肌を刺すような冷たい風を、寒いと感じるより懐かしいと感じてしまう自身に自嘲染みた笑みが零れる。
フラヒヤ山脈の一角。雪山エリアと呼ばれるそこは、自身にとって故郷であるチッチ村のすぐ近くにあり、自身にとっても馴染み深い場所であった。
一歩、足を進めるたびに、この雪山を上った幼い日のことを思い出す。
決してそれは良い思い出とは言えないけれど。
けれどその後の出会いは悪い物では無かったから。
だから今更、そんな思い出にレーティアが左右されることは無い。
それでも、確かにこの場所は。
自身にとって懐かしいと思える場所であり。
「…………郷愁なんて、今更過ぎるわね」
けれどもうそれも過去の話だ。全ては過去の話。
少なくとも、今を生きる自身には関係の無い話。
「…………気が抜けてるのかしらね」
だとすれば大変だ。少なくとも今から戦う敵は、今まで自身が狩ってきたモンスターよりも、一段も二段も上に座す存在なのだから。
空を見上げれば厚く黒い雲に覆われている。いつ雪が降りだしてもおかしくないし、いつ吹雪に発展してもおかしくない。
昔からこの寒さに慣れているせいか、他のハンターたちよりも寒さに強い自信はあるが、それでもこの過酷な環境下、野ざらしのままいつまでも戦えるなんて自信はさすがにない。
寒さは容赦無く自身の体力を削り取っていくだろう。ホットドリンクも持ってきてはいるが、数はそう多く無い。
最初から時間に制限がついている…………中々に厳しい状況だが、上を目指せば目指すほどこんなもの当たり前のようにある。ごちゃごちゃと文句ばかり言っていても仕方ない。
その程度で弱音を吐いているならば、上を目指す資格などあるはずもない。
「…………っと、ここね」
岩壁に茂った太く丈夫な蔦を使いながら高台に昇ると、視線の先には洞窟への入り口。
風が無い分、外よりも暖かく感じるが、それは錯覚だ。洞窟内部は一層冷え込んでおり、適応のできない生物の生命を容赦なく削っていく。
急いだほうがいいかもしれない。今日はここ数週間で一番冷え込みそうだ。
目安として、二日以内に狩りを終わらせるつもりではいるが、この分では安全を取って三日か四日程度見て置いたほうが良いかもしれない。
洞窟の入り口は壁伝いの細い崖の上の道となっており、崖下には竜種の巣やギアノスの群れが見える。
と、その時、ジジジジジ、と耳障りな音が聞こえる。
「……………………不味いわね」
その正体をすぐに察し、腰に差した太刀に手をかける。
ジジジジジジ、と音がゆっくりと移動し…………そうして、自身の背後にやってきた瞬間。
すぱん、と振り向き様に太刀を一閃させる。
キィィィ、と断末魔の声を上げながら、一メートル弱はあろうかと言う巨大な甲虫種ランゴスタが上半身と下半身を真っ二つに切断されてぼとりと地面に落ちる。
ランゴスタは甲虫種に分類されるモンスターであるが、大抵の武器で一撃殴れば死んでしまう脆弱さの代わりに、多くの厄介な特徴を持つ、ハンターにとっての死神だ。
「…………まさしく一匹見れば…………ね」
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ、とどこからともなく羽音が聞こえてくる。
第一に、虫のような外見に違わず、だいたい一匹見かければ二十から三十程度は群れていると思えば良い。酷いところでは百匹を超える群れを作っていることがある。
そして第二に。
「っく、そこ!」
羽があるので宙を自在に移動できるのだが、やたらとハンターの死角を狙う傾向がある。気づいたら真後ろにいた、なんてことも多く、特に大型モンスターと戦っている最中だと気づかないことが多い。
そして何よりも。
「っ、ぶないわね!」
ひゅっ、とその尻に生えた針を突き出してくる。間一髪で躱しながら太刀でその体を切り裂く。
ランゴスタの針からは、麻痺毒が流れ出している。
一撃、二撃程度ならば訓練所で耐性をつけたハンターならば問題無いが、言った通り一匹見れば数十匹の群れを作っているような相手である。
三度、四度、五度と刺されればさすがに体が痺れて動かなくなる。そうなれば待っているのは数十匹の群れによる刺殺しだ。
こいつに殺された初心者ハンターは数知れず、時には上位ハンターですら殺されることすらある非常に危険な敵である。
ただし、対処法はきちんとある。
一つは実力行使。数は多いが、下位ハンターが一撃殴っただけで死ぬような脆弱さしかないので、多数を相手取れるのならば、気をつけて戦えばそれほど問題のある敵でも無い。
そしてもう一つが。
「準備しておいて良かったわ」
事前に準備し、いつでも取り出せるように袖口に入れておいたソレを地面に叩きつける。
