「久しぶりだね」
「ええ、久しぶり」
およそ一週間ぶりに出会ったリオの姿に、思わず笑みが零れる。
ハンターギルドの酒場の一角で、互いにジョッキを交わし合い、一息に飲み干していく。
度数の低い、ほとんどジュースのような酒だが、これからクエストに出ようかと言うときに酔っても仕方ないだろう…………義兄じゃあるまいし。
あの義兄は一度、べろんべろんに酔っぱらって伝説に称される黒龍に裸一貫で戦ったとか言う頭の痛くなる事実を残している。義兄のことは好きだし、尊敬もしているが、さすがにそれだけは目を逸らしたくなる。しかも本当に勝ってしまったから当時のギルド職員たちは多いに頭を抱えたと言っていた。
…………まあその酔っぱらって判断力の怪しい義兄にさらっとG級最上位のクエストを渡したのは他ならぬ義姉なのだが。
あの二人は当時すでに恋人だったらしいが、何と言うか。
どうも他の地方で一度撃退された黒龍がたまたま通り道にあったこの街に襲来してきた、と言うことらしい。私も後で聞いた話だ。その時の私は義兄に言われ別の街にいたのでその話を後になって聞いただけである。
まあリオはあまり酒に強くないようなので、そう言った心配も無いだろうが。
そんな思考はさておき、対面して座るリオの様子を伺う。
一週間、彼女が何をしていたのか自身は知らない。
だが何もしてないわけではないだろう。
時間が欲しい、そう言ったのは彼女なのだから。
とは言うものの、ぱっと見た限り何か変わった様子は無い。
さて一体何をしていたのだろうか、少し楽しみでもある。
「さて、今更ではあるのだけれども」
膨らませていた想像を断ち切るように、リオが呟く。
「一週間、待ってもらって悪かったね」
「本当に今更ね、構わないわ。それが必要なことだったんでしょ?」
自身の言葉にリオが僅かに口を閉ざし…………やがて、ああ、と返した。
「まあ、まだ完璧に、と言うわけではないけど…………下地だけならできた」
「そう…………まあそれは次のクエストの時にでも聞かせてもらうわ」
配膳されたリュウノテールのステ―キを適度に切りながら口に運んでいく。
かなり固めの肉なのだが、調理した人間の腕のお蔭か苦も無く噛み切れる。じわ、と内よりあふれ出てくる肉汁に舌鼓を打ちながらジョッキに残った果実酒を口に含む。ステーキに使われているトウガラシ、ペッパーバグなどがかなり辛いので、甘口の果実酒がそれを緩和してくれ口内の調和を保ってくれている。
最近発掘した組み合わせだが、なかなか当たりだと思っている。
「次のクエストか…………その前に一つ、レーティア、キミに聞いておきたいことがあるんだが」
手に持ったロースハツ丼を置いて、リオが姿勢が正す。
何か重要な話だろうか、と少しだけこちらも身構えて。
「キミは、カイの家族か何かかい?」
出てきた言葉に、一瞬だけ思考が飛んだ。
* * *
リオレイシアと言う少女は、かつてG級ハンターだったことがある。
と言ってもほんの一年前とかそれほど昔のことでは無かったが、とにもかくにも、G級ハンターとして第一線で活躍していたことが時機がある。
G級ハンターは人外魔境の世界だとリオは思う。
ハンターランクだけで見れば7以上の人間をG級と呼ぶが、本当のG級ハンターとはハンターランク8からを差す。ハンターランクは上位を卒業した通称“凄腕”クラスと呼ばれ、真にG級ハンターと呼ばれるようになるには、もう一つランクを上げる必要がある。
G級ハンターの定義とは非常にシンプルなものである。
ハンターギルドにG級と定められたモンスターを狩ることができること。
たったそれだけ。
だがそれだけのことができるハンターが、この世界には数えるほどしかいないのだ。
G級とは、それ単体で国一つ滅ぼすことのできる怪物だ。
それを滅ぼすためには国家一つが総力を上げる必要があるとすらされる怪物。
G級とは、覇者だ。
種族の頂点に君臨する怪物中の怪物。
例え最底辺と定義されるようなドスランポスであっても、その下位個体であろうと、どのハンターよりも強靭な肉体を持っている。そんなモンスターたちの中で頂点に立つポテンシャルを持ち、そして生存競争に生き残り、さらにはハンターたちとの激戦を潜り抜けた種族最強の存在、それをG級と呼ぶ。
