雪山山頂部。
あと少しあるけばそこにたどり着く。
「凄いわね…………これが古龍ってことなのね」
「気をつけるんだ、正直古龍は下位個体であろうと、桁が違う」
ざくり、ざくり、と雪を踏みしめる。
太刀を握る左の手が僅かに震える、それが恐怖から来るのか、それとも武者震いなのか、自身には判断がつかなかった。
ふとギルドで言われたことを思い出す。
“飛翔龍クシャルダオラを討伐して欲しい”
ギルドからの指名依頼。ハンターはそれを断る権利を持たない。
故に依頼された時点でそれは強制的に受託されるのだが。
だが疑問があった。
先ほどメンバー募集していた時、上位ハンターパーティーが立ち上がっていたはずだ。
ならば下位個体の古龍ならばそれで終わるはず。
どうして自分たちにまで依頼してくるのか。
答えを口にしたのは、意外にもリオだった。
“もう一匹、いるということだよ”
その言葉に、ギルドマスターとユイの表情がハッとなった。
曰く“その古龍は下位個体、つまり生まれたての存在だ。だとすれば他の個体の縄張りの中で生まれたはずだ。そうなれば古龍の反応も予測できる。古龍な縄張りの中で滅多に動くことは無い、それを侵すものがいようともだ。何故なら古龍にとって人間や他の生物は圧倒的格下の存在に過ぎない、だから一々反応はしない。だが同じ古龍なら…………縄張りを荒らされた龍の行動など決まっている”
つまり、排除。
その言葉にギルドマスターが苦々しく頷いた。
上位個体の中でもG級一歩手前の古龍が雪山目指して移動していると。
そしてその進路上にある街は…………まあ考えるまでも無いだろう。
古龍とは天災だ。たかが一匹の龍がそれ単体で天災と呼ばれる所以はつまりそういうことなのだ。
故にドレッドノートパーティーはそちらに向かっている。討伐できればそれに越したことはないが、最悪でも撃退はしなければならない。
だが撃退をしても、件の古龍が生きている限り再び襲来することは間違いないし、何よりも自身に向けて近づく敵の気配を察知して新しく生まれた古龍が雪山から移動する前に、これを討つ役割が必要だ…………だが先ほどの酒場での一件を見た通り、誰も動こうとはしない。
当たり前だ、古龍など、生きるためにハンターになっている彼らにとって普通戦う相手では無いのだ。古龍を見つけるたびに新鮮な素材だあぁぁ! などと叫びながら討伐に向かう義兄のような存在のほうが明らかに異質なのだ。
上位パーティーですら下手すれば下位の古龍に全滅することすらある、そのためギルド側も指名依頼を出しづらいし、何よりも確実性が無い。このパーティーならば必ずやってくれる、そんなパーティーは今ちょうどクエストで他所に行っていたり、別の街で休暇中だったりして、あのドレッドノートパーティーが最後だったのだ。
だからこそ、ユイが告げた。HR2だが、古龍を倒せそうなパーティーに心当たりがある、と。
つまりそれが、私たち、と言うことらしい。
買いかぶり…………な気もするが。
どのみち、自身はG級まで一直線に目指しているのだ。
「…………ねえ、リオ」
「どうした。何か見つけたかい?」
ふと立ち止まる。すでにもう頂上部の目の前、雪の嵐が乱れ吹いているのがすでに感じられる距離。
もう少し踏み入れば、完全に古龍の攻撃圏内と言ったところ。
だから、今の内に言っておくことがある。
「あの時の質問に答えてなかったと思って」
「あの時の質問?」
何のことか分からない、そんなリオに一度黙し。
「私は、十年くらい前にカイ・ブランド―にここで拾われたわ」
「?!」
告げた言葉にリオが目を見開く。
「親はもういない。そして…………まあ詳しいことは省くけど、この場所に死ぬためにやってきていた。そこをカイに拾われた」
「……………………死ぬため?」
「そう、それが私に与えられた役割だったから。でもそれも必要無くなった、カイが全部薙ぎ払った、斬り捨てた。だから私は何者でも無くなった。そんな私をカイが拾って…………だからハンターになった」
多分、それが私の原点。
「そんなカイが帰ってこなくなった…………半年くらい前だったかしら。もう少し前だったかしらね。だから私、探すことにしたの」
