。
トップスピードも及第点以上だ。おそらくかなりの脚を使える。しかも持続力もあるように感じる。
これは、とんでもない逸材だ。
「及川先生……。本当に僕でいいんですか?」
「あぁ、ぜひお願いしたい」
「この馬ならどこだって行けます。それこそ、鷹宮さんや稲葉さんに乗ってもらった方がいいんじゃ…」
「俺は君に乗って欲しい」
「な、何故ですか?」
「現実的な話をすると、そんなトップジョッキーにツテがない。ウチはわりと新しいからな…」
「あ、あぁ…」
「何より、直感みたいなものだが……君が乗ったシーキングブレーヴが1番強い気がするんだ」
そこまで、信頼してもらえるのか。
そんなこと言われちゃったら、もう。
頑張るしか、ないじゃないか。アハハ。
トゥーリオ先輩(牡5)
菊花賞馬です(!)
実況がゴール前に「田中トゥーリオ!」とか言ったせいでネタにされています。主な勝ち鞍は菊花賞(20XU)・アルゼンチン共和国杯(20XV)。
今回は主人公の名前が決まりました。
シーキングザパールやシーキングザダイヤとは無関係です。seekingじゃなくてsea king。
次回、シーキングブレーヴ初陣with田中結糸