その肉体からはモンスターならではの圧倒的な身体能力。その経験からは身体能力を十全に発揮する技術と、生き残るために身に着けた知恵。
生き抜くために身に着けた力の全てを振り絞ってハンターと戦うその在り方は、まさしく食うか食われるかの自然の有様であり、G級に限って言えば、モンスターもハンターも対等。
そんなシンプルな理論で動いている。
そしてそんなG級と言う名の覇者を殺すG級ハンターたちもまた人中の覇王と言えるのだろう。
G級ハンターと銘打っても、その肉体だけを見れば他のハンターたちより少しばかり身体能力に秀でている、程度に過ぎない。それだって長年戦い続けて成長したから、とも言える。
モンスターの血肉を食らい、モンスターから剥ぎ取った素材を身に纏い、モンスターの武器を自身の武器とする。
その末にたどり着いた境地は、人外魔境の異界だ。
G級ハンターとはすべからく、何かに対して突き抜けている。
肉体的なものでも良いし、技術的なものでも良い、それこそ知恵だって良い。
ただそれを絶対の武器とし、それがG級モンスターよりも上回っていること。
それがG級ハンターがG級モンスターを討伐できる最大の理由であり、唯一の理由である。
例えばの話。
リオレイシア・ハーティスは昔から目が良かった。
一種、異常とも言えるほどに遠くまで鮮明に見通すことができた。
半面、身長や体重、体格など言ったものには恵まれなかった。実際十八になった今でも年下の少女に身長で抜かされてしまっているくらいだ。
だから力など関係ない武器として、ライトボウガンを選んだ。
けれどそれだけではただのボウガン使いだ。専門とし、立ち回りを覚えてもモンスターの圧倒的強さには敵うはずもない。
故に、手持ちのボウガンをひたすらに改造し。
後はひたすら練習だ、
そうしてリオは“スナイパー”との二つ名呼ばれるG級ハンターへと至った。
カイ・ブランドーと呼ばれるハンターは、それら全てを超越していた。
バカだろこいつ、誰かがそう言った。
否、そんなの彼を知る誰もが思うだろう。
実際リオだってそう思った。
G級モンスターと言うのは基本的に多対一が基本だ。勿論ハンターが多のほうで。
どんなハンターでも、ある程度専門とする武器種と言うものがある。
武芸百般、など現実にはあり得ない。誰だろうとたった一つ、生涯をかけて極めるのが精々であり、対峙するモンスターによって武器を変えるなんてことはできない。だからどんな状況にでも応じられるように複数人でパーティーを組み、複数の状況に対応できるように武器種の幅を持たせ、対応力を上げるのだ。
本来は。
あの男はたった一人でどの武器をも使いこなす。大剣だろうと、双剣だろうと、弓だろうと、ランスだろうと、ハンマーだろうととにかくなんでも使うし、なんでも使いこなす。
けれど最終的には太刀を使う。それが専門だと皆が知っている。
そして太刀一本で全ての状況を覆す。
不条理で、不合理、で理不尽な存在。
故にその二つ名は“天災”。
扱いとしてはG級古龍となんら変わらない。人の内より生まれた怪物の中の怪物。
G級モンスターが怯え逃げ出したハンターなど、後にも先にもあの男だけだろう。
リオ自身、それほどカイと関わりがあるわけではない。
だが偶然、クエストで同じフィールドに向かったことはある。
共同で狩りをしたこともある。
故にその太刀捌きを見たことがある。
G級モンスターを一刀で斬り伏せるその理不尽な強さを見たことがある。
レーティアの太刀筋は何となくカイのその姿を彷彿とさせた。
故に少しだけ調べて、すぐに気づく。
レーティア・ブランド―。
ブランド―と言う名。カイ・ブランドーと同じその姓。
故に尋ねる。
「キミは、カイの家族か何かかい?」
告げた瞬間、レーティアの目を大きく見開かれた。
* * *
「私は――――」
口を開こうとした、その瞬間。
からんからんからん、とハンドベルが鳴らされる。
瞬間、ギルド内にいたハンターほぼ全員が音の方向へと向いた。