それが今の私の指針。
「多分こんな感じのことが知りたかったんでしょ?」
「……………………ああ、そうだね」
しばし沈黙したまま、けれどリオがやがて捻りだすように声を挙げた。
「そこまで深く知ろうとしてたわけではないんだが…………事情は分かった。ただ一つ聞いておきたい」
「何かしら?」
リオがきゅっと目を細めた。まるで言い辛いことを言おうとしているかのように。
「半年も音沙汰も無いのに、キミはカイが生きていると思っているのか?」
「
何の躊躇いも無く頷く。そのことに、リオが呆気に取られたかのように目を丸くし、やがて苦笑した。
「なるほど…………まあいいさ。確かに
「やっぱりリオ、義兄さんのこと知ってたのね」
「ああ、昔何度か一緒に戦ったことがある…………レーティア、キミの太刀は彼によく似ているから、何となく気づけたよ」
そんな、自身にとって最も嬉しいことを言ってくれる相方に笑みを浮かべながら。
「レティ…………そう呼んで、リオにならそう呼ばれてもいい」
「……………………ふふ、そうか。うん、ならレティ、まずは前哨戦だ。彼の義妹ならば、彼を追うと言うならば、この程度…………
あれは正真正銘の天災だからね。そう告げ、不敵に笑うリオに、刀を握る手に力が、熱が籠る。
震えは…………もう無い。
「行くわ」
「ああ」
短く告げ、そうして山頂部へと足を踏み入れる。
生ける災害がそこにいた。
* * *
オオオォォォオオオォォオオオオオォォォォォォオオオオオオォォオオオオォオオォォォォ
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
狂ったように龍が叫ぶ。
その度に雪が舞い上がる、地面が爆破でもしたかのように風が叩きつけられ、雪が跳ね、そして荒れ狂う吹雪となって空を舞う。
言うなれば歓喜。この世に生まれ落ちたことに対する、生を受けたことに対する歓喜の咆哮。
今はまだ良い、生まれたばかりでこの龍が確固たる自己を手に入れるまで僅かばかりの時間がある。
だがそれが終われば、それが過ぎれば。
龍が動きだす、生ける災害として、自然界に生きる一匹の龍として。
己の縄張りを広げだすだろう。まずはこの雪山、そしてその麓、やがてそれが人の生きる場所にまで届いた時。
滅びが始まる。
故に殺さなければならない。
人が人の生きる地を守るために、狩らねばならない。例えそれが自然現象の具現だとしても。災害そのものだとしても。
これは人と自然の生存競争、その代理戦争と呼んで相違無いのだから。
怪物がそこにいた。雪山を、空を、風を、雪を、ほんの一部とは言え、世界そのものを支配下に置いた怪物がそこにいた。
白い、その体はとても白い。
風翔龍クシャルダオラ。
別名鋼龍とも呼ばれるその名の由縁は、体を覆う外殻、そして鱗の尋常ではない硬さにある。主食が鉱石と言うだけあり、生半可な武器では傷一つ負わせることができない。
そして何よりも、外殻は日を追うごとに硬くなっていく。
クシャルダオラの成長とはつまり鉱石を食らい、外殻を硬くし、そして極限まで硬化した外殻を脱ぎ捨て変性することを差す。そうした脱皮を繰り返すごとにより強固で強靭な肉体を得ていき、そして長く生きるごとにその肉体を生かす術を覚えていく。
タッタッタッ、と一足飛びに古龍との距離を詰めていく。
自身の役割は攻撃役と盾役の兼任だ。正直太刀と言う武器の性質状、盾役は荷が重いと言わざるを得ないが、それでもやることは同じ。
真っすぐ、一直線に、何よりも早く、誰よりも先に距離を潰し、そして。
「一刀…………一閃!」
【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【抜刀改心】+【剣術+1】
振り抜いた斬撃が、こちらに気づき振りむいた古龍の頭を真っ芯で捉える。
ずぶり、と確かな手ごたえと共に、古龍の…………クシャルダオラの頭部に生えた角の一本がへし折れる。
オァアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!