瞬間、ぶわぁ、と紫の噴煙が洞窟内を舞う。
そして、次の瞬間。
じ、じじじじじ、じじじじじじじ
羽音が断続的に途切れ出す。次第に視界内にゆらゆらと揺れる、随分と不自然な動きのランゴスタたちの群れが現れ、やがて。
キ、キイイィィィィィ
と、次々と悲鳴を上げながら地面に落ちていく。
「効果覿面ね」
口元を腕で押さえながらぼそりと呟く。
毒けむり玉、と言う道具がある。毒テングダケと素材玉を調合しただけ弱い毒性の煙をまき散らす道具で、それほど使い道は多くないのだが。
甲虫種相手には非常に有用な道具となる。
広範囲に毒をまき散らす上に、体の小さい甲虫種は少量の毒でも致命的となりうるために、こうしてランゴスタの群れを殲滅するのに非常に向いている。
いつもならここで群れの素材を剥ぎ取るところなのだが、今回は先を急ぐため全て崖下に蹴り落とす。
下のほうでギアノスが落ちてきたランゴスタの死骸を啄もうと集まってきている。
崖上の細道を進むと、割と広い凍った道に出る。上り道と下り道があるが、周囲に敵の姿は無い。恐らくギアノスたちが集まってしまっているためだろうと予測し、運が良いと笑う。
そのままそそくさと目立たないよう道を上っていくと、洞窟の出口が見えた。
そうして洞窟から抜け出し、広い雪原へとやってくると同時。
それがいた。
「…………ビンゴ」
そこに白い竜がいた。
目は無い、鱗も無ければ甲殻も無い。角のようなものも無く、全体的な印象として丸みを帯びている。
真っ白な全身のいたる箇所に血管と思しき赤い線が浮き上がっており、その異様さを際立たせている。
フルフル、そう呼ばれる飛竜の一種だ。
そう、飛竜。今まで狩ってきた鳥竜種とは違う。
正真正銘の竜種。
フルフルは飛竜の中でも小柄なほうであり、少々他とは違う特異な生態をしていはいるが、総合的な実力を見れば飛竜の中では下のほうと言っても良い。
新しくなった武器と、そして今の自身の腕を試すには絶好の相手だろう。
かちん、と鍔を鳴らしながら僅かに太刀を抜く。
そんな些細な音も、けれど無音の雪山では良く響く。
ぴくり、とフルフルがそれに反応を寄越し、顔をこちらに向ける。
そこにはあるべき目が無い。
暗所を好むフルフルは、その目を退化させてしまっているため、煙玉や閃光玉など視覚を潰す攻撃は意味を持たない。
けれど、代わりに使えるものがある。
「嫌な臭い…………でもまあ仕方ないわね」
呟き、しっかりと密封していた箱の中を開き、あふれ出した臭気に思わず顔をしかめながらそれを取りだす。
肥やし玉、そう呼ばれる球状のそれをフルフルの手前に投げる。
ぼん、と弾けるようにして周囲に茶色がかった煙が噴出する。
鼻の曲がりそうな臭いに、思わず涙が出そうになるがなんとか堪えて走り出す。
目の無いフルフルだが、嗅覚は存在していることは研究者たちの調べで分かっている。
だから周囲に強烈な臭いを発する肥やし玉を使うと、ほんの一時とは言えフルフルはこちらの存在を見失うのだ。まして、まだこちらに完全に気づいていなかった時点での不意打ち気味のソレである。
状況が分からず一瞬硬直するフルフルに肉薄し。
「まずは一発、もらうわ」
【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【抜刀改心】+【業物+1】+【剣術+1】
一閃、煌めく銀光が真一文字にフルフルを薙ぐ。
スパァ、とその首が切れ、血が噴き出す。
「いい切れ味」
呟きつつ、身を沈める。
フルフルがそこにいるはずの自身を薙ぐように首を伸ばすが、一瞬遅く、空振りに終わる。
そうして半分体を沈めた態勢、そこからもう一度太刀を鞘に戻し。
「二発目」
【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【抜刀改心】+【業物+1】+【剣術+1】
振り抜いた刃がフルフルの首の傷をさらに抉る。
ァァァァァァァァ、とフルフルが悲鳴染みた声を上げながら後ずさる。
その隙を逃さずもう一撃…………とは行かず、後退する。
視線の先の白い巨体が、バチバチと放電を開始する。
直後、その全身を電流が包み込む。
今突っ込んでいれば電流の餌食になっていたことは間違いないだろう。
僅かに距離を置いて、放電が収まるのを待つ。
ルゥゥゥゥ、と荒い息を吐きながらフルフルが放電を止めると同時にすぅ、と大きく息を吸い込み。
「っまず」
オオオオオオオオオアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ
雪山中に響き渡るような絶叫がその口から発せられる。