向いた方向…………クエストカウンターで、ユイが立ち上がって両手を口元に当てて叫ぶ。
「緊急クエストが発布されましたぁ! 対象は
古龍、その言葉と共に、動揺が広がった。
全てのモンスターは、いくらかの分類がされている。
例えばアプノトスなど比較的安全な草食種、ランポスやイャンクックなどの鳥竜種、ランゴスタやカンタロスなどの甲虫種、リオレイアなどを始めとする飛竜種など様々だ。
古龍種と言うのはその分類の一つである。
一言で言うならば、生きる天災。
他を圧倒し超越した生命力と他に類を見ない能力を持ち、一たび動き出せば破壊と殺戮を振りまく文字通りの動く災害。
「雪山を生息域とする古龍…………と、なると」
ふと視線をやれば、リオが何か考え込んでいた。
元G級ハンターの彼女である、どうやら何か思い当たる節があるらしい。
それから周囲のハンターたちに視線をやる。
…………誰もかれもが動揺を隠せないままに、口々に展望を話し合っている。
「受注するハンターはこちらの受付カウンターへ」
ユイのその言葉に、立ち上がった男たちがいた。
その様子にハンターたちがざわめく。
HR6、今最もG級に近いとされる男たち。固定メンツでのパーティーであるために、パーティーそのものに二つ名がついている、余り他人に興味の無いレーティアですら知っているその名。
“
常に全身甲冑の四人組であるため、どの街でもすぐに噂になる存在である。
その実力は確かなものであり、G級に最も近いとされるのは伊達ではない。
「私たちの出番は無さそうね」
そもそもがHR3以上の制限がついている以上、HR2の自身たちではどうあっても受けれるわけがない。
…………まあ
そんなことを対面に座るリオに告げると、リオが僅かに目を細め。
「ああ…………そうだね、そうだと、いいね」
などと呟く。その言葉に首を傾げながら。
「レティちゃん、ちょっといいですかぁ?」
突然背後からかけられた声に目を丸くしながら振り返る。
「リオさんと一緒に、中まで来てもらえますぅ?」
そこにユイがいた。
* * *
木造の床がぎしぎしと軋み、音を立てる。それほど長くはない通路の左右には多くの扉があり、それだけの数の部屋がある。元来ギルドとはそれほど大きな建物ではない。むしろ兼用している酒場のほうが大きいくらいだ。
そんなギルドの奥、と言うものに実は幾度か入ったことがある。
今更言うまでもないが自身の義姉は元ギルドの人間だった、その関係で何度か連れて入れてもらったことがあった。
だからこそ理解する、そして首を傾げる。自身たちが連れてこられたこの場所。
人十人か二十人は入りそうな大きな部屋だった。中央に大きな机が置かれており、四席が四方向に十六人までの人間が席に座れるよう椅子が置いてある。
だが今ここにいるのはたったの四人だ。
一人は自身、レーティア。
一つは相方、リオ。
そして一人は自身をここに連れてきた彼女、ユイ。
そして最後の一人、老練な人間の多い中で、未だ四十代でその座に上り詰めた男。
ギルドマスターがそこにいた。
自身たちがこの部屋に通された時、すでに男はそこにいた。並べ、揃えられた椅子の一つに座り、その対面側へと自身たちは案内され、座る。
そうしてユイが男の後ろに立ち、全員が揃ったところで。
「ようこそ…………と言ってやりたいが、緊急事態故に単刀直入に言わせてもらおう」
男、ギルドマスターが自身たち二人を見つめながら口を開く。
「ギルドからの指名依頼だ、飛翔龍クシャルダオラを討伐して欲しい」
そう告げた。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10 ←
装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】
EXスキル【断空】
称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10 ←
装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】