切り裂かれた顔面から血が弾け飛び、けれどもすぐに止まる。修復されていく。
そして角を斬られたクシャルダオラが激昂の咆哮を上げ。
【断空】
返す刀で振り下ろした一撃でその咆哮を無力化する。
自身と、古龍と、両者の間にできる一瞬の空白。
そしてその隙間を縫うように弾丸が飛来する。
弾丸がクシャルダオラに接触し、そして。
「下がれ!」
声に従いバックステップ。間合い一つ遠く離れた直後。
ドォン、ドンドォン、連発して起きる小規模な爆発。
拡散弾、そう呼ばれる弾丸だとすぐに気づく。距離を見ればほとんど山頂部の入り口付近。確かこの弾丸はそれほど飛距離が無かったと思うのだが、こんなものまで垂直に飛ばせるのか、彼女の武器は。
そんな関心をしながらも、決して視線を逸らさない。
黒い噴煙がもうもうとクシャルダオラを覆い、互いの視線を遮る。
そして。
オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ !!!
クシャルダオラを中心として、突如爆風が巻き起こる。
「なっ!?」
黒煙が消し飛び、巻き起こる風に一瞬、足が止まる。
そして。
ヴォォォォン、と轟音と共に古龍の口から何かが噴き出し。
ずどん、と吹雪を消し飛ばしながら飛来したナニカの衝撃に吹き飛ばされる。
めきぃ、と骨が軋むような音。咄嗟に盾にした左腕に激痛が走る。
「ま…………ず…………」
吹き飛ばされ、雪原に叩きつけられ、バウンドし、けれどすぐに態勢を立て直す。モンスターの目の前で無造作に転がっていればそんなものただの自殺と変わりない。この辺りの技術は絶対必要と義兄から習得させられた。
ヴォォォォン、二度目の衝撃波。態勢は立て直したが、次弾が速い。避けきれない!
けれど一度食らったから分かる。
「行ける…………はず!!!」
激痛に動かない左腕を歯を食いしばって耐え、右腕だけで太刀を構える。
【断空】
一閃、真っ二つに引き裂かれた
「…………折れて…………無い!」
骨が軋み、痛めている…………だがまだ折れては無い、痛みと硬直から回復しつつある左腕をゆっくりと動かしながら自身の状態を確かめる。
足、動く、手、動く、体、動く、頭、回る。
「十分!!」
即座に立ち上がり、走りだす。だが真正面から言ってはダメだ、あの空気の弾丸を吐き出すブレスは強力だ。真っ芯体で受け止めれば即座に全身の骨が折れかねない。左腕が無事なのは、咄嗟に突き出しながら
威力の二割か三割は減と言ったところか。受け流しきれなかったら完全に折れていた。実態の無い…………風と言う形の無いブレスだったことは不幸中の幸いか。
だが困ったことでもある。
風を弾丸にしているが故に、その実態は不可視だ。
地面を、そして雪を消し飛ばしながら飛来するので、辛うじて視認することはできるが、その本質は不可視。
だがその性質は分かりやすい。
故に回り込むように近づく。そして古龍に限らずモンスターの傾向として。
だから近づいて、近づいて、そうして。
ヴォォォン、と三度目のブレス。だがすでにその大きさは見切った。
近づかれた古龍がその腕を振り上げる、だが。
かち、と古龍の頭に、何かが刺さる。
直後、ボンッ、と言う音と共に頭に刺さったそれ…………
ガァァァ、と龍が怯み。
「一閃…………“一刃”!!」
【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【剣術+1】+【斬心+1】
一瞬の空隙を突き、刃が暗い雪山に煌めいた。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】
EXスキル【断空】【斬心+1】
称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】
EXスキル【斬心+1】→スキル発動から一定時間切断系武器の切れ味を一段上昇、攻撃が弾かれなくなる。
古龍はそんなに頻繁ではないですけど、それでも数か月に一度はどこかの街で出現が確認&討伐が起こってます(この小説では)なのでそれなりに情報はある。
そしてリオちゃんG級ハンターだけあって、クシャと戦ったことある。だから下手に弾撃つと跳ね返ることも知ってるので、反射されない頭部にしかも徹甲榴弾とか炸裂弾とか使ってる。まじでベテランハンター(まあゲームでやったら頭部殴るやつ吹き飛ばしてリアルファイトだが)。