「斬っ!!」
【断空】
タイミングを合わせるように一つ息を吐きながら、鞘に納めた太刀を薙ぐ。
キィィィィと耳鳴りのような音がするが、それでも体が動かなくなるほどではない。
けれど、技の未熟さ故か、ほんの一瞬、体が崩れそうになる。
その隙を見逃さないとフルフルが首に力を込めて。
突如その首がぬいっ、と伸びる。文字通り、あり得ないほどの長さまで伸びている。
知識としては知っていた、フルフルは自身で首の骨を外し、筋肉で支えることにより一時的に首の長さを伸ばせる、と言うのは知っていたのだ、ただ目の前で起きたあまりにも常識離れしたその光景は、知識と経験の差を思い知らせるかのように自身を驚かせた。
だが、亜種とは違う、ただ真っすぐ伸びるだけだ。
食らいつけば自身の頭くらいなら丸呑みできそうなほどの巨大な口がすぐ傍まで迫る。
けれど冷静に半歩、体をずらせばその口もすれ違うばかり。
すれ違い様に、太刀の柄で思い切りその横面を殴りつける。
オォォォォォォ、と悲鳴を上げながらフルフルがその首を支えきれず、ドシン、と地面に横たえさせる。
ずるずると首を引き戻すその隙に、歩法を持って数歩でその間を詰める。
首が引き戻されたと同時、その顔に向かって上から太刀の柄を振り下ろし、同時に下から膝で蹴りを入れる。
がちん、と上と下同時にやってきた衝撃に、さしもの弾性に富んだその皮膚も衝撃を逃しきれず。
どたぁぁぁぁん、とフルフルのその巨体が崩れ落ちる。
とは言っても死んだわけではない。脳震盪を起こし、気絶しているだけだ。
モンスターの驚異的な回復力があれば、十秒…………否、五、六秒あれば回復するだろう。
ただし、裏を返せば、五秒以上もの間、敵を目の前にして無防備になっていると言うことだ。
太刀をその頭部に突き立てる。
焦る必要は無い、敵は動かないのだから。
そうして慎重に狙いをつけて…………。
ずん、と一息に太刀を押し込む。
その巨体に比べると幾分か小さく見えるその頭部を太刀が貫くと、どくどくと血があふれ出し、びくん、とその巨体が揺れる。
直後、左右の翼を揺らしながら数度びくり、びくりと痙攣し…………。
けれど脳を貫かれた生物など最早生きていられるはずもない、やがて動かなくなる。
「…………フルフル討伐完了、ね」
三日の予定だったが、思ったより早く終わってしまったな、なんて思いつつ。
周囲を見渡し、敵影の無いことを確認して。
そうして剥ぎ取り用のナイフを取りだした。
* * *
ぱきり、と人の気配の無い雪山の山頂で何かの音がした。
雪山の山頂エリアは大きな広場となっており、ブランゴやその主であるドドブランゴ、時折ドスファンゴや稀にティガレックスなどの大型モンスターまで訪れる危険地帯である。
今もブランゴが雪原に足跡をつけながら徘徊しているが、その音がしたと同時に、ぴくりと顔を上げる。
音は小さな小さな物だ。ブランゴとて野生の生物として身体機能は良いのだろうが、それでも聞き取れるほどではなかったはずだ。だがそれにも関わらず、まるでその音に反応したかのようにブランゴは周囲を警戒し始める。
ぱき、ぱきぱき、と音がした。
瞬間、ブランゴが目の前の崖に向かって威嚇を始める。
まるでそこに何かがいると思っているかのように。
ぱきぱきぱきぱきぱきぱきぱき、と音がした。
途端、ブランゴが一目散に駆け出す、雪山を下ろうと。
そして。
ぱきぱきぱきぱき…………ぱりーん、と何かが割れる音がして。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ
天地を揺るがさんばかりの咆哮が雪山に轟いた。
直後、先ほどまでブランゴがいたその広場にソレが降り立つ。
そうしてソレがその場に存在しているのだと、
ゴオオオオオオオオオオオ、と激しい風と舞い上げられた雪が吹雪となって吹き荒れる。
そうして誰も居ない雪山の山頂で。
一匹の怪物が、産声を上げた。
鮮血の雪山、ただしその血はモンスター用(
と言うわけで咆哮無効化されたらフルフルなんて実はそんなに強くないよなあ、と言う話。
基本フルフルの即死コンボって咆哮→ブレスだし。
そもそもほとんど攻撃させてもらえずに、割としゅんころされてしまったフルフルさん。
因みにモンハンドス時代に俺は殺されまくった恨みがある。まあ嫌いじゃないんですけどね、フルフル。多分、G級とかになったら本気のフルフルさんが見れる。
と言うわけで第一章ボスの伏線(見えてる)を立てつつ本日は終了。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】
EXスキル【断空】